城門が開いた。
一瞬の沈黙の後、国民たちはキティや新人家来ダーバーも巻き込んで城の敷地へとなだれ込む。
ざわつく国民の1人が「あ!」と上を指差し声を上げると、つられるように他の国民たちもその白い仮面を上へと向けた。
マントをたなびかせ、手摺に手をついた白い影がバルコニーに見える。
国民たちが彼を表す名称を口々に叫ぶのを、アンダーバーは、今まで国民に見せたことがないような冷たい表情を張り付けて見下ろした。
王の異変に戸惑いながらも国民たちはアンダーバーを呼び続けた。
そのうちそれはコールに変わっていく。
「アンダーバーは、最高です!」
今まで何度この言葉を口にしたか分からない。
何度この言葉に救われたのかも、誰も数えたことなどなかった。
そして、それが魔法の合言葉だと信じて疑わない国民たちは自発的にその言葉を叫ぶ。
「アンダーバーは、最高です!!」
晴れ渡る青空に響き渡るその声はアンダーバーの耳に届いているはずだった。
じっと国民を見下ろすアンダーバーの後ろで、やっと追いついて息を整えていたパンダーバーの呼吸がまたしても荒くなる。
頭を抱えて蹲ると、そのまま倒れてしまった。
その姿は国民たちには見えなかったが、アンダーバーはパンダバが倒れる音を聞き、振り返ろうとしてやめた。
「アンダーバーは、最高です!」
国民の声が鼓膜を揺らし、そこに渦巻く想いに心臓を鷲掴みにされたような気がした。
アンダーバーが身を乗り出して国民たちの姿を見てみれば、珠のような汗を飛ばし、喉が張り裂けそうなほどの大声でこの星の王を讃えていた。
「アンダーバーは、最高です!!」
鳴り止まない呪文にアンダーバーは耳を塞ぎたくなった。
それでも必死の形相の国民、キティ、そして新人家来ダーバーの姿を一つずつ確認するように手摺にしっかりと捕まりながら身を乗り出して見つめた。
「アンダーバーは、最高です!!」
何度目のコールか、不意にアンダーバーの涙が一粒零れ落ちた。
堰を切ったようにアンダーバーは大量の涙が溢れ出し、それに誘われるように真青に色を差す雲が浮かび始めた。
「アンダーバーは、最高です!!」
国民たちの中でもわけも分からず何人か涙を流し始める者が数名見えた。
アンダーバーは真一文字に結んでいた口を開こうとした。
その瞬間に、ふと、涙が止まり、表情が抜け落ちる。
「アンダーバーは、最高です!!」
誰もが叫ぶことに夢中になっている最中、最前に押しやられた新人家来ダーバーは王のその変化に気付いてしまった。
アンダーバーもそんな新人家来ダーバーに気付いて口元を歪めて俯き、肩を震わせた。
「王様……?」
新人家来ダーバーの声はコールにかき消されたはずだったが、アンダーバーはそれをきっかけにしたかのように声を漏らした。
「アハッ…アハハッ…アハハハハ!!」
漏れ出た声は思いもしていなかった嘲りに満ちていた。
国民たちの声がだんだん小さくなっていくのを聞きながら、アンダーバーは腹を抱えて笑い続けた。
そうして一頻り笑ったアンダーバーが口を閉じると、国中が息を潜めるかのように静まり返った。
「そんなにアンダーバーが恋しいの?」
今度こそ口を開いたアンダーバーが発した声と言葉に国民たちは固まった。
笑顔が描かれた仮面の下で、どんな表情を作ればいいのか分からなくなった。
「その言葉も、仮面も、アンダーバーが君たちに与えてあげたものだもんね。」
光を感じられない瞳を細め、アンダーバーは綺麗に微笑んだ。
決して大きくはないアンダーバーの声が集まった国民全員の鼓膜を揺らした。
「……アンダーバーは、この僕だ。」
胸の辺りを強く掴み、アンダーバーは唸るように吐き捨てた。誰も何も言えず、どこからともなく啜り泣く音だけが響く。
悲しみと絶望に溢れたアンダーバーランドを、厚い雲が蓋をした。