草木が鳴る音に、パンダバはいちいち体を強ばらせた。
そんなパンダバの背中を優しく撫でながら、キティは零れそうになる溜め息を無理矢理飲み込んでいた。
「大丈夫、大丈夫だから。」
後ろで黙って立っている新人家来ダーバーからの視線の厳しさにキティは気付いていないのだろうかとパンダバは気になったが、すぐにその視線は自分にのみ注がれていることに気付いた。
根拠も何もないキティの言葉は虚しく響きそうになるが、パンダバにはその言葉が唯一の支えであった。
「キティ…」
「キティ!!!!」
キティに縋る声はキティを呼ぶ声にかき消される。
キティの白い耳は自分を呼ぶ声を拾い、その声に振り返った。そこには小さな傷を全身に負ったダニエルが、肩で息をしながら立っていた。
「ダニエル…!」
キティは声も瞳も涙で濡らし、パンダバから離れてダニエルに駆け寄った。
ダニエルも涙ぐみながら駆け寄ってくるキティの手を取ろうと手を差し伸べた。
キティはその手を越えてダニエルに飛びつき、肩に顔を埋めた。ダニエルはキティからの思っていた以上の反応に思わず顔を赤くしながら、差し伸べていた手をそのままキティの背中に回した。
「ダニエル…!ダニエル!無事だったのね!!」
そこにいることを確かめるように、キティは何度もダニエルの名前を呼んだ。
ダニエルはその一つ一つに答える度、心臓の奥の方で冷えていた部分が温まっていくのを感じた。
ダニエルももう1度キティの名前を呼ぼうとした時、後ろで土を踏みしめる音が聞こえた。
「ダニエルさん、どうしてここに?」
1歩だけこちらに踏み込んだ新人家来ダーバーの警戒心剥き出しの視線と言葉が、アンダーバーの影と似ている気がしてダニエルは固まった。
「……パンダーバーも。催眠術は?解けたっていうんですか?じゃあ、王様は?王様はどうしたんです?」
畳み掛けるその言葉は刺を持ちながら震えていた。
「新人家来ダーバー…」
キティが呼ぶと、新人家来ダーバーは両の拳を強く握って、瞳を潤ませた。
大粒の涙が次から次へと零れ落ち、仮面だけでは隠しきれないほどに溢れ出ていく。
「うまくいくって、言ったじゃない……」
新人家来ダーバーはその場に崩れ落ち、白い仮面を掌の傷で赤く汚した。
アンダーバーから与えられた笑顔の仮面を強く握りしめ、また新たな傷が出来そうになる直前、キティが新人家来ダーバーの両手首を掴んで自分に引き寄せた。
「私はまだ諦めてない!!」
叫んだキティの瞳も濡れていたが、それでも輝きに満ちていた。
後ろで戸惑いの表情を浮かべているダニエルも、怯えを隠せていないパンダバでさえ、その瞳の奥には光があった。
これに似た何かを知っている、新人家来ダーバーは涙を流しながら思った。
「………王様…?」
自分で呟いた言葉に新人家来ダーバーは妙に納得して目を伏せた。
「……ああ、そうだ。 ここは、アンダーバー星のアンダーバーランド。
夢と、希望を与えてくれる場所。」
アンダーバーが馬鹿らしいと嘲笑ったものは、アンダーバーが作り出してくれたものだった。
新人家来ダーバーは見失いそうになっていたアンダーバーから与えられてきたもの達を必死にかき集めた。
胸の奥に弱々しい灯りが灯る。それだけで充分な気がした。
「新人家来ダーバー、あなたが必要なの。」
キティの言葉に灯りが大きく揺れる。だんだん大きく熱くなる。
新人家来ダーバーはヘタクソになった笑顔を浮かべ、ゆっくりとキティの手から離れた。
「うん。……うん。私は新人だけど、でも、ちゃんと王様の、アンダーバー様の家来ダーバーだもん。」
自分の足で立つ新人家来ダーバーの背筋は伸びていた。
様子を伺うようにキティの後ろから顔を覗かせるパンダバとダニエルにも、新人家来ダーバーは笑いかけることができた。
その笑顔はやはりヘタクソではあったが、パンダバは胸の奥をぎゅっと締め付けられた気がした。
止まっていた涙をぶり返させながらパンダバは地面に膝をついた。
「ごめんなさい、ダバ…!」
初めて謝罪の言葉を口にしたパンダバは額に土をつけようとする。
そんなパンダバを新人家来ダーバーが止めた。新人家来ダーバーは涙を流しながら首を横に振り、同じように膝をつき、パンダバを抱き締めた。
「パンダバは、悪くない。」
新人家来ダーバーは呟いた。
その言葉はパンダバの鼓膜を揺らした。
そして、新人家来ダーバーの鼓膜も自分の言葉で震えた。
「きっと、誰も悪くないの。」
震える声が呟く言葉には、アンダーバーランドに似合う温かな温度があった。