地下牢の床に転がった家来ダーバーの状態は酷いものだった。
肩が外れ、腕は腫れ、ブーツの中にはまた新たな血溜りが出来ているであろう。骨もおそらく2、3本は折れている。
それでも無理矢理動かしてきた体が耐え難いほどの痛みを叫んでいる。
気を失ってしまいたいと思うほどの苦痛に2人は顔を歪めるが、流れ出てくる涙の意味は違った。
「王様……」
どちらが呟いたか、主を呼ぶ声は震えていた。
その震えは恐怖でも絶望でもなく、憐れみと敬愛から生まれてきていた。
冷たい床に転がって、見上げた彼の瞳は確かに恐ろしかった、恐怖で体が震えた。
それでも、先に視線を逸らした瞬間の彼の瞳の奥には、かつての彼が存在していた。
「……新人家来ダーバーは大丈夫かな。あの子、頑張り屋だけど、空回りするし、頑張りすぎちゃうし、無理してなきゃいいけど。」
転がったまま、家来ダーバー2号は唐突に言葉をこぼした。1号も転がったままその言葉に頷いた。
「……あの子は、きっと大丈夫。」
「キティちゃんは、まだアンダーバーランドにいるのかな。」
「きっと、新人家来ダーバーといるわ。」
「ダニエルは、うまく抜け出せた?」
「大丈夫。外のみんなとも合流してるはず。」
「パンダバは、責任を感じてしまってないかな。」
「……うん、でも、パンダバのせいじゃない。」
「国民たちは、きっとどうすればいいか分からなくなっちゃってるよね。」
「そうかもしれない。でも、きっと大丈夫。」
「王様は……」
2号の呟きは一度そこで途絶えた。2号に答えていた1号は言葉の続きを待った。
「王様は……王様、今、ひとりぼっちかな……」
辛うじて聞き取れるほどに震えた声に、1号は言葉を呑んだ。
闇から開放され、能力10倍の催眠術も解けても尚、家来ダーバーたちのアンダーバーへの愛は変わらずあった。
アンダーバーが心配で仕方なかった。だからこそ動かない体が恨めしくて、悔しかった。
「ひとりになんて、させない。」
呻くように吐き出された言葉の強さはお互いの心臓を脈打たせた。
体の底から広がっていく熱は二人の涙を止めてしまうほどに熱かった。
「ひとりなんかじゃ、ない。」
立ち上がることも出来ない体を無理矢理自らの意思で動かして、緩慢な動きで2人は上体を起こした。
お互いに体重を預けながらその場に座り込み、意識が途切れそうになるのをなんとか繋ぎ止めていた。
背中合わせにお互いの体温を共有しながら、お互いの考えていることが手に取るようにわかった。
「……アンダーバーは?」
「最高です…!」
魔法の合言葉でアンダーバーを救うことは出来なかったけれど、その言葉で自分たちは救われ、気付かされた。
恐怖と絶望を与えた存在に縋れること。その言葉を声にするだけで、笑顔が生まれること。
不安に押しつぶされそうな心と、恐怖に震えそうになる体を支えてくれていたのは、紛れもないアンダーバーという存在だったということ。
次は私たちの番だと家来ダーバーたちは愛する主の笑顔を取り戻すため、決意に滲んだ強い眼差しを瞳に宿した。