無事その日の午後には病院を退院し、ポアロに戻ることできた暁。
「まだ本調子じゃないだろうし、今日は休んでてもいいよ」
そう梓に言われ、モルガナと状況を整理したいのもあって今日一日はお言葉に甘えることにした。
これは目暮警部が教えてくれたことだが、真犯人である藤江明義は進んで逮捕されたらしい。今現在も相変わらず謝罪を繰り返しつつも自責の念に駆られた様子で留置所に拘束されている。
ヨーコを人質にして心中を図ろうとした殺人未遂に加えて、彼女のマネージャーを刺した容疑と池沢ゆう子を殺害した容疑――それらについて自供から証拠が固められ次第、じきに拘置所へ移送されることとなるだろう。
藤江の身体と重なって見えた悪魔のような影――すなわち、シャドウ。
抑圧された一面、歪められた人間の感情そのものであるソレを倒し、歪みの元であるオタカラを頂戴したことで"改心"したのだ。
もはや、ペルソナを使って誰かを改心させるようなことは無いと思っていたが、こんな形で再びそれを行うことになるとは思わなかった。
しかし、どうしてペルソナを召喚できたのだろうか? ここは別世界とはいえ、現実であることには違いない。
「確かに現実じゃペルソナは使えない。
モルガナが言っている
――認知世界が現実に侵食した、赤い雨水に浸された渋谷。
巨大な骸が地中より這い出た、まるで地獄のような光景。それが、暁達怪盗団の最終決戦の場であった。
あの光景は、大衆が心の奥底で己を生きる屍のような存在と思い、現実そのものを地獄として見ているという無意識が生み出したものなのかもしれない。
大衆のシャドウを地上から地下深く悪神の元へ運んでいた列車は、さしずめ棺桶といったところだろうか。
だが、この世界はそのような状況に陥っているわけではない。
そんなまさかと思っていると、ポアロの地下室に見覚えのある光を放つ青い蝶が舞い込んできた。
蝶がまばゆい閃光を放ち始め、暁とモルガナは思わず目を閉じる。
光が止んで目を開けると、群青色のドレスを着た少女――ラヴェンツァが暁の目の前にその姿を現していた。
彼女のプラチナブロンドの髪がふわりと浮かび、消えていく青い粒子と共に華奢な足を地下室の床に着ける。
そして、ゆっくりと瞼を開き、その琥珀の如き金色の瞳を覗かせた。
「御機嫌よう、マイトリックスター」
ラヴェンツァは優雅に一礼し、柔らかに微笑んで挨拶する。
ここにラヴェンツァが来られたということは……彼女が以前言っていた条件をクリアしたということだろうか? 暁はそう問い掛ける。
「その通りです。貴方はこの世界でも己の最たる信念を反逆の意思として発現させ、見事アルカナの力を行使することを成功させました」
アルカナの力? と、彼女の言葉に首を傾げる暁。
「覚えているでしょう。貴方が悪神を討ち倒し……"世界"のアルカナを手にしたことを」
その言葉を皮切りに、ラヴェンツァは暁がペルソナを召喚できた理由を説明し始めた。
歪みの影響なのか定かではないが、この世界は通常ではシャドウが顕現できない程度に中途半端な状態で認知世界と混ざり合っている状態だということが、調査の結果判明したらしい。
もちろん、そんな不安定な環境ではペルソナを召喚できたとしてもまともに扱うことはできない。暁が正常にペルソナを召喚できた理由は、悪神との最終決戦を制して得た"世界"のアルカナにある。
アルカナは簡潔に言えばペルソナの属性のようなものであり、それぞれに対応した意味と力を秘めている。
暁は元の世界で様々な人物と交流を深めてきた。交流相手の辿っている人生、性質からアルカナが定められ、それに対応した
その中でも、"世界"は特別な力を秘めたアルカナ。奇跡の意味を失くすと言われるその力があれば、多少の制限はかかるものの、現実世界においても認知を操作することによってペルソナを正常に扱うことができるらしい。暁があの時ペルソナを召喚できたのも、己の信念に基づいた反逆の意思に反応し、そのアルカナの力が行使されたからである。
