私だって甘えたい。【完結】   作:イーベル

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はい。お待たせしました。更新です。
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私だって独り占めしたい。

「――ハイパーセンサー、スラスター出力……、問題ありません」

「よし、じゃあこのアリーナを一周飛んでみて」

「はい!」

 更識さんには珍しく返事に強く力がこもっていた。いや、普段は熱意が無いとかそういうことを言いたい訳じゃ無い。今日が特別なのだ。何せ、俺たちが機体を組み始めて約二か月、やっとの最終動作テスト、気合が入らないはずが無かった。

 重力に逆らって『打鉄弐式』がふわっと浮き上がる。そのまま空中を滑るように移動。手元のコンソールで異常が無いかどうかを確認しつつ、プライベートチャネルで指示を出す。加速、減速、旋回、急上昇、急降下、急停止……その他諸々の動きを一通り試して貰ったが異常は見当たらない。

「よし、大丈夫だ。更識さん戻ってきて」

「分かりました」

 上空から俺の目の前に着地。展開を解除すると、右手中指に指輪として収まった。

「動かしてみて違和感を感じた所はあったかな?」

「特には無かったと思います」

「そう、なら良かった。じゃあ次は武装のテストをしてみようか。的を出すから。『夢現(ゆめうつつ)』、『春雷(しゅんらい)』、『山嵐(やまあらし)』でそれぞれ、撃破してみて欲しい」

 コンソールでデジタルの的を出現させて、アリーナにばらけて配置させる。

「はい、行きます!」

 再び機体と薙刀『夢現』を同時に展開、スラスターを吹かせ、最初に出て来た的を一気に薙ぎ払う。その後、機体を反転させながら、武装を荷電粒子砲『春雷』に切り替え、そのまま発射。的確に的を射抜いていく。

 そして、今度はミサイルの弾頭が姿を現した。打鉄弐式の目玉であり、切札。ミサイルポッド『山嵐』。その総数は四八発にも及ぶ。空中にばらまかれた嵐は、出現した的を巻き込みながら、膨張し、消滅した。

 

 ▼ ▼ ▼

 

「お疲れさま、更識さん。お茶で良かったかな?」

 近くの自動販売機で購入したペットボトルを手渡す。更識さんはそれをぺこりと頭を下げてから受け取る。端末を開いて今回得られたデータを見せながら話を進める。

「機体、武装、共に問題無しだね。ただ、少し動きがたどたどしかったけど、更識さん、どこか違和感とか感じた?」

「それはその、情けないですけど訓練機と比べて反応が早くて、少し戸惑ったというか……」

「ああ、それならよくある事だよ。どんな候補生だろうと、それどころか代表だって、初めは新しい機体に振り回される。一週間乗ってみて、それでも慣れないようだったら俺に言ってね。また調整するから」

「だ、大丈夫です。絶対、乗りこなして見せます。……絶対」

 更識さんは決意を固めるように、そう言った。

「うん。その気概は良し。だけれど、動きがしっくりこないまま乗り続けていると、後々のセカンドシフトにも影響が出かねない。だから、無理はしないようにね」

「はい。分かりました」

「まあ、これで打鉄弐式は完成だ。この二か月、よく頑張ってくれた」

「そ、そんな事無いです。今回は倉見さんにおんぶに抱っこでしたから」

「いや、あの時君の熱意が無かったら、打鉄弐式は凍結されていただろうからね。改めてお礼を言わせて貰いたい。ありがとう。君のおかげで俺の目標を、ヒカルノの夢を、叶える事ができた。本当に……ありがとう」

 頭を下げて、感謝の言葉を、嘘偽りのない言葉を漏らす。心なしか視界が滲んでいた。

 学生相手にみっともない姿を見せて、恥かしくてたまらなかったけれど、それだけ真剣に感謝の気持ちを伝えなければいけないと思ったのだ。

「えっと、その、頭を上げて下さい。むしろ私が倉見さんに感謝したいんです。私だけだったら完成にどれだけかかっていたのか、想像もつきませんから……。ありがとう、ございました」

「……そうか。そう言ってくれると嬉しいね。技術者冥利に尽きる」

 そう言ってから親指で目元を拭い、頭を上げた。すると、更識さんの背後から何人かの生徒が慌てて走ってくるのが目に入った。いったい何の騒ぎだろうか?

「急いで! 隣のアリーナで代表候補生どうしの模擬戦だって!」

「ちょっと待ってってば、置いてかないでよ~」

 そんな会話を盗み聞いて、違和感を覚えた。候補生どうしの模擬戦、という部分だ。学年別個人トーナメントまであと数日。そんな時期に最大のライバルである候補生どうしが、手の内をさらしたりするだろうか。……嫌な予感がするな。行ってみるか。

「更識さん、悪いけど俺はアリーナに行くよ。また今度ご飯でも御馳走するから!」

「え!? く、倉見さん!?」

 俺は更識さんに声をかけると、隣のアリーナへと走って向かった。

 

 ▼ ▼ ▼

 

 ピットにたどり着いて、目に入ったのは一方的な試合展開だった。二対一を苦にせず、黒い機体が圧倒していた。それは見事、実力もあるんだろう。だがやり過ぎだ。遠目からでも相手側の機体は酷い損傷。確実にダメージレベルCに突入している。

 止めるべきなのは明らかだった。

 しかし、どうやって?

