静かに、二人の後輩は決意する。   作:いろはにほへと✍︎

5 / 16
Love is like a flower – you’ve got to let it grow.

―John Lennon―

『愛とは、育てなくてはいけない花のようなもの』



覗いていた影

 葉山たちと別れ、家路につく。

 考えてみれば、佐藤が誰なのか全く知らないわけで、むしろなぜ俺のことを分かっていたのかが不思議だ。

 ……マジでストーカーなんじゃないか。危ないよ、美奈ちゃん!

 まあ、葉山のおかげで、土下座という日本伝統のポージングをとらなくて済んだわけだが、やはり解せない。

 自転車を降り、駐輪する。

 玄関の戸を開けようとすると、同時に聞き慣れない音が聞こえて、動きを止める。

 もう一度鳴って、音の主が自分の「暇つぶし機能付き目覚まし時計」だと気づいた。

 Amazonになにかを頼んだ覚えがなくて、戸にかけていた手を話し、操作する。

 

 Re︰タカミミナ

 

 送信元を確認して、電源を切る。

 ……おい、登録した覚えないぞ。

 

 × × ×

 

 『それで? なに』

 『あ、もう気にしてないんですね』

 『そりゃな』

 

 気にしない、というのは高海が俺の電話番号を知ってることである。メールを無視していると、夕食を終える頃に電話がかかってきたのだ。

 普段通りなら無視するところだが、小町に一コール以内に出ろと教育されていたため、思わず出てしまった。

 

 『特に用はないんですけどー』

 『あ、そう。じゃあな』

 『ちょっと待ってください! なにかお話しましょーよ』

 『用はないんだろ、よって話す内容もない』

 『はぁ。比企谷先輩、だから……』

 『おい、何を略した』

 『別に友達いないとか全く思ってないですよ?』

 『思ってんじゃねえか』

 

 高海に言い返したところで、ふいに思い出す。

 少し尋ねるだけなら問題ないだろう。

 

 『お前、佐藤ってたぶん三年知ってるか? 男の』

 『……なんで先輩が知ってるんですか』

 『あ、あーいや』

 

 高海の返しが妙に威圧的で、思わず言い淀む。

 もしかして、彼氏(笑)かな?

 まあ、そんな茶化すようなことをわざわざいう必要も無いと思って、口から出すのを躊躇った。

 

 『で、その佐藤先輩がどうかしたんですか?』

 『いや……別に。前に一緒にいるところを見たことがあってな。佐藤先輩は俺の知ってる人だったし……』

 『じゃあ、知ってるかって聞き方おかしくありませんかー?』

 『あ』

 

 確かにそれもそうだ。話しているところを見たなら、名前まで知っているのなら尚更おかしなことを聞いていた。

 ……ごまかし癖が仇となったか。

 

 『なにかされたんですか?』

 『は? なにか?』

 『先輩、知らないんですか? 佐藤先輩は暴力的で有名ですよ』

 『すまん、友達いないから』

 『で、どうなんですか?』

 

 渾身の、とまではいかないが俺の自虐ネタはスルーされた。

 

 『……あの人なぜか私にだけは優しいんですよね』

 

 高海が付け足すように言った。

 俺はもちろん、頷いた。

 ……でしょうね! ストーカー先輩!

 

 『安心しろ、俺は特に何もされてない』

 『本当ですか……?』

 『お、おう。どうしたんだそんな心配そうに』

 『へえ、先輩。私に嘘をつくとは』

 『……嘘ってなんだよ』

 『先輩、なんで私が今日電話をかけたか未だに分からないんですか?』

 『ああ、分からないが』

 

 嘘だった、本当は察していた。

 だが、もしも見ていないとしたら、カマをかけているだけだとしたら、バレてしまう。

 そう考えて、咄嗟にでた言葉だった。

 ……さっきから咄嗟の嘘がバレてるんですけど大丈夫ですか……?

 

 『私、最後の方だけですけど見ましたよ。部活を終えて外に出た時』

 『何を』

 『佐藤先輩を。……あと比企谷先輩も』

 『……』

 

 俺が返事をうまくできなくて、沈黙が起こる。

 ……しばらく近くにいて思ったけど、こいつ何するか分からないんだよなあ。

 言葉選びは慎重に……。

 

 『で? 俺と佐藤先輩がどうしたって?』

 『比企谷先輩が土下座しかけてました』

 『おい、そこからかよ』

 

 思わずツッコミを入れる。まさかそのシーンだとは。

 

 『証拠がないだろ。裁判にせよ、何にせよ、証拠が必要だ』

 『裁判? 私がなにかするとでも?』

 『あ』

 

 またもやってしまった。完全にやぶ蛇だ。

 

 『いや、だから、ものの喩えでだな』

 『安心してください、私は何もしませんから』

 『え?』

 

 高海の宣言に、拍子抜けする。

 こいつは何をしでかすか分からないと思っていただけに、だ。

 意外だが、もしかしてこいつは人に強く出れないのか?

 

 『そうか、よかったよ』

 『まあ、わ・た・しは何もしませんよ』

 『おい、どういう意味だ。誰かほかにもいるのか?』

 

 一応、尋ねてはみる。

 ……だが、思い浮かばない。

 俺みたいに人望のない、かつ閉じたコミュニティしか持っていない、そんな俺を擁護するヤツなど、同情した高海以外思い浮かばないのだ。

 ……奉仕部。いやあれはまずい。あの部、基、雪ノ下雪乃にバレたら佐藤は不登校になってしまう。

 

 『まあ、そうですね。ちなみに私が学校から出た時は、い・ろ・はがいましたよ』

 

 そうだ、俺は失念していた。こいつら、高海と一色が最近仲良くなったのを。

 いつからいろはなんて呼ぶ様になったのか、そんなことはどうでも良い。

 

 ……本当に警戒するべきは一色だったか。

 




中二恋も読んでもらえると嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。