まだ、ユウキちゃんは出てきません。
ついに始まった!
俺はソードアートオンライン(通称SAO)の舞台であるアインクラッド第一層の始まりの街にやって来た。早速、武器屋に行こうと走っていたら声をかけられた。
「おーい!兄ちゃん!はえーな!その走りっぷり、迷いなく走る姿。アンタ、ベータテスターだろ?なぁ、ちょいとレクチャーしてくんねぇか?」
俺は突然のことだったので少しとまどったがOKした。なんとなく悪いやつではないと感じたからだ。
「俺の名前はクライン!おめぇさんは?」
「俺はキリトだよろしくな」
これが俺とクラインの初めての出会いだった。
街から500メートルほど離れたそよかぜの通る草原。
「うおおおおりゃあああああ!!!」
クラインの持った曲刀が弧を描きながら青イノシシの体を真っ二つにした。
「よっしゃあああ!やったぜキリト!」
「ああ、おめでとう。でも、今のモンスター他のゲームじゃ、スライムみたいなもんだけどな」
「嘘だろ!?おりゃあ、てっきり中ボスかなんかだと…」
「うんなわけあるか!」
そう言ってクラインをからかいながらも、クラインがここまで喜ぶのも無理はないとは思っていた。
今までは経験や知識量の勝っている俺ばかりがモンスターの相手をしていたから、初めて自分で攻撃して倒す快感をやっと味わえたのだから。
「さてどうするクライン?もっと狩りを続けるか?」
「あったりめぇよ!……っと言いたいところだが、あと三分でピザが届くもんでな。一度落ちて飯だ。」
「用意周到だなぁ…」
「そうだ!良かったらキリト。このあと一緒に他のMMORPGやってた仲間と落ち合うんだけどよ?おめぇも一緒にどうだ?」
クラインの仲間か…。
クラインを見る限りいい人たちなのだろうけど……うーん……。
「無理にとは言わねぇよ。また、いつか紹介する機会があるだろうしな。」
「済まないな……クライン。」
「さーて。オレはログアウトするな!じゃあな!キリト!」
「じゃあな、クライン。」
クラインは右手の人差し指と中指を揃えて縦に降った。この世界でメニュー画面を出す方法だ。近くにあった石に腰掛けて俺も同じ様にメニューを開き、クラインと一緒に戦った時にドロップしたアイテムを整理しようとした時。
「あれ?ログアウトボタンはどこだ?」
少し離れたところでログアウトしようとしていたクラインからそんな言葉が出た。
「おーい!キリト。ログアウトボタンが消えてんだけど。」
「は?うんなわけないだろ?よく探せって。」
「探したぜ?おめぇも見てみろよ。」
クラインに言われたとおり、俺はメニュー画面のオプションからログアウトボタンを探した。
「……え?無い…?」
「だろ?やっぱりキリトもねぇか。俺だけバグったのかと思ったぜ。」
クラインが安堵したような表情をするが、俺の顔は優れなかった。システムエラー?なら、今にでも運営からアナウンスで強制ログアウトの連絡があってもおかしくない…。
「今頃、このSAOを運営しているアーガスって会社は大慌てだろうな。」
「そんなこと言ってて大丈夫か?お前の頼んだピザは冷えつつあるんだぞ?」
「ぎゃあああ!オレのテリマヨピッツァがぁあ!!」
クラインが頭を抱えてうずくまる。
「……本当に大丈夫なのか?」
その俺の言葉はその場に吹いていたそよ風とともに消えた。
リンゴーン…リンゴーン…リンゴーン…
「なんだ?……!?」
「……うん?うぉお!?」
俺達の周りを青い光が覆う。なんだこれはと思ったが、思い出した。これは転移の光だ。店売りの転移結晶や街にある転移門から転移するときに出る光。しかし、俺達は転移結晶など持っていないし使ってもいない。そもそも、転移結晶は第一層のみせでは売っていなかったはずだ。青い光が徐々にに薄まっていく。するとそこは、始まりの街にある最初にプレイヤーたちが続々とこの世界に入ってくる時に、初めて見る始まりの広場だった。
「……運営による強制転移か?何のアナウンスもなしに。」
「ほんとかキリト!これで帰れるんだな!」
「……ああ」
周りの様子を見てみる。どこもかしこも、美男美女達であふれかえっていた。SAOでは自由に顔や体型などをいじれるので美男美女に自然となってしまうのだろう。どうやら、今ログインしている人達全員が集められたようだ。
……ジジ…ジジジ…
なんだ…?なんの音だ?
