とある魔術の間桐雁夜   作:雄大

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だいぶ遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
久々の投稿でございます。


第2話 最大主教

恩人神裂さんの後を俺は緊張しながらついていく。部屋を出るとそこは長い廊下だった。

たくさんの部屋がありドアには名前が書かれていると思われるプレートがかけられていた。彼女が言うにはここはイギリス清教のシスターや女性魔術師が暮らしている女子寮らしい。階段を下り『出口だにゃーん』と書かれた何処かイラッとするプレートがかけられたドアを開き中庭に出る。花壇に植えられた色取り取りの花が咲き誇る中を歩いて行くと平均的な一般家庭よりも一回り程大きく建てられた一軒家にたどり着いた。

 

「ここは重要な客人を招く為に建てられた家です。最大主教がこの中で待っていますので。どうぞ」

 

「最大主教か…… 魔術の世界では落伍者扱いの俺がいきなりイギリス清教のトップに会うのはやっぱり失礼なんじゃないのか? なんか緊張してきた」

 

トップと話をする緊張感もそうだが、基本的に魔術師に好感を持てず嫌悪をしていることもあって俺の足は今さらながら家に入ろうとするのを拒んでいた。

いや、だからといって今更ながら逃げのるも恥ずかしい。さっき思いっきり格好つけちゃったし。

 

「本当に大丈夫ですか? やはりやめた方が……」

 

「いえ、大丈夫です!」

 

俺にも意地って物がある。

意を決しドアノブに手をかける。そして大きく深呼吸をしたあと勢いよく扉を開けた。

そこにはーー

 

 

「よく来たれりね、間桐雁夜! 最大主教ことローラ=スチュアートなりけるのよ!」

 

歯をキラリと輝かせながらピースサインとウィンクを向ける簡素なベージュの修道服に身を包んだ頭のおかしそうな少女がいた。

 

 

 

 

 

最大主教。それはイギリス清教のトップである国王に仕えし側近だ。

立場はNo.2であるが多忙な国王に変わってイギリス清教の指揮を執る実質的な指導者である。

それほどの立場の人間。魔術師の中で落伍者扱いをされているこの俺では一生会えないような人だ。

魔術に関わっているとはいえ一応神に仕える仕事をしているわけだし、かなり高貴な人なのだろう、と俺はそう思っていた。

実際に目にするまでは。

 

「あらあら。どうしたというのかしら、この子は。もしやしてもこの私に出会えて緊張なさっているのかしら?」

 

最大主教の奇行を見たからか、額に血管を浮き出しピキピキと鳴らす神裂さんに促され俺は豪華な食事が用意されたテーブルの前に座っていた。ちなみに神裂さんは俺が座るとそのまま部屋を出ていってしまった。

正直心細いな……

そんな俺を前に最大主教、ローラスチュアートは向かい合う形で座り何故か得意気な顔でいる。

そんな彼女に俺はというと。

 

「え。そ、そうですね…… ふふ…… 確かに緊張していま、ふぐっ! あ、いや何でもありません」

 

彼女のおかしな日本語に精一杯笑いを堪えていた。

その様子に目の前の彼女は全く気づいていないようだ。

最大主教という立場である彼女が事とあろうにまともな日本語を話せない。

そのギャップと自覚のなさに笑ってしまいそうだった。

 

「やはりそうなの。何とも可愛きことね。でもそう緊張ならさらなくてもよろしくてよ」

 

最大主教は俺の態度にご満悦なのかふふんと笑ってみせた。

その姿はイギリス清教を支える最大主教というよりも何の変鉄もない、どこにでもいる普通の少女の様な姿だった。彼女の容姿が多く見積もって齢18にしか見えないせいでもあるが。

人々を導く修道者というよりも小綺麗なちょっとおバカな女の子。

今のところ俺の中での彼女に対する印象はそんな感じだ。そのおかげで入る前に抱いていた緊張感と恐怖心は少しばかり緩み単刀直入な質問をすることができた。

 

「では最大主教殿。一つ聞きたいのですが、何故俺のような人間を態々招いたのでしょうか?」

 

「それは簡単。あなたが間桐の人間だからなのよ」

 

あまりにもあっさりとした答え。それは予想していたことではあったがやはり俺としてはあまりいい気分には慣れない理由だった。

 

「貴方がいったい俺に何を期待しているのか知りませんが、俺はもう間桐の人間ではありません。それどころか魔術も使えない落伍者です」

 

