とある魔術の間桐雁夜 作:雄大
彼の物語がとあるキャラたちによってどう変化していくのかを読んでくださってもらえれば嬉しい限りです。
初恋の人にして最愛の幼馴染みに恋人ができた。でもその恋人は俺ではなかった。だけど俺は泣くことも怒ることも恨むこともしなかった。ただ好きだった人に今まで一度も異性として見てもらえなかったことが悔しかった。
好きだった人に二人の娘ができた。娘は双方とても可愛らしくとても愛らしかった。俺はかつての想い人の事を未だ忘れられず恥ずかしげもなく娘二人を口実に度々会いに来た。
俺の家系は魔術を扱う魔術師だった。だが使用する魔術はあまりにも醜悪でおぞましいものだった。
俺は逃げた。中学を卒業すると共に死ぬ思いで死にたくないと心中で叫びながら俺は家に残った兄を見捨て逃げ出した。
ああ。思い返せば俺の人生は逃げてばかりの逃亡人生。好きな人には想いを伝えることも出来ず、糞みたいな父には立ち向かうこともせず逃げ出し、あまつさえそんな醜態ばかりの人生に俺は目を背け続けた。俺は悪くない。悪いのは環境なのだと。だから仕方がないのだと。周囲を否定し自分自身を必死に肯定してきた。
全くろくなやつじゃないな。俺って……
つーかいくらなんでも酷くないか? 人生いいこと殆どないじゃないか。なあそう思うよな? って誰が答えるわけでもないのに一人で何考えてんだ俺は。
カチャリカチャリと次々に嫌な思い出が頭を過っていった。
そして俺は気づく。これが噂に聴く走馬灯という奴なのだと。俺、間桐雁夜の人生は終幕を迎えるのだと。
どーしてこうなった。いったい何処で道を間違えた。
過ぎた事を振り返っても仕方がないと言うが振り返らずにはいられない。俺はほんの数時間前のことを思い出す。
しがないルポライターとしてイギリス首都ロンドンへ訪れたのがそもそもの始まりだった。魔術と神秘が色濃く残り仕舞いには初恋の人の旦那が通っていた時計塔という名の魔術学校がどっしり構えるこの地に来た時点で何となく嫌な予感はしていた。
魔術師からして見れば偉大なる(笑)魔術の世界から逃げ出した落伍者である俺にとってこの地は完全にアウェイ。
だがそれでも形振り構わず此処に来なければならなかった。ここ最近ろくな仕事が来ず憔悴し金も底を尽きかけ俺は誰に助けを乞うこともできずに死にかけていた。しかしそこに天の助けか悪魔の囁きか。 UFOやらユーマやら地底人やらを大真面目に調べ尽くし雑誌に載せおおっぴらまに神秘を号外する某部署から多額のギャラと引き換えに俺の所へと調査の依頼がやってきたのだ。
ならばもう形振り構ってはいられない。早速魔術の地イギリスに赴き俺は調査を開始した。
調査内容は胡散臭いことこの上ないイギリス内で囁かれる都市伝説だ。都市伝説の内容は、月光が強く照らす夜、草木も眠る丑三つ時に一人で歩いていると赤い目をした美しい女に出会いどんな願いでも叶えてくれる代わりに魂を喰われてしまうという物だ。
うむ。やっぱり胡散臭い。大体魂を喰われるというのならいったいどうやってその噂は広がったんだよ。と当たり前の疑問を抱きつつ俺は夜のイギリスを一人歩いていた。噂事態は間違いなく嘘だろうが火のない所には煙は立たないというしもしかしたら何らかの神秘が関わっている可能性はある。無論積極的に俺自身が関わるつもりはこれっぽっちもないがこっそり写真に納めることくらいは出来るはずだ。
カメラの調整をしながら黙々と歩いているとそこにそいつはいた。
目を真っ赤にし歯をギラリと光らせ体中に血を浴びた異様な女がいた。
……………… 本当にいた。本当にいたよ、おい!