「…おいキリト。ありゃ何だ?」
「…ん?」
見るとだんだんと空が裂けて赤い雫が垂れてきた。
女性プレイヤーの悲鳴があがる。やがて、赤い雫だったものは人型のローブ姿になった。しかし、そのローブの中は空っぽだった。そんな不気味なローブから声が聞こえた。
「諸君、私の世界にようこそ。」
私の世界?ああ…。GMか。
「私の名は茅場晶彦。今や、この世界を制御できる唯一の存在だ。」
……!茅場晶彦!超天才量子物理化学者にして、このSAOを作った人物。
「諸君はもう、メニュー画面からログアウトボタンが消えていることに気づいているだろう。しかし、それは不具合ではない。それは、SAO本来の仕様である。もう一度言う。それは不具合ではなく、SAO本来の仕様である。」
「し…仕様、だとっ!?」
クラインが割れた声で囁いた。その語尾に被さるようにして低い低音のアナウンスが続いた。
「諸君は今後、この城の頂きを極めるまで自発的なログアウトは出来ない。」
城、という言葉の意味を俺はすぐに理解できなかった。このはじまりの街のどこに城があるというのだ?そんな俺の戸惑いは、茅場の次の言葉によって一瞬で吹き飛ばされてしまった。
「また、外部の人間の手による、ゲームの停止、ナーヴギアの停止・解除もあり得ない。もし、それらが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる。」
俺とクラインは顔を見合わせた。
脳そのものが言葉の意味を理解するのを拒否しているかのようだった。
脳を破壊する。
それはつまり、殺す、ということだ。
「あ、ありえねぇ…。キリト…。そんなことが可能なのか…?ゲーム機だぞ?んな真似出来るわけねぇよな…?」
俺は少し考えてある結論にたどり着いた。
「…可能だ。電子レンジの様に脳を蒸し焼きにする事ができるからな。しかも、ナーヴギアにはバッテリーが内蔵されている。電源コードを引っこ抜いても、脳を焼かれる。」
クラインの顔が青ざめていく。俺も似たりよったりな顔だろう。
「因みに、 より具体的には、10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み 以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。 この条件は既に外部世界では当局及びマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点でプレイヤーの家族友人等が警告を無視して、ナーヴギアの強制徐装を試みた例が少なからずあり、その結果、 残念ながら既に213名のプレイヤーが アインクラットおよび、現実世界からも永久退場している 」
どこかで一つだけ細い悲鳴があがった。しかし、周囲のプレイヤーの大多数は信じられない、あるいは信じないというかのようにぽかんと放心したり、薄い笑いを浮かべたままだった。
「 諸君が向こう側においてきた肉体の心配をする必要はない。 現在あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を多数の死者が出ていること含め繰り返し報道している。 諸君には安心して……ゲーム攻略に励んで欲しい 。」
「な……………………」
「何を言ってるやがる!ゲームを攻略しろだと!? ログアウト不能な状況でのんきで遊べっていうのかよ!?」
次々と同じような言葉が叫ばれる。
「こんなの、ゲームでも何でもないだろうが!!」
その言葉が聞こえたのか、茅場晶彦の抑揚の薄い声が、穏やかに告げた。
「 諸君にとって《ソードアートオンライン》はすでにただのゲームではない。 もう一つの現実と言うべき存在だ。今後ゲームにおいて、 あらゆる蘇生手段は機能しない。 ヒットポイントが0になった瞬間、 諸君のアバターは 永久に消滅し、 同時に 諸君の脳はナーヴギアによって破壊される 」
デスゲーム
文字通り、この世界はデスゲームと化した。一度も死ぬことが許されないこの世界で、ゲームをクリアするまでゲームプレイをやめることができないだと?