「それは私も理解しているわ。でも例えあなたが落伍者でありけるとも絶縁を図ろうともあの、間桐臓硯の息子であることに変わりはなし」

 

「…… !? そ、それがどうしたと……」

 

『臓硯』この名前を聞いただけで俺の体は小刻みに震え嫌な汗が吹き出してきた。

俺の父であり間桐の闇。魔術による延命で500年間生き続ける化物。

俺は奴を恐れ魔術の世界から逃げ出してきたんだ。

「間桐は良くも悪くもその名を轟かせている名家。臓硯の実力と間桐の扱う魔術は魔術教会からしてみれば放置しておくことはできぬものなりよ。このイギリスに奴が一度足を踏みいれれば執行者を仕向けられ封印指定を受ける程に。なれば必然、いつしか奴の持つ土地と魔術の利益に目をつけた魔術師が臓硯を狙い、少しでも関わりのある某も共にその命を脅かされるでしょうね」

 

「そ、そんな! 俺は魔術のことなんて何も知らない!」

 

「さて、それを信ずる者がいるのかしら? 臓硯の魔術の知識を息子であるあなたが何も知らないと。ほんの少し、一欠片でも可能性があれば動く輩は必ずいる」

 

なんてことだ。俺は彼女の言葉に何も反論できなくなる。確かに魔術師というのは魔術の躍進と根源への到達の為ならば他の命など意にも返さないというのが基本だ。

俺は臓硯を恐れクソったれの魔術の世界から逃げるためにあの街を離れたのに。間桐の呪縛が俺から消えることはないのか……

失意と怒りに俺は肩を落とす。それを最大主教は透き通った青い瞳で俺の内心を見透かすかのように見据えていた。

 

「そう落ち込む必要はなきことよ。あなたの身を守る方法はある。わたしはそれを教えんとするためにあなたを呼んだのだから」

 

「方法? いったい何ですか」

 

藁にもすがる気持ちだった。

せっかく生き残った命を間桐だからという理由で失ってたまるか。

「間桐雁夜。わたしたちイギリス清教に入りなさい」

 

「入る? それは俺にイギリス清教に入信しろということですか」

 

「いや違うわ。それも悪きことではなきけれどあなたは神を信ずるタイプではないでしょう。なればあなたが行く先は神裂と同じ必要悪の教会(ネセサリウス)になる」

 

「宗教組織が神を信じない者を受け入れると?」

 

「イギリス清教はちと特殊なりけりるのよ。魔術対策のために信仰の制限を緩くしているわ。たとえ異教といえども枠組みを保つままに入信が可能なのよ」

 

なんだが他宗教の人が聞いたら怒り狂うような話だな。

呆れと驚きを隠せずつい本音が出てしまう。

「それで宗教組織として成立しているのかよ…… というかずっと気になっていたんですがネセサリウスとはいったい何ですか」

 

「ネセサリウスは対魔術に特化した戦闘集団のことよ。法を犯し罪深し魔術師を狩る専門のね。魔術は本来神を信ずるわたしたちから見たら穢れたるもの。その汚れをあえて引き受けることにより最も強い力を身に付けたるのよ」

 

「聖堂協会じゃ吸血鬼を相手に戦っているけどここでは 魔術師を相手に戦っているわけか。その為に異端の魔術を使うとは…… なんかとんでもない話ですね」

 

「あら、そんな事はなきけりよ。聖堂協会でも埋葬機関なる部署があるけれど、そのメンバーに吸血鬼を雇用したりとかなりの異端を行っているわ」

 

意外とアバウトだな、宗教。

 

「まあ、それはわかりましたけど。何故そこまでして俺を勧誘するんですか。さっき言った通り俺は魔術も使えない一般人。魔術師を相手に戦うだなんてとてもじゃないが……」

 

できるはずがない。

せめて格闘技術があればまだ違ったかもしれないが生憎俺にはそんな術すらない。

 

「その心配は必要なきこと。何故わたしがこうまでするのかはわたしがイギリス清教の信徒だからよ。神を信ずる者が迷えし子羊を見捨てられることができるうはずがないでしょう。それに力が無いのならば今からつければいい。時間はたんとあるわ。当然、これは仕事であるから公務員と同等の給料も入る。悪きことではないと思うわよ」

 

「……!」

 

正直その話に俺の心は揺らいでいた。安全面、金銭的な問題、これら諸々を考えればこれ程の好条件はない。

しかし直ぐには、はいと言えなかった。

ただ一つ。そう一つだけ懸念があるのだ。それは、

 

