BALDR SKY / EXTELLA   作:荻音

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>>前回までのバルステラ<<

夢で誰かにあった気がする。
あれは誰だったんだろう。

ドレクスラー機関アジトに忍びこんだはくのんはその内部で最強の敵に出会う!



第7話 再会 / 埒外の二人 (前)

 

 

 >>データベース

 

 長刀とビームサーベルで目にも止まらぬ応酬を始める甲とゲヘナ。空間に閃光を刻みつけながら彼らはデータベースの中へと転がり込んでいった。それを遅れて追うのは岸波白野だが、彼女は術式(コードキャスト)の連続使用が原因だと思われる頭痛に襲われていて顔色がだいぶ悪くなっていた。

 それでも、彼女は彼らの戦いから目を離さない。敵はこれまでの誰よりも強い、油断した瞬間に足を掬われてしまうことだろう。さらに、データベース内には隠密(ヒドゥン)モードのシュミクラムが3機潜んでいる。彼女がそれに気付いたのはデータベースの扉が開いた瞬間のことで、そのことからコードキャスト view_map()(周辺情報開示) にも探知出来ないものがあるということが推測できた。

 

 ――状況は厳しい……。白野は唇を噛んだ。

 門倉甲中尉……彼女がγと呼ぶ彼は白野とゲヘナが全力で相手をしても、勝つことはおろか止める事すら難しいだろう。潜伏している三機の敵が出現したとしても、それを相手にした瞬間をγに狙われるはずだった。ならば、三機を大量の無人兵器で足止めさせ、その間にγを撃破するしか生存の道はないと白野は考える。もし、シュミクラム三機がγ程の実力の持ち主だったら新たな策を考えなければならないか――

 

 彼女は無意識のうちに右手にある三画の赤い紋様をなぞりながら、データベースの中へと突入した。

 

 

 

 何者かに撃破されたと思われるドミニオン教団の機体を横目にますます剣戟が加速していく甲中尉とゲヘナ。火花散る戦場で冴え渡るのはゲヘナの長刀捌きだった。

 隙あらば胴体を分割しようとする斬撃をやり過ごしながら、甲はどこか目の前の相手に気味の悪さを感じていた――こいつさっきよりも強くなっている!――近接戦闘では自分が押され気味だと判断した中尉はサーチダッシュで距離をとって光学銃に持ち替えた。もとより相手の土俵で戦う必要などない。

 だが、ゲヘナが指を咥えてそれを待つ訳もなく撃たせるものかと中尉を猛追する。

 

 時同じくして入口に姿をあらわす白野。

 そして――

 

 

「ほう……懐かしい顔だな。相変わらず気狂い学者どもを追っているのか?」

 

 突然のオープン回線での通信に甲とゲヘナの戦闘は止まり、その声に思い当たる節がありすぎる甲は思わず声をあげる。

 

「貴様! ジルベルト!! ……どうしてお前がここに!?」

 

 床を鋼鉄の脚で鳴らしながら奥から現れるジルベルトとその連れ二機……甲とゲヘナはお互いを警戒しつつも彼らにも注意を払った。

 

「門倉か……。南米でくたばったと思っていたのに、忌々しいほどしぶとい奴だ――そして狐面の巫女、貴様も……。貴様……何を、している?」

 

 ゲヘナの足元へといつの間にか移動していた白野はそこで、リスのように頬をふくらませて口をもごもご動かしている。まさか、ありえない……だが、上唇に付いた白いクリームは……。そう、彼女はこんな時にも関わらず、ロールケーキを頬張っている。

 門倉甲は唖然とする。戦場には確かに色々な奴がいたが、敵兵と遭遇してその目の前で食事を始めるアホはついぞ見ることはなかった。

 

 見られていることに気付いた白野は、赤い唇をぺろりと舐めるとずらしていた狐面を元に戻しジルベルトの方に身体を向けた。

 続く声は、とても澄んでいた。

 

「ジルベルト、あなたはドレクスラー機関に雇われてるの?」

 

 その問いかけと同時に彼女は甲の方に視線だけをよこす。甲中尉は一瞬面食らうが、何らかの意思を彼女は伝えたいのだと感じ、言葉に隠された意味を考える。

 

 