「なるほど……そういうことだったのか。だがラヴェンツァ殿、それならあの藤江とかいう男のアレはどういうことなんだ?」
そこまで黙って説明を聞いていたモルガナが、ラヴェンツァにそう疑問をぶつける。
モルガナの言っているアレとは、藤江のシャドウのことだろう。暁がアルカナの力によってペルソナを召喚したのなら、彼は一体どうしてシャドウを顕現させることができたのか? 確か、ペルソナとシャドウは本来同一のものであり、大体は制御できているか否かの違いしかないはずである。
「……それも"世界"のアルカナによる力です。追い詰められた状況という前提はありますが、
「暴走? まさか……!」
モルガナが思わず声を上げると、ラヴェンツァがそれに応えるようにこくりと頷いた。
「この世界で立て続けに起こる事故や事件……元の世界でも似たようなことがあったでしょう? ……恐らく、同じ"精神暴走"によるものと思われます。以前の物とは毛色が少し違い、その者に生じた歪みを大きくするような作用を起こす形になっているようですが……可能性は十分考えられるかと」
元の世界でも、地下鉄の脱線事故や殺人、不祥事などが頻繁に発生していた。しかし、それはある人物の力で故意に精神を暴走させられたことによるものであったのだ。
……確かに考えてみれば、こうも事件が頻繁に起きている状況はそれとよく似ている。もし、ラヴェンツァが言っていることが本当ならば――
「同じような能力を持った何者かが、暗躍しているということです。この世界でも……」
そういうことだ。暁はラヴェンツァの言葉に頷く。
だが、獅童の時と違って、かなり無差別で自分達の利益のためとは思えない。なぜそんなことをしているのか不明だ。
何にせよ、このまま見過ごすことなど到底できない。
「これは、怪盗団の出番だな!」
モルガナが飛び上がり、興奮気味にそう口にする。
確かに、精神暴走によって歪みを大きくされた者をどうにかするには、シャドウを懲らしめて歪みの大元であるオタカラを頂戴し、"改心"させるしかない。
しかし、言い出したモルガナはすぐに意気消沈したような顔をしてその場に座り込んだ。
「と言いたいところだが、アイツラがいないし……ワガハイとコイツの二人だけじゃ、"団"とは呼べないな……」
残念そうに尻尾を垂らすモルガナ。
暁も仲間のことを考えて目を伏せていると、ラヴェンツァはクスクスと悪戯っぽく笑い始めた。まるで、次の課題を発表する時のカロリーヌを思わせる笑いだ。
どうしたのかと思っていると、とんでもないことをラヴェンツァが告白する。
「ご心配なく。この私が怪盗団に入団し、マイトリックスターを支えます」
これで三人ですね、としたり顔で付け加えて。
暁の眼鏡が傾き、モルガナが座っていたソファの肘掛けからズレ落ちた。暁は震える手で眼鏡を直しながら、イゴールのことは放っておいていいのかと聞く。
「今まで遠出していた兄がこの度帰省しましたので、彼に任せることにしました。世話することに関しては、私より兄の方がおあつらえ向きです」
……それでいいのか。
そのラヴェンツァの兄と会ったことはないが、いつも面倒事を押し付けられて尻に敷かれているのではないだろうか。会ったこともないその人物に同情の念を抱く暁。
いずれにしても、ベルベットルームの住人であるラヴェンツァがいてくれるのは心強い。元の世界の仲間達がいないのは非常に残念だが、状況からして怪盗団を再結成せざるをえないのだから。
特殊な能力など無くても、自分や絆を結んだ人達の力を合わせれば困難を打破できることは前の世界で理解したが、精神暴走が絡んでいる以上そういうわけにもいかない。
それに、どうやら今回はパレス――歪みを持った人間の目に映るもう一つの現実が具現化した場所――に侵入するといったことをする可能性は低いらしい。なぜなら、この不安定な環境の影響なのかパレスがあったとしても具現化できないからである。それならば、少人数でもどうにかなりそうだ。潜入して仕掛けを解いて行くなどの楽しみが無くなってしまうのは惜しいが、それは贅沢というものだ。
