敷設艦沖島が海上に円形の航跡を描く。
円の中は波が静まり、水偵はそこに着水する。
つまり、
急遽戻ってくる美幸の受け入れ準備だった。
艦内では水兵たちが慌ただしく動きまわり、時折怒号と威勢のよい返事まで聞こえてくる。
「燃料補給の用意を急げ、嬢ちゃんが帰ってくるぞ!」
「どっちの?」
「カワウソだ!」
フソウカワウソはウィッチである美幸の使い魔。
ウィッチは魔法力を行使する時、契約を交わした使い魔(精霊)と精神を同調する。
その時、使い魔の身体の一部がウィッチ身体にも現れるのだ。
魔法力を行使中の美幸の頭部にはカワウソの小さな耳、尾骨部からは太いカワウソの尻尾が現れる。
だから水兵たちからは《カワウソちゃん》の愛称で呼ばれていた。
敷設艦沖島は美幸からの緊急連絡を受け取っていた。
『海上を航行する怪異を捕捉。
北緯37度、東経133度、
隠岐諸島沖を東南東へ進行中。
速力20ノット前後』
すぐさま沖島艦長、能美実大佐の命令で、一時帰還してくる美幸の受け入れ準備となっていたのだ。
「12時の方向来ます。ウミツバメ1、確認」
減速進入、
身体引き起こし、
着水、
海面に青白く輝く魔法陣が展開、
綺麗な直立の姿勢で海面を滑り、
十分減速したところで右脚フロートで海面を蹴り、
左ターンでクルリと反転ブレーキ、
水飛沫を立てながら完全に停止。
魔法陣が消えると同時に美幸の頭部と尾骨部分から見えていた耳と尻尾も消えた。
「うん、お手本みたいに綺麗な着水だ」
整備班長が美幸の鮮やかな着水に感心していた。
クレーンに捕まって甲板に引き上げられる美幸。
「ネウロイが出たって本当か?」
「まだ解んないけど怪しいです、ユニットの燃料補給、お願いします!」
「了解だ」
ストライカーユニットを外し、
クレーンから飛び降りる。
「カワウソちゃんも補給しとけ」
「ありがとうございます!」
ラムネと竹の葉包みのおにぎりを受け取る。
さっそくビー玉を押し込んでビンを仰ぎ、ラムネを喉に流し込んだ。
艦長の能美大佐が甲板にやってくると姿勢を正して敬礼する一同。
「報告、
森美幸一飛曹、隠岐諸島沖を航行中の怪異を発見、
只今森ニ飛曹が現場で監視を続けてます。
戦力調査の必要性から零式水偵の爆装と、
小官の再出撃を意見具申します!」
うん、と能美は頷く。
「直ちに発艦準備にかかるように」
号令がかかると水兵たちは素早く持ち場へと散っていった。
能美は美幸の前まで歩み寄ると、
そっと肩に手を置き、優しく語りかけた。
「無理はするな、待ってるから必ずこの艦に帰ってくるんだぞ」
「は、はい…」
能美大佐の激励を受ける美幸の頬に赤味が差しているのは、
彼女に男性の耐性が無いだけなのか…
それとも違う理由があるのかは解らない。
ストライカーユニットのハードポイントに三番通常爆弾二型が取り付けられる。
炸薬量15キロ、
総重量約30キロの汎用爆弾。
これを左右のユニットに一発づつ装備。
更に九九式一号20ミリ機銃が用意された。
「カワウソちゃん、解ってると思うが、
爆装しても20ミリ持っても零貞は戦闘機ではないし艦爆でもない。
舞鶴にもう連絡がいってるから迎撃のウィッチ部隊が飛んでくるし、艦隊も出撃してくる筈だ。
くれぐれも妙な功名心を起こすなよ」
「解ってますってば!」
神妙な顔で釘を刺してくる整備班長に笑顔で対応する美幸。
整備班長のへの字口がしの字に変わった。
ちなみに整備班長は郷里に美幸と同じ時の娘がいたりする。
美幸はカタパルトにセットされたストライカーユニットに飛び込み、装着。
魔導エンジンが始動し、
甲板に魔法陣が描かれ、
美幸の頭部と尾骨にフソウカワウソの耳と尻尾が現れた。
「森美幸、零式水偵行きます!」
カタパルト射出、
蒼空に黒髪を靡かせながら、
可憐なる魔女が飛び出していった。