「オレは、弱い…」
保田ひとみは虚ろな瞳で、ブツブツと独り言を呟きながら飛び続けていた。
聖川丸飛行隊と駆逐艦如月の最期を見届けた後、新見中尉に目指せと言われた舞鶴に向かってはみたものの…
もう、どうでもよくなった。
「誰一人守れない、弱すぎるウィッチ…」
涙は枯れ果ててもう出てこない。
代わりに出てくるのは自嘲だけ。
いきなり沈められた駆逐艦疾風、
見捨てられた陸戦隊員たち、
踏み止まった駆逐艦如月、
如月を守ろうと絶望的な制空戦を挑んでいった飛行隊員たち…
艦隊で唯一のウィッチとして、全員が守るべき対象だった。
だが、反対に守られたのは自分という皮肉。
ストライカーユニットも調子が悪い。
精神が弱り切った状態で充分な魔法力を発揮できるわけもなく…
やがて魔導エンジンが停止し、ひとみは紺碧の海へとゆっくり墜ちていった。
ひとみの脚から外れたストライカーユニットはフロートの浮力で辛うじて浮いていたが、潮によって何処かへ流されいく。
ひとみの身体も海面を移ろい、
漂い流される。
「まだ生きてる、死ねばよかったのに…」
これでハレて漂流者。
今更生きようと足掻くつもりもなく、終わりにしようと瞳を閉じた。
そうしていたのは何秒かだったか?
もしかしたら何時間だったのか?
時間の感覚すら無くしていたら、
「ひとみちゃん、ひとみちゃんだ!」
物憂げに瞼を開くとそこには見知った顔がある。
「夕月、森夕月か」
「よかった生きてる、ひとみちゃん、生きてる!」
この発見は決して偶然ではなく、
里安来岩礁異変の一報を受けた敷設艦沖島が舞鶴方面から岩礁を目指して移動してきたのと、夕月の千里眼があったからだった。
夕月に抱えられて敷設艦沖島へ向かうひとみ。
「美幸は、元気か?」
「うん、元気…かな」
「そっか、でも今は…」
正直ちょっと会いたくない。
と言う言葉を呑み込む。
怪異を見事に撃破して戦果を挙げた美幸。
反対に、仲間を皆殺しにされ無様に一人で逃げてきた自分。
美幸はきっとひとみを慰めようとする。
でも今はその優しさがひとみの胸の傷を容赦なく抉る。
ザクザクと切り刻む。
そして、激昂して酷いことを言って美幸を傷つけるかもしれない。
だから、会いたくなかった。
「美幸は、あんなんを倒したんだな。スゲーよ、本当、スゲー…」
別に皮肉で言ったわけじゃない。
何となく口に出てしまった言葉だったが…
「何が解るの…」
「え?」
「美幸ちゃんが、何の犠牲も払わずに怪異を倒したと思ってるの?」
「な、何だよ…」
「ひとみちゃんに、何が解るのよ!」
夕月の思わぬ剣幕にひとみは閉口してしまった。
森美幸は、
怪異《広開土大王》に戦いを挑み、破れて命を落とした。
目の前で美幸が死んでいく、
あの光景は夕月にとって最大級のトラウマである。
ひとみは迂闊にもそのトラウマに触れてしまったのだ。
それ以上口を開くこともなく、
二人は敷設艦沖島を目指して飛び続けた。
……………
保田ひとみは若干の衰弱が見られたが概ね健康で、無事に敷設艦沖島へ収容された。
その後沖島は第十八戦隊、第六水雷戦隊の残存艦艇と合流し、戦力の立て直しを図る為に舞鶴鎮守府へと帰投。
出現した怪異は四体(内一体撃破)。
軍令部はこれを改めて《艦艇型ネウロイ》として、この殲滅を目的とした作戦を立案。
舞鶴に大本営を設置し、
《破号作戦》を発令した。