似てるように頑張ってはいるけども、なんかちょっと違うかもと思うかもしれません。
ある日、海より突如現れた深海棲艦と呼ばれる人の敵と戦う少女達、艦娘。
彼女達艦娘は、現状兵器が効かない深海棲艦に対する唯一の対抗手段である。その身を対価に古の艦を己が身に宿し、日に日に戦力を増していく深海棲艦と戦う。
そんな日々を過ごしている彼女達をサポートし、彼女達を指揮する提督と呼ばれる人物がいる。
海から来る深海棲艦達から地上を死守するために立てられた建物、鎮守府一つ一つに提督は存在する。
この桂島鎮守府にも例外ではなく、提督は存在する。彼の名は鱚田伊千
「提督!」
鱚田はいつも通り夜遅くに書類仕事をしていた。
戦場から帰ってきた艦娘による報告を資料にまとめ、今ある設備に要する資材のまとめ等、艦娘が眠っている夜遅くにやるのが彼の習慣であった。
夜遅くにやるのは、彼女達に少しでも昼間体を休ませたいという鱚田の思いゆえだった。
「どうした?」
本来であれば、この時間は例外を除けば彼女達が眠っている時間帯である。そう。その例外が、執務室の扉を勢いよく開けて入ってきて鱚田の前に立っている彼女、川内である。
「ねえ! 一緒に夜戦しよ!」
聞く人によればそれは卑猥な事に聞こえるだろう。川内の格好、忍者のクノイチの格好も相まって余計に卑猥に聞こえてくる。
しかし、川内の言っている夜戦はそっちの方面の夜戦では無い。文字通り、夜に行う深海棲艦との戦の方だ。
鱚田は川内の言葉を聞くと同時に、椅子の背もたれに掛けていた白い上着を勢いよく羽織ると、壁に掛けてあった古い火縄銃のようなものを取り川内の横を通り過ぎて執務室の扉に手をかける。
「いいだろう! 行くぞ川内!」
「やったー! 待ちに待った夜戦だー!」
ピョンピョンとまるで子供のように跳ねる川内に対して小さな笑みを浮かべる鱚田。その鱚田の様子に気づいたのか、川内は鱚田の横に立ち顔を近づける。
「あれれー? 珍しい! 提督が笑ってる! 普段私達に仏頂面しか見せないのに!」
「……いや、何。普通であれば君たちは今頃普通に学校に行き、普通にオシャレして彼氏を作っているような年頃だ。そんな君たちに大人の身勝手故に、深海棲艦との戦いを押し付けてしまっている。代償……という訳ではないが、私はその遅れなかったひと時の代わりに、君達が喜ぶことを少しでもしたいしさせたい。だから、川内が嬉しいと私も嬉しいのだよ……すまん、口下手でな。これでは分かりづらいか」
真剣な表情で語る鱚田に少々呆気にとられる川内。
(いつも物調面で何を考えているか分からない提督。てっきり自分たちの事など眼中に入れてないものだと思っていた)
(しかしどうだろうか。一つ彼の心に踏み込んでみれば、そこには私達の事がちゃんと考えられている。無論、これが彼の心の全てという訳ではないだろう。だか、それでも少なくとも私達の事を考えてくれている事は分かった)
そう結論付けた川内はなんだか嬉しくなり、鱚田の腕を掴み引っ張る。
「じゃあ、提督。これから毎日私が夜戦したいって言ったら付いてきてくれる?」
「ああ、勿論。それが川内のやりたいことと言うのなら、私は君が飽きるまで付き合うよ」
鱚田の答えに更に嬉しくなった川内は、鱚田の腕を引きながら港に向かって走り出す。
その顔を赤く染めながら。
次の日、鱚田はいつも通り夜遅くに書類を書いていた。
「……そろそろか」
時刻はもうそろそろ十二時を超えようとする時間。ここ最近日課となりつつある川内との夜戦の時間帯だ。
