日が暮れ、月が空の一番高いところまで登った頃、アンダーバーは製作中の地下牢に降りてきた。
そこは静寂に包まれ、事切れたように地面に伏して眠っている家来ダーバー1号2号の姿がある。
泥のように眠る2人はアンダーバーの足音に気付けなかったが、浅い眠りを繰り返していたダニエルは目を覚ました。
眠っているところを見つかればまた酷いことをされるかもしれない、とどうにか2人を起こす方法を考えるが鉄格子が邪魔をして何も出来ない。
意を決して声を上げようとした瞬間、暗がりの中でアンダーバーが人差し指を立てて息を漏らした。
小さい子に言い聞かせるようなその注意の仕方は、先程までのアンダーバーとは別人のようでダニエルは何も言えなくなってしまった。
アンダーバーはダニエルが口を閉じたのを確認すると、足下に転がっている家来ダーバー1号2号の傍にしゃがみ、その姿を見つめる。
変形した小指、腫れた肩、他にも見るだけで痛いほどの傷が見受けられるが2人の寝顔は至って穏やかだった。
アンダーバーは険しい表情で歯軋りをし、どこかぎこちない動きで立ち上がって2人を跨いで奥の方へと姿を消した。
ダニエルはアンダーバーの意図がわからず、暗がりに目を凝らしていると、暗闇から荷物を抱えたアンダーバーが戻ってきた。
抱えられた荷物は2組の薄い敷き布団のようだ。
アンダーバーは手際よくそれを床に敷くと、家来ダーバー1号2号を出来る限り優しく抱き上げ、1人ずつその敷き布団の上に寝かせた。
「アンダーバー…?」
目を覚まさない2人を見下ろしているアンダーバーにダニエルは堪らず声を掛けた。
静かな空間で響いたはずのダニエルの声はアンダーバーにその声は届かなかった。
アンダーバーは徐ろに白いマントを外し、大きく広げて並んで眠る2人の上にふわりとかけた。
「おやすみ。」
小さく呟いてから、アンダーバーは灯っていた蝋燭の火を一つずつ自分の息で消していく。最後の一つとなった時、ダニエルとアンダーバーは一瞬だけ目が合った。
完全に光が消えた暗闇の中で、ダニエルは涙が止まらなかった。最後に見えたアンダーバーの瞳は間違いなく悲しみに溢れていた。
ダニエルは遠ざかる靴音を聞きながら家来ダーバーたちを起こさないよう嗚咽をかみ殺した。
地下から暗い階段を登って明るい城内に戻ってきたアンダーバーは明暗の差に目が眩んだ。
地下へ続く扉をしっかりと閉め、壁伝いに部屋に戻ろうとしたがふらつく足が絡まり、その場に膝をついてしまった。
アンダーバーはそのまま立ち上がろうとはせず、唸り声を上げながらその場で頭を抱えた。
くすんだ銀色の髪の毛を掻き毟り、溢れ出てくる苦しげな声を抑えつけようとするが声は漏れ出てくる。
頭が割れそうなほど痛み、何も入っていないはずの胃から何かがせり上がってくる感覚がアンダーバーを襲った。
見慣れた笑顔と、恐怖に染まった友達だった人々の顔が割れそうな頭の中を掻き回し、視界もぐるぐると回る。
アンダーバーは頭を床に額から血が出るほど何度も打ち付け、その顔を消し去ろうとするがどうにも上手くいかない。
頭を抱えたまま土下座のような体勢でアンダーバーは小さな血溜まりに透明な水滴が落ちていくのを間近で見つめた。
「何が希望だ……笑顔だ……、僕は、何を……」
ブツブツと呟きながらアンダーバーはもう1度強く頭を床に打ち付けた。
頭蓋骨にヒビが入ったのではないかと思うほどの衝撃に、額が切れ、視界がチカチカと点滅した。
「馬鹿馬鹿しい。」
思い描いていたものよりどす黒く冷たい自分の声に背筋が震えた。心臓のあたりで暴れ回る熱いものが徐々に冷えていく。
何か一番大事なものを失いそうな感覚に、アンダーバーは血溜まりに額をこすりつけながら胸のあたりを強く掴んだ。
「……僕は誰だ。」
その言葉を最後に、アンダーバーは口を結び、1人で痛む頭と冷める心臓を抱えて朝までそこに蹲っていた。