Muv-Luv -a red shiver-   作:北方線

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ようやくあげれました。待っててくださった方ありがとうございます。
ご期待に添えてるかわかりませんがよろしければ楽しんでいただければ幸いです。



第3話 各々の思惑

 エビルがここら一体のBETAを殲滅するのに時間はかからなかった。

 

戦闘が行われていた空間は真っ赤にそまり、染まっていない

場所を探すことの方が難しい状態だった。

 

そして、この惨状を作り出した当人、エビルは返り血を浴び体中についた血を手で

鬱陶しそうに払っていた。

 

 

 

 

「まったく、手間だけはかけさせてくれるよ」

 

 

 

 

一通り体に付着した体液を払い落としたところで

ランサーについた血を振り払いながらエビルは呟く。

そして後ろの唯依と山城の方をみてとりあえずの無事を確認する。

 

しかし、この惨劇を見たためか二人の顔からは恐怖が滲み出し、山城に至っては体を震わせていた。

その震えが傷ではなく自分を見てだということは彼女らの視線が自分に集中していたことからも

明らかだった。

 

 

まあ当然の反応か…

 

 

とエビルは思った。この惨状を見れば自分が人間でないこと、それが理解できたのだろう。

エビルはその向けられる感情に対して特に何かを感じることがなかったと思っていた。

しかし確かにあった胸に残る僅かな重圧。

それをエビルはまだ悲しみだとは理解していなかった。

 

 

そして、エビルはどうしたものか、と考えていたところある感覚を捉えた。そしてそれがあるものだと感じると

エビルは彼女らに背を向け一気に外をへと飛び出していった。

 

 

振り返ることもなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女らはエビルがここからいなくなったことにより恐怖が薄まっていた。彼女らを襲っていたのは

ただ単に、エビルが血にまみれ悪鬼のように見えたからではない。

未知への恐怖それが大半を占めていたのだ。人間というのは本能的に自らが知らないことに

恐怖を抱く。それは例えばBETAである。知識として知っていてもそれに実際に相対したときに

襲ってくるとなれば知識など何の役にも立たない。事実それが死の八分という壁になって

襲ってくるのだ。

 

 

彼女たちはエビルの戦い、それを見てエビルは戦術機、ましてやパワードスーツなどではない。

それを理解してしまったのだ。私たちとは違う、と。つまり、人間でない、と。

ある意味その理解は必然ともいえる。エビル自身この世界をまだ理解しておらず

全力でないにしろ、その力を隠すわけでもなく披露した。それは唯依らに

エビルが人間でないこと、それを解らせるには十分であった。

 

 

しかし、唯依はエビルが去って数秒後、はっと我を取り戻した。

 

 

そして自分らが恐怖したのは事実にしてもあのまま去らせるべきではなかった、と。

それこそ現状の混乱が残る思考では正しい判断ができていない可能性もあるが、

 

 

彼はもしかして日本を、人間を救える存在だったのでは、人間でないにしてもBETAは同志討ちをしない、

その原則にのっとれば彼、で正しいのかは不明だが、BETAと敵対する種であるはず。

ならばもしかしたら。

 

 

そんな思いが唯依の中で渦巻いていた。

 

 

 

「唯依、ちょっと唯依!」

 

 

 

少し思考に沈んでいた唯依を山城が引き戻す。山城はまだ痛み、恐怖で身体に震えを

残していた。

また、唯依がエビルの去った方向を見ていた間、目の前の現実に山城は直面していた。

先はエビルによって助かったが、そのエビルは去って行った。つまり今彼女らを守ってくれる

存在は何もない。たとえ人間でないにしても、恐怖の対象だとしても今この時は

エビルこそが救世主だったのだ。そのエビルが去った。

 

 

私たちは、見捨てられた…? なんで、なんで! もしかして、彼を恐れたから?