「俺は魔術が憎い。もっと言えば魔術師という連中が大嫌いだ。あいつらは平気で人を殺す。なに食わぬ顔でそれが当然のように。あいつらは人間じゃない。俺は、あいつらの様にはなりたくない!」

 

目上に対する敬語も忘れ俺は本音をぶちまけていた。

脳裏を過る臓硯の醜悪な笑みが俺の中で魔術に対する憎悪を広げていく。

あんな奴等の仲間になるのは死んでもごめんだ。

 

「そう。某の気持ちはようわかるわ。でもそればかりが魔術師ではないのよ」

 

「なに?」

 

「確かに魔術師は自らの目的のためだけに魔術を習得した。けれども全ての魔術師が命を蔑ろにするとは限らない」

 

「それ、は」

 

「魔術を知らないただの人間の中にも他を軽んじる者がいる。されど他を重んじる者もいる。なれば魔術師も同様ではなくて?」

 

確かに最大主教の言う通りだった。テレビのニュースを見れば魔術師でもなんでもないただの一般人が殺人といった犯罪を犯す。その一方で他人のために何の得にもならないことを率先してやる人がいる。

善人も悪人も百人いれば百通りの性格を持った人間がいるのだろう。

ならば魔術師の中にだって

 

「いい人は、いるのか……」

 

呟き頭を過るのはあの夜、俺を助けてくれた神裂さんの姿。

彼女は俺の叫びを聞き俺を救い、そして怪我を治してくれた。俺のことを気遣ってくれた。

彼女は魔術師だ。だがそれ以前に彼女は紛れもない善人なのだ。

 

「その通り。あなたの行く末もこの決断で全て変わることもある。魔術師の道、一般人として生きる道。悪に染まるか善となるか、どちらを選ばんとも結局は自分次第なのだから」

 

「俺は……!」

 

強くなりたい。ずっとそう思っていた。力があれば臓硯に怯えることも兄を見捨てることも母を失うこともなかった。

何も失う必要はなかった。

握る拳に力が入る。

「さてどうするの?」

 

最大主教は微笑みを向けて聞いた。

もう既にどうするかは決まっていた。

 

「俺を、イギリス清教必要の悪の教会に入れてください! 俺に…… 戦うための力を教えてください!」

 

「よろしくてよ、間桐雁夜。あなたのこれからの運命に希望があらんことを」

 

 

 

 

神裂火織は現在最大主教ローラ=スチュアートと間桐雁夜が会談を行っている家の前を何度も何度も往復していた。

額には汗が浮かび苦虫を噛み潰したような顔をしている。

神裂は絶賛心配中であった。

あの女狐…… ローラが間桐雁夜をネセサリウスに受け入れようとしていることは既に知っている。しかしあの女の思惑までは知ることができなかった。

ローラは口では雁夜を放っておくことはできないなどと言っていたが本心では何を考えているかわかったものではない。

 

「最大主教は基本的にイギリス清教の利益になる方向に動く。それが彼にとって必ずしも良いこととは限らない……」

 

神裂は一人呟く。

どうすることもできない自分に歯噛みし、ただただ雁夜の身を案じていた。

もしもの時は自分の身がどうなろうとも……

 

「なーに、また難しい顔してんのよ。あんたは」

 

「レ、レイチェル!?」

 

背後から神裂の肩をたたき声をかけたのはシンプルな黒いシスター服に身を包んだ金髪の少女だった。

彼女も神裂と同じイギリス清教の信徒である。

「もしかしなくてもあの間桐の子のことを考えていたの?」

 

「ええ、まあ……」

 

苦笑いで答える神裂にレイチェルはまーたかと呆れる。

 

「あんたねえ、いくらなんでもお人好しがすぎるんじゃない? 会ったばかりの人間相手に」

 

レイチェルの言葉に神裂は少しムッとしたような顔を見せた。

 

「会ったばかりだろうと関係はありません。私は救える者は誰であろうと手を差しのべ救ってみせます」

 

「それも良いけどさー、限度って物があるでしょ? 他を救ってあんたが傷ついたら元も子もないじゃない。あんたが傷ついて悲しむ子もいるんだからね」

 

「そんなこと、私もわかってーー」

 

神裂とレイチェルによる討論が始まろうとした瞬間、それを遮るように扉が開いた。

すると中から最大主教が長い髪を引きずりながら悠然と現れる。その後ろには雁夜もいた。

 

