屋上にて   作:VRT

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第七話

それは秋も深まってきたある日のことだった。グランドの木々が葉の色を翠から橙、もしくは赤に変え始め、冬服の奴らがちらほらと出始めたころだ。

 

いつも通りに屋上にてサボっていた俺の耳にガチャガチャと屋上のドアノブが回る音が聞こえてきたと思ったら、バタンとその扉が開けられた。グリスを塗ったばかりの扉は前の様に錆びついた金切り声を上げることなく、静かに開く。

 

この屋上を訪れる人間は俺も含めて三人しかいない。そして今は四限目の授業中であり、その内の一人は授業をしているため、消去法で訪れた人物は分かる。

 

「よう、今日は遅いじゃないか」

 

見知っている相手の為気軽に手を上げてそう挨拶すれば、

 

「やぁ、先輩。少しばかり数学の出席日数が危ないからね、三限目に顔を出したんだよ」

 

トレードマークのチューリップ帽を被った後輩がいつも通りの弦楽器を鳴らしながら優しげな笑みでこう返してきた。

 

「あぁ、そう言えば俺も現国の出席がそろそろ危ないんだったな五限目は出るか」

 

彼女の言葉をうけて出席日数がそろそろ危ない授業があったことを思い出す。面倒だがここは出ないと後々もっと面倒なことになる。ここは重い腰を上げて休み時間が終わり次第教室に行くか。

 

そんなことを俺が考えていた時だった。

 

「先輩、その手に持っているものは何だい?」

 

彼女が俺が手に持っている物に気付いたのかそう聞いてきた。

 

「あぁ、これか?」

 

手に持った串に視線を落としながら答える。

 

「うん、それだよ」

 

「昨日の謝肉祭で余った肉と今日の朝捌いた肉だけど」

 

――謝肉祭と呼ばれる行事がある。

 

正確には行事でないかもしれないがそう言ったイベントがこの継続高校の寮にはあった。流石に全ての寮で行われていることではないだろうが、半分程度の寮では行われているイベンドではないだろうか。

 

前にも話したと思うが継続高校は貧乏校でありある程度の自由がきく学校でもある。そんな継続高校の寮は基本的に学生が自治を務める学生寮が多くある。寮費も各自自分たちで決め、学校からの補助金を加味して計算し、全てを学生が運営する、それが学生寮だ。

 

勿論貧乏校ゆえに学校からの補助金も少ない。しかし、寮費も高く出来ない。そこで、寮では修繕も食事も全て自分たちで行うことになる。寮が壊れたからと言って修理費は出ない、出て材料費がいっぱいいっぱいだ。だからこそ自分たちで修繕する。そんな考えだ。

 

料理も勿論自分たちで作るのだが、そこで考え出されたのが謝肉祭だ。

 

――謝肉祭。

 

読んで字のごとく、肉に感謝する祭りだ。何をやるのかは至極単純。有り余る寮の土地で育ているウサギや鶏などの家畜や罠にかかった動物たちを自分たちで捌いて食べるだけの話だ。勿論毎日という訳にはいかないが、何かの打ち合げ、例えば体育祭や文化祭、寮の誰かの誕生日など、特別な日には必ずといいほど行われ寮生みんなで肉を味わう祭りとなっている。

 

そんな祭りが昨日の夜と今日の朝にかけて俺の寮では行われていた。

 

「へぇー、何か昨日特別な事でもあったのかい?」

 

「いや、学園祭の出し物を何するかの話し合いで実際に出すものの味見と称して謝肉祭をしたまでだ」

 

「ふーん、そうだったのか」

 

彼女は俺の隣に腰を落とすと弦を軽く弾いた。

 

「そう言えば先輩、継続高校の学園祭はすごく盛り上がると聞いたけど本当かい?」

 

俺は彼女の正確な歳は知らない。彼女が俺の事を先輩と呼ぶために一年生だろうと勝手にあたりをつけているがもしかしたら年上の可能性もある。でも、もしも彼女が本当に俺の後輩だったとしたら文化祭は初めての体験となるはずだ。

 

「学園祭かぁ……」

 

――継続高校学園祭。

 

それを一言で現すのなら、ぴったりの二文字がこの世には存在する。

 

