真剣で俺は過ごしていく   作:ニコウミ

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凶状 霞は思慮を浮かべる

 "二人組、総大将を閃光撃破!!""東西交流戦をぶち壊し二人の正体は!?"

 

「凄ぇ大事な………」

「うん、いやぁ………テレビ出演のオファーが来たときはどうしよかと思ったよ、まさか此処までとは……くっくっくっ、僕達も一躍有名人だねぇ」

 

 新聞の見出しを見ながら俺は霞の作った金平牛蒡をかじりながら小さく呟く。

 デカデカと一面に載せられた霞を抱える俺の姿、暗い場所だったせいもあるのか、顔が下からライトアップされる形になり、さらに俺達の平均を遥かに上回る高身長が悪役染みた写真を引き立てている。

 

「霞恐すぎだろ……にやついた笑みが魔女みたいだぞこれ」

「………魔女とか言うな、魔女とか。君だって端から見れば悪魔のような容姿じゃないか」

「ちょっとは俺の硬い顔を気にしてるんだから言うなよ」

 

 俺の例えが気に入らないのか、不貞腐れたように言う霞の言葉を、俺は新聞を見ながら軽く受け流す。

 

「しっかし、これ学校行ったらなに言われるんだろうな。何週間もかけて練っていた作戦を俺達が台無しにした感じだろう。怖ぇな」

「くっくっくっ。安心したまえ、僕は君に守られるからね」

「結局、争いは避けられねぇのかよ………」

 

 あの総大将を、空中から奇襲した作戦は見事に翡翠の石(気が消える君)と言うジョーカーにより、成功を納めた。

 あの謎石、本当になんなのかは分からないが、調べたところ、密封状態にすると半径一メートル内にいる気を持つモノの気を隠すと言う代物であり、霞の間隣にいた俺は見事に気が隠れていた。だからこそ。

 

「間違いなく、川神百代に絡まれるな……」

 

 あの武神(チート)なら間違いなく俺達の状態に気付いた筈だ。さて、どんな言い訳で逃れようかと頭を捻りながらも新聞を読み進めていると、とあるページに大きく取り上げられている項目が目に飛び込んでくる。

 九鬼と言う有名過ぎる名が取り上げられている記事、普段なら読まずに飛ばすが、今回は気になる単語が書かれていた。

 

「"武士道プランによって産まれたクローン、川神学園に入学決まる"」

「……武士道プラン? なんだい、それ」

 

 俺が読み上げた記事に霞がお茶を飲みながら聞いてくる。

 ふと記事から視線を下げて読み進めていくが、詳しい内容は全く書かれていない。

 

「ん、あった。川神学園の朝礼で詳しい内容が公開される、とよ。これって、お前が言っていた転校生って奴じゃねぇのか?」

「………ふぅん。つまらないな」

「またかよ……」

「クローンって考えが気に入らないね。過去にすがっているように見える……ま、ありがちで平凡で聞き飽きた陳腐な言葉で着飾るなら、生まれた命に罪は無いんじゃないかな」

「毛嫌うねぇ………ん、九鬼家が根本的に動いたみたいだな。過去の偉人のDNAから生まれたとか……いや、同意する訳じゃないが、随分命を軽く扱うな」

「時代がそうなんだよ。まぁいいさ、僕には関係ない、それに、転校生として来るなら少しは話せるだろう」

 

 霞の言葉に、俺は曖昧に頷く。

 過去の偉人のクローンね。どんな奴らなのか。

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「義経と言います!!」

 

 朝の朝礼。

 元気よく全生徒に挨拶をしている偉人のクローンを見ながら、俺は苦笑を浮かべる。

 俺達は華麗に朝礼をエスケープ。何時もの部室からその光景を見下ろしていたが。なるほど、偉人のクローンか。

 

「見事に美少女だな」

「クローンだからね。性別まではコントロール出来ないさ。仮にしたとしても、僕なら人間としての正気を疑うけどね……君的にどの子がタイプだい? 」

「いねぇよ………しかし、あの清楚って子は……」

 

 優しい笑みを浮かべる少女に俺は視線を向ける。読書が好きで、花が好き。さらには清楚という名の通りに清楚な佇まい。あれが清少納言のクローンだというのか。

 

「清少納言は悪女としても有名だったよ。紫式部みたいな小説家としても少しは有名だったけど、コアに探るなら清少納言は自分が恋した男性を権力に物を言わせて、男の妻から男を奪い取り、そして一年後、男に飽きて捨てた。なんてね。元来、小説家の女性はろくな女がいない」

