―John Lennon―
『愛とは、育てなくてはいけない花のようなもの』
葉山たちと別れ、家路につく。
考えてみれば、佐藤が誰なのか全く知らないわけで、むしろなぜ俺のことを分かっていたのかが不思議だ。
……マジでストーカーなんじゃないか。危ないよ、美奈ちゃん!
まあ、葉山のおかげで、土下座という日本伝統のポージングをとらなくて済んだわけだが、やはり解せない。
自転車を降り、駐輪する。
玄関の戸を開けようとすると、同時に聞き慣れない音が聞こえて、動きを止める。
もう一度鳴って、音の主が自分の「暇つぶし機能付き目覚まし時計」だと気づいた。
Amazonになにかを頼んだ覚えがなくて、戸にかけていた手を話し、操作する。
Re︰タカミミナ
送信元を確認して、電源を切る。
……おい、登録した覚えないぞ。
× × ×
『それで? なに』
『あ、もう気にしてないんですね』
『そりゃな』
気にしない、というのは高海が俺の電話番号を知ってることである。メールを無視していると、夕食を終える頃に電話がかかってきたのだ。
普段通りなら無視するところだが、小町に一コール以内に出ろと教育されていたため、思わず出てしまった。
『特に用はないんですけどー』
『あ、そう。じゃあな』
『ちょっと待ってください! なにかお話しましょーよ』
『用はないんだろ、よって話す内容もない』
『はぁ。比企谷先輩、だから……』
『おい、何を略した』
『別に友達いないとか全く思ってないですよ?』
『思ってんじゃねえか』
高海に言い返したところで、ふいに思い出す。
少し尋ねるだけなら問題ないだろう。
『お前、佐藤ってたぶん三年知ってるか? 男の』
『……なんで先輩が知ってるんですか』
『あ、あーいや』
高海の返しが妙に威圧的で、思わず言い淀む。
もしかして、彼氏(笑)かな?
まあ、そんな茶化すようなことをわざわざいう必要も無いと思って、口から出すのを躊躇った。
『で、その佐藤先輩がどうかしたんですか?』
『いや……別に。前に一緒にいるところを見たことがあってな。佐藤先輩は俺の知ってる人だったし……』
『じゃあ、知ってるかって聞き方おかしくありませんかー?』
『あ』
確かにそれもそうだ。話しているところを見たなら、名前まで知っているのなら尚更おかしなことを聞いていた。
……ごまかし癖が仇となったか。
『なにかされたんですか?』
『は? なにか?』
『先輩、知らないんですか? 佐藤先輩は暴力的で有名ですよ』
『すまん、友達いないから』
『で、どうなんですか?』
渾身の、とまではいかないが俺の自虐ネタはスルーされた。
『……あの人なぜか私にだけは優しいんですよね』
高海が付け足すように言った。
俺はもちろん、頷いた。
……でしょうね! ストーカー先輩!
『安心しろ、俺は特に何もされてない』
『本当ですか……?』
『お、おう。どうしたんだそんな心配そうに』
『へえ、先輩。私に嘘をつくとは』
『……嘘ってなんだよ』
『先輩、なんで私が今日電話をかけたか未だに分からないんですか?』
『ああ、分からないが』
嘘だった、本当は察していた。
だが、もしも見ていないとしたら、カマをかけているだけだとしたら、バレてしまう。
そう考えて、咄嗟にでた言葉だった。
……さっきから咄嗟の嘘がバレてるんですけど大丈夫ですか……?
『私、最後の方だけですけど見ましたよ。部活を終えて外に出た時』
『何を』
『佐藤先輩を。……あと比企谷先輩も』
『……』
俺が返事をうまくできなくて、沈黙が起こる。
……しばらく近くにいて思ったけど、こいつ何するか分からないんだよなあ。
言葉選びは慎重に……。
『で? 俺と佐藤先輩がどうしたって?』
『比企谷先輩が土下座しかけてました』
『おい、そこからかよ』
思わずツッコミを入れる。まさかそのシーンだとは。
『証拠がないだろ。裁判にせよ、何にせよ、証拠が必要だ』
『裁判? 私がなにかするとでも?』
『あ』
またもやってしまった。完全にやぶ蛇だ。
『いや、だから、ものの喩えでだな』
『安心してください、私は何もしませんから』
『え?』
高海の宣言に、拍子抜けする。
こいつは何をしでかすか分からないと思っていただけに、だ。
意外だが、もしかしてこいつは人に強く出れないのか?
『そうか、よかったよ』
『まあ、わ・た・しは何もしませんよ』
『おい、どういう意味だ。誰かほかにもいるのか?』
一応、尋ねてはみる。
……だが、思い浮かばない。
俺みたいに人望のない、かつ閉じたコミュニティしか持っていない、そんな俺を擁護するヤツなど、同情した高海以外思い浮かばないのだ。
……奉仕部。いやあれはまずい。あの部、基、雪ノ下雪乃にバレたら佐藤は不登校になってしまう。
『まあ、そうですね。ちなみに私が学校から出た時は、い・ろ・はがいましたよ』
そうだ、俺は失念していた。こいつら、高海と一色が最近仲良くなったのを。
いつからいろはなんて呼ぶ様になったのか、そんなことはどうでも良い。
……本当に警戒するべきは一色だったか。
中二恋も読んでもらえると嬉しいです。