私だって甘えたい。【完結】   作:イーベル

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今回はタイトルで分かる通りデート回。本当は昨日のうちに書き上げたかったんだが……本当に済まない。


私だってデートしたい。

 土曜日だが今日もISの調整を終えて職員室に戻る。入学試験も近づいていることもあり教師陣は皆忙しそうだ。毎年たくさんの受験生がここに試験を受けに来る。試験問題等を制作しているのだろう。

 俺の出番は当日。訓練機の調整くらいしか無いが、その日に限り誰よりも忙しくなることは予想がついていた。

 整備室の鍵を返して自分の机に荷物を取りに戻ると、封筒が置いてあることに気が付いた。俺はこんな丁寧な物を頂くほど大層な人間ではない。いったいどこの物好きなのやら。

 宛名には間違いなく俺の名前が刻まれていたので、差出人を確認するために封筒を手に取ってひっくり返した。

倉持技研(くらもちぎけん)、か」

 倉持技研。純国産IS「打鉄」を生産している企業の一つで、俺の古巣でもある。騒ぎを起こして止めた俺に今更何の用なんだか。考えるだけでも億劫になる。今の気分を例えるなら「辞めた部活の顧問に呼び出された時」だ。

 俺は目柱を抑えてため息をつく。

「准?」

「うおっ!?」

 とっさに封筒をジャケットの中にいれた。

 別段見られて困る訳でも無いのだが変な声を上げてしまった為、怪しさが際立っていた。

 振り返ると片手を腰に当ててバッグを持った千冬さんがいた。これから帰る所なのだろう。

「なんだ、千冬さんか」

「なんだとはなんだ。声をかけてやったのに」

 眉がわずかに動いた。今の返答は癇に障ったらしい。即座に機嫌のリカバリーを試みる。

「いえ、急に声を掛けられたので驚いただけです。それで何の用ですか?」

「お前も今日は上がるんだろう? 一緒に帰ろうと思ってな。構わないだろう?」

「ええ、構いません。でも仕事いいんですか?」

「土曜ぐらい私を休ませろ。准は私を過労死させる気か……まあいい。行くぞ」

 千冬さんの態度を見る限り、機嫌は通常通りに戻ったらしい。俺は小さく息を吐いた。

 肩にこの間届けたバッグを担いで俺を先導する。本人に言ったら怒られるんだろうが、後姿が何というか男らしい。女性にファンが多いのも仕方がない気がした。だって、おっぱいが付いているだけでそこらの男よりよっぽどイケメンだしな。

「今変な事を考えていただろう」

 前に居た千冬さんのが振り返りそう言った。

「いえ、全然!」

 俺は目を細めた千冬さんの威圧感に抗って早口でそう答えた。

「ハァ……まあいい。次は無いからな」

 そう言うと、再び前を向いて歩き出した。

 千冬さんは時折俺の考えていることを見透かしたように言い当ててくる。その精度は高く、エスパーですからと言われても俺は信じてしまうだろう。何処の学園のアイドルキャラですかね……。どうでもいい事を考えているとまた怒られそうなのでこの程度にしておこう。

「なあ准」

「ッ!?」

 またしても前にいる千冬さんに声を掛けられた。その手はバッグの中に入れられている。あの予備動作はまずい。魔刀シュッセキボが――来る! 

 俺はバックステップで間合いを取り、肉のカーテンの体制を取った。これで悪行超人からリンチを受けても三日三晩耐えられる(気がする)

「何やってるんだ」

「へ?」

 何事も無く話しかけてきたので俺は腕を退()けた。警戒していた千冬さんの手元を見ると、握られているのは出席簿では無く、小さな紙切れ、いや、チケットだった。カラフルで自己主張の強いそれは見ているだけで目がチカチカする。