「清楚ねぇ………お前には一人、思い当たる人物がいるんだよな」

「覇王、彼は学に通じ、武に通じ、そして何よりも儚き物を愛した。なんて言うのは大袈裟かな。清楚は西楚。名前に捻りが無さすぎだよ。ま、つまり。あれはとんだ地雷爆弾だ。触らぬ神になんとやら……あれはつついたら獅子が出てくる」

「……ま、見た目からは想像出来んよな。つうか、マジか? あの子からは微弱な気しか感じないんだが」

「どちらでも良いよ。清少納言だろうが覇王だろうが、僕には関係ない。暑いからそろそろ、閉めてくれ」

 

 鬱陶しそうに顔を扇ぎながら、霞は言う。俺は熱狂に包まれる校庭を一瞥し、霞に言われるがまま窓を閉めた。

 部室に足を進めると、霞は部室に用意されている割りと高めのソファーに身を沈めると小さく息を吐いて口を開く。

 

「さてと。ここまでは誰にも関わらず、無事に学園にこれたけど。これからはそうも行かないだろう」

「……ま、実質、この翡翠の石(気が消える君)が無ければ間違いなく川神百代に絡まれてたからな。しかし、これからは学校っつう場所に行動が狭まれる。何時かはぶつかるだろうな 」

「そうだよ。だからね、僕はそろそろ、君を隠しておくのは辞めようと思うんだ」

「つまり?」

「君は、学園に食券を金として教師から依頼を渡される制度を知っているかな」

「あぁ、実際にやったことは無いけどな。確か大和がそんな話をしてたな」

「ふぅん………」

「露骨に機嫌が悪くなるな……」

 

 俺のだした名前が気に入らないのか。それとも自分が教えようとしたことを大和にとられたと言う不貞腐れか。恐らくはどちらもだろう。

 

「ま、いいや。それで、その依頼。受けてみようと思うんだ」

「食費削減か?」

「アホか。目立つ為にだよ」

「"目立つ為に?"」

「そう、目立つ為に。僕達には今、知名度が足りない。僕が探偵事務所を設立するにあたって、肝心な依頼が来なければ話にならないだろう?」

「だからって、今から探偵事務所の知名度をあげるっても、無理だろ」

「ならば、僕達の知名度をあげればいい。言いたいことが分かるかい?」

「さぁな」

「くっくっくっ、つまりはね。僕が事件に関われば円満に終わるという印象を周りに植え付けるんだよ。これを実行するにあたって肝心な事が何か分かるかい?」

 

 そう言いながら霞は履いていたハイニーソを適当に脱ぎ捨てながら、露になった長く白い足を伸ばす。パンツが見えないのは残念だ。

 さて、くだらないことはさておき、俺は霞の言葉を考える。

 

「……目立つことか」

「そうだ、正解。百点満点。僕達は関わった事件の中心にいなければならない。そして何よりも善に向いていなければならない。言葉にすれば簡単だけど、実行するのは用意じゃあないさ。そして………ジャジャン」

 

 わざとらしい口調で霞はコートの胸ポケットから一枚の折り畳まれた小さな紙を取りだし、俺に見せてくる。

 

「………なんぞ、それ?」

「依頼書。食券七十枚の報酬つき、ストーカー退治」

「先決にありがとよ。で、どうせ、面倒があるんだろう?」

「この依頼、早い者勝ちの依頼でね。風間ファミリーも関わってくるんだ」

「うわぉ…………」

「つまりは。君にかされた役割は二つ、ストーカーを撃退することと、"君の実力を晒すこと"」

「曝す?」

「そう、曝す。君は実は強いんだぞってね。今まで普通だった人物が実力を出すと、それは語弊されやすいのさ。例えば、君が武神より強いとかね」

 

 演技のような動作で言う霞に俺は鼻で笑う。

 

「俺が武神より? 有り得ないな、あれはそうそう勝てる相手じゃねぇよ。才能が天才の翼を生やしたような奴だぞ。あれは」

「じゃあ君は勝てないのかい?」

「変な期待を持たせるならハッキリ言うが、まず無事には勝てないな 」

「へぇ……じゃあ、まぁ、君は君らしくでいいや。兎に角、僕らはこれからしばらく、あらゆる事件に首を突っ込む覚悟で行くからね。いやぁ………楽しみだねぇ」

 

