「目的地にもうすぐで着きます。ええ、と、提督?」
「おん?おー、うん」
フォォォォォン、と緑色の軌跡を残し、仄暗い下水道の中を少女と、少女が抱えた中学生ほどの少女が2人、空中を飛んでいる。
1人は俺、風見空……いや、正確には俺じゃないな。
詳しくいうとコネクトリンクだか何とかって言うシステムでねくすと娘空のシューマッハを選択し、彼女の肉体に憑依した為、肉体を動かしているのは俺だけど、その本来の肉体はシューマッハのものなのだ。
そしてもう一人、俺をかな抱えて下水道の中をOB噴かして飛んでいるのはねくすと娘空のアリーヤ。
俺を羽交い締めにした状態で数十分ほど飛んでいる。
何故俺を拘束しているかと言うと、シューマッハの身体にリンク(憑依)した時に興奮しすぎて身体を弄くり回し、抑えつけようとしたアリーヤを逆にセクハラした為、何も出来ないように拘束されたのだ。
若さ故の過ちという奴だよ…ふっ。
『………それはちょっと僕引いちゃうなぁ』
頭の中に響く女の子の声、これがシューマッハ、今は俺に体の支配圏を握られている為意識だけの存在だが、れっきとしたボクっ娘だ、いいか?ボクっ娘だぞ。
今は意識だけの状態で俺にクイックブーストの使い方やクイックターン、レーザーブレードにレーザーライフルの撃ち方などを教えてくれている。
例えば射撃兵装は撃つ時に照準器や照星などを除いて狙わなくても武器自体のセンサーや照準器が勝手に敵を自動でロックしてくれて、自動的に計算されたポイントに合わせて腕が照準を合わせてくれるので基本トリガーを引くことだけ考えてれば当たるらしい。
ほんとうかどあか訝しげだったが結構デカいAMIDAを撃ちてーなーと考えていると勝手にAMIDAをロックして腕もスッと動いてAMIDAのどたまをポイントしてくれたのだ。
更に目ん玉を撃ち抜きたいと考えれば目ん玉に銃口が行ったので、何とも便利だなぁ、と感嘆した。
あとシューマッハの使ってる最新レザライとかのEN兵器は、持っているだけで常時武装展開に必要なENを持っていく他、撃つ時には触れている部分を介して射撃時に必要な分のENを持っていく。
バカスカ撃つとアリーヤ型は直ぐにENがすっからかんになるので気を付けなければ。
「着きましたよ、提督」
突き当たりの壁に降りる。
此処が墓場?と首を傾げると、此処が墓場というわけではなく、近くにみえる小さな通路からもう少し移動するらしい。
しかもこの、通路っていうのが小さく細い穴だ、屈めば入れるくらいだからAMIDAじゃ入れない程には小さい。
「デッコボコしてるな」
『自然に出来たとか、最初から作られていた通路じゃないね。何か爆発物で無理やりこじ開けたような?』
ふむ、確かにそんな感じの荒々しさが目立つ。
「この先、レーダーに複数の感アリ、です」
「そうか、分かった」
油断はダメ!絶対、つまり此処から先は気を引き締めなければ。
この細い通路、所謂フラグルートなのかも知れない。
「あだっ!?いてて、頭ぶつけーーいだぁっ!?すねぶつけたぁっ!?」
『ちょっ、痛っ!?そ、空!僕の体なんだからもう少し慎重に扱おうよ!』
「わ、悪い悪い」
荒々しい削りの所為でしゃがんで歩いているにも関わらず、頭をぶつけたり脛をぶつけたりと散々な目に合う。
それはアリーヤにも言えることらしく、歩いていると後ろで「ひゃっ!?」「あぷっ、うぅ……」という声が聞こえてくる。
「お、光が見える。あっこから出られるなぁ」
「や、やっとですか?ひうっ!?」
暗い通路を歩いていると前方に光が見える。
どうやら外に出るらしい。
暗い所にずっと居たためか、久しぶりの光に目が慣れないようで、光を目にしたのもつかの間、直ぐに瞼を閉じてしまう。
