小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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35、睦月型駆逐艦、其の四

菊月は黒い艤装の左手を翳して、魚雷状になった指を飛ばした。

 

夕月も魚雷発射管から魚雷を放った。

狙いは菊月の魚雷の誘爆。

 

 

海中で衝突した魚雷同士が炸裂して海面が吹け上がる。

 

 

既に動き出していた夕月の足元を、誘爆しきれなかった魚雷が掠めていく。

 

 

菊月の砲門が強烈な赤い閃光を放ち輝いた。

 

赤い光弾が夕月を襲う。

 

 

船速いっぱいで之の字軌道を描く夕月に命中弾無し。

 

回避しながら隙をみて反撃の光弾を撃つ夕月。

 

展開される赤い魔方陣。

夕月の放った青白い光弾は魔法陣のシールドに衝突して閃光を放つが菊月には届いていない。

 

 

しかし、

夕月の姿が見えなくなった。

一瞬戸惑う菊月だったが…

 

 

衝撃で弾き飛ばさる。

 

 

夕月は身体を低く、スライディングさせるように海面を滑らせて、僅かに開いていたシールドの隙を縫って接近。

 

12センチ砲の一撃を見舞っていた。

 

大きな黒い手が爆炎を振り払い、赤い瞳を輝かせた菊月が姿を現わす。

 

夕月の砲撃は、駆逐水鬼の艤装によって阻まれ菊月本人にはダメージは無い。

 

左手を伸ばしながら急速に接近。

夕月、後方へ飛びながら発砲。

 

青白い光弾が魚雷状になっている指に至近距離で命中。

 

魚雷が誘爆し、激しい爆発を起こす。

 

衝撃ですっ飛ばされた夕月の身体が海面に叩きつけられて、飛び石の原理で二回海面を跳ねたが、三回目には体勢を立て直して着水した。

 

 

「はあ、はあ、危なかった…!」

 

 

駆逐水鬼の艤装、魚雷発射管になっていた左手が手首から上が吹き飛んでいる。

 

 

「もしかして…」

 

 

菊月の艤装は再生しない。

する様子がない、

 

つまり…

 

「菊月ちゃんはネウロイになったんじゃない。ヌ級やイ級とは違う!」

 

 

響き渡る轟音、

立ち上がる水柱。

 

菊月と夕月、

 

血を分けた二人の姉妹の魔女。

同型二隻、姉妹たる駆逐艦。

 

殆ど格闘戦に近いくらい至近距離での激しい砲雷撃戦。

 

 

その場にいた全ての者たちがこの戦いに注目する。

 

退却する筈だった第六戦隊も逃げ足を止め、その場に止まった。

 

 

「魔女が…二人のウィッチが戦っている!

 

我ら舞鶴艦隊が逃げるしか無かった、あの小さく強大な魔女相手に…、たった一人のウィッチが戦いを挑んでいる!

 

全艦、止まれぇっ!

あの戦いから目を離すことなかれ、見届けん…

 

我ら、戦いの見届け人とならん!」

 

 

第六戦隊司令官、五藤存知少将が命令し、

第六戦隊始め、第六水雷戦隊、代十八戦隊など…

 

全ての艦艇が動きを止め、戦場に留まった。

 

 

第六戦隊重巡洋艦加古は菊月の砲撃で中破炎上したが、すでに消化作業は済んでいた。

 

今は五藤少将に従ってその場に止まり、菊月と夕月の激闘を艦内全員で見守っている。

 

加古艦長、高橋雄次大佐が二人の戦いを見守りながら呟いた。

 

 

「小さき君に、襲ひかかれる敵水鬼、掩護の我は遠くにありしに…」

 

「艦長?」

 

「あの少女たちは、まるで別世界の住人だな。

 

魔女と魔女の戦いに、我々男供が入る余地などない…

 

遠く、遥か遠く…

人智を超えた超常のところにある。

 

我々の出来ることは、

 

 

ただ、見届けるだけだ…」

 

 

 

敷設艦沖島も足を止め、

乗船していた全ての者が、夕月と菊月の戦いを見守っていた。

 

 

「森准尉…」

 

「森二飛曹…!」

 

「森さん!」

 

「が、頑張れ…」

 

「カワセミちゃん…頑張れ」

 

「カワウソちゃんを助けてやってくれ!」

 

「夕月ちゃん」

 

「頑張れ、夕月ちゃん…」

 

「ま、まけるなー…」

 

「夕月ちゃん、頑張れ!」

 

「頑張れー!」

 

 

沖島の船員も、

収容されたウィッチたちも、

 

艦内の全員が駆逐水鬼に立ち向かう夕月にエールを送る。

 

 

そしてひとみも…

 

 

「夕月、菊月を助けてやれるのは、おまえしかいねえんだ!

 

菊月、早く自分を取り戻せ。

憎しみなんて捨てて、前にいるのが誰か、その目をちゃんと開いて見てみろ。

 

美幸、

菊月の中にまだいるんなら助けてやってくれ。

 

菊月を、悲しみと苦しみから救ってやってくれ!

 

頼む、

 

頼んだぞ、森姉妹ーっ!」

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