小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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24、扶桑海決戦、其の二

それは凄まじい、

例えるなら落雷、それを数倍したような轟音が轟く。

 

衝撃波で海面に波が立ち、潮吹雪で辺りが真っ白になった。

 

 

「命中した、でも~…」

 

 

急上昇で離脱する艦爆隊。

急降下爆撃を実施した昇子の眉尻が下り、表情は浮かない。

 

空母ヌ級に対して放たれた二五番爆弾は、

真っ直ぐ必中の軌道を描いて巨体に吸い込まれていったのだが…

 

寸前で遮られた。

 

あの時、

ヌ級の前にいたイ級が海面から飛び出し、昇子の炸裂魔法弾を空中で身に受けた。

 

イ級は爆散し、粉々に砕け散って絶命しているが…

 

その身を盾にして旗艦を庇った。

 

我が身の犠牲を顧みず、

仲間を庇ったのだ。

 

 

「あれは、本当にネウロイなの~?

私たちは、一体、何と戦っているの~?」

 

 

 

 

『李舜臣よ、

 

忠武公と讃えられる其方の働き見事であった…

 

同胞に告ぐ、女兵士を狙え!

 

彼の女たちは超常の力の持ち主で、吾らを脅かす容易ならざる敵とみた。

それ以外はものの数ではない。

 

女たちを殺せ!』

 

 

独島の呼びかけで戦場に展開していた全ネウロイが動きだす。

 

 

 

 

 

艦爆隊は一旦集結ポイントへ集まり、母艦蒼龍、飛龍へと一時帰還するのだが…

 

「あっ!」

 

九九式を貫く赤い光弾。

翼が折れ、制御不能になった機体が煙を上げて堕ちていく。

その集結ポイントに、送り狼が待ち構えていた。

 

 

「全機、散開、逃げろ、逃げろぉっ!」

 

 

九九式は、車輪が引き込み脚になっていない旧式の機体で機速が遅い。

装甲も薄く対弾性能が貧弱、《九九式棺桶》とまで揶揄された機体である。

戦闘機に狙われたらひとたまりもない。

 

直掩機より敵の数が多い。

制空隊の舞鶴飛行隊も、堕としても堕としても湧いてくる敵に苦戦している。

 

この状況で昇子の身体は反射的に動いた。

 

 

「もうこれ以上、仲間をやらせません~!」

 

 

艦爆隊とネウロイの間に入り込んで巨大なシールドを展開し、僚機を守る。

 

 

「逃げてください、私が、引きつけます~」

「金丸中尉!」

「私はシールドがあるし、彗星は九九式より足が早いですから~」

 

 

昇子の判断は確かに理に適っていた。

適ってはいたのだ。

 

だからこそ隊長機の江種大尉は、彼女に殿軍を任せ、早急に撤退するように指示する。

 

そして蒼龍飛行隊は犠牲を最小限に止めることができた。

しかし、それは空母独島の図った通りの結果でもあった。

 

昇子一人に、わんさと群がる飛行型ネウロイ。

 

しかし、ベテラン飛行兵たる昇子の回避は巧みであった。

 

右へ左へと蛇行、

直感で右に身体を逸らすと今まで身体があったところを赤い光弾が走り抜けていく。

 

反撃をせず、シールドも張らず、

魔法力を飛行に集中。

 

勘で敵の攻撃を回避し、

群がってくる飛行型ネウロイを一機、二機と振り切っていく。

 

ある程度振り切ったら、いや、振り切れるものを振り切ってしまったら最後は手強いものが残る。

 

尻にぴったり食いつく二機、

更にその背後に様子を伺うように張り付く二機。

 

後ろの二機は前の二機が振り切られたら、カバーに入ってくるつもりだろう。

 

敵ながら巧みな追跡だった。

 

 

「に、逃げ切れなさそう…」

 

 

窮地であった。

敵は二組四機、こちらはいずれ魔法力が尽きて捕捉される。

 

ヤバいかな、と思っていたら正面から飛んでくるウィッチ。

 

(あ~、確か舞鶴の北郷少佐の列機で、有明さん…)

 

すれ違い様、有明少尉は下を指差す。

 

(海面へ逃れろってこと~?)

 

 

有明に従って降下したところで、後方が青白く輝いた。

 

巨大な魔法陣の壁、

有明少尉の固有魔法である《障壁》が、昇子を追っていた二機と衝突してネウロイが衝撃で粉砕された。

 

 

「アジをやる~」

 

 

助かった。

これで逃げられるかも知れない。

 

と、期待した瞬間に赤い閃光が走り抜けていく。

 

 

「ああっ」

 

 

艦艇型が放ってきた、強力な赤いビーム。

 

海面スレスレを飛ぶ昇子を逸れて、その後方。

一瞬で有明を飲み込み、彼女はシールドを張る間も無く真面にビーム身体を受けて…

 

 

「有明さん!」

 

 

有明少尉の死、

仲間の死、

ウィッチの死…

 

この瞬間、張り詰めていた昇子の気持ちが削がれた。

 

圧倒的な集中力と、鋭い勘で、全ての攻撃を回避してきた昇子の気持ちに隙が生まれたのである。

 

急に目の前の海面が大きく盛り上がった。

これまでの彼女なら回避出来たかも知れなかったが…

 

一瞬だけ途切れた集中力が、回避行動を遅らせる。

 

硬い、

 

明らかに海水ではない硬い何かと時速300キロで衝突。

 

 

「キャアっ!」

 

 

何とか張ったシールドのおかげで即死こそま逃れたが、

 

激しい衝撃でストライカーユニット彗星が破損して破片を撒き散らし、昇子の身体は空中に投げ出された。

 

盛り上がる黒い巨大なもの、

駆逐イ級。

 

鯱が獲物を狩る時にやる、下からの突き上げるような体当たり。

100mを越す巨体でそれをやられたのだから、ひとたまりもない。

 

海面に落ちた時にはもう、動くことも敵わない程のダメージを追っていた。

 

巨大な二つ目が怨嗟の篭った視線で昇子を睨み、

開かれた大口から突き出した砲門が照準を合わせている。

 

 

『兄弟の仇…!』

 

 

 

「わ、私、死ぬの…」

 

 

 

一発、爆弾を放ち、死んでいく。

それすら出来ずに死んだ同輩もいたからまだ幸せな方か?

 

そんな筈はない。

たった一発の爆弾の為だけの人生などあり得ない。

 

来年には二十歳になって軍を退役して、

ウィッチでなくなって一般人になって、

そこから本当の意味で金丸昇子としての人生が始まる。

 

元ウィッチだの、

百発百中だの、

名人だの、

 

そんなのは長い人生の彩りの一つに過ぎない。

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

良い異性と巡りあって恋愛したいし、結婚だってしたかったな。

 

仲良くなった同性の友達と、

もっと楽しく話などもしたい。

 

ああ…

 

話をするなら、

またあの子たちが良いな、楽しかったしなぁ。

 

沖島にいた三人のウィッチ、

可愛い後輩たち、

 

ひとみちゃんに、

夕月ちゃんに、

菊月ちゃん…

 

 

ヤダな、

 

まだ死にたくない。

 

 

 

イヤだよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

昇子の身体が赤い光線に包まれる。

 

唯一の救いは、

彼女がそれ以上苦痛を感じることもなく…

 

 

海水が一気に蒸発して激しい爆発が起こった。

 

 

 

跡には何も…

 

何の痕跡も残ってはいない。

 

 

 

美しき紫花は、

 

儚く…

 

戦場に、

その花弁を散らしてしまった。

 

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