菊月は黒い艤装の左手を翳して、魚雷状になった指を飛ばした。
夕月も魚雷発射管から魚雷を放った。
狙いは菊月の魚雷の誘爆。
海中で衝突した魚雷同士が炸裂して海面が吹け上がる。
既に動き出していた夕月の足元を、誘爆しきれなかった魚雷が掠めていく。
菊月の砲門が強烈な赤い閃光を放ち輝いた。
赤い光弾が夕月を襲う。
船速いっぱいで之の字軌道を描く夕月に命中弾無し。
回避しながら隙をみて反撃の光弾を撃つ夕月。
展開される赤い魔方陣。
夕月の放った青白い光弾は魔法陣のシールドに衝突して閃光を放つが菊月には届いていない。
しかし、
夕月の姿が見えなくなった。
一瞬戸惑う菊月だったが…
衝撃で弾き飛ばさる。
夕月は身体を低く、スライディングさせるように海面を滑らせて、僅かに開いていたシールドの隙を縫って接近。
12センチ砲の一撃を見舞っていた。
大きな黒い手が爆炎を振り払い、赤い瞳を輝かせた菊月が姿を現わす。
夕月の砲撃は、駆逐水鬼の艤装によって阻まれ菊月本人にはダメージは無い。
左手を伸ばしながら急速に接近。
夕月、後方へ飛びながら発砲。
青白い光弾が魚雷状になっている指に至近距離で命中。
魚雷が誘爆し、激しい爆発を起こす。
衝撃ですっ飛ばされた夕月の身体が海面に叩きつけられて、飛び石の原理で二回海面を跳ねたが、三回目には体勢を立て直して着水した。
「はあ、はあ、危なかった…!」
駆逐水鬼の艤装、魚雷発射管になっていた左手が手首から上が吹き飛んでいる。
「もしかして…」
菊月の艤装は再生しない。
する様子がない、
つまり…
「菊月ちゃんはネウロイになったんじゃない。ヌ級やイ級とは違う!」
響き渡る轟音、
立ち上がる水柱。
菊月と夕月、
血を分けた二人の姉妹の魔女。
同型二隻、姉妹たる駆逐艦。
殆ど格闘戦に近いくらい至近距離での激しい砲雷撃戦。
その場にいた全ての者たちがこの戦いに注目する。
退却する筈だった第六戦隊も逃げ足を止め、その場に止まった。
「魔女が…二人のウィッチが戦っている!
我ら舞鶴艦隊が逃げるしか無かった、あの小さく強大な魔女相手に…、たった一人のウィッチが戦いを挑んでいる!
全艦、止まれぇっ!
あの戦いから目を離すことなかれ、見届けん…
我ら、戦いの見届け人とならん!」
第六戦隊司令官、五藤存知少将が命令し、
第六戦隊始め、第六水雷戦隊、代十八戦隊など…
全ての艦艇が動きを止め、戦場に留まった。
第六戦隊重巡洋艦加古は菊月の砲撃で中破炎上したが、すでに消化作業は済んでいた。
今は五藤少将に従ってその場に止まり、菊月と夕月の激闘を艦内全員で見守っている。
加古艦長、高橋雄次大佐が二人の戦いを見守りながら呟いた。
「小さき君に、襲ひかかれる敵水鬼、掩護の我は遠くにありしに…」
「艦長?」
「あの少女たちは、まるで別世界の住人だな。
魔女と魔女の戦いに、我々男供が入る余地などない…
遠く、遥か遠く…
人智を超えた超常のところにある。
我々の出来ることは、
ただ、見届けるだけだ…」
敷設艦沖島も足を止め、
乗船していた全ての者が、夕月と菊月の戦いを見守っていた。
「森准尉…」
「森二飛曹…!」
「森さん!」
「が、頑張れ…」
「カワセミちゃん…頑張れ」
「カワウソちゃんを助けてやってくれ!」
「夕月ちゃん」
「頑張れ、夕月ちゃん…」
「ま、まけるなー…」
「夕月ちゃん、頑張れ!」
「頑張れー!」
沖島の船員も、
収容されたウィッチたちも、
艦内の全員が駆逐水鬼に立ち向かう夕月にエールを送る。
そしてひとみも…
「夕月、菊月を助けてやれるのは、おまえしかいねえんだ!
菊月、早く自分を取り戻せ。
憎しみなんて捨てて、前にいるのが誰か、その目をちゃんと開いて見てみろ。
美幸、
菊月の中にまだいるんなら助けてやってくれ。
菊月を、悲しみと苦しみから救ってやってくれ!
頼む、
頼んだぞ、森姉妹ーっ!」