 ――ジルベルトと狐面の巫女は知り合いだが、彼らは互いにに警戒心を向けているため仲間というわけではない。次に”ドレクスラー機関に雇われているか”という言葉だが、彼女がドレクスラー機関側の人間なら敵味方識別信号(IFF)で味方か否かを判断できるはずだ。それでも聞いたということは、彼女がドレクスラー側の人間ではないということを示す……。

 いや、この決め打ちは危険だ。ジルベルトと敵対しているのは事実だろうが、ドレクスラー関連は判断できない。彼女の虚言だという可能性もあるが、ドレクスラー機関に雇われた傭兵が戦場でロールケーキを食べるとは思えない――というかこんな自由な精神の持ち主が人に雇われるのか? 分かったのは、対ジルベルトなら協力できるという事だけ……まぁここを切り抜けるにはそれが最善だろう。

 

 

「答える義理はない――」

「ケチ!」

 

 食い気味だった白野の茶々に、窒素並みに沸点の低い彼がどう反応するかはお察しの通りだろう。

 

「……死ね」

 

 ジルベルトがロボットアームで器用に指を鳴らすと、空間を割る音と共にシュミクラムが二機追加で現れ、こちらにそれぞれ得物を構えた。甲とゲヘナはまるで共闘するかのように肩を並べてそれに相対する。甲は白野に端的に尋ねた。これだけは戦いの前に聞いておきたかった。

 

「――君の目的はなんだ?」

「……ここの情報」

 

 少女は一言で答えた。

 甲は軽く嘆息する。

 ――俺と同じ、か。……ならばデータベース前で戦う理由もなかったな。闘争の原因は大抵ディスコミュニケーションだ、こういうこともあるだろう。――だが、戦ったからこそ今は心強さを感じる。この無口なシュミクラム乗りの実力は分かっている、この程度の相手なら万に一つも負けはないだろう。機械の拳を握りこんで半身を前に出す構えをとった甲はジルベルトにあごをしゃくって少女に軽口を叩く。

 

「あいつとはどんな関係だ?」

 

 白野はくすりと笑ってから大袈裟に両手を広げて答えた。

 

「彼は私のストーカーなの」

「はは、引いたぜジルベルト」

 

 プルプルと肩を震わせたジルベルトは怒髪天を衝く剣幕で声を張り上げる。

 

「俺をここまで虚仮にするとは……。奴らを、殺せッッ!!!!」

 

 

<<戦闘開始(オープンコンバット)>>

 

 

 

 甲のパイルバンカーが相手の胸部を貫き、爆発四散する。ゲヘナの方では、敵機の頭と胴体が別れを告げているところだった。これで二機ずつ撃破。白野は一歩も動いていない。戦闘は一分もかからずに終了し、彼らは同時に得物をジルベルトへと向けた。

 

「……認めざるをえんな、貴様らは大した凄腕だ――」

 

 苦虫をつぶしたような彼の声だが、直後、そのらしさを取り戻す。

 

「――しかし、この数ではどうしようもあるまい!」

 

 空間を裂いて出現するのは先程の倍以上のシュミクラム……総勢12機は一斉に白野達を取り囲んだ。

 

「くそっ」

「しんどい!」

 

 一騎当千の力を持つ人物でも一斉に掛かられれば、まず為す術はない。だが、ここに集う三人はそれを覆せる規格外の存在。甲はFCの発動を視野に入れ――白野はレガリアに意識を沈め――ゲヘナはただ()()()を待つ。

 

「門倉ッ! 狐面の巫女ォ! 貴様らの負けだっ!!」

 

 データベースに勝ち誇ったジルベルトの声が響き渡る。白野達はそれぞれの策を手に包囲を破ろうと動き出し――

 

 

 次の瞬間、囲むシュミクラムの一角を白いレーザー光が貫いて数機がまとめて蒸発した。

 

「なっ?! これは……」

 

 混乱の戦場に飛び込んできたのは高機動のシュミクラムだった。滑らかな曲面に覆われた純白のボディ……輝くクリスタルのような甲殻の下には無骨なガンメタルの骨格が見える。そして、特筆すべきはその緑色に淡く光る光体翼(オプティカル・ウィング)だろう。蝶のように広がるそれを展開して宙を舞う姿はまさに白い妖精。

 

「綺麗……」

 

 白野は思わず目を輝かせてその機体に見惚れてしまう。一方、ジルベルトは露骨に顔を歪めた。

 

「ドミニオンの巫女かッ! くそっ、次から次へと厄介な……時間もない、ここは引くぞッ!」

 