ほぼ条件反射で俺はカメラを向ける。本来ならばこの時点で逃げるべきだった。爺の時のように脇目もふらずき駆け出すべきだった。だが俺はこんな時に限って逃げ出さなかったのだ。その結果がーーー
「これかよ……」
俺は腹からどくどくと血を流しぐったりと女にひれ伏す形でアスファルトに顔を乗せていた。何だか寒気もするし意識も朦朧としてきた。
そういや最初に俺の人生は逃亡人生なんて自虐したけど考えてみれば最後の最後に逃げずにいられたな。そのせいで死にかけてるんだけど。それに逃げなかったというりよりも足が動かなかったていうのもあるし。
何とか首を動かし目を向けてみると女は口元の血もしっかりと舐めとり俺をギロリと睨み付けてきた。なんだよ、まだ喰いたりないっていうのか。つーか今更だけどこの女ってもしかして吸血鬼か? 俺の血で体力を回復したみたいだし。そういや関係ないけど最初にあいつが浴びていた血も返り血ではなく自分が負った怪我による物のようだったな。まさか誰かと戦っていたのだろうか。
と、現実逃避ぎみに意味なき考察をしていると女はゆっくりと近づいてきた。その一歩一歩が俺には死刑宣告を告げるカウントダウンのように思えた。
ああ、嫌だな死にたくないな。だって俺は想い人に、葵さんに告白すらしていないんだぞ。何のアクションも起こさぬまま踏ん切りもつかず恋人も作らないままずっと一人きりの人生を歩んできたんたぞ。
嫌だな。嫌だ嫌だ! こんな所で死にたくない! だって俺はまだ何も果たせていないじゃないか! あの人に想いを告げていないじゃないか! そうだ! 例え結果はわかりきっていたとしても、俺はこの気持ちをあの人に伝えたい。だから
俺は……………………
「生きたい!」
俺の叫びなど吸血鬼には通じない。
吸血鬼は大口を開け地を蹴りーー
「貴方の叫び、確かに聞き届けました。救われぬものに救いの手を」
吸血鬼は俺に喰らいつくことなくうなり声を上げ真横へとふっ飛んでいった。代わりに俺の前には異様な吸血鬼ではなく精錬された声で語りかける端麗な女性が立っていた。
「あ……」
言葉を失うとはきっとこういうことなのだろう。女性はそれほど迄に美しく闇夜の中で燦然と輝いてた。
長い髪は簡素な布でポニーテールに括れ、くびれを強調しているのか半袖のTシャツは臍の上で縛られている。履いているジーンズは片方の裾を根元まで切り美脚が丸だしとなっていた。…… かなり奇抜なファッションだがそのおかげで女性の美しさはより一層引き立てられている。
俺が見惚れていると女性は視線の矛先を倒れている吸血鬼へと向けた。
吸血鬼はぎらぎらと赤い目を光らせ女性に殺意丸出しで睨み付けている。まるで仇敵にでもあったかのような様子だ。
対して女性は目の前の吸血鬼に臆することなく腰のウェスタンベルトに納められている鞘に手をかけ刀を抜いた。月光に照らされ二メートルはあるかと思われる刀身が顕となる。
「既に手合わせをしている以上最早手の内を隠す必要はないでしょう。本気で殺らせてもらいます」
次の瞬間、女性と吸血鬼はその場から一瞬で消えた。
俺が驚くのも束の間、暗闇の中をぶつかり合う音と共に無数の火花が散った。目にも止まらぬスピードの戦闘。目の前で起きる有り得ない現実を見届けようにも俺の意識はゆっくりと暗闇の中へと落ちていった。
◇
「ん…… あれ、ここ、はどこだ?」
目を開けた時、最初に目に入ったのものは正しく見知らぬ天井だった。某アニメファンならば口に出して言うべきなのだが生憎俺は少しばかりかじっている程度の者なので言う気はない。
それよりも現状確認の方が重要だろう。
周囲を見渡してみると家具らしき物はほとんど見かけられなかった。あるのは俺が寝ていたベッドとテーブルに小さな卓上ランプ。部屋も小さいし、なんか必要最低限の物のみって感じだな、って痛い! なんだ!?
腹部に痛みを感じ確認してみると腹には包帯が巻かれていた。
「いてて…… なんだこの包帯? 俺、怪我なんかしたか? というか本当にここはどこなんだ? 確か俺は都市伝説を調べにイギリスに来てたはず………… あっ!」
そ、そうだ思い出したぞ! 俺はあの変な女、つーか吸血鬼に襲われて殺されたんだ…… いや生きているのか? 実際俺、息もしてるし。そうだ助かったんだ! いや正確には助けてもらったという方が正しいのかもしれないな。あの刀を持った女性も相当強かったし、あの吸血鬼を倒して俺を手当てしてくれたのかも。
だとしたらお礼を言うべきなんだが彼女はいったい何者なのだろう。吸血鬼を相手にし刀で戦っていたくらいだから魔術師ではなく聖堂教会の人間である可能性が高いな。
「よかった目を覚ましたようですね」
「うおひょぉ!?」
完全に油断していた。思わず変な声が出ちゃたぞ。ドアが開き俺を助けてれたであろう女性が入ってきた。
「これは、驚かせてしまい申しわけありません」
「あ、いえいえ。助けてれた上に怪我の治療までしてくれたんですから。この度は有難うございました」
