cry arts〈暗鬱〉   作:ぶろむへきしん

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第一話・破壊に徹した研究者〈追憶の二日間〉

 その日は満月の夜だった。森の奥だからか、星もくっきりと見える。

 陽の光がダメな僕が光に縋るとするならば夜の光にすがるしかない。

 ここに閉じ込められた自分の唯一無二の楽しみでもあった。

 今日も見回りが来る。僕達の事を蔑む奴らもいる。そんな人生はもう懲り懲りだ、そう思っていた矢先だった。

 

「なあ、ここから出てみたくないか?何倍も広い外の世界へ。」

 ある研究者は囚われの身である僕にそう話しかけた。

 

「一つ、賭けてみたいんだよ。俺はどうも人を奴隷みたいに扱うのが苦手な性分でね…」

 研究者は御神と名乗った。確かに脱走も可能な話である。ただし、研究者側でしか不可能な話ではあったが。

 この部屋の入口には警備員がいない。機械で全て操作されているからだ。

 前に一人の研究者の言葉を盗み聞きした所では、この森は研究特区になっていてどの国よりも一歩科学技術が進んでいる。その為国のトップしか認識しておらず、ここの存在も空き地扱いで国に隠蔽され部外者は入れないという方針にされている。つまり警察すらここの存在を知らないのだ。

「なあ、どうするよ、被験体…いや、合祇暗羅(あうかみあんら)君、と呼ぼうかな?」

 合祇暗羅(あうかみあんら)…僕の名前だ。まあ仮初の名前のようなものだ。

(僕は誘拐されたわけではない。両親がおらず生まれからずっと色々な研究の被験体で元々僕には名前がなかった。前に表向きの名前を決める際に少しの教育を受けて習った漢字を使って名前を組み立てただけだ。)

 

 この御神という研究者は本気らしい。少なくともこの脱走、研究者側にメリットがあるとは思えない。それに、彼の眼差しから嘘をついているとは思えないのだ。人付き合いをしたことがあまりなくともわかる、とても真っ直ぐな眼差し…

 そして僕は決意した。 

 他の研究者どもの奴隷になってたまるか。このまま一生奴隷でそのまま殺されるかもしれない、そんな生活はもう懲り懲りだ。

 研究はより残酷性を増している。何度も何度も激痛が走り将来を絶望することが多々あった。そんな自分を希望という名の割れやすいであろう板で押さえつけて自我はなんとか保てていた。よくここまで耐えれたと思っている。その希望と言う名の板は今の言葉で一気に固くなった。折角のチャンスだ、逃すわけにはいかない。

「その返事を待っていたさ。善は急げというから、明日決行する。この紙を渡す、お前達はその手順で行ってくれ。検討を祈る。」

 御神はそういうと振り返りその場を立ち去る。僕はその姿を今は見ていることしかできなかったが、明日には囚われの身から開放できる、そう信じている。

 

 目覚めはあまり良くなかった。相方も既に起きているらしい。

 窓から入る陽が眩しい、そして苦しみを覚える。窓に日光遮断用の布をかけて、僕は相方に昨日のことを説明した。

 この数日間で今では大分仲良くなった相方、疋田永次(せんだのりつぐ)とは最初は仲が悪かった。それでも、今では信頼できる友人だ。

 

 陽が暮れる。そろそろ決行の時間だ。

 御神が用意しておいたプログラムで機械をハッキングし始める。

 それでまずはシャッターを動かし逃走。見つかったら「cry-arts」の性質を利用し影を止める。そして研究棟を出ると、先に御神が居た。

「よし、耳を塞げ」

 言われるままにして耳を塞ぐ。すると、銃声のような鋭い爆発音と共に研究棟が破裂した。内部の人間は燃え盛る火により焼け焦げ、薬品のせいか灰と化した人間もいる。そこはまさに地獄と言ってもいい状況で、僕は目の当たりにすることができず途中から目を瞑った。疋田永次も目を塞いでいることだろう。些か中学生に等しい年齢の僕らにはまだ早すぎたようだ。人は何人死んだだろうか。この中に家族がいた人間だっているのだろう、まあ僕はそんなものは知らない。

 閉じ込めたこいつらが、悪いんだ。僕達はなにも悪くない、そう言い聞かせることにした。

 

「ここに生き残った三人は、そのうちの『破壊に徹した研究者』によって生き延びた」

 

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