階段を駆け下りるパンダバの足が急に止まった。
肩で息をしながら壁に手をつくパンダバは、ここがアンダーバー城の中だと不意に思い出した。
先にある扉を開けて、そこに彼が立ち塞がっているかもしれないと考えるだけで足が竦む。
アンダーバーの面影は、キティの笑顔を見て抱き始めた希望の光を陰らせた。
震える足を恐る恐る前に進めて、扉の前に立ったパンダバは扉に耳をあててみるが、扉が厚いのか誰もいないのか、物音は聞こえない。
それがパンダバの不安をさらに煽り、ゆっくりと扉が開いていく音さえ恐ろしく、心臓の音さえうるさく感じさせた。
顔だけ出して左右を見渡してから体をくぐらせた直後、コツリと小さな音がパンダバの鼓膜を震わせ、パンダバの一切の動きを封じた。
「ピューロランドには帰れないよ。」
聞こえてきた声にこれ以上ないほど心臓から血が送り出され、パンダバの視界が点滅するように眩む。
すぐ後ろに彼が、アンダーバーがいる。
「僕のせいだと思う?」
聞こえてくる言葉はパンダバを責めているように聞こえた。
パンダバは背中に突き刺さる言葉から逃げるように耳を塞いで外に向かって走り出した。
アンダーバーはそれを追いかけようともせずにパンダバが城外へ飛び出して行くのを見つめた。
「……答えてよ。」
パンダバの背中を見届けたアンダーバーの言葉は誰にも届かず消えていった。
アンダーバーの声と言葉を振り切って城を飛び出たパンダバの頭に石が投げつけられた。パンダバの額から頬に血が伝っていく。
「お前のせいだ!!」
涙に濡れた国民の叫び声がパンダバの鼓膜を貫いて、脳を揺らした。その言葉にパンダバは首を振ろうとして動けなくなった。
自分のせいではないと思いたかったが、闇の住人に唆され、闇の住人の言葉を信じてボタンを押したのは自分自身であることもしっかり覚えていた。
あの時、アンダーバーを信じていれば、こんなことにはならなかったのだろうかと、後悔の念が渦巻いて止まらない。
国民がまた振りかぶったのが見えて、固く目を閉じて再び襲ってくるだろう痛みを受け入れようとした。
しかし、一向に痛みはやってこない。
恐る恐る目を開けると、両手を広げて自分を守ってくれているキティの背中があった。
「やめて!パンダバは何も悪くないわ!」
それはパンダバが欲しかった言葉だった。
胸の奥から熱がせり上がってきて、それは涙となってパンダバの瞳からこぼれ落ちていった。
「パンダバ、おかえりなさい。」
キティは微笑んでパンダバを正面から抱きしめた。
パンダバはキティの温もりに縋り、耐えきれずに泣き叫んだ。
石を投げようとしていた国民はいつの間にかいなくなり、入れ替わったかのように新人家来ダーバーが静かにそこに立っていた。
その足下には国民が握り込んでいたのであろう血のついた石が転がっている。
「もう大丈夫。みんなで、アンダーバーの笑顔を取り戻しましょう!」
キティの声は震えていた。
恐怖と絶望に侵食されながら、ほんの僅かな温もりある光を消さぬよう、無意識ながらもキティは必死だった。
それに気づかないふりをして、パンダバはキティの腕の中で何度も首を縦に振った。
新人家来ダーバーも1度だけ頷いて目を伏せた。
新人家来ダーバーが握り込んだ拳から零れた赤い雫は、足下の石についているものと同じ色をしていた。