季節が巡るように人の縁もまた巡る。
ほんの少しのきっかけで彼女達と出会う。

アイドルマスターシンデレラガールズの短編集。オリジナル要素強め。どちらかと言うとモバマス要素が強いかも知れません。


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幸運の女神のお話


改革の3月

僕は元々運が悪い人間だった。「運」と言う概念はオカルトなようで数学的な言葉だと僕は思う。宝くじを思い浮かべればわかりやすいかもしれない。あれは当たるか当たらないかが確率で決まる。ごく少ない確率だが当たる可能性がある。それを引けるものは「運」がいいと言われ、引けなかったら「運」が悪かったと言われる。そしてそれが断続的に続くと「運」が悪い人間だと言われる。所為、僕の人生とは負け続けの人生であった。学力はそこまで良い訳でもないし、身の丈に合った大学を受験したが、マークシートの採点が上手く反映されなく大学は不合格になり、私立へと通った。就職先を見つけるのも一苦労である。色々な所の面接を受けたがあえなく失敗に終わる。そうして途方に暮れて意味もなく歩いているところにふと、目の前に石造りの階段があった。

 

「…神社、か」

 

そう、そこには立派な赤い鳥居を構えた神社があった。何度もここら辺には通っているはずだが、見たのは初めてである。やはり、ふとした事がないと気づかないものなのだなと思い。

 

せっかくだから登ってみよう。ダメ元で神頼みでもしてみよう。そう考え石段を一歩。また一歩と登る。

 

コツコツコツ。

 

石段を登る。普段めったに感じないなにか、神秘的なものを感じ、自然と足も軽くなる。

 

コツコツコツ。

 

また登る。まるでなにかに駆り立てられるように。

 

(案外、本当に神様がいるのかもしれないな)

 

と、柄にでもなく思ってしまう。…僕についているとしたら貧乏神だろうか。そんなことを考えていると、階段が終わり、神社の全容が見えてくる。

 

そこは人気が全くないがとても立派な神社だった。凛と佇むその神社に僕は唖然とする。

 

(と、とりあえず参拝しよう)

 

財布にある5円を入れてニ礼二拍手一礼。

 

「就職先が見つかりますように」

 

思わず口に出てしまった。すると横から

 

「きっと見つかりますよ。あなたに幸運を分けてあげます〜」

 

と、聞こえてくる。先程まで境内にいたのは僕ひとりだったのに女性の声が聞こえてくるなんて。振り向くとそこにはショートヘアの巫女服を着た女性が立っていた。こちらを見てニコニコしている。大和撫子という言葉がいかにもというような女性だ。思わず僕は息を呑む。

 

「幸運…ですか」

 

しばらく経ち、やっとの思いで言葉を紡ぐ。

「幸運」────。僕とはとても縁がない言葉。そんなものが果たして本当に僕にあるのだろうか。

 

「はい♪きっといいことがありますよ!だから頑張ってください!」

 

明るい声をかけられ、ギュッと手を握られる。

…本当に、信じてもいいのだろうか、こんな不運な僕でもいいのだろうか

 

「私からの幸運のおまじないです♪」

 

彼女は笑う。それはとても綺麗で、僕の心の憂いを洗い流してくれるような、そして少し神々しくも感じる。そんな笑顔だった。

 

僕は赤面して

 

「ありがとうございます」

 

そう言うしか無かった。否、恋愛に恵まれていなかった僕には女性の免疫がなく、只々たじろぎ、うろたえ、精一杯にそう言うしか無かった。

 

 

あの後、巫女服の女性と別れて神社から出て、一息つこうと思い公園のベンチに座る。途中の自販機にあったコーヒーの缶を開け、一口すする。…やはり、コーヒは僕の心を落ち着かせてくれる。程よい苦味が口に広がる。暖かくなってきたといってもまたまだ寒い時期だ。ホッと、コーヒーで一息つくことにも趣がある。それにしても

 

「幸運…か…」

 

運のない僕が、この人が言うのならば信じていいかもしれないという、なにか引き付けられる神秘的なものを感じた。いったいあの女性はなんだったのだろうか。今となってはわからないが。そもそも彼女は何者なのだろうか、巫女服を着ているからあそこのバイトさんなのか?いや、僕の浅学の知識を当てにすると、巫女さんのバイトは忙しい時期、お正月だけとも聞くし、ということは本職の人なのだろうか。

 

しばらくボーっとそのようなことを考えているとスーツ姿の男性がこちらをじっと見ていることに気づく。男性もどこか満足気にこちらに近寄って来て、声をかけてきた。

 

「君、アイドルに興味はないかね?」

 

一瞬、何を言っているかわからなかった。アイドル?なんの勧誘だ?僕の顔はお世辞にもかっこいいとは言えない。ごくごく平凡な顔立ちだ。それなのにこのように話しかけられたのだから戸惑ってしまう。

 