「 ……馬鹿馬鹿しい」
俺は 低くうめいた。死んでしまうのにゲーム攻略をするやつがどこにいると言うんだ。
「 このゲームの第百層をクリアした時、諸君が安全にログアウトされることを保障しよう」
ここまで言われて誰も 恐怖や 絶望の音はほとんど聞こえない 。まだ誰も オープニングイベントなのか本当の危機なのか、 判断し損ねているのだ 。
「 それでは最後に 諸君にとって この世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに 私からのプレゼントが用意してある。 確認してくれ給え。」
それを聞くや、ほとんど自動的に、 俺は右手の指2本を揃え 真下に向けて振っていた。アイテムストレージ にあったアイテムは 手鏡だった 。なぜこんなものと思いながら、 俺はその名前をタップし 、浮き上がった小ウィンドウから 、オブジェクト 化 のボタンを選択 。すると小さな四角い鏡が出現した 。鏡を覗くと突然、 クラインや周りのアバターを 白い光が包んだ。 と思った瞬間 、俺も同じ 光に飲み込まれ 視界がホワイトアウトした 。ほんの二、三秒で光は消え、元のままの風景が現れ ……。目の前にあったのは見慣れたクライン の顔ではなかった 。若侍のようだったアバターが今は山賊のような顔をしている 。
「 お前……誰 ?」
「 お前こそ誰だよ ?」
その瞬間俺はある種の予感に打たれ、茅場のプレゼントである手鏡の意味を悟った。大人しいスタイルの黒い髪。 私服で妹と一緒にいると、 いまだに姉妹に間違われることがある 、線の細い顔。どうやら現実の 姿そのものになっているらしい。
「お前がクラインか!?」
「おめえがキリトか!?」
「今、諸君は、なぜ、と思っているだろう。 なぜ私は、開発者の茅場晶彦は 、こんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか ?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか ?と」
そこで初めてこれまで一切の感情を、 伺わせなかった 茅場の声が、 ある種の色合いを帯びた。
「私の目的はそのどちらでもない。 それどころか今の私は、すでに一切の目的も 、 理由を持たない。 なぜなら……この状況こそが、 私にとっての最終的な目的だからだ。 この世界を創り出し鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、 SAO を作り出した。 そして今 、全て達成せしめられた 。」
短い間に続いて、無機質さを取り戻した茅場の声が響いた。
「 以上で《ソードアートオンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。 プレイヤー諸君の健闘を祈る 」
そして、アバターは消え、 広場の上空を吹き過ぎる風鳴り、NPC の楽団が 演奏する 市街地の bgm が遠くから近づいてきて 、穏やかに聴覚を揺らした。そして一万のプレイヤー集団が 然るべき反応を見せた。
「嘘だろ……なんだよこれ、嘘だろ!」
「ふざけるなよ! 出せ! ここから出せよ!」
「 こんなの困る !この後約束があるのよ!」
「嫌ああ!帰して!帰してよおおお!」
悲鳴。怒号。絶叫。罵声。懇願。そして咆哮。これが 、ゲームプレイヤーから囚人へと変わった 人々の声だった。
「 クライン、ちょっとこい」
俺よりも長身だったらしい曲刀使いの腕を掴み、俺は荒れ狂う人々の間を縫って足早に歩き始めた。どうやら集団の外側にいたらしく、 すぐに人の輪を抜ける。
「 クラインよく聞け俺はすぐにこの街を出て次の村に向かう。 お前も一緒に来い。」
クラインはわずかに顔を歪めた。
「 俺は、前のMMORPGで 遊んで いた仲間たちを、見せておけねぇんだ。」
「…そうか」
「 お前にこれ以上世話になるわけにいかねーな。 大丈夫だ。これでもお前のMMORPGでは ギルドの頭背負ってたんだぜ? だからおめえは気にしねぇで、 次の村に行ってくれ」
「……そっか」
俺は頷き、一歩後ろに下がると、かすれた声で言った。
「なら、ここで別れよう。 何かあったらメッセージとばしてくれ。…… じゃあまたな、クライン 」
目を伏せ、振り向こうとした俺に、クラインが短く叫んだ。
「キリト!」
「…………………」
「おい、キリトよ!おめえ、本物は案外可愛い顔してやがんな!結構好みだぜオレ!」
俺は苦笑し、肩越しに叫んだ。
「お前もその野武士づらのほうが、 10倍にあってるよ!」
俺はこの世界で出来た初めての友人に背を向けて、次の村へと走った。
「うおおおおおお!!!!」
目の前に居たモンスターにソードスキルを放つ。
「プギャー!」
ちょうど急所にあたり、モンスターの体が飛散した。そして、少なくない経験値を手に入れたことを確認し、次の村、ホルンカへと走り出した。
はい、ホルンカの話を次にやりたいと思っています。
ユウキちゃんは次からでます。