「いえ…… お礼を言う必要はありません。あの吸血鬼は本来ならば私が早急に倒すべき敵でした。しかし一瞬の隙をつかれ逃げられてしまい貴方が襲われてしまった。これは私のミスです。だから私はお礼を言われる所か貴方に謝らなければならないのです」
「ああ、そうだったんですが。別にいいんですよ。気にしなくて。治療してくれたんだし、それでチャラってことで」
成る程、あの吸血鬼が怪我を負っていたのは彼女と戦っていたからで俺を襲ったのも戦闘で負った傷を癒すためだったからか。
「それにしても俺、よく助かりましたね。腹に穴まで空いていたのに」
「そ、そうですね。確かに貴方は一度死ぬ寸前までいきました。目を覚ますのに三日はかかりましたし」
「ああ、やっぱり…… てっええ!?」
何となしに言ったのだが思わぬ返答が返ってきた。
俺はそんなに重傷だったのか。本当によく助かったな。
「最早通常の医療技術でもどうにもならない程だったので魔術を使用したのです。なので体に支障はーー」
「ちょっ、ちょっと待て! 魔術だと!? あんた魔術師なのか!」
「は、はい。確かにそうですが。てっきり気づいているかと」
二メートルの刀を振りかざして吸血鬼相手に白兵戦する魔術師なんているか! てっきり聖堂教会の人間だと思っていたのに。まさか魔術師だったとは。
正直に言うと俺は魔術師という人種が嫌いだ。根源などという不確かな物の為に他者を軽んじ命などどうでもいいと思い捨て石のように扱う。その上、魔術以外の存在を見下し認めようともせずに自分達は偉大なのだと思い上がる姿には辟易していた。
最も魔術を意味嫌う最大の要因は俺の家系にあるのだが。
思わず俺の語気も強くなってしまった。いかんいかん。魔術師とはいえ俺を助けてくれた恩人。冷静にならなければ。
「すいません。大きな声を出して。実を言うと魔術師といものが苦手でして」
「……あの間桐の血を受け継ぐ貴方が、ですが」
「っ!? 何故それを!」
「申しわけありません。貴方を治療する際、貴方のパスポートを見てしまったのです。単なる同姓だと私は気にしなかったのですが上の者が念のため調べよと言うので勝手ながら貴方のことを調べさせてもらいました。そうしたら貴方は間違いなくあの間桐の人間だと」
「俺はもうあの家の人間じゃない!」
気づくと俺は大声を上げ拳をベットに強く叩きつけていた。またやってしまった…… 地雷だったとはいえ女相手に、それも恩人に向かって。
「……重ね重ね申しわけありません。貴方のことをよく知りもしないのに不躾なことを言ってしまって」
「いや、いいんだ。本当に」
「お詫びと言ってはなんですが御食事でもいかかでしょうか。私の上司も貴方と話をしたいと言っていますし」
「食事ね…… それって俺とその上司で話をさせるための口実なんじゃないのか?」
ついつい意地悪な言い方をしてしまった。
彼女は苦い笑みを浮かべ困ったように答えた。
「正直に言うと確かに貴方の言う通りです。私の上司は貴方に強い関心を抱いています。無論貴方が嫌だというならば私は強制しません。帰りたいというならば私が必ず貴方が無事に帰れるよう全力を尽くします」
「そうですか……」
やべえ。ぶっちゃけ今すぐ帰りたい。帰れるように全力を尽くしますとか言っている時点でこの人はともかく上の奴は俺を帰らせないき満々じゃないか。いったい何をされるかわかったもんじゃないぞ。
ここはお言葉に甘えて帰るべきなんだがそうなるとこの人に何らかの処罰が下される可能性がある。そうなるとかなりモヤッとする。魔術師は嫌いだがこの人は俺を助けてくれた恩人だ。できればこの人には酷い目にあってほしくない。
「あー、わかりました。食事に参加させてもらいますよ」
「ほ、本当にいいんですか?」
「ええ。ただ勘違いしないように。丁度腹も減っていますし。別に貴女のことを気遣っているわけじゃないので」
「……っ! そうですか。成る程、そういうことなら仕方がないですね」
俺の考えを察したのか彼女は嬉しそうに微笑んだ。
うーむやっぱり綺麗だな。てっ、いかんいかん! 俺には葵さんが。まあ、とっくに結婚している上に俺のことなんて眼中にもないだろうが。
「じゃあ早速お礼もかねてその上司に話をしたいんですけど、いったい何者なんですか、その人。時計塔の講師とか?」
「いえ、講師ではありません。それどころか時計塔と私たちとでは派閥が違います」
「派閥?」
「はい。私たちは騎士派、王室派、魔術派に並ぶイギリス四派閥が一つ、清教派のイギリス清教です」
「は? イギリス清教ぅ!?」
更なる真事実に俺は素っ頓狂な声を出してしまった。
「てことはあんたは魔術師は魔術師でも……」
「イギリス清教、第零聖堂区『
この出会いが神様からも見捨てられるはずだった男、間桐雁夜の運命を大きく変えることを誰も知らない。
どうだったでしょうか? 気になる点があれば気兼ねなく聞いてください。