やはり俺の異世界転生は命がけだ   作:ピーターパンシンドローム

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side八幡

 

俺は雪ノ下と、宮殿の廊下を歩いていた。シャンデリアで照らされ、窓ぶちに使われている金が輝き、床には赤いカーペットがひかれ、奥まで続いている。幾つかの部屋を過ぎた所で俺たちは足を止める、木製のドアを雪ノ下はノックした。中から少女の声が聞こえ、暫くするとドアが開いた。

 

「由比ヶ浜さん、今いいかしら?」

 

由比ヶ浜は頷くと、俺たちを部屋に入れた。

 

木製のベットに、1人用の机とイスがあるだけの簡素な部屋だ。

 

「先輩方は?どうしたんですか?」

 

ベッドに腰掛けていた一色が不思議そうな顔でこっちを見ている。

 

「いや、少しお前らが気になってな…ってか、一色、お前泣いてたのか?」

 

一色の目が少し充血しているのを見て、何気なく聞くと

 

「ヒッキーのバカ!アホ!八幡!」

 

「いや、八幡は悪口じゃねえだろ!」

 

「あなたはもう少しデリカシーという言葉を覚えたほうがいいわ」

 

雪ノ下はこめかみに手を当てて首を振る。

 

「いいんですよ、結衣先輩、雪乃先輩。私、飛行機で先輩に二度と会えないと思ってしまったので、この世界で先輩に会えて本当に嬉しかったんです。それで、ソフィア様の話が終わったら一気に気が抜けて。

そしたら涙が止まらなくなってしまったんです。そんな、私を結衣先輩が部屋に連れてきてくれて涙が止まったところに先輩達が来たというわけです。」

 

ああ、俺は一色にこんなに大切にされてたのか。

 

一気に目頭が熱くなるのを感じながら3人を見ると、3人とも薄っすらと涙を浮かべていた。

 

「ヒッキー、もうああいうのはやめにしてね?」

 

ああいうの、というのは飛行機でのことだろう。

 

「ああ、すまなかったな。ああいうのは、もうやめだ。」

 

いつかの日にも、同じ会話をした事を思い出す。だが、今回はあの時よりもずっと暖かく感じる。

 

「3人とも、聞いてくれ。」

 

3人の視線が俺に集まるのを感じる。

 

「俺はもう一度あの世界に戻りたい。頼りにさせてもらってもいいか?」

 

3人は笑みを浮かべながら、

 

「うん!ヒッキーまかせて!」

 

「あたりまえでしょう。貴方を1人にはさせない。」

 

「先輩はいつも1人でなんでもやろうとしますもんねー。まあ、大船に乗ったつもりでいてください!」

 

3人を見て、改めて俺は決意を固める。

 

ーーなんとしても、元の世界にもどる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、デリカシー?ってなに?ゆきのん?お惣菜売り場?」

 

「そうね、由比ヶ浜さんには少し難しすぎるかもしれないわね。」

 

「なんかバカにされてる!?」

 

「馬鹿は死んでも治らないって本当なんだな」

 

「ヒッキー酷すぎだからぁ!」

 

 

 

 

 

ーーーー

 

俺たちは宴の会場である食堂に入ると、思わず感嘆の声が漏れた。天上には大きなシャンデリアがいくつも下げれられ、長机には白いテーブルクロスがひかれており、その上には豪勢な料理が並べられていた。

おい、一色、よだれたれてんぞ。

 

奥には、俺たちの長机と直角になるようにもう一つの長机が置かれており、鎧に身をまとった男たちが真ん中のソフィア様を挟むように座っている。全員が席に座ると、ソフィアは立ち上がった。

 

「あなた方がこの国に来られた事を祝して、宴を開かせていただきます。今夜は存分に楽しんでくださいね。では、いただきましょう。」

 

 

 

ーーーー

俺はステーキを口に含みながら、周りの生徒を見ていた。戸塚や、川崎はいつも通りにみえる。暗い顔の生徒もちらほら見えるが、ほとんどは食事を楽しんでいるようだった。

 

 

 

 

ーーーー

宴から一夜明けて、俺たちは訓練場に来ていた。目の前には鎧に身をまとった男がいた。髪は青く、端正な顔だち、そして身長は180ほどの、女子の理想を具現化させた様な美青年である。当然の様にほとんどの女子は蕩けた顔で彼を見つめていた。

 

「私の名はガイウス。君たちの戦闘指導を任せられた。いきなり戦闘訓練と行きたいところだが、まずは自分たちの力を知らなければならない。よって、一人一人の能力を見せてもらう。」

 

そう言うと、ガイウスは石版を取り出しそこに手を当てた。すると、空中に文字が現れた。

 

名前 ガイウス

職業 精霊騎士

魔法属性 炎

 