そんなのって…

 

 

しかし、そんな山城の内心を知ってか知らずか唯依はまだあさっての方向を見ていた。

山城はそんな唯依に心の動揺をぶつけるように大きな声を出した。

 

 

 

「唯依! なにしてるのよ、このままじゃ私たちBETAに殺されるのよ! 黙ってないでよ!!」

 

 

 

「…TYPE-00、武御雷」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

唯依のつぶやきに山城は唯依の視線を追う。そこにはゆっくりと風穴の開いた天井から、こちらに

視線を固定しながら、ここに降下してくる青い武御雷の姿があった。

その鋭い眼光は、はっきりと彼女らを捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エビルは唯依たちの前から飛び去ったのち、森林部にその姿を隠していた。

エビルは飛んでいるうちに多数の人の気配を感じその近くに降りていた。その結果それが

京都からの避難民の集団の一部であったのだ。護衛と思われる軍人らしき姿もあり、

流石に今の姿を見せることに抵抗があったため離れた場所からそこをうかがっていたのだ。

 

 

さて、どうしたものかな。

 

 

エビルは少しでも現状況を知りたいため、合流し、何食わぬ顔で難民のふりをして紛れ込むか、

それとも、個人で動くべきかその二つの選択肢を持っていた。

 

そもそもエビルはこの世界、というべきか、それになんとなくだが予想がついていた。ともすれば

あとはそれが真か否か、それを確かめるだけだった。そのためには人の周辺にいれば

自然と会話から情報が得られるだろう、とエビルは考えた。

 

 

そのためにはまず一度人としてまぎれこまないとね。それに、さっきからどうにも…ね。

 

 

そう考えたエビルは一度人の姿に戻った。赤い超人が人の姿に戻りその姿は長めの黒髪に若干

赤色が強い瞳の東洋人になっていた。

 

そしてシンヤは軽く一息吐こうとした。その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っぐがぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

シンヤの体を激痛が襲ったのだ。まるで焼けた鉄の棒を心臓に突き立てられたかのような痛みが

心臓に奔った。

常人ならばこの痛みに失神するほどだったが、シンヤは自身の強靭な精神がそれに耐えてしまい

その苦痛を直に浴び続けたのは不幸だったと言える。

 

膝をつき息を荒げながらもどうにか意識を保ち、思考した。

 

 

 

い、一体どうなってるんだ、こんな所に敵か…い、や、ありえない。エビルの状態の自分が

見逃すはずがない。なら何故…だ。

 

 

 

ふと、シンヤは痛む場所、その原因部に目を落とした。

 

 

 

…なるほどね、そういうことか。

 

 

 

痛む場所の中心は、兄タカヤとの戦いで最後に貫かれた胸部だった。あの時の傷が

心臓にダメージを残しており、テッカマンの時はテッカマンシステムによる強化で誤魔化せていたが

システムを解除した瞬間ダメージがそのまま人間体となったシンヤを襲ってきたのだ。

 

 

 

これは、まずい…ね…、死んだ…かな。

 

 

 

シンヤはどうにか繋ぎとめていた意識をついに手放した。瞼が落ちる直前、こちらに接近する影を

捉えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和の要素が盛り込まれた執務室。そこには二人の人物がいた。青の斯衛服に身を包んだ男性、

そしていかにも研究者だといった白髪をオールバックに撫でつけた壮年の男性。

青の男性は口元に僅かな笑みを携えながら研究者の報告を聞いていた。

 

 

 

「回収したデータを解析したところ、件の二人の衛士が述べていたことは真実でありましょう。

思惑はどうあれ、赤い人型がBETAと戦闘を行っていたことは事実。人語も介すことを

考えれば、いずれかの国の開発した兵器といったのが現実的かと…ですが」

 

 

 

研究者は口ごもりながら後につづける言葉を選ぶ。

 

 

 

「ですが、どうした。かまわん続けよ」

 

 

 

「…映像を解析した限りでは、あのような兵器を作り出すことは現技術力では

まず不可能なのです。もしあり得るとすればそれこそ第4、もしくは第5の方での何かしら

の成果と考えるしかありません。しかしそう考えても…」

 

 

 

「その存在はあり得ないと」

 

 

 

「はい、あの人型はあきらかに今の科学限界を超えています。それこそこの世界のものでない

のではと思えるほどに…」

 

 

 

「…そうか、件の二人ともう一度話してみたい。あとで通してくれ」

 

 

 

「は、了解いたしました」

 

 

 

そういうと科学者は背を向けて部屋から退出した。その姿を見送り青の男性は窓に歩み寄り

外を眺めた。

 

 

 

