静かに、二人の後輩は決意する。   作:いろはにほへと✍︎

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When one is in love, one always begins by deceiving one’s self, and one always ends by deceiving others.
That is what the world calls a romance.

―Oscar Wilde―

『人が恋をする時、それはまず、自己を欺くことによって始まり、また、他人を欺くことによって終わる。世界はそれをロマンスと呼ぶ』



予期せぬ邂逅

 クリスマスイベントを終えるころには、街はすっかり冷え切っていた。

 

 その寒さは新学期を迎えた今日もなお続いていて、ときどき窓から隙間風が入ってきては私の肩を震わせる。

  

 帰りのSHRを終えると、私は迷うことなく特別棟へ向かった。

 

 もちろん、奉仕部だ。生徒会室でも、サッカー部でもない、紅茶の香り漂う部屋。

 着くと私はノックすることなく戸を開いた。

 

 「平塚先生、あれほどノック……、一色さんだったのね」

 

 「どうもです、雪ノ下先輩」

 

 私が挨拶ともいえないような挨拶をすると、雪ノ下先輩は立ち上がってポットのある方に向かう。

 

 「いつもありがとうございますー」

 

 「あら、それは本当に思っているのかしら」

 

 「もちろんですよー、あ、そういえば雪ノ下先輩って……」

 

 言いかけて、ガラガラ、と勢いよく戸を開く音に遮られる。

 

 「やっはろー! ゆきのん!」

 

 「よう」

 

 「こんにちは、由比ヶ浜さん」

 

 「ナチュラルにスルーするのやめてくれない?」

 

 「あら、いたのね。ヒキ……、ヒキガエルくん」

 

 「なんで俺の小四の頃のあだ名知ってんだよ、お前」

 

 「小四の頃にはまだ人の視界に入っていたのね」

 

 言うと、雪ノ下先輩は勝ち誇ったような顔になった。先輩は呆れたように「まあな」と一言呟くと、視線を私に移した。

 

 「よう、一色。居たのか」

 

 先輩の冷たい反応に、私も冷たい声で返す。

 

 「居ましたよ、ヒキガエル先輩より先に」

 

 「お前もかよ。……最近、お前よくこっち来るけど生徒会とかは?」

 

 先輩の核心を突くような質問に私は一瞬狼狽えた。

 

 「え、えー、まあ。生徒会はこの時期仕事少ないですし……」

 

 「あれ、いろはちゃん、サッカー部は?」

 

 「あー、今の時期って寒いじゃないですかー?」

 

 「寒いからって行かなくていいのかしら?」

 

 雪ノ下先輩の咎めるような発言に思わず言葉に詰まる。

 

 「ええ、まあ。行く目的もなくなりましたから……」

 

 葉山先輩目的で入ったサッカー部なのだから、今はもう目的はないのだ。

 

 「え、それって……」

 

 結衣先輩が察したように、言葉を漏らす。

……敵増えちゃいましたね。

でも優しい結衣先輩のことだから仲良くできることの方が嬉しいんだろうな。まったく、私が男だったら即告白してますよ? 先輩。

 

 「葉山は諦めたのか」

 

 確認のようで、先輩が呟いた。

 

 「そうですけど……、普通そんなふうに聞きますか?」

 

 私が落ち込んだように尋ねると、「悪い」と一言だけ返された。

 

 「まあ、いいですよ。ほかに好きな人できたので」

 

 「そうか、早いな」

 

 先輩は、少し申し訳なさそうな表情になった。どうやらモノレールの中でのことを気にしているようだ。

 

 「多分、葉山先輩に告白するより前から好きだったと思うんですよねー」

 

 言うと、結衣先輩が苦笑いになった。葉山先輩がよく見せたその表情で、私は聞きたかったことを思い出した。

 

 「あ、そういえば雪ノ下先輩。葉山先輩と付き合ってるって本当ですかー?」

 

 間があいた。それも居心地の悪い間が。

 

 顔を上げると、雪ノ下先輩が凍てつくような笑顔で私を見つめていた。

 

 「一色さん?」

 

 「は、はいぃ」

 

 「そんなことあるはずないでしょう?」

 

 「で、ですよねー、私もそう思ってましたー」

 

 雪ノ下先輩の恐怖から逃れるため、とりあえず同調すると結衣先輩が噂の理由を説明していた。

 

 「……なるほど、下衆の勘繰りというやつね」

 

 雪ノ下先輩が呟くと、戸が叩かれた。

 

 「あ、優美子。どうしたの」

 

 返事をする間もなく入ってきたのは三浦先輩だった。……まあ、噂のことだろう。

 

 「じゃあ、先輩。進路相談会のことよろしくお願いしますね」

 

 これから起こるだろう面倒の予感に目を逸らして、私は教室を出た。

 

 × × ×

 

 彼女に出会ったのは、三浦の相談を受けた翌日のことだった。

 

 いつものように、ベストプレイスで昼食をとっていた俺は背後から近づく足音に気付き、横目で確認しようとすると同時に声をかけられた。

 

 「どうも、先輩」

 

 一色かと思い、短く返事をした。

 

 「おう、何か用?」

 

 返事をしてから気付いた。……一色ってこんな声だっけ。

 

 俺の動揺をよそに、彼女は俺の隣に腰掛ける。仕方なく彼女を見ると、俺は固まった。

 

 透き通るような白い肌に、潮風に揺れる髪。整った顔立ちに、すらりとしたスタイル。彼女の美しさを表すようなその大きな瞳は、嬉しそうにこちらを見つめていた。

 

 ……俺の周り美女率高いな。

 

 「え、えっと会ったことあったか?」

 

 俺がしどろもどろに尋ねると、彼女は少し悲しそうな表情になって何か呟いた。それをうまく聞き取れなくて、聞きなおそうとすると、ふいに彼女が立ち上がった。

 

 「こんにちは、ヒキタニ先輩! 一年F組 高海 美奈です!」

 

 突然の美少女との邂逅に驚かされていたが、おかげで冷静になれた。

 

……俺は、俺の名前は、ヒキガヤだ。

 





初めまして!!!

この作品以外にも

俺ガイル×中二恋
俺ガイル×ラブライブ
オリジナル作品 さようならかぐや姫

等書いています!

ぜひ目を通してみてください!

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