ダニエルとパンダバはここの4人の中で一番近くでアンダーバーを見てきた。
それがいいことなのか悪いことなのか分からないほど混沌に包まれた2日間だった。
昨日のことが遥か昔のように感じられ、対照的にそれ以前の懐かしい日々がつい昨日のように感じられた。
意気消沈しそうになる手前で新人家来ダーバーは小さく首を振った。
「……パンダバ」
新人家来ダーバーに呼ばれたパンダバは震えることなく振り返った。
新人家来ダーバーの声は隠れていた冷気が蒸発したような暖かな声だった。
「闇の住人に支配されていた時の記憶はあるの…?」
「ぼんやりある、ダバ。曇ったガラス張りの部屋に閉じ込められてたみたいな感じダバ。」
パンダバの言葉にダニエルも頷いた。
「目が覚める時、そのガラスが割れたように視界が晴れた。でも、少し残ってたんだ。」
「残ってた?」
「うん、でも、牢屋を出て、走ってる途中に無くなった。」
「何回か曇りが薄くなる瞬間があったダバ。でも、パンダーバーの悲鳴を最後に、ガラスごと消えた感じがしたダバ。」
「もう、完全に解放されたってこと?」
「多分…パンダーバーがいなくなって、催眠術も無くなったんだと思うダバ。」
「……じゃあ、もしかして…」
キティは頭の上に「?」を浮かべながら三人のやり取りをオロオロと視線だけ追っていた。
理解が追いついてなさそうなキティに新人家来ダーバーは眉尻を下げて笑った。
「パンダーバーがいなくなったことで、全ての催眠術がなくなってるんだと思う。」
それは確信を持って発せられた、とても明瞭な言葉だった。
キティはその言葉に目を見開き、新人家来ダーバーを見つめると、新人家来ダーバーが応えるように一つ頷いた。
「つまり、えっと…じゃあ、もしかして、アンダーバーも!?」
キティの言葉にパンダバは首を横に振りかけて止めた。
意識を朦朧とさせながらもパンダバはパンダーバーが消え去った瞬間を覚えていた。
そして、その後に響き渡った笑い声に絶望したはずだ。
「……『僕のせいだと思う?』」
「え…?」
不自然に薄れていた記憶を手繰り寄せ、パンダバは弾かれたように顔を上げた。
「アンダーバー、そう聞いてきたダバ。
その時、わたしは…わたしのせいだと思ってたダバ……だから、逃げちゃったダバ…!
でも、あれは……」
新人家来ダーバーはパンダバの言葉に涙を浮かべながら笑った。
情けない表情に見えたが、瞳に宿る光は大きかった。
「やっぱり…!王様、もう催眠術なんかにかかってないんだよ…!」
自信を持って言い切った家来ダーバーはアンダーバー城の方角を振り仰いだ。
「何でまだ王様が闇に囚われてるのかは、わからない、けど、行かなきゃ!」
震えた足で今にも走り出しそうな新人家来ダーバーが握り込んだ拳にキティの手が重なった。
その上にダニエル、そしてパンダバの手が重なり、じんわりと温もりが広がっていった。
「一緒に、でしょ?」
キティの温かい言葉にダニエルとパンダバも頷いた。
新人家来ダーバーは重なり合う手の上にもう一つ自分の手を重ねて、深く深呼吸をした。
「……うん。一緒に行こう、王様に会いに。」
柔らかな笑みを浮かべた新人家来ダーバーの震えはいつの間にか止まっていた。