新人家来ダーバーは、陰りを見せない輝きに浮き彫りにされそうな自身の黒い影から逃げるために、行き先も決めずにジャングルの道なき道を走っていた。
枝や葉っぱの鋭利さが体の至るところに小さな傷を作っていくことも厭わず、胸の内に生まれそうになる黒に蓋をするように新人家来ダーバーは耳を塞いで両目を固く閉じ、そのままうずくまってしまった。
どれ程そうしていたのか、新人家来ダーバーの頭の中が空っぽになりかけた時、その頭上に影を被った。
人の気配を感じた新人家来ダーバーがゆっくり顔を上げると、無表情で見下ろしてくるアンダーバーがいた。
くしゃりと何かがひしゃげた音が新人家来ダーバーの中で鳴った。
不意に真っ直ぐに見つめてしまったアンダーバーの瞳から、新人家来ダーバーは目を離すことが出来ない。
また充血してる、と思った矢先、アンダーバーの口元がいびつに歪んだ。
「可哀想に。」
新人家来ダーバーにとって二度目のその台詞は、不自然な熱を持って鼓膜を揺らした。
その熱に侵されたように一気に涙腺が弛み、大粒の涙が溢れ出す。
声もあげずに流し続ける水滴はどこまでも澄んでいて、アンダーバーはしゃがんでその涙の出処を興味深げに追うと、潤む瞳に辿りついた。
「扉を閉じてきた。
君も、誰も、もうどこにも行けない。」
新人家来ダーバーはアンダーバーに見つめられたまま淡々と述べられた事実に対して、正反対の感情がせめぎあった。
どう反応すればいいのか分からなくなり、新人家来ダーバーは顔を俯かせてアンダーバーの視線から逃れようとした。
「馬鹿だね。」
新人家来ダーバーはアンダーバーの声に思わず顔を上げたが、アンダーバーは既に立ち上がって、新人家来ダーバーに背を向けて去ろうとしていた。
アンダーバーが新人家来ダーバーを馬鹿だと言ったその声は確かにやわらかかった。
今なら夢の中のように優しく名前を呼んでくれそうな気がして、慌てて白のマントを捕まえようとするが、新人家来ダーバーの右手は虚空を掴んだだけだった。
追いかけようと立ち上がるが、気付かぬうちに震えていた足がもつれ、勢いよく木の根に腹を打ち付けてしまう。
痛みによる唸り声はいつしか泣き声に変わり、木々の間を密やかに反響する。
「……馬鹿は、私だけじゃないです。」
弱弱しく新人家来ダーバーは呟き、もうここにはいない姿に小さく笑いかけるが、その笑顔はまだ歪な部分が見え隠れしていた。
それでも、微かに震える足でアンダーバー城へと走った。