(辛くはない。むしろ川内との夜戦は楽しいといえる。月夜に写る彼女は綺麗であり、砲弾によって舞い上がる水飛沫の中を滑る彼女はまるで……いかん、そろそろ時間だ。準備をせねば)
鱚田は川内が来る前に荷支度を済ませようと机に手をかけ立ち上がろうとするが……
「―――――何?」
鱚田の視界が軽く横にずれる。目がおかしくなったわけではない。鱚田の体が横に倒れかけている。
「くっ!」
倒れようとする体を机に置いていた手に力を込め押しとどめる。
「こんな所で心配をかける訳にはいかん……」
流れる冷や汗を服の袖で拭い、乱れていた息を鱚田は整える。川内が来るまでいつもの調子でいけばあと五分といったところ。
急いで呼吸を整え身支度を済ませる鱚田。
「提督! 夜戦しよ!」
なんとか川内が来るまでに身支度を済ませた鱚田は、川内が執務室の扉を開けたと同時に僅かな微笑みを浮かべて川内を迎え入れる。
「いいぞ。いつも通り、夜戦といくか」
「やったー! 提督、いつもありがとう!」
万歳する川内に対し、鱚田は背中をジワリと流れる冷や汗に何か嫌な予感を感じながら微笑みを崩さないように必死になっていた。
「あー楽しかった! 提督、楽しかったね!」
日が昇り、夜戦から帰ってきた川内と鱚田。
夜戦の最中はとくに何もなく、いつも通り川内と夜の海を暴れまわっただけに終わった。
だが、鱚田は何か嫌な予感を帰ってきた今もなお感じていた。
「ああ、そうだな」
嫌な予感とは対照的に、目の前の川内に鱚田は見惚れていた。
輝く太陽を背に、川内は笑顔を浮かべている。それは、さながらこの地に降り立った女神のようだと鱚田は思った。
「あのバシュッ! と発射された魚雷が当たった瞬間なんてスカッとするよね! それに、飛び交う砲弾の中をギリギリで駆け巡る時は何とも言えない高揚感があるよね! ……って、提督?」
「……ん? あ……ああ、そうだな」
見惚れていたせいか、川内の話を半分程しか聞いていなかった鱚田はから返事を返す。その姿が何かおかしかったのか、川内は首を傾げる。
「……ま、夜遅くまで戦っていたからね! 眠くなるのは分かるよ! ふあ~あ。私、眠くなってきたから寝るね! 提督もちゃんと寝るんだよ? じゃ、また今夜一緒に行こうね!」
手を振りながら走り去っていく川内に、鱚田も弱弱しく手を振りかえす。
「……さて、俺も寝るか」
川内が視界から消えるまで手を振っていた鱚田は部屋に帰ろうと一歩踏み出す。いつもと変わらない一歩……のはずであった。
「あ……?」
視界が急に横にずれる。急いで踏み留まろうにも、鱚田の足はまるで大木にでもなったかのように地に着いて動かない。腕も動かず、ゆっくりと流れるように横にずれる視界のみを感じながら、ただただ倒れた。
「提督!」
鱚田の意識の最後に聞こえたのは、川内と似た声だった。
「……提督」
川内は今、一人で執務室へと着ていた。
そこには仏頂面で、いつも書類を誰もが寝込んでいる時間にやっている鱚田の姿はない。
彼は今、ここにはいない。もう、ここにはいない。鱚田は過労であった。
毎日夜遅くまで川内に付き合い夜戦へと出向き、朝は艦娘である彼女達の誰よりも早く起き、彼女達の為に料理を振る舞っていた。鱚田はこの無茶な生活を続けていった挙句、最終的な睡眠時間は三十分にも満たなかった。
(私が夜戦なんかに誘わなければ、提督があんなことになることはなかった。私が、私なんかが夜、夜戦なんかに誘わなかったら……)
ギュッと両手に拳を作り、川内は唇を噛みしめる。その心は、自身への怒り、バカさ加減。無遠慮さ、後悔、ありとあらゆる負の感情が締めている。
(提督、提督!)