「ま、まあ、何にせよ……これで怪盗団再結成、だな! "ジョーカー"!」
ベルベットルームの群青色を模したような青い瞳を暁に向けて、嬉しげにそう呼ぶモルガナ。その言葉に、暁は懐かしい高揚感を覚えてニヤリと笑う。
力強く頷いて応える暁と、それに満足気な笑みを浮かべるモルガナとラヴェンツァ。
――コードネームで呼ばれるのは、実に久しぶりのことであった。
しかし、再結成したはいいものの、これからどうするべきだろうか。
この世界では前の世界と違って三島が作った怪盗お願いチャンネルのようなサイトは存在しない。前の世界では、そのサイトを使って大衆から改心して欲しい相手を募り、
不謹慎ではあるが、都合良く事件に巻き込まれるなどすれば、いずれ精神暴走の犯人の足取りを掴めるかもしれないが……それも雲を掴むような話だ。
そこまで話し終えたところで、地下室の天井扉がノックされる音が頭上から聞こえてくる。
梓だろうか? 暁はとりあえず今はベルベットルームへ戻ってくれとラヴェンツァに言う。
「嫌です」
いや、そんなこと言わずに。と、暁は口を引き攣らせながら戻るよう促すが……
「嫌です」
澄ました笑顔で、その一点張りを繰り返すラヴェンツァ。
どうしたものかと焦っていると、暁の返事を待たずして天井扉の開く音が聞こえてくる。
モルガナが咄嗟に梯子を登って扉の前まで走り、暁は慌ててラヴェンツァの手を取ってベッドの毛布の下に隠す。
「わっ!? びっくりした~……モナちゃん、そんなところにいたら危ないよ?」
梓が開かれた扉から顔を覗かせているが、モルガナが上手く壁になってくれている。
もごもごと暴れるラヴェンツァを毛布の上から押さえつつ、仕事かと梓に問い掛ける暁。
「あ、ううん。そうじゃないの。えっとね……」
梓は何やら言いづらそうにしつつ、自分の背後を気にするようにそちらへ目線をやっている。
一体どうしたのだろうかと思っていると、横から眼鏡を掛けた女性が梓を押し退けて顔を出してきた。
「こんにちは、暁君」
笑みを浮かべて見下ろすその女性は、暁の後見人を担当している弁護士の妃英理。
……その笑みは、怒ってますということがありありと分かるほど、歪なものであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ラヴェンツァをモルガナに任せて地下室を出た暁は、妃弁護士にこってりと叱られた。
無罪放免となり再び同じ罪に問われることはないといえ、警察関係者からマークされていることには変わりない。例の事件を担当した静岡県警から警視庁へいくらか情報が伝わっている可能性もある中で、自分から事件に首を突っ込むような真似をするなんて、何を考えているのかと。
「まあまあ、妃先生。暁君も反省してると思いますし、それくらいにしときましょうよ」
「でもね、梓ちゃん! ……はぁ、しょうがないわね」
梓が妃弁護士を宥めたおかげで、彼女は渋々といった様子でそれ以上の文句は胸の内に押し留めることにしたようだ。しかし、暁は叱られたというのに、どこか胸に込み上げるようなものを感じて思わず微笑んでしまった。
「ちょっと、暁君。何を笑ってるの?」
「叱られたのに……もしかして、暁君そういう趣味が……」
私も仕事で厳しく怒った方が嬉しいのかなと、とんでもないことを言い出す梓に暁はイヤイヤと首を横に振り、弁解し始める。
元の世界での傷害事件が仲間達の働きかけによって冤罪であったことが証明され、晴れて堂々と地元に戻ることができた暁。だが、息子の無実を信じてやることができなかった両親は、戻ってきた暁に対して過度に優しく接しながらも、どこかぎこちない態度を取っていた。
何が言いたいかというと、暁は地元に戻ってからというもの親から叱られるといったことが全くなかったのだ。
だからこそ、彼女が親身になって自分のことを叱ってくれることを嬉しく感じた。そういう存在は貴重である。思わず、惣次郎や川上のことを思い出してしまったものだ。