そして刺激の強い光が優しく感じた所でそっと目を開けると、其処には確かに、今は亡き艦娘逹の墓場だった。
「10……数人くらいか」
バスケットコート2面分の広さの空間に、小さな山程に盛られた土があり、その上に連装砲や刀などが突き刺さっている。
恐らく持ち主であった艦娘の艤装なのだろう、艤装の数々には持ち主の名前を示すように引っ掻き傷が入っていた。
皐月、叢雲、初雪、朝潮、子日、五月雨、浦風、天龍、龍田、長良、那智、鳥海、筑摩、祥鳳、伊勢………15人にも登る艦娘が撃沈し、この墓場に眠っているようだ。
俺はそっと目を瞑り、両手を合わせて黙祷した。
「……誰、ですか」
墓の前で突然声をかけられて驚きながら顔を上げると、墓の中央に拳銃のようなものを構える少女がいた。
右目を隠す銀髪のショートボブに左側の髪を留める二本の髪留め、セーラー服の上からでも分かる膨らんだ双丘、黒いパンスト。
俺の記憶に間違いなければ、目の前の少女は陽炎型駆逐艦の浜風だ。
彼女は、浜風は一瞬驚いたような顔をしていたが、直ぐに顔を引き締め、口を開く。
「……見ない顔ですね。セーラー服…新しい艦娘ですか?それとも、深海棲艦ですか?」
問い掛け、自問自答にも思える言葉を呟き、右手に構えていたのは別に、左手で新しい拳銃もどきを取り出し、此方へ構える。
俺たちが変な行動をとれば即座にあの拳銃もどきで撃ち抜くだろう。
「俺はレイレナード型中量二脚娘空シューマッハ…に諸事情で憑依している風見空という。隣の彼女はアリーヤ、レイレナード型中量二脚娘空のアリーヤだ」
敵対の意思ナシを示すため武器を持っている両手を挙げてフレンドリーに話しかけるが、浜風の表情はだんだんと厳しくなるばかりだ。
「……レイレナード?中量二脚娘空?どちらも聞いたことがない名称ですが、貴女達は本当に何者ですか?」
武器を構えた上でボソボソと呟く彼女は、多分だが味方に応援を頼んだんだろう。
プライマルアーマーもQBもあるから避ける分には問題ないけど唯一の出口はしゃがまないと通れないくらいには狭いし、第一俺まだ実戦なんかしたことねえぞ!?
「此処に一体何の目的で来たんですか」
「え、何でって言われても……アリーヤ、何でだっけ?」
アリーヤにパスすると苦笑しつつ俺の代わりに答えてくれる。
「提督。此処に来たのは艦娘の墓場の調査と使える資材があったら確保ですね」
「あ、うん。そやったね。だって」
流石アリーヤ、頼れる中量二脚だぜ!
『ちゃんと覚えとこうよ。ねえ空』
「……墓荒らしですか。そんな輩に彼女達の眠りを妨げさせるものですか…!浜風、守り抜きます!」
ドン、ドン。
浜風の持つ拳銃型連装砲が撃たれた。
俺とアリーヤはQBを使わず、サイドステップでそれを避け、さてどうするかと悩む。
駆逐艦とはいえ浜風は紛れも無く海上での戦闘を主とする船である。
それに比べて自分は肉体はネクストACを擬人化したものーーねくすと娘空だ。
素の装甲では負けるだろうが、プライマルアーマーを含めた総合的な防御性能では此方が上で、更には空中を飛び回れてQBというチート級の機動性&回避性能も持っている。
ハナから負ける道理がない。
しかしながら俺には浜風に敵意を持たれているとはいえ、浜風に対して害をなそうとか裸にひん剥いてそのどてかいパイ乙を拝みてえなぁとかあわよくば二つのπに俺の息子を(シューマッハの身体だからついてないけど)を挟み込んでお楽しみしてぇなぁとか思ったりしない。
『嘘だね。空は彼女に対して裸にひん剥いて後ろから獣のように責め立てたい。あの乳を鷲掴みにして、赤ちゃんのように貪り吸いたいと思ってるね。エッチ』
しょうがないだろうそれが男の性というもんなんだから!だいたいにして浜風のおぱーいが男の本能を揺さぶるのが悪いんだ!ロリ巨乳とか俺得過ぎィ!?
