小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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今回はほぼ説明回です。


12、敷設艦沖島にて、其の二

「では森一飛曹、いろいろと私から質問があるが、答えてもらえるか?」

 

うん、と頷いた菊月は椅子に着席し、机に並ぶ北郷と能美の二人と向かい合う。

 

一四〇〇時、菊月、北郷、能美の三人は敷設艦沖島の作戦指令室で会談した。

 

 

「まどろっこしいのは性に合わなくてな、単刀直入に聞く。君は、私が知っている森美幸ではないのではないか?」

 

 

能美がチラリと北郷を見て、

それから菊月を見る。

 

一見平静に見えるが、あんまりな質問の内容に動揺しているのかも知れない。

 

 

「その通りだ。

この身体は森美幸のものだが、私は彼女の亡骸を器として借り受けて今この御世ある。

だが彼女の御霊とも同化しているから美幸はちゃんと私の中にある」

「森一飛曹が死んだだと!」

 

 

能美が眉間に皺を寄せ声を荒げた。

 

部下の死、

彼にとっては聞き捨てできないことのようだ。

 

 

「美幸は勇敢だった。

怪異相手に一人で善戦したが、及ばなかった。

しかし魔法力を使い果たし、

瀕死の重傷を負っていたにも関わらず、強力な伝信を放ち、

私は呼ばれたのだ」

「その魔法伝信は私も聞いた」

 

 

北郷、ふう、と溜息をつく。

 

伝信の内容からよもやと思っていたのだが、現実を知るとやはり口惜しい。

 

 

「で、君は何処の誰なのだ?」

 

 

真っ直ぐ菊月を見据える北郷。

 

 

「その前にこちらも聞きたいことがある」

「それは君の正体に関することか?」

「そうだ、で、能美大佐」

「うん?」

「扶桑海軍には睦月型駆逐艦は在籍しているか?」

「ある、12隻」

「艦名は?」

「1番艦睦月、続いて2番艦以下、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、神在月、霜月、師走だ」

「なるほど…」

 

 

菊月は腕を組んで少し考える。

菊月からの質問は続く。

 

 

「では、森幸吉という人物は海軍に在籍しているか?」

 

 

能美と北郷、顔を見合わせて、

 

 

「たぶんいない、聞いたこともない」

 

 

菊月の眉尻が下がった。

哀しげな表情で俯いて小さく呟く。

 

 

「大日本帝国と扶桑皇国、

9番艦から先の睦月型駆逐艦、

良く似ているが少しずつ違いがある。

 

ここは、似て非なる御世か。

 

森幸吉少佐はいない、否、いないのではなく、森美幸か…

ほんの少し違う人間、代わりの存在がいる。

つまり、彼女の声が私に届けられたのは偶然でなかったということか…」

「何を言っているのだ?」

 

「第31号駆逐艦改め睦月型駆逐艦9番艦菊月、それが私だ」

 

 

北郷も能美も流石に理解が追いつかなかったのか、

一瞬ポカンとしてしまう。

 

 

「魔女どころか人じゃないというのか、そもそも菊月なんて聞いたことないぞ」

 

 

北郷はこれを魔女の固有魔法によるものと推測していたが、事態は予想の斜め上をいっていて驚いていた。

 

 

「少佐、菊月はな、第31号駆逐艦、今の睦月型9番艦神在月につけられる筈だった艦名なのだ」

「大佐、そうなのか?」

「大正時代の話だから若い少佐が知らないのも無理はない」

 

二人は奇異の目をもって菊月を見た。

 

戯事を言っているのか、

目の前に超常現象があるのか、

判断できる筈もない。

 

 

「戦船に魂なぞ、と思うか?

私は覚えている。

 

私は南洋艦隊の麾下にあり旗艦沖島の…

つまり能美大佐、貴方の指揮下で戦っていたのだ。

 

そもそもこの御世では、

怪異とかネウロイとかいう生命体かどうかも解らない超常の敵と今現在、大戦中なのではないのか?」

 

 

戯事で片付けるには菊月の言葉は具体的だった。

かと言って信用するにはあまりにも突拍子もない内容である。

冷や汗を頬に伝わせながら話を聞くことしか出来なかった。

 

 

「菊月殿…」

「森美幸で構わない」

「そうか、では先の戦闘において敵怪異について森一飛曹の所見を聞きたい」

 

 

うんと頷き、真面目な表情で、

 

 

「奴の正体は私と同じ、戦船の御霊の成れの果てだった」

「なっ…!」

 

北郷は思わず席を立っていた。

 

 

「何故解る?」

「止めを入れる際、広開土大王級駆逐艦を自ら名乗った」

「意思疎通したのか!」

 

 

怪異ネウロイの正体については殆ど解っていない。

 

 

「しかし、くぁんげとでわん…奇妙なイントネーションだがどこの言語だ?」

 

 

首を傾げる能美。

ウラルへ派遣された経験もある北郷にも心当たりはない。

 

 

「教えて欲しい、扶桑海の向こうユーラシア大陸の東側はどうなっていて、何という国家がある?」

「北東部は大国オラーシャがあり、シベリア鉄道の起点に我が扶桑皇国の領土浦塩がある。その南はモンゴルだ」

「オラーシャ?

…おロシア?

 

ロシアのことか、地図を見せて欲しい」

 

菊月はジッと地図を凝視し、

説明を聞いていたが、

 

 

「無い…」

「え?」

「私が知る国家が無い。

いつから…いつ無くなってしまったのだ!」

「何のことだ?」

「支那だ。中原の華と言われた大国はいつから無いのだ?」

 

 

菊月が指を差した場所、

扶桑海を挟んだ向かい側、

半島からその先に広がる膨大な大地。

 

この場所は…

 

 

「昔からそこには何も無い。

無人の荒野だが」

 

「人の記憶にすら無いのか!」

 

 

菊月は戦慄する。

菊月が倒した広開土大王は高潔なる戦船であった。

彼の御霊が、何故、荒れ狂う荒御霊に成り果てたのか…

その理由をハッキリと理解したからだ。

 

 

「彼我は裏表一体…

一つ間違えれば私も怪異になっていただろうな…」

 

 

ガクリ、と、

力無くうなだれる菊月。

 

この御世の人間である北郷と能美には理解は難しかろう。

 

どう説明しようか、

菊月はただ困り果てるのであった。

 

 

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