小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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前章 守護神の章
1、怪異出現


御国の矛として、

 

盾として、

 

勇敢に戦い、

その役目を終え碧き海に静かに眠る、

 

在りし日の御霊たち。

 

再び御国に危難が訪れる時まで、

静かに…

 

ただ静かに眠りにつく。

 

 

 

仄暗い海の底で眠りから覚めた御霊がいた。

 

その御霊も御国の盾となるべく生を受けた戦士であった。

 

しかし激しい戦いの中、

武運拙く…

 

『吾はまだ終わらぬ、御国の為に戦える…』

 

誇り高き勇敢なる戦士の御霊であった。

 

『吾に器を、鋼の身体を吾にくれ』

 

御霊は、輝きを放つ。

深海の暗闇を照らす、青白い光。

 

御霊は浮上する。

 

既に物質として質量を持たない御霊なので、浮くという表現は当てはまらないかも知れないが…

 

輝く御霊は海上に出た。

 

淡い月影が波に揺られる夜の海であった。

 

 

生ある時の記憶を辿り、

 

そして護るべき御国へ還るべく陸地を目指して海上を走る。

 

陸影が水平線から上ってくる。

御霊が目指す、護るべき御国が有るはずの地。

 

辿り着けどそこは全くの暗闇、

御霊の記憶にある御国とは非なる、

 

無人の荒野が広がる大地であった。

 

人の気配どころか、

生あるものの存在を許さない荒野。

 

民人はいない、

その痕跡もない。

 

御霊が還るべき御国は、

存在していなかった。

 

 

『ア、アアアアアアアァ…!』

 

 

御霊は困惑し、

混乱を起こし、

 

迷走を開始する。

 

 

 

護るべき御国、

そこに住まう人民、

 

その姿を必死に探し求める。

 

だが、ありはしなかった。

 

だがそれは単純に一国が滅んだ、

とは少し事情が異なる。

 

御霊が命を賭して護った御国が、

 

まるで、

最初から存在していなかったかのような?

 

どちらにせよ、

御国を護る為に生まれた御霊の存在意義は、

 

その瞬間、

喪失してしまったのだ。

 

しかし、御霊の存在はまだ消えていない。

 

守護戦士として生まれた、御霊の戦う意思も消えていない。

 

 

戦う意思を持ったまま、

 

戦う意味を失った御霊は、

 

一体どうなるのか?

 

 

正気を失っていく…

 

激しい戦意のみが残り、

 

戦うことだけが存在意義となる。

 

それは、

生あるものに害を為す、

 

《荒御霊》であった。

 

 

青白く輝やいていた御霊が、

マグマのような赤光になった。

 

赤光は収束し、一点に集中すると、

 

質量を持った真紅の結晶を生み出した。

 

結晶の周りをみるみる黒い外殻が覆っていく。

 

 

これは一体何なのか?

 

少なくても生命とは言えない、

 

激しい破壊衝動と、

殺戮衝動を内包した…

 

 

《怪異》であった。

 

 

球体だった怪異が変形する。

 

受精卵が時と共にそのカタチを表していくように、

 

怪異もカタチを表していく。

 

突き出すように長く伸びる身体。

 

先端が上下に割れ凶暴そうな歯を剥き出しにした口顎になる。

 

上部先端が深く窪み、

赤光が燈って一つ目を作り出す。

 

後部は長細く変型し、鰭になる。

 

 

一眼の巨大怪魚だった。

 

 

虚空に向かって咆哮する怪魚、

 

それはまさに産声であった。

 

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