心の中で川内は叫ぶ。ここにはいない彼を。瞳からは大粒の涙を流しながら。ただひたすら、彼を……。
「姉さん……」
「ぐす……神通」
泣いている川内の後ろ。執務室の開かれた扉の向こうにいたのは川内の妹にあたる艦娘、神通であった。
「姉さん、そんなに泣かないで」
「神通……」
執務室に入り、神通は泣いている自身の姉を正面から抱きしめる。優しく、我が子を抱きしめる母のような優しさをもって神通は抱きしめる。
「彼は、姉さんと夜戦が出来て幸せだった。そう……私は思ってる」
「そんなの……関係ない。私が……私が誘いさえしなければ提督は……」
泣きながら言う川内をギュッと更に抱きしめる神通。
「姉さん……」
神通はかける声が見つからなかった。
川内はもう自分自身で完結してしまっている。どれだけ神通が声をかけようが、川内は絶対に受け入れない。もし、川内に言葉を受け入れさせることが出来るとすれば、それはここにはいない、鱚田しかいない。
鱚田がいなくなったあの日から数日後。川内は日に日に元気をなくしていた。
いつもであれば、皆が寝静まった中一人で夜戦に出かけるほど元気であった。しかし、今ではもはやあの頃の元気は見る影もない。
常に雰囲気は暗く、朝昼晩に飯を食べる事もなく一人で部屋に籠っている日もあれば、一人体育座りで浜辺に座り込み死んだ魚のような瞳で海を見ている日もある。
鎮守府にいる艦娘は誰一人として川内に声をかけれない。励まそうと、川内と最も仲の良い神通が元気を出すことが出来なかった時点で、他の艦娘達は諦めた。
(提督……)
今日も一人、川内は浜辺に座り海の向こうを見る。
(大好きだった夜戦の時間である今。それが、今はどこかイラつく時間へとなっていた。自分の大好きであった時間であり、そして提督がいなくなってしまった最悪の時間……)
ボーっと海の向こうを見続ける川内。しかし、川内は何か頭の隅に引っかかる感じがした。
それはどこか懐かしいようであり、イラつく感覚でもあった。
「……深海棲艦」
川内の瞳には、月の光が出ている暗闇の海の上を渡る深海棲艦の姿がはっきりと見えていた。
(これがお門違いなのは理解している。でも、どうしても心が抑えられない!)
鱚田がいなくなったストレスが募りに募った川内の心は爆発寸前であった。そこに、目の前を通っている自分が夜戦の標的としている深海棲艦の姿が。川内は、心の爆発を止める事は出来なかった。
「姉さん!」
気づいた時には、川内は海へ突っ込んで行った。一直線に、深海棲艦を沈めるために……川内の後ろから聞こえる神通の声など無視して。
砲撃の嵐。そう表現されるべき現状。
川内一人に対して、深海棲艦は六隻の混合編成。攪乱ようの駆逐二隻に軽巡一隻。照明係の重巡一隻に攻撃特化型の戦艦二隻である。
砲弾は正面、後方、左右全てから飛んでくる。
攪乱ようの駆逐二隻が川内を挟むように常に左右を陣取り、軽巡は川内の後方を陣取る。正面からは照明役の重巡、戦艦二隻が砲弾を雨あられのごとく降らせ続ける。
「ぁぁぁああああああああ!!!!」
砲弾の嵐の中、川内は海を跳ね、屈み、受け流し、ひたすら砲撃をし続けた。
川内の砲弾は真っ直ぐに吹っ飛び、戦艦へと直撃していく。だが、戦艦特有の重装甲によって阻まれる。
決定打となる川内得意の雷撃は距離から当たる確率が低いためまだ発射していない。一発でも外せば一気に劣勢になる。
だが、距離は縮まらない。常に戦艦と重巡は下がるように移動して砲撃をしてくる。
駆逐艦を仕留めようにも、駆逐艦を狙うと同時に、空が曇ってしまったため完全な暗闇へとなった闇の向こうに逃げ込まれる。軽巡は後ろから攻めてくるため、砲撃をするとすれば後ろを振り向かなければならない。だがそれでは、正面から撃ってくる戦艦の砲撃に背中を見せる事になる。
(何か、何か一手あれば、その内に一足で踏み込んで一気に戦艦二隻を沈めることが出来るのに)
ここにきて、川内は後悔した。怒りに任せず、誰かと一緒に来ればと。
(でも、いつもはこうならないのに……って、あ)
ある考えに気づいてしまった瞬間、川内の体は一瞬だけ止まってしまった。一瞬の隙。その隙に駆逐一隻の砲弾が川内の肩を掠める。
(そうだ。いつも一緒に提督がいたんだった)
何時の時からだろうか、川内は鱚田と一緒に夜戦をやっているのが当たり前になっていた。今も実際、無意識のうちに鱚田と一緒に戦っている気でいたのだ。
(提督……提督!)
