やはり俺の異世界転生は命がけだ   作:ピーターパンシンドローム

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第5話

side八幡

 

この宮殿には大きな図書館があり、世界中の本が集められている。薄暗い館内には幾つかの机があり、本を読むための小さな照明も付いている。

 

 

「おい、お前ら、寝るんだったら部屋に行けよ。」

 

船を漕いでいる2人を起こすと彼女達は立ち上がる。

 

「じゃあ、お言葉に甘えてお先に寝させてもらいますね。おやすみなさい先輩方。」

 

「ヒッキー、ゆきのん、おやすみー」

 

由比ヶ浜と一色はフラフラしながらも図書館を出て行った。

 

「お前も無理しなくていいんだぞ?もともとお前らは強制じゃないんだから。」

 

「いやよ。貴方と葉山くんに遅れを取るなんて私のプライドが許さないわ。」

 

そう、俺と葉山の特別メニューの中には勉学も含まれているのだ。

他の生徒の訓練でも朝から夕方まで体力、戦闘技術、勉学を叩き込むため毎日かなりハードである。しかし、俺と葉山はまだ他の生徒が寝ている早朝から夕飯の前までに体力と戦闘技術を磨き、夕飯後は決められた範囲を頭に叩き込まなければならない。文字通り死に物狂いでこの3ヶ月を過ごしてきた。しかし、何故か一色や由比ヶ浜、それに雪ノ下も俺たちと同じような訓練を自主的にやろうとしている。

 

「それに、貴方は私達を頼ったのだから、私達もそれに応えないと。」

 

俺は彼女のその言葉がたまらなく嬉しかった。

 

 

 

ーーーー

いつものように訓練を終えた日の夜、いつもならソフィア様の言葉をもらってからご飯を食べる。しかし、今回はガイウスが前に立ち、みんなは不思議そうにガイウスを見る。

 

「みんな、今までよく頑張った。明日は実際に魔獣を倒しに行く。今日は明日のために、英気を養ってくれ。それでは、乾杯。」

 

ガイウスの言葉を皮切りに、ご飯に手をつけ始める。

 

ーー魔獣か…

 

魔王はすでに地下深くで活動しており、地中には魔王を最下層として何層かの迷宮が存在するようだ。その迷宮に生息するのが魔獣ーー魔王の魔力により誕生した生物ーーらしい。すでに4層までは探索されているらしく明日俺たちはその4層に行くらしい。

 

生徒の顔を見ると、男子も女子も嬉しそうな顔をしている。きっとこれまでの訓練の成果を試したくて仕方ないのだろう。

 

訓練が始まった最初は、ほとんど生徒の目はが死んでいた。あの戸塚でさえ目が死んでいた。まるで俺のように。

 

…そんな戸塚をみて、俺と戸塚の子供を想像したのは内緒だ。

 

 

 

ーーーー

 

俺は集団の最後尾を歩いている。迷宮に入ってから、何体かの魔獣と遭遇しているがほとんどが他の生徒が一撃で倒しているので、やる事がなく、俺は後ろをついて歩いた。

 

天井は高く、壁も大きい。そして、道幅も集団で歩いても余裕があるほどだ。壁は青黒い石でできており、その石が怪しく光っている。幻想的ではあるがどこか不気味さを感じるほどである。

 

しばらく歩いていると突然、前の人が足を止めるので、俺もそれに合わせて止まるとガイウスが声張り上げた。

 

「この先には広い空間があるが、そこにはいくな。5階への階段を守る魔獣がいる。君たちなら倒せるかもしれないが、危険が伴うからな。だから、この先に行かないようにして、この層の魔獣で実戦経験を積んでくれ。よし、それでは自由に戦ってくれ。」

 

その声を聞くと集団はわらわらとばらけ、それぞれが自由に魔獣を狩り始めた。

 

「はちまん!僕たちも行こう!」

「ええ、そうね、貴重な実戦経験をするためには少しでも多くの魔獣と戦わないといけないのだし。」

 

「ああ、そうだな」

 

俺は戸塚に腕を引っ張られて、その場を後にした。動こうとしない、ある男子生徒のグループを俺は特に気にしなかった。

 

 

ーーーー

暫く歩くと、俺たちは魔獣と遭遇した。骸骨なのだが、深くマントをかぶっており、時折マントの隙間から見える鎖骨の奥には心臓が脈打っている。俺たちを見つけると由比ヶ浜に掴みかかろうとした。

 

「ゆきのん!お願い!」

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

由比ヶ浜が剣を振り上げ、骸骨の両手を真上に弾くとのと同時に骸骨の全身を凍らせた。雪ノ下の魔法だ。

両手を挙げ間抜けな体勢で凍っている骸骨の心臓に向かって由比ヶ浜が剣を突き刺すと、地面にドス黒い血を撒き散らし骸骨は倒れた。

 

…グロいわ!

 

「やったねゆきのん!」

 

「由比ヶ浜さんの剣技のおかげよ。」

 

由比ヶ浜は雪ノ下に抱きつき百合フィールドを展開していた。

 

「なあ、お前らは…その…グロいのとか大丈夫なのか?」

 

「え?ああ、なんか、あまりにも魔獣が現実離れしすぎててなんとも思わないかな。」

 

「そうね、私はそもそも血が苦手とかはないから問題ないわね。」

 

「先輩ビビりすぎですよー。こんなのゲームだと思っちゃえばいいんですよ!」

 

…女性陣つよし。

俺は縋るような目で戸塚を見ると

 

「僕、少しこういうの憧れてたんだ!」

 

俺はこの時初めて戸塚に恐怖を覚えた。

 

 

ーーーー

それから3体ほど魔獣を倒したところで、俺たちは一旦休憩することにした。雪ノ下と一色が作ってきたサンドウィッチを頬張りながら戦闘談義に花を咲かせていた。

 

「雪ノ下さんの氷魔法、やっぱりすごいね!みんな凍っちゃうだもん」

 

「そんなことないわ。本で読んだのだけど、この魔法は高位の魔獣になるほど効かなくなるらしいわ。それに、魔法って結構疲れるもの。」

 

「へー、お前の魔法にも欠点があるんだな。そういえば由比ヶ浜はどんな魔法なんだ?」

 

「あたしのは回復魔法。だから、あんまり戦闘向きじゃないみたいなんだ。」

 

「でも、回復魔法なんて僕他に見たことないよ?」

 

「たしかに、わたしも結衣先輩以外は見たことありませんねー 」

 

ちょうどサンドウィッチも食べ終わり、腰を上げようとした時、つんざくような男の悲鳴が迷宮に響いた。

 

 

 

 

side男子高生A

 

ガイウスは言っていた。

 

ーー階段を守る魔獣も俺たちなら倒せると。

 

俺たち4人は道中で出くわした魔獣も一撃で倒してきた。そんな俺たちが4層程度の魔獣に負けるわけがない。それにヒキタニとかいう奴が特別に扱われることに不満を持っていた俺たちは4人でその魔獣を倒して名を挙げようと考えていた。

 

大きな広間に出るとその奥に一体の魔獣が胡座をかいて座っていた。全身の体毛は黒く、山羊のような顔には上に向かってはいるが先端に行くにつれて下に反っている二本の角が生えている。背中には天使を彷彿とさせる白い羽が生えており、白いローブを着ている。その魔獣は脇に杖のようなものを抱えながら本を読んでいた。

 

俺たちは剣を抜き、少しずつ魔獣と距離を詰める。あと1メートルというところで、俺は唾を飲み込む。

 

 

 

 

ーーそして、一斉に斬りかかった。

 


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