 ――ドミニオンの巫女? 白野はエディと初めて出会ったときにそう勘違いされた事を思い出す。彼が言うにはびっくりするくらいの凄腕(ホットドガー)で、狂信カルト”ドミニオン”お抱えの魔術師(ウィザード)だそうだが……。

 

「貴様らァ! このままで終わると思うなよッ!!」

 

 ジルベルトはまさに三下そのものの捨て台詞を吐いて取り巻きと共に撤退していった。

 それを見届けた白いシュミクラムは白野達三人に視線を向けると、少し身を震わせてから音声だけをこちらに届ける。

 

「……っ。逃げて。ここは、危険な場所です。もうすぐ全てが消えてしまう」

 

 言うなり、現れたときと同じ唐突さで白いシュミクラムは走り去って行く。しばらく呆気にとられていた白野達だが、目的を遂行するための障害が全て消えたことに気付いてすぐさまデータベースの奥の操作席にとりついてハッキングを掛け始めた。先程の戦いで思うところがあったのか彼らはお互いを信頼はしていないが、この場においてのみ信用はしているのだ。

 そのとき、甲にレインから通信が入る。

 

「……っ!! 中尉! 大至急アジトから脱出を! 自爆装置が作動しています! 逃げてください、中尉っ!」

 

 同時に白野も自爆装置に気付いた。それが設置されている場所はこのデータベースのさらに奥、全力で走っても刻限ぎりぎりという位置にあるが、道中に無人兵器や罠が大量に配備されているため爆発前に辿り着くのは不可能だ。

 装置の解除より、情報の入手を優先してここを脱出する方が遥かに現実的だと即断した白野は瞼を閉じ、データを保護する障壁をイメージの拳で破壊、そこから強引に情報を吸い上げていく。

 

 甲中尉も焦るレインを宥めすかし、データのダウンロードを始めていた。空き時間を利用して手近なウィンドウを覗きこんだ彼は、そこに表示されていた文字列に思わず目を見開く。

 

『ASSEMBLER Ver2.27b』

 

 それは、恋人を溶かし、灰色のクリスマスを引き起こす原因となった悪魔のナノマシン。未だにドレクスラー機関がアセンブラを開発していることに、彼は沸々と湧く怒りを押さえる事が出来なかった。――なぜ! なぜ奴らはあの悲劇を繰り返そうとする!!

 

<<警告:識別不明の個体が接近>>

 

 脳内のアラートと感知装置(センサー)に導かれて振り向いた彼の照準(サイト)が捉えたのはこちらを悲しげに見つめる少女の電子体だった。

 

「そんな、馬鹿な……」

 

 懐かしい顔、すらりとした妖精のような身体、風もないのに亜麻色の長い髪がそよいでいる。それはあの日に亡くしたはずの恋人の姿。ありえないはずなのに口から勝手に言葉が漏れる。

 

「君は……空、なのか?」

 

 

 ――なんだろうこの空気。

 白野はそこはかとなく疎外感を味わっていた。

 どうやらシュミクラムの門倉さんと突然現れた少女は知り合いのよう。その割にはなんだか様子がおかしいけれど……。彼女は彼らの会話を邪魔しないようにしながらも、年頃の好奇心を隠しきれないのか聞き耳を立てていた。

 

 ――ふむふむ。白野は唇に人差し指を軽く当てながら彼らの話を聞き、同時に整理していく。

 門倉さんは彼女をアーク社製のNPCだと考えたが、いまいちそれに自信が持てていない……なぜなら”NPCは()()()()()()()()()()()()”というのに目の前の彼女からは自ら考える知性を感じとれるからだ。

 彼の言葉にたびたび出てくる”空”、”クゥ”という名前の関連性はいまいち分からないけれど、彼が言うには”空”さんがいないと”クゥ”さんは存在できないらしい。彼らの会話から推測するに多分”クゥ”さんは自我を持ったNPC……なのだけど、これでは先程の言葉と矛盾が生じる。はて、どういうことだろう。白野は首を捻る。

 

 白野が唸っている間にも彼らの会話は佳境に入っていった。

 

「だったら君は……誰なんだ?」

「私は……」

 

 少女は一旦目を閉じてそれからゆっくりと瞼を開く。そしてそのまま柔らかく微笑んで答えた。

 

「……エージェント」

 