戦場であると言う事を忘れ、川内はその場で立ち尽くしてしまった。
好機と見た深海棲艦は全員一斉に砲撃を開始する。
(提督! 提督!)
真っ直ぐに、川内に向かって砲弾は飛んでくる。
「提督……鱚田提督!」
目を瞑り、空を見上げながら川内は大声で叫ぶ。ここには絶対にいるはずのない自分の提督。鱚田提督の名前。
「川内! 避けろ!」
「ッ!」
咄嗟に川内は自身に迫っていた砲弾を見切り避ける。
それは、幻聴であったか。否、川内の耳には鱚田の声が確かに聞こえていた。何十回と夜戦のたびに聞いていた鱚田の声を。
「そのまま突っ込め! サポートはこちらでする!」
「ッ! ァァァァアアアアア!!!!」
鱚田の声に一切の疑いを持たずに、気合を入れながら真っ直ぐ戦艦へと突っ込んでいく川内。
横から飛んでくる砲弾は、後方から聞こえてくる深海棲艦とは違う懐かしい砲撃音と共に撃たれる砲弾によって弾かれる。
「一気に……沈めぇええええ!!」
戦艦二隻と重巡一隻の前へたどり着いた川内は、三隻の前で屈み勢いよく上へ跳び、空から魚雷を三隻に向かって投げつける。
魚雷は爆雷のように三隻へと向かい、一発も外れることなく当たり、三隻は一切の反撃も出来ずに沈んでゆく。
「川内、そのまま振り返って駆逐の一隻を始末しろ! もう一隻はこちらで足止めする!」
鱚田の言葉に即座に反応した川内は空で無理矢理体を捻り、駆逐の一隻へと砲台の標準を合わせる。
曇り空が晴れ、川内の後ろには満月が現れる。
砲台の標準は静かに駆動し、駆逐艦一隻に狙いが定まる。先ほどの完全な暗闇とは違い、今はもう、川内にとっては昼間と変わらない。
「GYAaaaaaaaaa!!!」
真っ直ぐ、無慈悲に砲弾は駆逐艦を貫く。
悲鳴を上げる駆逐艦を川内は気にせず、すぐさまもう一隻の駆逐艦を見る。そこには、白い小舟が駆逐艦の周りをグルグルと周り、時折小舟から火花が舞っているのが目に見える。
再び空中で姿勢を正した川内はノーモーションで駆逐艦を撃ち抜く。
「姉さん!」
軽巡を仕留めようとすかさず向きを変えるが、そこには既に軽巡を沈めこちらに滑ってきている神通の姿があった。
「川内!」
何時の間に移動したのか、川内の足元には先ほどまでうち区間の一隻と戦っていた白い小舟がいた。
白い小舟には、懐かしい火縄銃のような銃と、そして鱚田の姿がある。
「提督!」
川内は腕を広げ、一直線に鱚田へと落ちる。鱚田も、落ちてきた川内を躊躇なく腕を広げ、抱きしめるように受け止める。
「提督! 提督!」
「すまない、川内。約束、守れなかった」
「そんなの、いいよ! 提督が帰って来てくれただけでも、私……」
泣きそうな声を出しながら、川内はギュッと鱚田を抱きしめる。まるで、もう二度と離さないほど。
「すまない。それと、川内」
「なに?」
「ただいま」
「……おがえり!」
ある日の昼の事。鱚田は書類整理をしていた。
戦場から帰ってきた艦娘による報告を資料にまとめ、今ある設備に要する資材のまとめ等。
いつものように書類を片付け、いつものように仏頂面でもくもくとやり続ける。変わらない日々……
「はい、提督!」
「ありがとう、川内」
コトッと机に湯呑が置かれる。中には熱々のお茶が入っている。
「あんまり無理しないでよね? また倒れられでもしたら私……」
「そんなに心配するな。もう倒れたりなどしない。川内を泣かせてしまうからな」
「な! 泣いてなんかないもん! あ、あれはその……」
「ハハ、分かった分かった。川内は泣いてないもんな!」
「もう!」
いや、変わった事はある。仏頂面であった鱚田がよく笑うようになった事。川内が鱚田の秘書官になった事。
そして、川内と鱚田の左手の薬指に結婚指輪がついたなどかな。
色々と聞きたいことはあると思いますが、それはまた今度活動報告でも書いて詳しく説明するかもしれません。