小さき君、遠きにありしに   作:zenjima7

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5、美幸の戦い、其の三(挿絵有)

《夕月、そっちはどう?》

 

《相変わらずだよ、東へ東へと泳いで進んでる》

 

《沖島から舞鶴へ迎撃要請がいったから、やがてウィッチ部隊も駆けつけてくるわ》

 

《北郷先生も来るかな?》

 

《たぶん真っ先にね》

 

魔法伝信で夕月と連絡をとる美幸。

 

養成学校時代の教官の話題が出て、美幸は思い出していた。

 

五年前の扶桑海事変、

北郷章香は先頭に立ち、候補生たちを引き連れて飛行型の怪異に立ち向かった。

 

その時、

11歳だった美幸は、

 

怖くて、

出撃できなかった…

 

軍事教練こそ多少受けていたとはいえ、

まだ候補生でもなく、

その前段階のウィッチ養成学生に過ぎなかった彼女には無理もないことではあるのだが…

 

若本や坂本といった同期のウィッチたちは、果敢にも出撃していった。

 

その後欧州へ派遣され、

各々戦果をあげる彼女らのなんと煌びやかなことか…

 

美幸は真面目さが取り柄、

離着水が上手なんて言われても、

 

その実、

訓練以外では一発も実弾を撃ったことがない哨戒ウィッチ。

 

そんな地味な自分が戦いの魁になろうとしている?

しかも、

今次大戦の戦局にも影響を与えるかもしれない?

 

…と、そこまで思い至り、

それを打ち消すようにフルフルと首を左右に振った。

 

「功名心に囚われちゃいけないって言われたばっかりだった…」

 

人は人、

自分には自分の役割がある、

と言い聞かせる。

 

 

「夕月!」

「美幸ちゃん!」

 

 

一人で怪異の監視を続けていた夕月と合流を果たし、姉妹は手を取り合った。

 

 

「お疲れ様、後は私が引き受けるから沖島へ戻ってラムネでも飲みながら待ってて!」

 

 

不安顔の夕月を少しでも安心させようと、

なるべく明るく振る舞ってみせるが、

 

 

「絶対に無理しちゃダメだからね!」

「ハイハイ」

「ラムネは美幸ちゃんの分もとっておくから一緒に飲むんだよ!」

「もう沖島で飲んできちゃったけどね」

「じゃあ、夕月のと半分こ!」

「解ったから、もう」

 

 

夕月が大好物のラムネを半分譲るなんて、

よっぽど心配されてるんだなぁ、と苦笑する。

 

 

「私だってウィッチだから!」

「夕月もだよー」

 

ピシャッと自分の両頬を叩いて気合いを入れ、九九式の安全装置を外した。

 

 

「ちょっと行ってくるね」

 

 

軽く手を振り、青空で別れる二人。

夕月は戦いに赴く姉の後ろ姿を暫くその場で見送る。

 

美幸は、

本当に軽くお出かけでもするように、

明るい笑顔だった。

 

けど、その笑顔が明るければ明るいほど、

悪い予感が強くなる…

 

 

「美幸ちゃん、今日もいつもみたいに帰ってくるよね?

いつも通り一緒にご飯食べて、一緒に身体洗って、二段ベッドでオヤスミして…。たまに夕月に小言をいうお母さんよりうるさい美幸ちゃんだけど…

 

…夕月の大事なお姉ちゃんだから。」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

一人になった美幸の表情は真剣。

気持ちを戦闘態勢へもっていく。

 

 

「私の任務はほどほど戦闘して、敵の戦力を確認して報告すること…」

 

 

もう一度、

胸に刻むように自分に言い聞かせた。

 

やがて、それらしい黒いものが見えてくる。

近づくにつれ露わになっていく怪異の全容。

 

 

「大きさは軽巡洋艦以下、駆逐艦以上ね」

 

 

正面に回り込み、確認。

人間の髑髏にも似た顔付きだった。

 

怪異と、視線が合わさる。

 

正に怪物、

 

不気味で、

寒気がする様な姿形。

 

口顎が開いたと思ったら、

凄まじい咆哮を上げた。

 

ビリビリと身体の芯に響く、巨大な雄叫びだった。

 

魔法陣を展開。

魔法陣のシールドが赤い礫の様な光弾を弾いた。

 

すぐに旋回飛行でその場を回避するが、

火線が追いかけてくる。

 

対空迎撃の機銃掃射みたいな赤い光弾が怪異から放たれている。

だが威力はそれ程でもなく、

シールドで難なくガードできた。

 

「そんな豆鉄砲なんてーっ!」

 

ロールして光弾を反らしつつ近づき、機銃掃射。

命中弾が火花を散らしているが、

 

「デカいし、硬い」

 

余りにも対象が大きすぎて機銃では有効なダメージは与えられなさそうだった。

 

上昇して一旦距離をとり、

 

「なら今度は」

 

シールドを展開しつつ突入態勢。

 

赤光弾が雨霰と降りかかるがシールドで弾き、回避行動を取らずに速度を上げる。

 

ユニットから爆弾を切り離し、投下。

 

ヒューと風切り音を立てながら巨体に吸い込まれ、

青白い閃光を放ながら轟音を立てて炸裂した。

 

 

「ギャァアアアアアアアッ!」

 

 

怪魚が悲鳴を上げ、海面を叩いてのたうちまわる。

 

 

「やった、効いてる!」

 

 

機銃は効かないが、

魔法力を込めた爆弾は有効。

 

 

「仕留め…られる?」

 

 

爆弾が命中した背部が大きく抉れていた。

怪魚は動きを止めて再生を開始、抉れた傷が盛り上がって塞がる。

 

放っておくと、

すぐに元どおりになってしまう。

もう一発爆弾が命中すれば、

もしかしたら…

 

やるなら今しかない!

 

 

それは、

胸の奥に封印した筈の《功名心》

 

そもそも初陣で、敵と対峙して、

余裕が無かった。

 

もっと冷静に戦力の分析に徹していれば…

 

先程と同じ要領で突入態勢になった。

 

今度は迎撃の光弾が無い。

怪魚は接近する美幸を見て、大きく口を開けた。

その大口の中に爆弾を叩き込んでやる!

 

と、思った瞬間、

 

美幸の視界いっぱいに、

真っ赤な閃光が広がった。

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