2016年秋季限定海域プレイバック ~祈りを越えて 作:黒鋼提督
深海棲艦。
その存在は今だ謎と闇に包まれている。
だが、長い長い戦闘の果てに1つの可能性を見出している。
限定海域と言われる大規模海戦の際、
その中枢に座する深海棲艦を撃破する事で艦娘の救出が成ると。
原理も道理もわからないが、その限定期間でのみ必ず救出が可能である。
逆に言えば、その期間を逃すとまた何時救出が成るかは誰にもわからない。
長門「その敵艦隊の予想集結拠点は…MS諸島北東部の環礁沖…。そして…その中枢にsaratogaを確認した。」
酒匂はその言葉を理解出来ずにいたが、今までの話からEugenは全てを察した。
次に長門が言いたい事も、私達だけが辛い事も。
Prinz Eugen「でもでも、提督は決断なされたんですよね?その海域での決戦はまだだって!」
長門「そう…だ。」
Prinz Eugen「それでいいじゃないですか!私達だけが辛い思いをしなくても!」
長門「…。」
Prinz Eugen「ナガートは…そんな自分の思いだけで皆を巻き込む気なの!?」
長門「違うんだ、Eugen。」
Prinz Eugen「違いませんッ!私は…御姉様が…ううん、今いるみんなが一番なんです!大事なんです!」
長門の説明も突然声を荒げるEugenの事も理解出来なかった酒匂は困惑して泣き出していた。
酒匂「なんで?なんで怒ってるの?喧嘩は…喧嘩は嫌だよぅ…。」
大粒の涙を流す酒匂を長門は抱きしめ言葉を続けた。
長門「酒匂…すまない。」
酒匂「ぐすっ…長門さん?」
長門「酒匂は覚えてないだろうが…saratogaは…あの最後の時に一緒にいたんだ。」
酒匂「え…?」
Prinz Eugen「…。」
長門「私は…saratogaを救いたい。あの暗い海から救い出したいんだ。」
ドンッ。
酒匂は強い力で長門を突き放した。
酒匂「わかんないッ!わかんないよ、長門さん!」
長門「酒匂…。」
酒匂「だって…だって凄い凄い敵の数なんでしょう!?」
酒匂「私達だけじゃそんなのと戦えないよ!」
酒匂「長門さんは…長門さんは…saratogaさんの為にみんなにみんなに…。」
そこから先の言葉は酒匂の口から出なかった。
泣き崩れる酒匂をEugenは支えるように抱きしめた。
長門「これは提督との誓いでもあるのだ。」
酒匂「ぐすぐす…司令…?」
Prinz Eugen「…Admiralさん?」
長門「私は…何故かはわからないが、非常に強く過去の記憶があった。」
長門「それ故にこの鎮守府に着任したばかりの私は腐っていた。」
長門「銃後の民草も肩を並べた戦友も激戦を繰り広げた仇敵も誰も守れなかった。」
長門「生きている価値なんてない。死んでもまた鉄塊に戻るだけ。それが本望ですらあると思っていた。」
長門「そんな不真面目な私はもちろん、演習でも出撃でも毎回大破する体たらくだった。」
長門「あの日も大破撤退の原因となり、ドックで1人腐っている時だった。」
提督『長門、君の過去を私はよく知っている。それは艦娘を率いる提督の務めでもある。』
提督『私は君に期待している。あの時、ビックセブンの二つ名を冠し、世界に誇った君をだ。』
提督『そして、今この鎮守府にいる全ての艦娘も君を頼りにしている。』
長門『くッ…。私は…私は誰も守れなかったんだッ!そんな私に何を勝手なッ!』
提督『長門、都合のいい事を言っているのは理解している。』
提督『だが、合えて言わせてもらう。私もこの鎮守府にいる全ての艦娘も君に希望を見ているのだ。』
長門『希望…?』
提督『あぁ希望だ。』
提督『艦娘には皆、何某の守れなかった記憶があるはずだ。』
提督『新しい命を得た今だからこそ、その記憶に押し潰される者も多いだろう。』
提督『そんな彼女達を補佐するのもまた私の職務だが、長門、君は違う。』
提督『みんな覚えているんだ、偉大な戦艦長門を。』
長門『…偉大か…。』
提督『長門、新しい命を得た君に皆の希望となって欲しいと私は願う。』
提督『過去に守れなかった全ての命の為に。今、共に戦う全ての仲間の為に。』
提督『そして、まだ見ぬ未来の友の為に…だ。』
長門「私はその時全身が震えたのを覚えているよ。」
長門「あの時私は誓ったのだ。」
深く呼吸をした後、長門は美しく大きな声で言った。
長門「過去に守れなかった全ての命の為に。今、共に戦う全ての仲間の為に。」
長門「そして、まだ見ぬ未来の友の為に全身全霊を捧げ、皆の希望となると。」
Prinz Eugen「ナガート…」
酒匂「でも…でも…敵は凄い数なんだよね…?提督も無理だって言ったんだよね?」
長門「提督は『今は』とあえて言われた。」
長門「今と言う機を逃し、さらなら戦力を集結して防衛陣地を構築されたらまさに提督の言う通りだろう。」
長門「だが、今なら…敗残戦力が混沌として戦力が固定化される刹那ならッ。」
長門「Eugen、酒匂。辛い事を頼んでいるとはわかっている。」
長門「それでも頼む。私はsaratogaを救いたい。御前達2人と共に救いたいんだ!」
長門は深く頭を下げた。
静かな沈黙が続いたが、Prinz Eugenは答えた。
Prinz Eugen「わかりました。重巡Prinz Eugen、偉大なる戦艦長門、その希望に賛同する事をここで宣誓致します。」
Prinz Eugen「私も…うっすらだけど覚えています…。あの時…凛とした姿の彼女、saratogaさんを。」
Prinz Eugen「そしてナガートの事を…。」
Prinz Eugen「あの時、みんな寂しくて心細くてやっと戦争は終わったのに…もう終わりだと思ったのに…。」
Prinz Eugen「みんなみんな不安で不安で心が潰れそうだった。」
Prinz Eugen「でも、あの時もナガートは大きな声でみんなを励ましてくれた。」
Prinz Eugen「みんなあんな最後でも笑顔で終われたのはナガートのお陰だと思います。」
Prinz Eugen「うん、私も決めました!私は過去の今の未来のみんなの笑顔の為に戦います!」
Eugenの決意の笑顔の後に酒匂は大きな声で泣きだした。
酒匂「うぅ…。」
長門「酒匂!?」
Prinz Eugen「サカーワ?」
酒匂「酒匂ね…酒匂ね…昔のこと全然覚えてなくて…。」
酒匂「司令もお姉ちゃん達もそれでいいって言ってくれて…ぐすぐす。」
酒匂「でもでも、2人は辛いのいっぱい覚えてて…。」
酒匂「長門さんは内緒でプリン半分こしてくれたり、」
酒匂「Eugenさんもいつも笑顔で優しくて、」
酒匂「私も、酒匂もみんなに優しくなれるぐらいに強くなりたい!」
酒匂「酒匂も行きます!長門さんとEugenさんと一緒に戦います!」
2人を抱きしめて、長門は祈るように呟いた。
長門「2人とも…ありがとう。」
長門「さぁ!では、提督に具申をしよう!忙しくなるぞ!」
Prinz Eugen「Ja!」
酒匂「ぴゃん!」
Prinz Eugen「あれれ?でもそう言えばAdmiralさん、ここ数日見てないような?」
長門「確かに…この作戦の最終局面にどこへ…?」
パチッ。
第二作戦指令室の電灯に光が灯った。