 ――変わった名前だなぁ、と白野はなんとなく思う。しばらくこのまま彼らの会話が続くと考えていた彼女は、エージェントと名乗る少女が何の前触れもなく、こちらに視線を向けたことに心臓の止まる思いをした。彼女は首を傾げて尋ねる。

 

「あなたは……なに?」

 

 ほほう、そう問われたらこう答えるしかあるまい。

 ――我が名はフランシスコ・ザビ……!! ……? ……??? 脳裏に訳の分からない選択肢が浮かんだような気がする。しかし、これではいけない。ここはそういう場面ではないはずだ。

 うん、下の名前くらいなら教えても問題ないか。

 

「私はハクノ。こっちはゲヘナだよ」

「こっち……?」

 

 エージェントは不思議そうな顔をした。白野から視線を逸らさずに彼女はさらに問う。

 

「――あなたも……代理人(エージェント)?」

「違うよ、私はハクノ」

「……?」

「…………?」

 

 なんだか会話が成立していないような……。お互いに首を傾げあう白野とエージェント。そんな二人を複雑な表情で眺めていた甲中尉にレインから切羽詰まった通信が入った。

 

「中尉っ! お願いですから早くっ! 自爆装置の最終秒読みがはじまってしまいましたっ!」

 

 甲はダウンロード状況を確認する。――そうだ、今は呑気にお喋りをしている場合じゃない。データもちょうどダウンロードを終えたところだ、俺はこんなところでくたばるわけにはいかない……!

 

「すまないが、時間切れだ!」

 

 彼女たちの会話を切り上げてもらった甲は、エージェントを機械の腕ですくい上げてデータベースを猛スピードで後にする。それに続いて白野もゲヘナに拾ってもらって中尉を追った。

 長い回廊を並走している間、甲とその腕に抱えられたエージェントがお話しているのを白野は横目でじっと見つめていた。中尉は何かを懐かしむように、またエージェントは自分の感情を手さぐりに確認しているかのようなぎこちなくもどこか微笑ましい会話。

 だが、そんな時間も長くは続かなかった。

 

<<警告、警告。後方で大規模なエネルギー反応。衝撃波の到達まで、あと10……9……>>

 

 背後に白く光球が輝き、衝撃波が彼らへと迫る。爆発の詳細を解析する白野は、あれが現実の脳を焼き切る神経パルス攻撃であることに気付く。

 ――このままでは助からない。

 ――このままでは逃げ切れない。

 同じ結論に達した二人――白野は無人兵器(ウィルス)を何重にも展開し即席の壁を作り、甲は構造体のくぼみに身を投じてエージェントを庇うようにうずくまる。

 

「だいじょうぶ……たすかる」

 

 そんなエージェントの小さな呟きの直後、ホワイトノイズの突風が彼らを襲い、同時に――全てが凍りついた。あまりの衝撃ゆえにたまらず眼を閉じていた白野は、いきなり訪れた冬の朝のような静けさに思わず瞼を開く。

 

「すごい……」

「……こりゃ……一体……」

 

 感知できるすべてのものが、停止している。それはまるで時を止める魔法のようで、衝撃によってデータが崩壊しかかっている構造体がそのままの姿で、凍りついていた。白野と甲は自然とエージェントの姿を探すが少女の姿は既にその場にはなかった。

 何はともあれ今のうちに安全圏へ移動するべきだろう。彼らは、先を争うように凍てついた世界を走り抜けていく。

 

 

 

 あと少しで離脱できる。安堵が胸に込み上げてきた、その時。

 ――世界が解凍した。

 俺の背中を白熱する光と衝撃波が叩きつける。

 

「くそっ」

 

 激しい衝撃と振動。

 

「ダメかッ!」

 

 世界が切り替わる一瞬、まるでブレーカーが落ちるように、精神の活動が停止(フリーズ)した。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そうだ……そうだった!

