石鹸の香りを身にまとい、家来ダーバー1号2号は純白になったマントを王へと返すために長い廊下を歩いていた。
入浴したついでに傷口の処理をして、適当な食事もとった2人の足取りは今朝に比べて格段に軽い。
足音を立てないよう廊下を進むと、猫背気味の王様が帽子を脇に抱えて前から歩いてくるのが見えた。
アンダーバーも家来ダーバーの2人に気付いているだろうが、一瞥もくれることは無い。
家来ダーバー1号2号は生唾を飲み込み、意を決してアンダーバーに呼びかけた。
アンダーバーは仕方なさげに2人に視線を送り、小綺麗になっている容貌を確認した。
「お待たせ致しました、マントでございます。……お召しになりますか?」
アンダーバーの側まで寄り、2号がマントを差し出すと、アンダーバーは何も言わずにそれを手に取り自分の手でマントを装着した。
「お出掛けですか…?」
「うん」
震えをなんとか抑えた1号の問い掛けに、アンダーバーは簡潔に答え、家来ダーバーたちの横をすり抜けていく際に帽子を深くかぶった。
一瞬だけ目が合ったアンダーバーはなにか言おうとしたのか、口を開いたがすぐに閉じて足早にその場を去ってしまった。
新人家来ダーバー1号2号はアンダーバーが廊下の角を曲がったところでやっと息が出来たような気がした。
深く呼吸をして、それでもまだ激しく脈打つ心臓を押さえ付けながら2人は顔を見合わせ、頷いた。
急ぎ足で厨房へ向かい、2号が両腕で抱えられる程度の保存食とミネラルウォーターを持ち出し、1号が辺りを警戒しながら2人で地下への扉を開けた。
どうしても響く靴音に怯えながらも、2人は階段を駆け降り、蝋燭に火を灯した。
目を覚ましていたダニエルは姿を見せた2人に安堵の表情を見せた。
「目が覚めていたのね、おはよう。」
「おはよう……」
昨晩から飲まず食わずで挨拶にも元気がないダニエルに、鉄格子の間から2号が保存食とペットボトルを差し出した。
ダニエルは思わずそれを奪うように受け取り、ペットボトルの中身を3分の2ほど一気に飲み干した。
「ありがとう…!」
「いいの、落ち着いたらいろいろ話したいことが…」
家来ダーバー2号はそこで言葉を詰まらせ、瞳を濡らした。
不意の涙に2号自身が一番動揺し、慌てて身を翻してダニエルの側から離れた。
それに対して何も言わず、ただ入れ替わるように1号が鉄格子の前にしゃがみこんだ。
「アンダーバー、元に戻ってた…?」
ダニエルも2号の様子には触れず、与えられた保存食の袋を開けながら問い掛けるが、1号は言葉にはせずに首を横に振った。
ダニエルは小さく息を吐き、開けた袋を膝の上に置いて躊躇いながらも改めて口を開いた。
「その敷布団と、マント……アンダーバーだよ。」
家来ダーバー1号は目を見開き、2号は肩を大きく揺らして涙目のまま振り返った。
ダニエルは膝の上に転がる乾いた保存食を見つめながら、「とても悲しそうだった」と続けた。
その言葉に家来ダーバー1号の瞳も潤みそうになったが、眉間にしわを寄せてこぼれ落ちることは阻止した。
2号も自力で涙を止めて1号のすぐ横にしゃがみこみ、決意を滲ませる瞳を見せた。
「王様を元に戻す方法を考えましょう。」
充血した目を輝かせる2号が前のめりになりながら言った言葉に全員が考え込んでしまった。
家来ダーバーとダニエルが闇から開放されたのは、希望に溢れたアンダーバーの声を聞いたからだ。
ならば、そのアンダーバー本人を救うにはどうすればいいのか。
「私たちだけでは、きっと無理ね。」
言い切った1号の言葉に躊躇いながらもダニエルも2号も頷いた。
「…やっぱり、国民に頼るしかないのかもしれない。」
魔法の合言葉を国民たちと一緒に叫べば今のアンダーバーにも届くなんて、そこにいる誰もが心から信じきってはいなかった。
それでも、アンダーバーからただ与えられてきた家来ダーバーたちには、その方法が最善であると信じる他なかった。