「職業とは、才能の程度を示していると思ってもらってかまわない。戦闘の適性は聖騎士、精霊騎士、騎士の順番で高くなる。本当は他にも職業があるのだが、魔力の高い人はほとんどこの3つのどれかだ。そして、魔法属性とは、自分の得意な魔法の種類で、鍛錬を積めば他の属性の魔法だって使える様になる。」

 

ガイウスが石版から手を外すと、空中の文字が消えていった。その光景に周りは声を上げる。

 

「では、これから一人一人の前に出てきてもらい、能力を見させてもらう。まずはそこの金髪、前に来てくれ。」

 

葉山は少し緊張した顔で前に出てくる。一呼吸して、石版に手を当てた。すると先ほどと同じ様に文字が浮かび上がり、それを見た周りからは歓声が上がった。

 

 

 

名前 葉山隼人

職業 聖騎士

魔法属性 光

 

 

まじかよ…

神は葉山にどれだけ優しいんだよ…

 

横で見ていたガイウスが感嘆の声を上げた。

 

「これは驚いたな。私は聖騎士なんて初めて見た。正直、伝説上にしか存在しないのではと思っていたほどだよ」

 

葉山はそれを聞くと嬉しそうな顔をして、こっちを見た。

…お前、俺のこと好きすぎだろ。

 

「では次、そこの長髪の女性。」

 

ガイウスが雪ノ下を呼ぶと、雪ノ下が前に歩いていき、手をかざした。

 

名前 雪ノ下雪乃

職業 精霊騎士

属性 氷

 

 

流石、氷の女王ですね。

雪ノ下は、かなり悔しそうな顔をして元の場所に戻って行った。

ゆきのん、葉山に負けて悔しいのん?

 

 

 

ーーーー

それから次々と呼ばれていったが、ほとんどが騎士であった。俺の知り合いは以下のようになった。

 

戸塚 風属性 騎士

 

戸部 火属性 精霊騎士

 

海老名さん 氷属性 騎士

 

あーしさん 炎属性 騎士

 

川なんとかさん 風属性 騎士

 

一色 風属性 騎士

 

由比ヶ浜 光属性 騎士

 

先ほどから見ていて気づいたのだが、光属性が異常に少ない。きっとレアなのだろう。

意外だったのが、戸部が精霊騎士だったことだ。

あ、でもやっぱりどうでもいいや。戸部だし。

 

 

最後に俺の名前がガイウスに呼ばれた。最後の1人という事もあって、普段ぼっちの俺もそれなりの注目を集める。

やだなぁ、これでどうせ俺も騎士でみんなから空気読めないやつとか思われるんだろうなぁ。

 

俺は前に出ると、気だるげに石版に手をかざす。そして文字が表示された瞬間、どよめきが起こった。

 

 

名前 比企谷八幡

職業 暗黒騎士

魔法属性 闇

 

 

 

…はい?

暗黒騎士ってなんだ?

そもそも、魔法属性も今まで闇なんてものはなかった。

つまり俺は能力でもぼっちなのかよ…

俺がこの世界の仕打ちに対して悲しみに暮れていると、ガイウスが血相を変えてこちらに来た。

 

「これは…どういう事なんだ?」

 

俺はその質問の意味がわからず顔を傾けると、ガイウス他の生徒の方を向いた。

 

「今日はここまでにする。明日からは本格的に訓練するのでそのつもりでいるように。それでは解散!葉山は私たちについて来い。」

 

みんなが固まってこちらを見ているなか、俺はガイウスに引っ張られて宮殿に連れて行かれた。

 

 

 

 

ーーーー

俺は葉山の隣に座らされており、正面にはソフィア様とガイウスが座っている。訓練場を後にした俺たちは、客間に連れて来られた。白い暖炉の上には、貴族の服に身を包んだ男の肖像画が飾られており、床はチョコレート色の絨毯がひかれ、真ん中には机を挟んで高級感溢れるイスが2つずつ置かれている。

 

ガイウスは俺たちを交互に見ると、ゆっくり話し始めた。

 

「過去に魔王を倒したと言われる賢者だが、実は2人いたんだ。片方は聖騎士だった。その聖騎士は、魔王を倒した後に人々から賞賛され、国の王となった。だが、もう1人の賢者は魔王を倒した後姿を消した。そしてこの賢者の資料もなぜかほとんど残っていないので、詳しい事は分からない。ただ、資料にはこう記されていたんだ。

 

ーー暗黒騎士だった。

 

と。」

 

ソフィア様がガイウスの後に続ける。

 

「暗黒騎士が何を意味するのかは定かではありません。しかし、あなた方が賢者達と同等の存在になり得る事は確かなのです。なので、特別措置としてあなた達はガイウスに1対2で指導してもらいます。」

 

葉山が一瞬顔を引きつらせる。

…ああ、つまりこれは、俺たちはシゴかれるという事だな。

 

そうして、俺たちの地獄の毎日が始まった。

 

 

 


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