 あれはいったい何のか気になるが、話を切り出して来たのは千冬さんなので俺は黙って聞くことにした。

「なんだその腑抜けた(つら)は……緊張した私が馬鹿みたいじゃないか

 千冬さんは呆れたように俺を見つめると呟いた。最後の方はほとんど聞き取る事が出来なかったが何を言っていたか気になった俺は聞き返す。

「最後の方聞き取れなかったんですけどなんて言いました?」

「何でもない。気にするな」

「そう言われると気になるじゃないですか」

「何でもないと言ったんだが」

「はい……すみません」

 睨みに俺は屈して、早々に謝った。もっと張り合えって? からかうのは楽しいがその代償が命となると話は別だ。少なくとも俺はやりたくない。

 話を戻そう。 

「それで、何ですかそれ。見た所チケットみたいですが」

「ああ、映画の前売り券だ。雑誌の取材を受けたら貰ってな、よかったら一緒に行かないか?」

「千冬さんは俺で良いんですか?」

「ん?」

 不思議そうに千冬さんは首を傾げた。

 明日は日曜日。この曜日は千冬さんにとって重要な意味がある。それは帰省予定日だ。千冬さんには年の離れた弟がいて、彼に家を預けている。その監視に週末は戻るのだ。

 まあ、それは建前で溺愛する弟に会い行くというのが正しい(と俺は思っている)映画に行くなら彼を誘うのが妥当だろう。

 そう思ったので一夏君について聞くことにした。

「一夏君に会いに行かなくていいんですか?」

「ああ、あの愚弟は明日は友達の家に泊まりに行くとのことだ。迷惑をかけないか心配でな……」

 顔に手を当ててため息をつきながらそう言った。

 成程、それで俺にこの提案が回って来たと言う事か。彼女の説明で納得がいった。

「それで、准……どうだ?」

 千冬さんは顔を逸らしながらも、チラチラと俺の様子を窺う。そんな挙動不審にならずに堂々としてればいいのに。

 別に俺は明日は暇だし、たまには外に出るのも悪くない。俺はその提案を受けることにした。

「良いですよ、どうせ暇ですし」

「そうか。じゃあ明日の一〇時、部屋に行くから待っててくれ」

 千冬さんは控えめにガッツポーズを決めた後、スキップで廊下を進んでいった。後から聞いた話だが、それを見ていた一部の教師陣の中では明日は天変地異だとか、IS学園沈没だとかそんな噂が立っていたらしい。

 

 ▼ ▼ ▼

 

 翌日、俺は寝坊しないように早めにかけた目覚ましに叩き起こされた。目を擦りながら身支度を済ませる。その片手間にポットで水を沸かし、マグカップにインスタントコーヒーを入れて(すす)った。

 目が徐々に冴えて来て昨日の出来事を思い出す。友達と遊ぶ感覚で了承したが、後で考えて見るとこれはデートの約束で、しかも相手はあの織斑千冬だ。よしんば彼女が二位だったとしても世界一位の織斑千冬なのだ。なんだか今更ながら緊張してきた。

 カーテンを開けて窓の外を見て見ると雲ひとつない快晴で水平線が見える。太陽の光が差し込んで眩しい。絶好のお出かけ日和になりそうだ。

 しばらく窓から海を眺めているとインターホンが鳴った。恐らく千冬さんだろう。他に休日に訪ねてくる人もこの島にはいない。カップを炬燵の上に置いてドアを開けた。

「おはよう、准」

「おはようございます千冬さん」

 紺のコートに赤いマフラーが際立つ服装で千冬さんはうちの玄関前に立ってた。普段はスーツでズボン姿である事が多い彼女だが、今日は膝上のスカートに黒のニーソックス。スラッとした足が更に引き締まって見える。

「その、あんまりじろじろ見るな」

「似合ってますよ」

「ば、馬鹿なこと言ってないで行くぞ!」

 千冬さんは視線を逸らすと口元をマフラーで隠した。

 ちょっと照れすぎじゃないですかね。褒めた俺も恥ずかしくなった。

「じゃあ戸締りとかするんで少し待ってて下さい」

 千冬さんにそう告げて俺は扉を閉める。コートを羽織って、窓の鍵とガスの元栓を確認してコップに残ったコーヒーを飲み干して外に出た。

 