 呑気に微笑む霞に俺は呆れたように笑みを浮かべて返す。確かに、波乱の幕開けは悪くはないと言ったが、様々な疲労を考えると気落ちしないでもない。なにせ、普段は自分がやりたいことしかやらない霞が妙にやる気なのだ。不穏が漂い始める。

 そんな中、突然、部屋のドアが甲高い木の音で静かにノックされる。

 

「ん、客か?」

「あぁ、多分、依頼者だよ。朝礼が終わったら来てくれと頼んでおいたんだ」

 

 そう言って目でドアを開けろと合図する霞になすがまま、俺は下ろしていた腰をあげ、ドアに向かう。

 

「あいよ、どちらさんだ?」

 

 ドアを開けると其処にいたのは、背が低めの少女。青色のショートカットを綺麗に束ね髪。そして丸く大きな目が俺を写している。霞ほど、と言われれば違うと言えるが、それでも美少女と呼ばれる端整な顔付きだった。

 彼女は少し躊躇いがちに口を開く。

 

「あ、あの。ここが探究部の部室であってますか……?」

 

 自信なさげに言う彼女に俺は小さく頷く。

 

「あぁ、合ってるよ。依頼者さんか?」

「は、はい。私の依頼を受けてくれる人に説明してまわっているんですけど……その」

「要、入れて良いよ」

 

 後ろからソファに凭れながら言う霞の言葉を背中に受けながら、俺はドアを大きく開き、彼女に向かって部屋に手を向ける。

 

「どうぞ、遠慮せずにな」

「は、はい。お邪魔します……」

 

 不安げに、恐る恐ると足を踏み入れる彼女に俺は苦笑する。一体、俺達にはどんな噂が飛び交っているのやら。

 部屋の奥まで行くと彼女は霞を視線に捕らえると、僅かに体を震わせる。恐らくは霞の睨み付けるような釣り目に睨まれていると言う勘違いだろう。霞は至って普通の素面なんだがな。

 俺は霞とは別のソファに座り込み、片手で向かいのソファを指す。たが、緊張からか、彼女は椅子に座ろうとはしない。そんな彼女を見かねたのか、霞が口を開く。

 

「やぁ、いらっしゃい。今をときめく注目話題のかすにゃんだよ」

「は、はい?」

「そう言うネタはいきなりやるな、キャラとかけ離れすぎなんだよお前は……」

「緊張しているからちょっとしたお茶目だよ。さぁ、遠慮なく其処ら辺に座って良いよ、なんならカナメの膝でも」

「あ、あの、じゃあ、此処に……」

「フラれたね、残念。僕が座ってやろう」

 

 俺が断る暇もなく、霞は俺の膝に座り込み、完璧に力を抜いて体を委ねてくる。ほぼ成人女性であり、身長が百九十近い女性がなんの躊躇いもなく委ねられると、素直に。

 

「………重い」

「おい、僕はこれでも五十はキープしているんだぞ。背からみたら十分に軽いだろう」

「軽すぎだろ、胸が小さいからか」

「…………ふん、君のエロ本には貧乳物しかない癖に」

「なんで知っている!?」

「あ、あの! そ、そろそろお話をしても……」

 

 俺達のやりとりに戸惑う彼女は視線を慌ただしく動かしながら此方に引っ込みながら言う。

 

「……ふむ、あぁ、そうだねぇ」

 

 霞はそんな彼女を薄目で見つめながら、思慮深くみせたように呟き、片手を彼女に向ける。

 

「それじゃ、自己紹介からしようか。僕は凶状 霞。こっちの背が高い男は青葉 要。気軽に呼んでくれたまえ。それで、君は?」

「は、はい。わたしは上津軽 三角(みょうか)と言います……」

「へぇ、またこれは珍しい名前だね……まぁ、僕もあまり人の事は言えないけど」

 

 上津軽 三角ね。また難しい名前だな。

 俺は霞の頭の上から三角を見下ろす。まだ緊張しているのか、それともあがり症でもあるのだろうか。三角はまた視線を何処かに惑わしている。そんな彼女に霞は口を開く。

 

「じゃ、三角。何年生だい?」

「い、一年です」

「ふむ、家族は?」

「は、はい?」

「家族だよ、家族。何人家族だい?」

「あ、あの………」

 

