「パンパンダバダバスーパーデリシャスホワイトハイパーウルトラドーン!」
呪文を唱え終えた直後、アンダーバーはいつも伸ばしている腰を曲げ、手を垂らし、表情も見えないほど俯いた。
そこにいる誰もが固唾を飲んで見守る中、アンダーバーはゆっくりと腰を伸ばし、鋭い眼光で自らに催眠をかけたパンダーバーを射抜いた。
その瞳に光はなく、絶望に染まっているように見える。
その闇に気圧され、1人として口を開くことが出来ないかと思われたが、キティはその身を拘束されながらもアンダーバーの名前を叫んだ。
「アンダーバー!目を覚まして!」
穢れを知らない澄んだ声を響かせるが、アンダーバーはピクリともしない。
その様子を見たパンダーバーは自分の催眠術がアンダーバーに完全にかかった事を確信し、自らのステッキを天に掲げ、誇らしげな笑みを浮かべた。
「アンダーバーはもう闇の住人だば!後はキティを…」
「待って…!」
家来ダーバー1号2号とダニエルの3人に取り押さえられ、身動きの取れないキティにパンダーバーが催眠術をかけようと動き出すと、新人家来ダーバーが声を上げた。
「何だば?今いい所だから邪魔するなだば!」
「キティちゃんは解放するって約束だったじゃない!」
「そんなこと知らないだば~」
「そんな…!」
パンダーバーはステッキを楽しげに振りながら愉快そうに笑った。
新人家来ダーバーが悔しさに下唇を噛み、俯いたその視線の先には眩い輝きを放つ宝石が自らの腕に抱かれていた。
「あなた…これが欲しいって言ってたでしょ?」
「欲しいだば!」
欲望に忠実なパンダーバーは即座に宝石を奪い取ろうとするが、新人家来ダーバーは咄嗟に宝石を守った。
「この宝石と、キティちゃん…交換しない!?」
「……分かっただば!早く寄越せだば!」
「駄目よ!キティちゃんを先に解放して!」
今度こそキティを解放させようと意気込む新人家来ダーバーと、両方手に入れようとする欲張りなパンダーバーの睨み合いが続く中、今まで沈黙を続けていたアンダーバーが口を開いた。
「……それは僕のものだ。」
「王様…!?」
「宝石は私のモノだば!お前は引っ込んでるだば!」
パンダーバーはステッキをアンダーバーに真っ直ぐ向けて従わせようと命令するが、アンダーバーは臆することもなくそのステッキを片手で掴んでみせた。
「この星の支配者は僕だ。僕が国王で、法だ。この星に存在するもの、全てが僕のものなんだよ。」
一切の光を許さないアンダーバーの瞳に射抜かれ、自らに能力100倍の催眠術を掛けたことも忘れるほどの恐怖がパンダーバーの身を包んだ。
「…うん。好きだよ、そういう顔。」
好き、という言葉には似つかわしくない無表情でアンダーバーはパンダーバーに囁いた。
その違和がさらに恐怖を助長させ、パンダーバーはついに自らの手からステッキを離し、腰を抜かして座り込んでしまった。
「お、お前は…何者だば!?」
「自己紹介は済ませた筈だけど……。」
震えながらも精一杯の声で叫んだパンダーバーに対し、アンダーバーは自らの手中に収まったステッキを弄りながら、鬱陶しそうな表情で見下ろした。
「僕は、この星の支配者。恐怖と絶望を与える……アンダーバーだ。」
アンダーバーはそのままステッキの先端を片手で粉々にしてしまった。
その破片は真っ白な手袋を突き破り、赤に染め上げていく。
「アンダーバー!手が…!」
新人家来ダーバーとキティは小さな悲鳴を上げながら怪我の様子を心配するが、アンダーバー本人は目もくれず、興味なさげにステッキをその場に捨てた。
「あ…あぁ…」
パンダーバーは怯えきった様子で粉々に砕かれたステッキを這い蹲うようにかき集めた。
その破片についた赤色を見つけたパンダーバーは背筋が震えるのを自覚した。
アンダーバーはパンダーバーに目を向けることなく、その様子をただ見つめていた家来ダーバー1号2号、そしてダニエルを見据えた。
「この星の王は誰だ?」
「あなたです、アンダーバー様。」