 ▼ ▼ ▼

 

 映画館に到着して、カウンターで手続きを済ました後ので上映時間を待つだけとなった。待ち時間はあと二〇分と言った所か。ポップコーンでも買ってこよう。

「千冬さんポップコーン買ってきますけど一緒に行きますか?」

「ああ、行く」

 隣に並んで最後尾に向かった。カウンターの上にあるメニューを見上げていると、千冬さんが話しかけて来た。

「ポップコーンで好きな味とかあるのか?」

「塩とかシンプルな味付けも捨てがたいですが、なんだかんだで俺はキャラメルが一番好きですね」

「そうか、私も好きなんだ」

 そう言ってにこやかに微笑む。普段凛々しい姿を見ることが多いからか彼女の表情にドキッとして、俺はつい顔を逸らしてしまった。今のは反則的だ。

 恥じらいを誤魔化す為に俺は話を進める。

「じゃあ大きめのを一つ買って一緒に食べましょうか」

「そうだな」

 何を頼むかを決定したところで丁度カウンターにたどり着くと、手早く注文を済ませてシアターへと向かうのだった。

 

 ▼ ▼ ▼

 

「結構良かったですね」

「ああ、見どころのあるアクションシーンが多かったな。特に侍がISに立ち向かうシーンが……」 

 映画の感想をお互いに話しながら注文したコーラをストローで吸い上げた。

 俺と千冬さんは近くにあったハンバーガーショップ『モズバーガー』に来ていた。近くのお洒落な店でも探そうかと思ったのだが、たまにはこういう所に行きたいと言う希望が出たのでこちらにした。

「でも意外でしたよ。千冬さんはもっとザ・和食! って感じが好みだと思ってたんですが」

「基本的にはそれであっている。一夏の奴が「体に悪いから」の一点張りで行かせてくれなくてな。たまに隠れて食べに来るのさ」

「ハハ、彼ならいいそうですね」

「私の事じゃなく、自分のまわりに気を配って欲しいものだがな。まったく」

 千冬さんはため息混じりにそう言った。弟まっしぐらのあなたがそれを言ってしまうのかと突っ込みたくなったが、ここは言わないでおこう。

「でもまあ外食じゃなくて自分の料理を食べて欲しいが故の禁止令だったらと思うと、一夏君の気持ちも分かりますがね」

「そういうものか?」

「ええ、作ったものを「おいしい」って言ってもらえるだけで嬉しいものですよ。それに千冬さんいい食べっぷりですからね。見ていても嬉しいです」

「な、何を言う! それだと私が食い意地が張っているみたいじゃないか! あれは、その、そう! アスリートだから消費カロリーに負けないくらい食べないといけないんだ!」

 恥ずかしがっているのか早口でまくし立てた。顔も心なしか赤みを帯びている。そこまでむきにならなくても良いのに。

 俺は彼女の興奮を抑える為に口を開いた。

「別にいいと思いますよ。千冬さんが食べている所、俺は好きですから」

 そう言うと彼女は言葉を失って沈黙してしまった。うつむいてしばらくブツブツ言った後に首を左右に振ってから復旧した。

 やはり千冬さんはからかうと面白い。山田先生がからかう理由がよく分かった気がする。身をわきまえないと後々彼女の様に制裁を受ける羽目になるので気を付けようと心に決めた。

「お待たせしました~こちら……」

 店員がバスケットに入ったハンバーガーやポテト、オニオンリングをテーブルに運んできた。出来立て、揚げたての香ばしい香りが食欲をそそった。

「じゃあ食べましょうか」

「ああ、頂きます」

 そうして昼食を取り始めた。多くは語らないが、普段より一口を小さくした千冬さんは微笑ましかったとだけ言っておこう。

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