 まるで関係の無いことを話す霞に三角は戸惑いを隠せないようだった。そんな二人を俺はただ見守る。霞には霞の独自の考えがある、それを横から邪魔するとコイツは途端に不機嫌になるめんどくさい女なのだ。

 後の平穏のためにも、俺は余程ではない限り止めるつもりはない。

 

「関係ない話じゃないかって?」

「あ、あの………すいません」

「……………いや、うん。君は早くストーカーの事件を解決したいんだね?」

「も、勿論です………わたし、最近、ずっと誰かに狙われているようで……その」

「うん。そうだねぇ……分かった。じゃあ話を聞こう、まずは最初の質問からだね。今までにどんな被害を受けたかな?」

 

 霞の言葉に三角は顔を俯かせながら、思い出したくもないように体を僅かに震わせる。

 

「さ、最初は、気のせいかと思ったんです」

「気のせいかと?」

「物が無くなるんです……さ、最初は消しゴム、次はシャーペン、次はノート……」

「それは学校で使われていた物かな?」

「…は、はい」

「学校で使われていた物が無くなる………ねぇ。いいよ、続けて」

 

 目を閉じてにやけた笑みを浮かべて霞は言葉を木霊のように返し、大袈裟に頷く。そんな霞に三角は戸惑いながらも、小さく口を開く。

 

「そ、そしたら、ノートが、帰ってきて」

「いつかな? 」

「え、え?」

「ノートが帰ってきたのは、無くしてからいつかな?」

「え、えっと………どうして」

「気になるから………それとも、覚えてないかい?」

 

 閉じていた目をまた薄く開き、三角を見る。その視線に僅かに体を震わせ、三角は無理矢理思い出すように視線を慌ただしく動かす。

 

「え、えっと。無くしてから……一週間後くらいです」

「………ふむ、一週間後。いいよ、続けて」

「そ、それで………ノートには色々、その、書かれてて……」

 

 書かれてて。と言うことは、一方的な愛だろうか。

 なるほど、それは気持ち悪いな。

 

「書かれててか。ふぅん………僕もよく一方的な愛を受けるんだよ。暴力で」

「……俺がいつ暴力をふるった。初対面の人に変な概念を植え付けるなタコ」

「よく頭を叩かれるし。間違っちゃい無い………ま、話を戻そう。それで、そのノートを受け取ってから被害は?」

「は、はい。家に手紙が届いたり、下駄箱に綺麗に包まれたわたしの箸が入ってたり………な、なぜか、わたしの家のカギが一緒にはいってて……」

「家のカギ………ふむふむ。君に身近に心当たりはあるのかな、家のカギを取れるような男性の」

「な、ないです………」

 

 家のカギが盗まれてて、合鍵でも作られたか。と言うことは何時でも家に侵入できる状態にあるのか。

 確かに、それは普通の女性からしたらただの恐怖以外の何者でもないな。

「………なるほど。うん、なるほど。分かった、それで、君はどうして欲しい?」

 

 にやけた笑みを浮かべたまま霞は目の前の三角にわざとらしく問いかける。そんな霞に三角は控えめな視線を霞に

向けて、恐る恐る口を開く。

 

「も、もう1つの方々に同じことを頼んだのですが………わ、わたしを守って欲しいのと、は、犯人を捕まえて欲しい………です」

「犯人は別に構わないけど、守るって具体的にどうやって欲しいんだい?」

「わ、わたし、一人暮らしで、親は北海道で、そ、その、我が儘なのは十分に承知なんです………お礼は望む限り渡します………だから、その、わたしをや、大和さん達と交代で、ま、守ってくれませんか………」

「つまり、君は寝ずに自分を守って欲しいと、そして犯人を捕まえて欲しいと言うことだね。お礼は望む限り、まぁ深夜労働だし当たり前なんだけど……払えるのかい?」

 

 嫌味のように言う霞。悪女が染み付いているな。

 しかし、対価がないと言うのに比べたら、確かに過ぎる労働だ。

 

「ば、バイトで貯めたお金があります……大丈夫です」

「バイト………ねぇ」

 

 含みを持たせた笑みを浮かべて霞は小さく頷く。

 

「────────うん。良いよ。直江大和君達と手を組んで、犯人を捕まえてあげよう」

 

 

 そう宣言する霞の笑みを見ながら、俺は密かに思う。

 

 

 

 凶状 霞は絶対に直江大和と手を組まないな。と。

 

 




第一章。道化と道化

始まります。要が霞より目立たないのもこれまでだ。

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