アンダーバーからの問い掛けに間髪入れずに答えた家来ダーバー1号2号はパンダーバーの横を無駄のない動きで通り抜け、アンダーバーの目の前に跪いた。
その後にダニエルも続き、跪いて頭をたれる。
「1号2号パイセン…!」
家来ダーバー1号2号がアンダーバーに跪くことは自然な光景であるはずなのに、新人家来ダーバーは2人の名前を縋るような声音で呼んだ。
3人の拘束から解放されたキティは新人家来ダーバーに駆け寄り、その震える肩を抱いた。
「キティちゃん、どうしよう…!王様も、パイセンたちも…!」
「きっと、解決策がある筈よ!希望を捨てちゃダメ!」
今にも泣き出しそうな新人家来ダーバーをキティの光が溢れ出るような瞳と言葉で励ました。
「そ、そうだ…!パンダバ!王様の催眠術だけでも解いてよ…!お願い!!」
新人家来ダーバーは砕け散ったステッキを膝をついて見つめ、何も言葉を発していなかったパンダーバーに語りかけるが、パンダーバーは首を数回横に振った。
「どうして!?あなたもこんな事になるなんて…って思ってるんじゃないの!?闇の世界なんて…!あっ、宝石もあげるから!!」
「お願い、パンダバ!」
家来ダーバーとキティの必死の訴えにパンダーバーはゆっくりと顔を上げ、砕かれたステッキの破片を1つ、2人の前に掲げた。
「催眠術はステッキを使わないと出来ないだば。だけどこんな粉々になっちゃっただば。
もう催眠術をかけることも、解くことも出来ないだば…!」
「そんな…!?」
打ちひしがれそうになる新人家来ダーバーに不意に白いグローブをはめた左手が差し出された。その手の持ち主は、やり取りを静かに見守っていたアンダーバーであった。
「王様……?」
表情からなにも読み取ることはできないが、その手は確かに今まで差し出されてきたものと遜色なく、新人家来ダーバーは戸惑いながらも、手を取るためにゆっくりと近づいて行った。
新人家来ダーバーが右手を差し出すと、アンダーバーがゆらりと動いた。
「新人家来ダーバー!ダメ!」
キティの叫びに振り返ろうとした瞬間、新人家来ダーバーは腹に強い衝撃を受けた。
何が起きたか分からぬまま、新人家来ダーバーは吹き飛ばされ、宝石も手から離れてしまった。
地面を転がる宝石をアンダーバーが新人家来ダーバーに差し出していた左手で拾い上げ、傷が付いていないか様々な角度から眺めた。
新人家来ダーバーは痛みにより起き上がることも出来ない。
自らの腹を抑えながらアンダーバーを見つめるが、アンダーバーは宝石にしか興味が無いようだった。
その様子に先程まで新人の自分にも優しく接していてくれていた主に蹴り飛ばされたのだと急に理解した。
途端に、新人家来ダーバーの瞳から涙が溢れ出した。
「王様…どうして…」
「…いいね、その顔。」
新人家来ダーバーの苦しげな声を聞いて、アンダーバーはやっと目を向けた。
冷たい瞳で宝石を脇に抱えながら、涙を流す新人家来ダーバーを見下ろした。
その瞳に抗うように新人家来ダーバーはアンダーバーを真っ直ぐ見つめようとするが、とめどなく溢れ出る涙を止めることは出来なかった。
「大丈夫!?」
慌てて駆け寄ってきたキティは新人家来ダーバーの容態を確認するが、新人家来ダーバーは涙を流すだけで何も応えられない。
「アンダーバー!絶対にあなたを元に戻してみせるわ…!」
力強いキティの言葉にアンダーバーの表情が一瞬歪んだ。
キティは新人家来ダーバーに肩を貸し、打ちひしがれるパンダーバーの手を引き、アンダーバーの前から走り去った。
「…城の地下に牢獄を作れ。大至急だ。」
「アン!」
家来ダーバ1号2号とダニエルが声を揃えて返事をしたのを確認したアンダーバーは、やはり無表情のまま宝石を片腕で抱えながらアンダーバー城へと向かった。
先刻まで輝いていたアンダーバー星の空は陰り、希望に溢れていたアンダーバーランドは徐々に暗い絶望に浸食され始めていた。
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