まあ、だからそんな理由で浜風と敵対したくないし傷を付けるなんて論外だ。
なのでここは攻撃はせずに引き続き回避のみに徹する。
「っ、くっ…」
浜風の方も俺たちが避けた流れ弾が墓に当たって荒れる可能性が大きいため、最初の2発以降撃つに撃てない状況だ。
これなら交渉に移っても良いかもしれない。
「待ってくれ話をしよう俺たちは敵じゃないこれは良いね?君の勘違いとかこっちの言葉の差異も関係した不幸な事故だったんだよだからそのおっかない武器を下ろそうか!な!?な!?」
「………」
未だにきつい目線でこっちを見ているが、彼女も墓場で無用な戦闘行為はしたくないらしい。
構えていた連装砲を下ろし、此方を隙なく伺っている。
「よ、よしよし。そしたら交渉開始ってかこっちとそっちの事情説明から始めようか」
にぱっと笑って浜風の方へ歩み寄る。
「その必要は無いな」
「ええ、貴女には此処で沈んで頂きますので」
『っ!?空っ、避けるんだ!』
ズン、と背中から腰にかけて衝撃と痛みが生じる。
何故ーー?そう考えが交錯すると同時、俺の周囲に半透明で緑色の丸く薄い膜がバチバチバチ、と摩擦に触れて可視化する。
これはプライマルアーマーだろう。
そしてこれが出たということは、俺は今攻撃されたーーされているというわけだ。
『空っ、大丈夫かい!?』
「くっ、痛ーーー………くない?」
「っ、提督!応戦許可をお願いします!」
「いや、ダメだアリーヤ!応戦するな!」
「ですが!?」
マシンガンとドラゴンスレイヤーを構えるアリーヤを手で制し、左手で背中の斬られた部分をなぞる。
綺麗な斜めに入った線のような感触とピリッとくる痛み、これが斬られたところか。
「無防備な背中を斬ったはずだが、それでも私の剣撃を防ぐとは……やるな」
「では不知火が行くので援護をお願いします」
ちっ、と舌打ち。
クイックターンで後ろを振り返り、そのままバックブース……っ!?
「沈め」
走り出した態勢から身体を前傾姿勢に保ち跳躍ーーー手袋越しに掴んだ連装砲を容赦なく撃ち込んでくる。
バチバチバチ!!バチバチバチ
「こ、このっ!?」
腰部に接続された連装砲を撃ちまくる少女、陽炎型駆逐艦の不知火が冷たい表情のまま、淡々と距離を詰めて来て、作業的に連装砲を撃ちまくる。
その大半はプライマルアーマーが弾いたり威力の軽減された為に腕で払いのけたりと無力化できたのだが、プライマルアーマーの減少が無視出来ない。
「沈め……沈め!」
突然、不知火が飛び蹴りをかまして来た。
驚いた俺は咄嗟に腕で庇うも骨に直接ズシッとくるほどその威力は重い。
慌ててたたらを踏むと頭部に膝蹴り、肘鉄、回し蹴り、とコンボを繋げて来た。
当然俺は痛い、かなり痛い。
しかも全部無表情でやってくるからエゲツないな不知火は。
「これで終わりです」
「ウゲェッ!?」
シュッシュッ、と2発顔にパンチを喰らう。
痛っ、と顔に手を当てつつ不知火に目を向けると、目の前に魚雷がーーーーー。
「提督っ!!!」
殺られてーーーーーーー
「ーーーたまるかっ!!」
ボッ、と背中の追加ブースターに火が灯る。
増設されたブースターによる推進力そして前方への2段QBで魚雷を発射してバックステップで後方へ退避した不知火の懐へ一気に飛び込む。
「……っ」
右手はレザライを握っている、ならばと左手で不知火の手を掴み、抱きつくように両手を回す。
そのままQBを連発して中空へ、連続QBで不知火を酔わせる作戦だ。
「そん、なんで…不知火、は……沈みま……」
掠れ掠れ不知火の声が聞こえる。そんなら連続のクイックターンだ。