「……はあ。とにかく、今後は事件や厄介事に首を突っ込まないこと。例え巻き込まれたとしても、無茶はしないようにするのよ」
暁の話を聞いて怒るに怒れなくなった妃弁護士は、重ねてそう釘を刺した。
頷いて応える暁だが、心中は申し訳なさで一杯であった。再び怪盗団として活動し始めるのだから、事件に首を突っ込まずにいるなんてことは無理だからだ。
そこでふと、暁は妃弁護士が先日去り際に言い残していったことを思い出した。
『この喫茶店の二階にある探偵事務所だけど、あそこには何があっても近づかないこと。ましてや、依頼なんて絶対にしないのよ。分かったわね?』
これはもう、ほとんど"毛利探偵と関わるな"と言っているようなものだ。にも関わらず、妃弁護士は毛利探偵について特に言及することはなかった。暁が事件に首を突っ込んだという話だけを聞いて、毛利探偵が関わっていたことは知らないのかもしれない。
……とりあえず、暁はそのことについては黙っておくことにした。数々の死線を潜り抜けて培ってきた直感によって、話せばとんでもないことになりそうだと察したからである。
「あの子もそういうことを考えてたりするのかしら? アレを叱ってばかりでしょうし……あ、それよりも梓ちゃん。例の物は届いているかしら?」
カウンター席のテーブルに肘を突いてぶつぶつと独り言を呟いていたかと思うと、妃弁護士は思い出したかのように顔を上げて梓に問い掛ける。
「ああ、制服ですよね? 届いてますよ。ちょっと取ってきますね!」
問い掛けられた梓は淹れたばかりのコーヒーを暁に渡すと、パタパタと奥の扉を開けてスタッフルームの方へと向かっていった。
制服? 誰の制服ですかと、暁がコーヒーを口に入れつつ妃弁護士に聞くと――
「何言ってるの。貴方の制服に決まってるでしょう?」
…………は?
飲み込んだコーヒーが気管に入ってしまい、激しく咽る暁。
大丈夫? と聞いてくる妃弁護士に暁は片手を挙げることで応えつつ、咳が収まってからどういうことかと尋ねる。
「先日ようやく手続きが完了したの。来週からまた高校に通えるわよ」
いや、そんな話を聞きたいのではない。全くもって訳が分からないのだ。
例の事件の影響で地元の高校は裁判の結果を待たずして退学処分とされているらしいが、その後転校を希望していたということだろうか? 前の世界での暁は大学受験を間近に控えた高校三年生。こちらでも同じ学年だとしたら、妃弁護士の言っている帝丹高校もよく受け入れてくれたものである。そんな時期に編入を受け入れてくれる学校など、普通ないからだ。
「転校先は私の母校なの。貴方は二年だから、もしかしたら私の娘と一緒のクラスになるかもしれないわね」
妃弁護士の言葉に眉を潜めて耳を疑う暁。
――二年? どういうことだ。元の世界とこちらでは、時間軸が違うのか?
暁が思わずお金をばら撒きかねないほど激しく混乱していると、奥の扉から戻ってきた梓がビニールに包まれた制服を広げて見せてきた。
「じゃ~ん! ほら、これが暁君が新しく通う帝丹高校の制服よ!」
藍色のブレザーに緑色のネクタイが目に入る。それが、暁が明日から通うことになる帝丹高校という学校の制服らしい。
……まさか、また二年から高校生活をやり直さなければならないのか。
暁は混乱する頭を無理矢理治め、心の中で深い深い溜息をついた。怪盗団を再結成したばかりだというのに、前途多難とはまさにこのことである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
深夜。虫の音も聞こえない静かな暗闇の中、月明かりの差し込むある一室で電話をしている大柄な男がいた。
男の服装は黒いスーツに黒い帽子とサングラス。周囲の暗闇に溶け込むようなまさに黒尽くめの様相をしており、その身体が月明かりによって一部照らし出されている。
男は小さく、それでいてはっきりとした低い口調で電話口の相手と話を交わす。
「で、そっちの調子はどうだ?」
『へ、へい。特に問題はねぇです』
携帯電話がスピーカーフォンになっているのか、相手の声が部屋中に伝わっている。