 俺は回想から目覚め、状況を把握する。

 

「……てめぇ、この野郎っ!」

 

 眼前に迫る無人兵器を蹴り飛ばし、撃破する。まさに危機一髪、もう少しで永遠に夢から醒めなくなるところだった。俺は立ち上がり、周囲を見渡す。

 

 噴煙をあげる残骸。地平線まで連なる、無機質な巨大建築群。上空の漆黒の闇を裂くように曳航弾が行き交っている。爆発音がひっきりなしに響き渡り、衝撃が振動となって鋼の身体を揺らす。――そうだ、ここは戦場だ。

 俺は装備を確認する。……大丈夫だ、馴染みの装備が揃っている。

 

 と、俺の目の前に一機のシュミクラムが姿を現した。その肩には狐面の少女、名は確か……ハクノ。

 

「君も無事だったんだな」

 

 甲が声をかけると、少女は何かを探すかのようにきょろきょろとあたりを見回す。

 

「あなたを起こしにいかせたウィルスが帰ってこない……」

「……。あー、すまない。壊した」

「えっ」

「気付けには良かったぜ」

 

 さっき蹴飛ばしたウィルスは彼女のものだったか。……申し訳ない事をした。正直なところ襲いかかってきているようにしか見えなかったが、思い返してみると動きが鈍かった? かもしれない。もしかすると身体をゆすろうとしていたのだろうか。面白いプログラムだが、実用性はまったくないな……。

 

 そこにもう一機のシュミクラムが到着する。ブルーの機体、元は細い機体に電子戦に特化した装備を詰め込んだ俺の頼れるサポートだ。俺は相棒である彼女の名を呼ぶ。

 

「レイン……」

「応答が無いので心配しました。どうやら、ご無事だったようですね――それで、こちらの方達は?」

 

 俺の生存を確認したからか、いくぶん安堵した声ではあるが、彼女は目の前の所属不明のシュミクラムと狐面の少女に対し、いつでも攻撃に移れる程度に警戒をしていた。

 

「敵ではない、ここから――」

 

 そのとき、周囲一帯にアラートが鳴り響き、レインが叫ぶ。

 

「警報! 多連装遠距離ロケット弾(カチューシャ)です! 回避を……間にあわないっ! 伏せてっ!」

 

 レインの操る鋼鉄の身体が、俺を地面に押し倒し、一拍遅れて轟音と爆風が身を包もうとする。その直前にレインが少女の方を見て小さく悲鳴をあげた。彼女たちのいる場所はどう回避してもミサイルの直撃を免れない位置だったのだ。

 だが、俺は知っている、あの少女がこんなミサイルで死ぬはずがないと。先程俺のレーザー弾を防いだではないか――

 少女はじっと空を見つめ、手をかざす。

 

「レイン、よく見ておけ――」

 

 ――術式展開(コードキャスト)

 

「彼女が狐面の巫女と呼ばれるわけを」

 

 ――add_invalid()(絶対的無効)

 

 ハクノとシュミクラムが爆炎に包まれて消える。パラパラと降り注ぐ瓦礫の雨。生存はどう考えても絶望的だろう。戦闘用電子体(シュミクラム)の耐久度には限度がある、ミサイル数発の直撃になど耐えられるはずもなく、ましてや普通の電子体では言わずもがなだ。レインは唇を噛み、もう少し早く警告していればと後悔した。

 やがて爆炎が晴れ、その中に、無傷のままの彼らの反応を確認したレインは受け入れがたい現実にしばし呆然となる。

 ――私は幻でも見ているのでしょうか? 障壁を張る高度なプログラム……いえそれでも理解不能ですが、そんな生易しいものではない気がします。従来とは体系の違う特殊な特級プログラマ(ウィザード)……? 確実なのは、彼女が仮想世界(ネット)との親和性が著しく高いということですね……。

 思案するレインの感知装置(センサー)が敵機の反応を捉えた。はっとする彼女。そう、ここは戦場、未だ気を緩められる場所にはない。

 

「敵が接近しています! ひとまず、ここを離れましょう!」

了解(ヤー)!」

「うん!」

 

 その間にも無人兵器(ウィルス)がすでに彼らを取り囲んでいた。ここは突破するしかないだろう。

 白野はゲヘナから飛び降り、その最中にレガリアから噴き出た炎から赤い剣を掴み取り着地、纏う炎を振り払うように宙を二回斬ってからそれを構えた。

 

 レインはハクノについてはもうまともに考えるのをやめて、スピアを装備することにした。

 

<<戦闘開始(オープンコンバット)>>

 

 

 

 




MATERIAL

>>ネージュ・エール
ドミニオンの巫女の機体。飛行能力を持つため対空装備が無いと撃破難。かなり強い。
ドミニオンの巫女……一体何者なんだ。

>>アセンブラ
プログラミングによって自在に物質を改変可能であり、ある程度の知性を持つ。
元は火星のテラフォーミング用に開発された。

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