右回り左回り右回り左回り右回り左回り右回り左回り右回り左回り右回り左回り右回り左回り右回り左回り右回り左回り……………。
「うっ!」
ぜぇはぁぜぇはぁ、と荒い息を零して不知火が必死に俺(シューマッハ)の身体にしがみついてくる。
右手は肩を、左手は背中から腰にかけて必死に絡みつかせ、両足は太ももあたりをきつく締め上げる。
「怖いだろ!怖いなら降参しちまえ!ごめんなさい言ったら降ろしてやる!」
「し、不知火は……沈m」
ドヒャドヒャドヒャドヒャドヒャドヒャドヒャドヒャ
QBQBQBQB右クイックターン左クイックターンQB左クイックターンQBQB右クイックターン左クイックターンQB右クイックターンQBQBQBQB
「ぜぇはぁぜぇはぁぜぇはぁぜぇはぁ」
「キツイだろ!?」
「……!!」
なんて我慢強い子なんだろう。
QBのし過ぎで逆に俺の方が酔ってきたんだけど。
「不知火は……不知火……」
「わー、分かった分かった!?降ろすからちょっと手放そうか!痛い!痛いから離して!今すぐ離してー!」
俺は不知火の事を我慢強い子だと思っていたがそれは間違いだったらしい。
何故なら不知火は今や両の瞳に大粒の涙を堪え、ガクガクブルブルと身体を震わせて俺(シューマッハ)の全身に必死にしがみつきつつもその顔は勤めて無表情を頑張っている。
そして、その目はチラチラ、チラチラと下の方を盗み見ている。
つまり、彼女は高所恐怖症かなにかで落ちるのが怖くて必死にしがみついているわけだ。
……なんか、悪いことしたな?
「ひゃんっ!?」
ドガンッ!!
「ふうっ…!やはり機銃や砲弾が妙な膜に弾かれるが、直接打撃は防げんか」
刀を構えて深く息を吐くのは巫女服の女性、伊勢型戦艦の日向だ。
アリーヤを掴んで壁までぶん投げたというのな…いや、元が艦なら可能なのか。
「ちょ、マジでストップ!一度止めよう!?危害加えないから!マジで!」
「ふっ…そうはいうが、こちらにお前達にとメリットになるものなどない」
「そーゆーのいいから!?」
『自暴自棄ってやつかな。ここ以外に安息の場がなくて、しかも常に恐怖を感じて生き延びたためにもう死んでもいいと、逆に開き直ってしまったみたいだね』
んな分析いらねー!
「ひゅ、日向さん!」
「浜風か、お前は下がれ。こいつは私が食い止めよう」
「あー!もう!」
オーバードブースト+2段クイックブースト+追加ブースターで推進力をMAXに!!
「何をする気だーーー!!?」
フォォォォドドヒャォン!!
「ーーーっは、なっ…!?」
「悪いけど少し眠ろうか」
超推進力を保ち、思考を理解して自動的に日向の鳩尾へとタゲ取りをし、左肘が日向の鳩尾へ吸い込まれていく。
ウッ、と呻き声を残し、日向は沈んだ。
「日向さん!」
「てわけで浜風。君たちの仲間の場所に案内してくれる?そこで話し合いたいし」
「…分かりました」
QB喰らいすぎて酔った不知火を背中には背負えないのでお姫様抱っこする。
日向はアリーヤが背負ってくれるらしい。
「んんっ!?あっ!?MTじゃやっぱりこの通路無理っしょ……はぁ。どうしよ…」
通路からガッチャンガッチャンという音と見慣れた声が、MT娘のフリュークだ。
「来てたのか、フリューク」
「ん?おお、その声はシューマッハだよね?なんか口調違うけど、まあいいや。ちょっとここら辺で時間潰しとくから適当に調査しといてね〜」
あいつマジか……大物だなぁオイ。
サボりのフリュークは置いといて、とりあえず浜風の案内に従って生き残った艦娘達の居住区へ行く。