小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

21 / 38
21、湯けむりの中で、其の二

軍艦内での真水の使用は極端な制限を受ける。

水兵一人につき一日に使用できる真水のは洗面器一杯、なんて当たり前で、多少優遇されているウィッチとて制限は間逃れない。

 

陸に上がった時の楽しみの一つが入浴であるのは想像に難くないだろう。

ましてや軍人とはいえ、女性なのだから。

 

 

「私、今~、燃えています~」

 

 

湯船の中で拳を作って熱弁を振るう金丸昇子。

同じ湯船に浸かって話を聞いているのは保田ひとみ。

 

 

「これぞ我が道と精進してきましたが~、欧州では~飛行型ネウロイが跋扈して私のような爆撃家の出番なんてなくて~…」

 

 

激戦地である欧州では専ら飛行型ネウロイ相手の制空戦が航空ウィッチの主任務になる。

 

百発百中と言われ、

無類の練度を誇る彼女も、

遣欧艦隊リバウ航空隊には選出されずに国内居残りに甘んじ…

 

結局、

未だ実戦経験が無いというのが現状である。

 

「菊月ちゃーん」

「ひあっ!」

 

 

洗い場から何だか奇妙な悲鳴が聞こえてきて、一旦話を切って二人して注目する。

 

 

「ひやああうっ!」

 

 

引き続き、洗い場から奇声が…

 

 

「な、何してるのかしら~?」

「夕月が菊月のカラダを洗うとか張り切ってましたけど…」

「アラ~楽しそうね、私たちもやりましょうか~」

「えっと、遠慮します…」

 

 

と、言いつつチラチラと昇子の身体を見て、

自分と比べるひとみ。

 

湯に濡れた艶のある黒髪に、

雪みたいに白い肌は湯にあたってほんのり赤みが差し、

軍人らしく程よく鍛えられた身体に…

 

ボリュームのある胸部装甲!

 

彼女の身体は、

成熟した大人の女性の魅力に溢れている。

 

 

「あの、失礼ですが中尉のお年は…」

「19よ~。それから中尉なんて呼ばないで~、慣れなくてむず痒いから、昇子でいいわよ~」

「じゃあ、昇子さん…」

「ハイ、よく出来ました~」

 

 

ずいっと寄ってきてひとみの頭をヨシヨシと撫でる昇子。

ひとみ、赤く染めた顔を半分まで湯船に浸けて、ブクブクと泡を立てる。

 

(オレが今16、後三年でこんな大人の女の身体に育つかぁ?)

 

上機嫌な夕月と、

何だかフラフラしている菊月も湯船に入ってきた。

 

 

「菊月ちゃんどうしたの~?」

「に、人間の肉体というのは、なかなか神秘に満ちているものだな…」

「バーカ」

「きゃー、中尉の胸って大きくて張りがあって何かスゴイですねー」

「も~、中尉はやめて~、昇子でいいから~」

「じゃあ昇子さん!」

「昇子」

「菊月、上官だぞ。呼び捨ては流石にねーだろ!」

「私は軍人じゃなくて軍艦だ、階級は関係ない」

「またそんな意味不明なヘリクツを…」

「別にいいわよ~、昇子で~」

 

 

女子四人、

なんだかんだ楽しそうな入浴であった。

 

 

 

「私も19です~」

 

 

一般的にウィッチは20歳を境に魔法力の減退を迎えると言われる。

 

 

「もしかしたら実戦なんて、今回が最初で最後かも~」

 

 

今回の敵は《艦艇型》、

艦爆乗りとして活きが上がるのは仕方がないのかも知れない。

 

 

「だから、ちょっと楽しみなんです~」

 

 

昇子は上官だが決してそれを鼻にかけることは無い。

おっとりした性格で良い人だと、それも充分解った。

でも、

この時はどうにも、

こののんびり口調がひとみの癪に障って仕方がなかった。

 

 

「自分は、里安来岩礁で飛行型のネウロイを一機撃墜しました」

 

 

低く、静かに…

しかし、声には怒気を含ませて。

 

 

「聖川丸飛行隊は自分以外、全員死にました!」

「え…」

 

 

暖かい筈の湯けむりが、

一瞬で凍りつく。

 

「まず疾風が轟沈させられて、160人くらい乗っていた船員が一瞬で海に消えました」

「う…」

「次に金剛丸が爆発して、炎上して、どうにもならなくなって、大発に乗って海にいた陸戦隊員たちは見殺しになりました」

「そ、そんな…」

「如月は、残された陸戦隊員を収容しようと残ったけど、ネウロイから集中攻撃を受けて…」

「……」

「聖川隊は何とか如月を援護しようとしましたが、次々撃墜されていって…」

「……」

「如月がボコボコにされて、沈んでいくのを見ながら…

 

自分は、

ただ逃げてきたんですっ!

