31、荒れ狂う御霊、駆逐水鬼(挿絵有)
三体の艦艇型ネウロイの殲滅に殆ど全戦力を注ぎ込んでいた舞鶴艦隊。
突然発生した新たな怪異に対抗する戦略なぞある筈もなく…
特にネウロイに対して有効なダメージを与えられるウィッチたちの消耗が激しく、現状まともに戦える者は皆無だった。
ひとみと夕月は、北郷章香らウィッチ部隊と合流していたのが幸い。
すぐにその場から退避して母艦である敷設艦沖島へ向かっていた。
「あれは、菊月のようだ」
「何言ってんすか、ふざけたこと言うと先生でも怒りますよ!」
「あの子は…」
思い出すように遠くを見つめる北郷。
彼女は教え子たち一人一人のことを、よく覚えている。
「森美幸は物事を溜め込むタイプだった。その傾向は菊月になってより強くなっていたと思う」
「それは…!」
確かに心当たりがある。
菊月は、大事なこと、難しいこと、そして彼女が漠然と抱いている不安…、それら全てを一人で抱え込んでいる節があった。
本当はこの結末が解っていたのではないだろうか?
敵、艦艇型ネウロイと自分が、
全く同種の存在であること。
きっかけ一つで自分も、ネウロイ化してしまうかも知れないこと。
自分がバケモノになるかもしれないなんて、考えたら寒気がする…
菊月は、どれだけの恐怖を感じながらこれまで時を過ごしていたのだろうか?
ものすごい精神力だと思う。
自分なら何日も持たずに発狂するなと、ひとみは思う。
もしかして…
戦いが終わったら、
ネウロイ化する前に自ら命を絶つつもりだった?
「菊月…、救いがねぇよ。
こんなの、酷すぎる。
あんまりだ…」
友の為に何もしてやれない無力な自分に…
悔し涙が溢れてくるのだった。
轟音が響き渡る。
舞鶴艦隊が砲撃を開始。
巡洋艦利根、筑摩から発艦した水偵による着弾観測から、菊月に向け一斉射。
だが思い知る、
この小さな怪異が体長100mを越す巨大な艦艇型よりも遥かに厄介な敵であることを。
赤く輝く巨大な魔法陣が展開、
砲弾は全てシールドに衝突して爆散してしまった。
菊月には全くダメージはない。
「な、何だとぉ…」
「ウィッチだとでも言うのか!」
菊月から放たれた赤い光球は巡洋艦加古の船首に命中、爆炎が上がる。
光球は次々と放たれ、第六戦隊、第六水雷戦隊の艦艇に着弾していき、甚大な被害が出た。
中破、大破する船が続出して、艦隊は大混乱に陥る。
「森准尉がこんな…」
「あのバケモノが本当に森さんかどうかわからないでしょ!」
「でも…さっきの魔法伝信だよね。あの固有魔法を使えるの、森さんしか…」
「え、それってつまり…、ウィッチがネウロイになるかもしれないってこと?」
「そんな…!」
「わ、私たちも…?」
ウィッチたちの中に不安が広がりつつあった。
あったのだが…
「ならねーよ…」
「え、保田さん?」
「オレたちみたいな並のウィッチじゃ、なりたくてもああはならねーよ」
「……」
ひとみの言葉に誰しもが閉口するしかなかった。
第十七駆逐隊、駆逐艦浦風と谷風と行動を共にしていた敷設艦沖島。
北郷やひとみら、消耗著しいウィッチたちを収容し、艦隊が菊月によって蹂躙されるのを見ていた。
「能美大佐」
「ああ、我が艦は戦線を離脱する、浦風、谷風にも打電」
冷静な声で指示を出す能美の目は赤い。
変わり果てた森夕月の姿を見て、この男は恥も外聞もなく取り乱して涙を流したが…
今は見事に切り替えて艦の指揮を執っていた。
「能美大佐、残念ですが…」
「ああ少佐、何も出来ない。我々には、もうどうすることも出来ない…」
悔しそうに俯く北郷。
彼女の麾下の舞鶴航空ウィッチ部隊は先の戦闘で20人中少なくても7人が戦死し、残った者も魔法力を使い果たし、怪我をしていないものは一人もいない。
白波小隊も壊滅状態。
今、ここに、暴走する菊月を止められる者はいない。
ただ逃げるしか手がない。
誰も、
菊月を救えるものはいないのだ。