『聖川丸隊各機、一刻も早く敵を見つけ出せ』
『了解!』
上空待機していた水偵隊が散開、
いきなり砲撃してきた謎の敵の発見を急ぐ。
「オレの目の前で、クソ…」
疾風の轟沈は一瞬、
船員たちの生存は絶望的…
同じ艦隊の仲間が、
160人以上の人間が、
この短時間に海の藻屑になってしまった。
あまりにも惨い、
あまりにも理不尽、
戦争の現実にひとみは憤る。
艦隊は大混乱に陥っていた。
最初に偵察した時には周辺に何もいなかったし、そもそも敵が何なのかも解らない。
更に陸戦隊の半数以上が大発動艇に乗り込んで海上にあり、これを放置して撤退するわけにはいかない。
そんな艦隊の都合なぞ御構い無しに次なる光弾が飛来して海面に水柱を立てた。
大竹一飛曹が飛来する光弾を目撃し、その飛んできた方向を確認すると、
…いた。
海上に何か黒いものが二つ。
大竹機、更に接近して観察を続けるとその不気味な姿が露わになってくる。
「何だアレは…」
突き出した額部、
青く輝く二つ目、
大きく開けられた口から砲門らしきもの、
長く伸びた胴体、
その胴体の後部に生えた二本の白い足、
全長は100メートルを越す巨体。
二体は砲撃を繰り返しながら、徐々に艦隊に近づきつつある。
大竹は急ぎ旗艦夕張へ敵怪異の位置を知らせた。
「金剛丸、金竜丸は陸戦隊の収容を急げ、我ら第六水雷戦隊は怪異に対し反撃する、全艦砲戦用意!」
「よし、反撃だ、砲戦用意!」
「疾風の仇、砲戦用意!」
「足止めする、砲戦用意!」
疾風を轟沈させられた第六水雷戦隊だが、まだまだ戦意は失なっていなかった。
各艦一斉に反撃の狼煙を上げ、徹甲弾を二体の怪異に叩き込む。
二体の怪異は何発か直撃を喰らい足が止まるが、すぐに身体を再生させて赤い光弾を放ってきた。
辺りに絶え間なく砲音が轟き、
水柱が乱立する。
砲火を存分に交換しあう、
激しい砲撃戦の開始。
金竜丸の陸戦隊員収容が先に済み、十八戦隊の巡洋艦天龍、龍田が護衛に付き退避行動を開始。
金剛丸の方はまだ時間がかかりそうだが、第六水雷戦隊が敵怪異を足止めしてくれている。
だが、悪夢はまだ終わらない。
そもそも、演習を開始した時点でこの海域には何もなかった筈だった。
水偵隊は見落としてなどないし、電探にも反応がなかった。
では何故気が付かず、接近を許してしまったのか?
答えは簡単、怪異は外から艦隊に近づいてきたのではなく、
たった今この場所に出現したのだ。
そしてもう一つの怪異が…
「何だ…」
二体の怪異の後方、
海上に大きな渦が発生している。
渦の中心が赤黒く光り、やがて海面に大きな赤い結晶が浮かび上がってきた。
結晶の周りに黒い外殻が形成されていく。
「コアだ、ネウロイのコアが海の中から!」
新見、大竹、ひとみら水偵隊は一部始終を見た。
新たな怪異が生み出される、
おぞましい有り様を…
黒い楕円形、
それがパックリと上下に大きく割れて、大きな歯を生やした口顎が出来上がる。
青く輝く左目、そして右目に当たる部分が異様に突き出したと思うと、筒状の砲門の様なものになった。
そして、先の怪異と同じく身体の後側に白い足が生え、前の部分には両手まで生える。
両手足を海面に付けて四つん這いの様な姿勢で海の上に立ち、
少し上向きになると産声たる巨大な咆哮を上げた。
その場にいた全ての人間の予想外が起こったのはこの後だった。
『倭奴め、倭奴供め…
吾らの神聖な御国に砲を向け汚したるは、万死に値する。
吾、御国の守護たるその力を以って汝らを殲滅してくれようぞ…
吾の名は
東海の守護神、独島也』
独島を名乗った怪異が、その大口を更に凄まじく広げると口内から黒いものが飛び出してきた。
先端が尖った流線型のそれらは、いくつもいくつも飛び出してきて、一定の規則を以って旋回飛行を始める。
「ウソだろぉ」
ひとみの頭から血の気が引き、冷や汗をかく。
悪い予感しかしない、
それが何なのか解ってしまったから。
「艦載機、黒い小さいのは艦載機で、あのバケモノは空母なんだ!」
雁行陣になった飛行型の小型怪異の編隊が必死の抵抗を続ける第六水雷戦隊へ、
上空から一挙に襲いかかっていった。