 

何も出来ずに、

誰も守れずに、

 

無様に、

 

一機撃墜?

戦果?

 

そんなもん、

クソにもなりませんよっ!

 

 

う、う、うぅ…

うぅうううううぅっ!」

 

 

怒声は最後に嗚咽に変わり、大粒の涙が湯船に落ちていく。

 

昇子はひとみにかける言葉すら失い、蒼白になった顔を下に向けていた。

菊月がそっとひとみの肩を寄せて撫でる。

 

 

「ひとみ、私の姉を守ってくれてありがとう。立派に戦った姉の最期を教えてくれて、ありがとう…」

 

 

菊月の言う《姉》とは睦月型駆逐艦2番艦である如月のこと。

その言葉でひとみは少しだけ気持ちを落ち着けられた。

 

 

「美幸ちゃんは…」

 

 

今度は夕月だが、だいぶ気が立っているのか瞳が赤く変色している。

 

 

「夕月が駆けつけた時には、もうズタボロになってて、

お腹のところに穴が空いてて…

血がたくさん出てて、

海が血で真っ赤になってて…」

「何っ?」

 

 

ひとみと昇子、菊月に注目する。

 

 

「夕月、美幸ちゃんを守ろうとしたけど、ぜんぜんネウロイに敵わなくて…」

 

 

思い出したのか、

夕月の瞳からはポロポロと涙が溢れ落ちてきた。

「美幸ちゃん死んじゃったの、

夕月の目の前で、死んだのぉ」

「ええっ!」

 

 

美幸は今、菊月を名乗ってここにいる。

ひとみの記憶にある美幸とはちょっと違っていたが、二人だけが知る記憶もちゃんと共有していた筈。

 

 

「おまえ、本当に…」

「この御世では睦月型9番艦は神在月、私とは別の艦だ。そもそも私の御国は扶桑皇国じゃなく大日本帝国、よく似ているが異なる国だ」

「でもおまえから美幸の気配を感じるし、記憶も…?」

「この身体は美幸のものだ。

美幸の御霊は菊月と同化したから魔法力と記憶は受け継いでいる。しかし魔法伝信は使えないし、ストライカーユニットも使えない」

 

 

今まで、菊月の言ってることをまともに取り合ってなかったんだが…

 

 

「あの~」

 

 

暫し言葉を失っていた昇子が呼びかける。

 

 

「森美幸さんが戦死なさったなら~、誰がどのようにネウロイを倒したのですか~?」

「ストライカーユニットは使えないが、私には睦月型駆逐艦の艤装があるからな。戦船同士の一騎討ち、砲雷撃戦の末に紙一重の差で私が勝った。

奴にトドメを入れたのは美幸の魔法力が込められた三番爆弾だ」

 

 

菊月、昇子をジッと見つめて。

 

 

「魔法力を込めた爆弾は奴らに対し有効だ。

昇子、やはり今度の戦いは艦爆隊の働きが鍵だと思う、期待している」

「ハイ頑張ります~」

 

 

菊月に励まされて嬉しそうな昇子。

どっちが上官なんだか?

 

 

「あの…昇子さん」

「ハイ~?」

「つい感情的になっちまって、怒鳴っちゃってすいません…」

「いいんです、それよりも辛かったですよね、ちょっと無神経でした~」

 

 

ヨシヨシと頭を撫でられて、照れ臭そうにするひとみ。

 

 

「それにしても菊月ってゾンビだったのか…」

「違うもん、菊月ちゃん生きてるし、心臓もドキドキしてるし、ホラ!」

「ひやああうあっ!」

 

 

菊月の胸に手を当ててサワサワする夕月。

菊月、目を見開いて変な悲鳴。

それを見ていたひとみ、勝ち誇ったニンマリした顔。

 

 

「菊月小さいな、オレの勝ち!」

「ひとみちゃんはまだまだ発育の余地はありそうですけど、なかなかですね~」

「いやん、昇子さん!」

 

 

ひとみの乳房を後ろから両手で確認しながらニコニコする昇子。

実は純情でオクテなひとみ、

いつもと違う乙女のような声が出てしまう。

 

 

「今日は四人で寝ましょ~」

「うん、いいだろう」

「じゃあ、寝る前はやっぱり恋バナだよね!」

「ふっふっふ、オレは艦隊じゃモテたんだぜ!」

 

 

決戦の前とは思えない程、和やかなひと時。

菊月も口角を柔らかく持ち上げて、笑顔をみせていた。

 




金丸 昇子 カネマル ショウコ
年齢 19歳
階級 中尉
固有魔法 炸裂
使い魔 ホンドタヌキ
ユニット 彗星一二型
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。