「一言でいうなら、戦争だな。あれは」

 

――戦争。

 

そう、あれは紛れもなく戦争だ。

 

「……戦争?」

 

彼女はその言葉に首を傾げる。確かにそうだろう普通の高校の文化祭であれば祭りと言う言葉は使っても戦争と言う言葉は使わないだろう。しかし、この継続高校の文化祭は戦争だ。

 

「あぁ、文字通り戦争だ。寮と寮、部活と部活、そして寮と部活のお客さんを取り合っての大戦争だ」

 

先ほども話したと思うが、寮の運営において学校側からの補助金が出るには出るがそれは微々たるものだ。それはもちろん部活にも当てはめられ、各部活動に支給される予算なんてないにも等しい。だからこそ、各団体はこの学園祭という資金調達に本気で挑む。学園祭での売り上げはそのまま各団体の物になる。つまり黒字になればなるほど設備はよくなるのだ。寮であれば設備が増えたり、寮費が安くなったり、部活であれば新しい道具やユニフォームを買えたりする。

 

客を取るには質で勝負するほかない。

 

学生同士が利害対立で切磋琢磨した継続高校学園祭のレベルは凄い。そんじゃそこらの大学の学園祭を遥かにしのぐ。さらにそれが噂話にもなり、外のお客さんも多くの訪れるので、学園祭の一週間この継続高校のある学園艦の人口は少ない時で10倍多い時だと50倍にも膨れ上がる。継続高校周辺に無駄にある建物はそう言った艦外からくるお客さんのために歴代の継続高校の生徒達が立てたものであり、宿泊施設としての機能を果たしているのだった。普段は森と山と川しかないと言われる継続高校学園艦だが、学園祭のシーズンだけはどの学園艦にも引けをとらない活気があった。

 

「へぇーそれは楽しみだ」

 

俺の説明をうけ彼女は面白そうだと微笑んだ。

 

「あぁ、楽しみにしているといいよ」

 

確かに利益を争っての戦争だが、楽しむことが出来るのも確かだ。質の高い出店や劇、自作映画を見て回るのは面白いし、楽しい。俺も去年は大いに楽しみ盛り上がった。

 

「ところで先輩それは何の肉だい?」

 

「あぁ、食うか? 俺は昨日散々食ったし」

 

どうせ彼女のことだ。大方俺の横に腰を下ろしたのもこの肉が目当てに違いない。そう辺りをつけて串がまだ数本入った紙袋を彼女に差し出す。

 

「先輩がそう言うのならご相伴にあずかろう」

 

彼女は楽器を自らのわきに置くと「いただきます」と手を合わせ、紙袋から一本の串を取り出し、ぱくりと噛みついた。

 

「うんうん、美味しね。これは何の肉かな?」

 

「あぁ、それは昨日の謝肉祭で余ったワニの肉だ」

 

「ワニ?」

 

「俺らの寮の池で飼っててな。毎年学園祭でワニ肉の出店も出してるから試食代わりだな」

 

初めは食えるのかと思っていたワニ肉だが食ってみると意外と美味い。難点として檻から脱走した時に面倒なのと捌くのが少し手間なくらいだ。

 

「へぇー、じゃあこれは?」

 

何時の間か食べ終わったのか彼女の手には新しい串が握られていた。

 

「あぁ、それはアナグマだ……多分?」

 

「どうして疑問形なんだい?」

 

「いや、今日の朝、狐摑まえるための罠に掛かっていたやつらしいんだけどな、アナグマと狸って見た目じゃ殆ど分からないんだよ。それこそ猟師でもない限り無理だ」

 

「じゃあ、どうしてアナグマだって分かるんだい?」

 

「あぁ、それは簡単だよ。美味いからな」

 

食ってみて美味かったらアナグマで、不味かったら狸。俺たちの寮ではそうやってこの二つを判断していた。俺も寮の先輩方にそうやって聞いただけなので本当にその見分け方であってるのかどうかは分からないが、まぁどちらでも美味ければ構わないのでアナグマだろうと、狸だろうとさしたる問題ではない。

 

「美味しかったらアナグマで、不味かったら狸か……。なるほど先輩の見分け方は簡単でいい」

 

彼女はそう言って笑うと「ごちそうさま」と手を合わせた。

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