一週間とたたないうちに、アーデ達は古代都市シャムニールへとたどり着いた。アーデは、本で見たそれより少し風化している都市を前に、少し興奮する。
「仕事内容はっと、野盗や魔物が住み着いてないかの調査か」
ゼドーが呟く。メモリアが「手分けして探しましょう」と提案したので、別れて都市の探索を始めた。都市の中心部は全員で見ようという話もあったため、外側を適当に散策する。途中、大きな建物を見つけたアーデは、少し気になり内部を調べることにした。中は空になった本棚が並んでいた。図書館か研究所だったのだろうか。棚を探してみるが、棚は全て空だった。野盗に取られたのか、それとも風化してしまったのか。荒れている内部を調べてみると、隅の方に一冊の本が落ちていた。手に取ってページをめくってみるが、酷く汚れているのとアーデにはわからない文字で書かれているため、解読は困難だった。が、気になったため、とりあえず鞄の奥にしまう。建物を出ると、メモリアが立っていた。
「メモリア、そっちの方はどうだった?」
「あ……うん。大丈夫よ。こっちは野盗も魔物もいなかったわ」
「わかった。じゃあ、ゼドー達と合流しようか」
歩き出すアーデ。しかし、メモリアは動かない。それに気づいたアーデが立ち止まり振り向くと――――
「――――ッ!」
メモリアが、攻撃を仕掛けてきた。飛んでくる雷により腕にかすり傷は負ったものの、なんとか攻撃をかわす。メモリアは俯き、攻撃の姿勢をとったまま動かない。
「お願い。アーデ、このまま何処かへ逃げて……研究所にも、戻らないで」
「え……?メモリア、それは……」
質問するアーデを遮り、雷が放たれる。魔導書を取り出し魔法を唱えるものの、アーデの放つ防御魔法はたやすく破られてしまう。力の差を実感したアーデは、雷をよけながら先ほどの建物の中に入る。が、隠れる場所はどこにもない。メモリアが、扉の前に立ちはだかる。魔力を手に込めたまま、顔を上げようとしない。
「どうして……?メモリア……」
「わたしは、アーデを自由にしたい」
けど、メモリアは知らなかった。自分の気持ちを伝え、アーデを助ける方法を。だから、魔法を使い、無理やり遠ざけようとする。無論、そんな方法では伝わらない。アーデは、なおも食い下がりメモリアに問いかける。
「僕たちが争う理由なんてないだろ?……メモリア、理由を話してよ」
「……そう、ね」
手を下ろし、アーデを見つめるメモリア、その目には、涙が浮かんでいた。
「……アーデ。あなたに黙ってたことがあるの。わたしは、あなたに謝らなければならない」
「僕に……?一体何があったの?話してよ」
冷静を装うアーデ。しかし、実際はメモリアがアーデを攻撃する理由が全く分からず焦っている。メモリアは、長い沈黙の後口を開いた。
「わたしの魔法、知ってるでしょ?記憶を操る魔法。シャボンヌちゃんを生み出す魔法」
「うん。……何回か、見せてもらったね」
シャボンヌという生物は見たことがある。自由に動きまわる、悪く言えばいたずら好きな精霊だ。しかし、記憶を操る魔法を見たことは無い。
「わたしは、アーデにその魔法を使った」
「――――え?」
一瞬、時間が止まったような気がした。メモリアは何と言った?僕の、記憶を操った?
「正確には、アーデには研究所に来てからの記憶を失ってもらった。わたしと過ごした記憶を。わたしが記憶を操ることが出来ると実験するために」
「実験……?まさか、メモリア。君も……」
「そう。わたしも同じ実験体なの。……だから、逆らえない」
――――でも、
――――アーデだけなら、逃げられるはず。
「だからお願い。あなただけでも――」
「許すよ」
え、とメモリアの攻撃が止まった。アーデは、両手を広げてメモリアの前に立つ
「たとえ僕の記憶がメモリアによって作られたものだとしても、それは僕のかけがえのない記憶だよ。それに、前の何もなかった僕に全てをくれたのはメモリアだ。だから、僕は君を許す。」
「何を……言っているの?」
「僕は君に助けられたようなものなんだ。だから、僕は君を守るためにここに残る。それが命令でもあるんだろ?」
「……あの時、聞いていたのね」
涙を流しそうになるが、メモリアは堪える。ここで弱さを見せれば、アーデは絶対に折れてはくれない。
「わたしは、アーデの自由をこれ以上奪いたくないの。お願い。……逃げて」
「いいや、僕は自由だよ。だから、メモリアを守るって僕が決めたんだ」
折れそうにないアーデを見て、メモリアは考える。どうすれば、彼を自由にできるか。が、思考は途中で遮られる。
「おい!大きな音がしたけど大丈夫か?」
「何かドジでもしたのかしら?……え、何よこの状況は」
メモリアの放つ魔法の音を聞き、ティシカとゼドーが帰ってきてしまった。これでは、アーデを説得するどころではない。アーデがその隙を突きメモリアの横を抜けゼドー達と合流する。しまった、と思ったときにはもう遅い。
「メモリア。僕は君にも自由になってほしい。……だから、君もここから逃げよう。調査はちゃんと済ませたうえで逃げれば君も文句ないだろ?」
「なんだかよくわかんねえけど、嫌なら命令になんか従う必要ねえんじゃねえの?」
「また変な命令強制されたのね。いいわ無視しなさいよ」
三人が、メモリアを見る。これは。まずい――――
出来れば使いたくなかった。けど、アーデと優しい二人を巻き込まないために、もう手段はない。右手を出し、使役する妖精たちを召喚する。
「シャボンヌちゃんたち……お願いっ!」
「メモリア!待っ……」
アーデが何かを言う前に、召喚されたシャボンヌたちはアーデ達に突進し、泡のような何かを取り出す。取り出された三人は、頭を押さえ、倒れこんだ。
「メ……モ……」
その言葉を最後に気を失うアーデ。その姿を見たメモリアは崩れ落ちるようにへたりこんだ
「メモリア~、大丈夫?」
「ええ、大丈夫、大丈夫よ……シャボンヌちゃん、みんなを都市の外に運んでくれる」
「うん、わかったよ」
アーデ達を連れ外へでるシャボンヌ。それを見送ると、メモリアは堪えていた涙を流していた
「これで、よかったのよ、これで……」
少し涙を流すと、立ち上がる。ここでの仕事を……記憶の泡の管理を、するために。
記憶の巫女として、生きるために。