世界のものでない、か。…第4か第5の成果、そう考えるとまず第4だろうな。香月が提唱していた

因果律量子論。当初こそ眉唾の理論と思っていたが、なかなかどうして侮れんな。

あの理論を前提にすればあの人型の存在もあり得るが、あの女狐が手の内を見せるような

行動をするとも考えにくい。…あくまで可能性の範疇をでんな。

…それとも別の起源生命か。

 

 

 

男が思考の海に沈もうとした時部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。男性はノックの主

に部屋に入るように言うと中央にある応接用の席に向かった。

 

 

 

…赤い人型、人類の牙となるか、それとも…。

 

 

 

男性の口元には僅かな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、こちらの方が今回のお土産です。いやぁ現地民の方がぜひ貴女にというのでね。

なかなかかわいい像だと思いませんか、博士」

 

 

 

 

その男の恰好は研究室には不釣り合いな格好だった。どこか抜けてるようなスーツ姿、目深に

かぶった帽子。街にいれば違和感はない。

しかし今この場においては違和感しかない、といった出で立ちだった。

また、その手に持つ、かろうじて人型だとわかるなぞの像、それがまた怪しさを強調していた。

 

 

 

 

「毎回くだらないことに付き合わせないでちょうだい。さっさと本題に入りなさい」

 

 

 

 

男の声に反応した女性は椅子に座りながら苛々した様子を隠そうともせずに答えた。

 

 

 

 

「これはこれは淑女を怒らせるのは紳士の本懐ではありませんからな。ところで香月博士、

貴女は昔ヒーロー戦隊物をみたことがありますかな? いや、ああいったものは

久しぶりに見ると童心を揺さぶられるものがありますな。そしてやはり憧れるのは

リーダー的な赤い戦士でしてね、博士は何色が好みかとね」

 

 

 

 

「鎧依、いい加減にしないとそのふざけた像ごと手をぶち抜くわよ」

 

 

 

 

「ふむ、それでは仕事に支障が出てしまうので本題に入りましょう。先日の京都からの撤退戦

なかなかに面白い戦闘データがありましてね。そのデータがこちらです」

 

 

 

鎧依は懐からディスクを出し香月に渡す。

 

 

 

 

「ふーん、まあ目は通すけどくだらないものに今余計な時間を割く暇はないの。

この意味わかるわよね?」

 

 

 

 

「それはもう、少なくとも失望させるようなものではないかと」

 

 

 

 

香月の軽い脅しにひるむわけでなくむしろ軽い笑みさえ浮かべて鎧依は返す。

 

 

 

 

「では、そろそろ私は帰ることにしましょう。あまり博士の邪魔をしてもいけませんからな」

 

 

 

「はいはいそうしてちょうだい」

 

 

 

 

香月の投げやりな対応に気を悪くするでもなく鎧依は背を向けて部屋から退出していった。

しっかりと謎の像は応接用のテーブルに置いたまま。

 

 

 

 

鎧依が退出する時には香月はもう渡されたデータを確認していた。初めはつまらなそうに目を

通していたが、ある映像が映った瞬間普段からは想像できないほどに身体を乗り出して

画面を注視していた。

そしてデータに添付されていたある情報にも目を通すと彼女の持つ部隊の隊長を呼び出し

ある場所に向かうように命令した。データにあったとある人物の写真を渡し。

 

 

 

…なるほど、これは無駄ではないわね。仮にどちらに転ぶにせよ可能性は広がる。

手元に持ってこれれば直のこと、少なくとも第5に渡すわけにはいかない。

ともあれ今は事の真偽を確かめることの方が先かしらね。

 

 

 

香月は再び映像に目を移す。そこにはノイズが混じりながらもBETAと戦う赤い人型の何かが

映っていた。そして添付されていた証言データ。赤い人型に救出された衛士によれば人語を介したとされている。

あくまで可能性だがその存在は自身の理論の証明になりえ、またその力も今の人類には何よりも魅力に見える。

それを無駄にはできない、可能であらばその力を自身が利用できればなお良し、

香月はそう考えながら口元にはっきりと笑みを浮かべた。

 

 

 

魔女は魔女なりに世界を救うわ、その罪は全ての後に受ける。

 

 

 

魔女は嗤う、世界を嗤う、自分を嗤う。自分も道化と気付きながらも止まることをしないために、

全てを捨てても止まらぬために。




エビルfigmaかわなきゃ…

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