 こういった場合に一番手っ取り早いのは武力行使だが、俺はそんな大層な物を、『武力』を、持ち合わせてなんかいない。いつだって、俺は肝心な時には無力なのだ。思わず歯を噛み締めた。

 そのとき、観客席の方から一本の白い矢が飛び込み、二つの機体の間に割って入る。純白のアーマーにエネルギーで構成された刃。その特徴から割り出される機体は一つしかない。

「白式……一夏君か!」

 しかし、ホッとしたのも束の間。黒い機体と格闘戦に入った彼は静止させられてしまった。まるでテレビ画面を一時停止させたみたいに動かない。その間に大型カノンが彼の顔に突き付けられた。

 AIC、ドイツのPICの発展型の武装。もう実用段階にまで至っていたのか。だが、驚いている場合ではない。先にいた他の二機がほぼ動けない状態で、実質的な一対一。そうなると一夏君はあそこから抜け出すのは難しい。争いを止めることができない。

 他の誰かが何とかしなければならない。

 俺には、何ができる?

 考えろ、考えろ、考えろ……! 

 放送で止める?

 いや、今から放送室へ行っても間に合わない。遠すぎる。

 更識さんを連れてくるか?

 それも駄目だ。彼女が今もさっきの場所にいるとは限らない。

 置いてある武器を……。

 馬鹿か俺は。ここにある物はISで使う事前提だ。刀剣類は持ち上げることすらままならないし、銃の(たぐい)は撃てたとしても反動で体がどうにかなってしまうだろう。

 結局俺には何をすることもできないのか?

「全く、お前が慌てて走っているから何かあったとは思ったが、はぁ……あの愚弟は、落ち着いて過ごせんのか」

 諦めていたそのときだった。背後から聞きなれた声がした。聞き間違えることなんて、あるはずがなかった。

「千冬……!?」

「これ借りるぞ」

 そう言って、壁に立てかけてあったブレードを手にピットから飛び降りる。

 さっと、血の気が引いた。

 体がゾクッと震えた。

 手を伸ばして、声を出すために息を吸った。

「まっ……!」

 引き留める声が届く前に、千冬さんはものすごい速さで乱戦地域へと割り込むと、鶴の一声でこの場をあっさりと収めたのだった。

 俺はその光景を、見ていることしかできなかった。

 

 ☆ ☆ ☆

 

「……千冬」

 拝借したブレードを返しにピットに戻ると、准に呼び止められた。ついこの間の一件以降、何だか気まずくて、話しかけづらかったから、。

「ど、どうした、准」

「助かりました。今回の一件、俺じゃどうにもなりませんでしたから」

「なに、当然の事をしただけだ。礼を言われることじゃない」

 元の位置にブレードを戻して、乱れた髪を手ぐしで最低限整えた。今さら取り繕った所でって感じだが、准にはなるべくだらしがない部分を見せたくは無かった。振り返って准と再び顔を合わせる。

「でも、千冬。これからはああいう事はなるべく、止めてくれると嬉しいです」

「……? どうしてだ?」

 疑問に思って聞き返すと、准は呆れたように大げさにため息をついて、こう切り出した。

「千冬、今でこそISはスポーツだけど、兵器としての一面も大きい。その事を忘れてませんか?」

「何を言う。私が何年ISに乗ってると思ってるんだ。そんな事あるはずがないだろう」

 そう答えると准の雰囲気ががらりと変わった。あまり感情を表に出さない准が、鋭い目つきで、眉間にしわを寄せて、一歩、また一歩と近づいてくる。

「じゃあ何で、IS同士が戦っている所にブレード一本で、それも生身で向かって行ったんだ!? 信じられない! 死んでいたっておかしくないところだぞ!」

「そ、それは……」

 乱暴な言葉遣いで正論を叩きつけられる。それ故に私は准のその問いに答えることができなかった。

「俺がどれだけ……どれだけ心配して、さっきの光景を見ていたか、分かるか!?」

 私は准の迫力に押されて後ずさりをする。しばらくすると、私の背中は壁にピッタリと張り付いてしまった。これ以上は後ろに下がれない。准は狙いすましたかのように腕を壁に突き付けて、私の逃げ場を塞ぐ。これは俗に言う壁ドンという奴だ。か、顔が近い。目と鼻の先だ。怒られているのに何だかドキドキする。申し訳ない気分になって、私は目線を逸らした。

「わ、悪かった。私が悪かったから、あまり怒らないで欲しい……」

「じゃあ、俺と約束してくれ。もう二度とあんな事はしないって」

「ああ、約束……する」

「なら、許すよ」

 壁から手が離れ、元通りの距離感に戻る。私の鼓動も徐々に減速していく。

「……すいません。感情的になりました」

「いや、今回は私が悪い。別に気にしてはいない」

 それよりも気になった事があった。それは、准が口調を変えてしまうほどに真剣に怒った、という事だ。それはあの時、数日前に准の部屋で聞いた問い。怖くて踏み込めなかった答え。その一部を答えてくれたようなものだ。

 私のことを真剣に想ってくれている。

 それが分かっただけでも今は十分だ。

「ありがとう、准」

「えっと、何がですか?」

「フッ、いや、何でもない」

 そう笑って誤魔化す。この事実を、准も無意識に漏らしたと思われる事実を、独り占めしたかったのだ。 

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