「おや、神裂にレイチェルまで。こんな所で二人、何をしておるのかしら?」

 

「いえ、何でもありません」

 

「そうそう。なんでもございませんよーっと」

 

とりあえず神裂とレイチェルは何事もなかったかのような態度をとる。

下手なことを言ってこの女狐にからかわれるのはごめんだからだ。

 

「そ。まあ、丁度よきときにいてくれたわ。此度、間桐雁夜がネセサリウスに入ることが決まったわ」

 

「改めて間桐雁夜です。今後ともよろしくお願いいたします」

 

「ネセサリウス……!? どういうことですか最大主教! 確かにイギリス清教に雁夜殿が入ることは私も賛成です。ですがよりにもよって危険なネセサリウスに」

 

神裂は本来目上の人間であるはずのローラ相手に声を張り上げた。

レイチェルは、あーあーと再び呆れた顔になり雁夜は驚いた表情を見せる。

しかし神裂が怒るのも無理はない。雁夜は魔術を使えない一般人だ。イギリス清教に入るならば危険なネセサリウスでなくとも他に部署はあるはずだ。

 

「そう怒らずなのよ神裂。雁夜は神を信ずる者でない。さらに言えば雁夜は力を欲している。なれば信仰を必要とせず実戦も積めるネセサリウスが一番なのよ」

 

「しかし…… !」

 

「神裂さん。これは俺の意思です。俺は強くなりたい。だからネセサリウスに入ることを決めたんです」

 

ローラに詰め寄ろうとする神裂を雁夜が止めに入った。 そんな雁夜の顔には信念と決心が現れていた。

彼はローラに唆されてネセサリウスに入ろうとしているのではない。正真正銘、彼の決意によるもの。

それを感じとった神裂はこれ以上は彼に対する侮辱だと諦め身を引いた。

 

「そういうこと。とりあえず雁夜の教育係は神裂、お前に任せたるわよ」

 

「な!? わ、私がですか?」

 

「当然。雁夜が怪我をした元々の原因はお前にありけりじゃない。なれば責任をとるべきじゃなくて?」

 

ローラの言葉に神裂は反論もできなくなった。

それを見てレイチェルはケラケラと笑っている。

 

「確かに…… 元を辿れば私の責任ですしね。わかりました。間桐雁夜、これからは私が貴方に戦う術やイギリス清教での過ごし方などを教えます。ただし責任を負った以上、私は厳しくやっていきますので、そのつもりでいてください」

 

「はい。精一杯頑張ります! よろしくお願いいたします、神裂さん! 神裂さんを人生の先輩、目標として俺も強くなりたいと思います」

 

「ふぶぅ!?」

 

雁夜が決意の言葉を発っしたと同時、レイチェルが突然吹き出し愉快そうに笑いだした。ローラも面白そうにニタニタと笑っている。

雁夜からしてみれば大真面目に、それも結構シリアスな雰囲気で言ったのに何故笑われるのか理解できずに困惑してしまう。

神裂は顔を赤らめプルプルと震えていた。

 

「あの俺、なんか変なこと言いました?」

 

「わ、私はあなたよりも年下です。なので寧ろ人生の先輩はあなたかと……」

 

「え!?」

 

「私はまだ15歳です。よく勘違いされているのでもう慣れました。だから気にしないでください……」

 

「え、ええええええ!!」

 

雁夜の驚きの声とレイチェルの笑い声は大きく響き渡った。

 

 

 

 

その日の夜、イギリス清教を指揮する最大主教ローラ=スチュアートは笑みを溢してしまうほどに上機嫌だった。

古びた聖堂に差し込める月光を肴に年代物のワインを飲み干す。

計画(・ ・)が始動した記念すべき日にはぴったりの代物だ。

「して、マキリ(・ ・ ・)のボケ爺が溢した落伍者はどれ程の価値を見いだしてくれるのでしょうね」

 

ローラは笑う。

いずれ雁夜が施すであろうイギリス清教の最大の利益を頭に思い浮かべて。




あんまり話が進まないなーと書きながら思っています。ちなみに雁夜の現在の年齢は23歳です。神裂に関しては原作で18歳の時点で結婚適齢期を過ぎている人と主人公に勘違いされていたので、雁夜の勘違いはまあ無理はないかなと思っています。
次回から雁夜の成長記録とイギリスでの生活を書いていきたいと思います。
感想質問お待ちしております。
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