寝る間も食べる間も惜しんで家来ダーバーとダニエルは地下牢の制作に勤しんでいた。
忠誠心を10倍にされた家来ダーバーはそれを苦だと気付くことは出来なかったが、アンダーバーへの忠誠心を掻き立てられた訳ではないダニエルは、率直に疲労を感じていた。
ふらつく足取りで地下を抜け出し、地上へと続く階段の中腹あたりに腰掛けた。
ボロボロになった自分の両手を見つめていると、ふと左手首に巻かれている腕時計に目が行く。
ダニエルはほぼ無意識にボタンを押した。
腕時計から鳴るアンダーバーの声を聞くダニエルの瞳は潤みながらもどこか優しく、先程まで地下牢を作っていた者とは別人のようだった。
「うんこっこー!」
「フフッ…」
アンダーバーのお決まりとも言える台詞に思わずダニエルから笑みがこぼれた瞬間、ダニエルの背中から影が差した。
ダニエルが勢い良く振り向くと、アンダーバーが地下への入り口からじっと見つめていた。
城内の灯りが逆光となりアンダーバーの表情が見えないことにダニエルの恐怖心はさらに掻きたてられていく。
悲鳴を上げそうになるダニエルの様子に気付きながら、アンダーバーは一段ずつ踏みしめるようにダニエルに近付いた。
ダニエルは体の底から際限なく湧き上がってくる恐怖心によって、動く事も出来ずアンダーバーの動向を見守るしかない。
ついにアンダーバーはダニエルの隣に到着し、すぐ横に座った。
「……見ぃちゃった。」
アンダーバーは不自然なほど口角を上げてダニエルを覗き込んだ。ダニエルを覗き込む瞳の奥には相変わらず底知れない闇が渦巻いているように見える。
「それ、返してよ。」
ダニエルが震え上がりながらも自らの右手で庇った左手首を指差しながら、アンダーバーは淡々と言った。
「い、嫌だ…!」
震える声で告げたダニエルにアンダーバーは目を丸くした直後、眉間に皺を寄せた。
「これを今の君に返したくはない…!」
ダニエルも自分から出た拒絶の言葉に驚きながらも、徐々に視界が開けていくような感覚に襲われた。
「ダニエル、」
アンダーバーの口から名前を呼ばれた途端、ダニエルの涙腺が一気に緩み、決壊した。
「アンダーバー…!これは君が、ボクに友情の証として、くれたんだ!
ボクたちは友達、だろう!?」
勢い良く立ち上がり、言葉を詰まらせながら叫ぶダニエルをアンダーバーは見上げる形でじっと見つめ、パンダーバーに見せた時よりもさらに優しげな笑顔を浮かべた。
「だから返せって言ってんだよ。」
柔らかな表情から出てきたとは思えない冷たすぎる声にダニエルの呼吸が一瞬止まった。
「アハッ、今までで見てきたどの表情よりも良い顔だよ。」
恍惚な表情でアンダーバーは言った。アンダーバーが良いと言ったダニエルの表情からは、大きすぎるショックを受け止めきれていないことがありありと伝わってくる。
催眠術が解けたことにより受け止めきれなくなった絶望感がダニエルの体を襲っていた。
「可哀想に。僕の声なんて聞かなければ、楽に生きていけたのにね。」
アンダーバーの声が聞こえているかもわからないほど茫然としているダニエルの瞳からは涙がポロポロと零れ、頬を伝い、床に落ちていく。
「牢屋、一つくらいは出来てるよね。」
誰に聞くでもなく呟いたアンダーバーは何も言えなくなったダニエルを無視して、階段を上っていき、入れ替わるようにしてパンダーバーが姿を現した。
「アンダーバー…ボクは、君の友達ではなかったの…?」
パンダーバーはそう呟くダニエルに同情の視線を向けながらも、何も言わずにダニエルの腕を引いて完成したての牢屋へと足を向かわせた。