「えっと、アイドル…ですか?」

 

聞き返す。すると横から

 

「もう、社長。色々と端折りすぎです!順をおって説明しないと戸惑うでしょう!あと、後先考えないで勧誘するのはやめてください!」

 

と声がする。そちらを見てみると緑の目立つスーツを来た三つ編みの女性が立っていた。

 

「えっと、それで僕に何か用でしょうか?」

 

「まずはこれを渡そう」

 

と言って僕に名刺を渡してくる。

 

「シンデレラプロダクション…?」

 

名刺にはそう書かれ、その横に代表取締役と書かれ、下に名前が続いている。

 

「そう、俺たちはアイドルのプロダクションをしているんだ。これでも有名な人を輩出している中堅プロなんだよ。…十時愛梨とか、知ってる??」

 

十時愛梨。日本のアイドルを対象として行われる総選挙で1位の順位をとったアイドルだ。知らない人の方が少ないのではないだろうか。

 

「…そんな有名人がいるのに中堅…何ですか?」

 

「まぁ、人気になった時に移籍したからなぁ…元気にしてるかな…愛梨…」

 

話が逸れてしまう。隣の緑の服の女性が咳払いをする。

 

「このままじゃいつまで経っても話が進みませんね…!全く…単刀直入に言います。私たちの事務所。シンデレラプロダクションでアイドルプロデューサーをしませんか?」

 

僕の就職先が決まった瞬間だった。

 

勧誘を受けた後僕は二つ返事で了承した。給料もなかなか良かったし就職先が見つかってなかったためだ。なぜ僕のことを採用したのかを聞いてみたところ

 

「実は…今、俺の事務所のプロデューサーが1人居なくなってな、探していたのだよ。そこで君を見てティンときた」

 

どうやらこの社長は色々と思考が飛躍しているようだ。どちらにしろ、就職先が決まったのだ。喜ばしいことだ。僕にも漸く「幸運」がやって来たのかもしれない。

 

 

「本当に幸運だったよ。あの巫女服の人にもう一回あってみたいな」

 

「そうなんですか〜。その人は今何をしているんでしょうね?」

 

僕の担当しているアイドルである鷹富士茄子さんは言う。かれこれもう少しで1年の付き合いになる。鷹富士茄子。20歳。大学生である。黒髪のショートヘアに琥珀色の瞳。美人という言葉がこれほど似合う女性はいないだろうと思う。今回は、茄子さんが

 

『そう言えば…プロデューサーさんはどうしてアイドルのプロデューサーになったのですか??』

 

と、聞かれたのが事の発端である。

 

「あのあと神社に行っても会えてないしなぁ…本当世の中不思議なこともあるもんだよ」

 

いやしかし、

 

「何でだろうなぁ…茄子さんには何故かこの話をいつかはしなきゃいけないって思ってたんだけど…随分と話すのが遅くなっちゃったねぇ…忙しさのせいかもしれないけど…」

 

「そうですね〜。人との出会いは一期一会…その時その時が大切な思い出です。そう思うとプロデューサーさんと私は縁で結ばれてるのかも知れませんね」

 

「…?茄子さんそれって??」

 

僕は思わず聞き返す。言葉の意図を汲めなかったからだ。確かに僕は不運で、茄子さんは幸運。これで帳尻が取れてるからこそ変な円で繋がってるのかもしれないけれど…

 

「いえ、巫女服の女性は案外近くに居るかもしれませんね…もしかしたらアイドルになってるかもしれませんよ?って話です〜」

 

「それなら是非とも僕がプロデュースしたいものですねぇ」

 

「もう、プロデューサーの鈍感…」

 

ぼそりと、茄子さんは最後に何かを呟いた。しかし僕には聞こえなかった。

 

「はい?今何か言いましたか?」

 

「何でもないです!もう!」

 

つーんと、頬を膨らませプイッと横を向く茄子さん。

 

「あ、そろそろ雑誌の記者さんが来ますね。少し迎えに行ってきます」

 

「なら、私も行きますよ〜」

 

「待ってていいんですよ?」

 

「いいえ、行きたいんです」

 

やっぱり僕は不運だから人生がよかったとは言えない。けれど僕にも幸運なことがあって。君と出会えたことはとてもいい事だったと胸を張って言えるだろう。

 

少しずつだけど縮まる距離。いつか僕は君があの時の人だと気づくだろう。その時は遅くなっても許してくれますか?

 

だけれど今は気づいていない。今はそれでいいんだ。だから今日も僕は君と肩を並べて歩いていく────

 

 




筆がとても遅いことに定評のある主です。

閲覧ありがとうございます。気が向いたらまた投稿いたします。それでも良ければまた目をお通しいただければと。

お気に入り。感想などは作者のモチベーションを掻き立ててくれます。良ければお願いします。
少し後半走り気味なので改稿するやも知れませぬ。

それではまたどこかで。


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