男が話している相手は口調的に立場が下の人間なのだろうが、それだけとは思えないほどひどく怯えているということが電話越しでも分かる。まるで、電話を持つ相手の手の震えまでもが伝わってきているかのようだ。
「そうか。変わったことは何もなかったということだな?」
『もちろんです……あっ』
そこまで話して、電話口の相手は何か思い出したかのようにそう声を上げた。
「何だ? どうした」
『いや……実は一度、妙な坊主が家を訪れまして……しつこくチャイムを鳴らすもんだから怒鳴り散らして追い払ったんすよ』
「ほう。どんな坊主だ?」
『背は高くて、年は……十代後半ぐらいですかね。妙に大人びていた感じだったんで、大学生かもしれませんです』
男は電話口の相手の言葉を鼻で笑う。
「大人びている奴がしつこくチャイムを鳴らす、か。イタズラ目的じゃないようだな。で、それだけか?」
『い、いや! その……あの坊主、聞いてきたんすよ。"佐倉という人を知っているか"って』
「何?」
聞き返す男の口調に怒気のようなものが含まれているのを感じてか、相手は焦ったように言葉を返す。
『も、もちろん俺は、"そんな
「……そうか。引き続き、不審な奴が家を訪ねないか見張ってろ」
聞くや否や、男は未だ言葉を続けている相手にも構わず電話を切った。
その男の背後――影になっている部屋の隅から、同じ黒尽くめの服装をした長身で長い銀髪の男が月明かりの元に現れる。銀髪の男はゴロワーズ・カポラルという銘柄の煙草にマッチで火を点け、黒尽くめの空間に赤い灯りと灰色の煙を混ぜた。
「兄貴、どうやらあの家にアイツを訪ねてきた奴がいるみてぇですぜ」
「そのようだな……」
「……今更ですが、あのガキが作ったこの通話アプリ……本当に大丈夫なんですかい?」
「ヤツの娘の技術力は折り紙つきだ。組織随一と言っていいだろう。通信事業者に要請しようがハッキングしようが、情報を傍受されるようなことはない」
銀髪の男も懐からスマホを片手で取り出し、見せ付けるように操作し出す。スマホの明かりに照らし出される人相の悪い顔。
「ところで、あの家を訪ねた奴についてはどうします?」
「放っておけ。ただの学生風情が嗅ぎ回ったところで、組織に辿り着くことなんざできやしねぇよ……それと、家を見張らしている男だが、都合の良い日にでも始末しておけ」
「え、なぜです?」
大柄な男の疑問の声に口端を歪めた銀髪の男は、咥えた煙草を手に取って煙を吐き出した。帽子のツバから覗く三白眼が、人殺しなど厭わないとばかりに鈍く輝く。
「……いらねぇ情報を無自覚に渡すような奴は、必要ねぇからな。何、どうせ――」
まだ吸い始めたばかりだというのに、銀髪の男は手に持った煙草を床に捨てる。そして、それを服と同じ黒い革靴で甚振るように踏みにじった。灰や残っていた葉が、血反吐のように散らばる。
「――末端の奴なんざ、いくらでも替えが利く」
「……了解」
冷徹な笑みを浮かべた男達は、そのまま静かに部屋を後にしていった。それから、数分も経たない内に外から車のエンジン音が鳴り響き、闇へ紛れるかのように遠ざかっていく。
後に残るのは、踏みにじられて真っ二つに千切れた煙草の残骸と、そこから香る独特な臭いのみであった。それはまるで、死臭のように――
プロットから書き上げてる途中、暁の転校先を帝丹高校ではなく怪盗キッドのいる江古田高校に変える案を思い付きました。ですが、帝丹高校に転校できたのは妃弁護士の口添えあってこそと考えると、何の関係もない学校に転校させるのは無理があるので諦めました。
学校まで案内するのをキッドにすれば、竜司と重ねて良い感じになるとは思うんですけどね。
追記:
暁の地元は原作でも正確に説明されていませんが、話の中で地元がどこか決めていないといけなくなってしまったので、静岡県としました。
ですので、事件を捜査したのも静岡県警となっています。コナンで静岡県警といえば横溝警部(兄)ですが、この頃はまだ埼玉県警所属ですので彼は事件に関わっていません。