屋上にて 作:VRT
それは秋も本格的に始まり、校庭の木々が色を付けはじめたある日のことだった。その日は雨が降っていた。
昼前からポツポツと降り始めた雨は昼休みに入るころにはその勢いを強め、土砂降りといっても過言ではないほどになった。朝はあれだけ晴れていたというに、女心と秋の空というわけか。
そんな中俺は、屋上のボロ小屋で勝手知ったる他人の家とばかりにソファーに座り、雑誌を読みながらくつろいでいた。ちなみにこの小屋にあるもののほとんど全てはどこから拾ってきたものであり、今俺が座っているソファーもその内の一つである。余り大きくないが柔らかく座り心地がいいため気に入っている一品だった。
雨の日にサボるときや寒い日なんかは、こうして屋上のこの小屋でサボることが多かった。ここなら雨に打たれる心配も雪に埋もれる心配もない。それに暇な時を見つけてちょくちょくと整備しているここは案外過ごしやすかったりする。電気も引っ張ってきているし、食料もある。私物であふれたここは第二の自室といってよかった。本格的に冬に入る前には、更に床と壁に断熱材を貼ろうかと考え中だ。
ただしどれだけ快適だろうが所詮小屋は小屋。大きさは少しばかり心もとない。俺一人なら快適に過ごせるのだが……。
雑誌から目を離し横目で隣を見る。
「はむ……はむはむ……うん、やはりこのパンは美味しいね」
俺の隣、ソファーに陣取ってパンを食べる奴が一人。いつも通りのチューリップハットは遠慮という二文字を知らないのか我が物顔で俺の横に座っていた。
ちなみに彼女が食べているパンは俺が後で食べようとして買ってきたやつだ。
ザーザーと屋根を打つ雨音を聞きながら口を開く。
「お前、こんな雨の日にわざわざここに来なくてもいいだろ」
「たまには雨の音を聞きたくなったのさ」
パクリとパンを口の中に放り込むと彼女はいつも通りの声色で言った。
「なるほど」
よく分からなかったが、とりあえずそう言って頷いておく。どうやらソイツもまともに答える気はないようだし。
それに彼女が何のためにこの屋上を訪れるかなんて俺には関係ないことだ。それをもし聞こうものなら俗になる。俗になるなら聞かないほうがいい。俺はここにいて、彼女もここにいる。必要なのはこれだけで、他には何も必要ない。
「それよりも先輩……」
「悪いがおかわりはないぞ」
「まだ、何も言ってはいないじゃないか」
「お前の言わんとすることはいい加減分かる」
「ほうほうそれはツーカーという関係かな?」
「全く違うな」
どちらかといえばお前の傍若無人な態度にこちらが慣れて来たということだ。
「本当に先輩はつれないね」
彼女は俺の言葉を気にも留めてないかのように笑う。事実、その通りなのだろう。
「それよりも……」
「ん? どうかしたのかい?」
「なんか近くないか?」
ソファーが小さいこともあり、二人で座るとある程度距離は近くなっていまう。しかし、それにしても近すぎだ。肩と肩がもう少しで触れ合ってしまいそうな距離に彼女は座っていた。
「そうかい?」
彼女はそう言いながら首を傾げる。
「お前まだ向こうに空きがるだろ」
よく見れば彼女の座っている方にはまだ奥に余裕があった。
「うふふふ、まさか先輩照れているのかい?」
「何を言っているんだ。誰がお前なんかに照れるか。俺は年上の包容力がある女性がタイプなんだ。お前のような年下のガキに誰が――いってぇ!? 何すんだよ」
彼女に弱みを見せたくないのと、照れ隠しとして得意げにそう言った時だった。急にわき腹をつねられた。それも結構な威力で。
「…………ふん」
文句を言ってやろうとソイツを見れば、彼女は不満げな顔で、そっぽを向くとあのよく分からん楽器を弾き始めた。その音色は力強く、いつもの穏やかな音色ではなかった。
「おい、もしかして怒ってる?」
「――どうしてそう思うんだい?」
楽器を弾く指は力強く、口から出た声色は冷たい。
「あぁ、なんかすまん」
――女心と秋の空。どうやら、俺が女心を理解する日はまだ遠いみたいだ。
そして、彼女の機嫌をとるのに俺が苦労したのは言うまでもないだろう。