港町の小規模艦隊(弱いとは言ってない) 作:酔いどれリンクズ
「あら~?珍しいわね。司令官が『ここ』にいるなんて。」
「・・・ああ、龍田か・・・一応は俺の『相棒』だからな。埃被らねぇ程度には見に来るさ・・・お前こそ、なんで『ここ』にいるんだ?用事なんてねぇだろ?」
「うふふ、用事はあるわよぅ?明石ちゃんに用事があったけど、工廠妖精ちゃんから『こっち』にいるって聞いたから~。」
「そうか・・・」
ここは日本海に面した小さな港町に設置されている、海軍施設の中でも特に厳重に管理されている区画。
ここの入れるのは、この港町の海軍司令官である卜部とその部下である艦むす、大本営で特殊な訓練を受けた数名の軍人だけで、限られた人間以外は何があるかも知られていない特別な区画。
そんな場所に卜部とその部下龍田はいた。
龍田は卜部の部下で艦娘の一人である。
独特なほんわかした雰囲気を持つ女性だが、ある意味一番黒い。
服装も黒いワンピースをよく着ているが、腹の内も卜部の指揮下にあるある艦娘の中でダントツで黒い。
龍田自身は、思ったことを口にするので隠し事や良からぬ事を企んでいるつもりはないが、笑顔がそのように周りに見られていることを密かに気にしているのだった。
「明石なら大淀の所に行ったぞ。『こいつ』の整備の件で確認したいことがあるらしくてな。大本営へ通信しに先程行った。」
「そうなの~。入れ違いになっちゃったのね~。じゃあ、ここで待ってればその内来るわね~。」
「・・・まあ、30分くらい待ってれば来るとは思うぞ。」
そして、静寂が訪れる。
卜部は『目の前の機体』を腕を組ながら見上げ、その横にニコニコ笑顔な龍田が並ぶ。
艦むす専用の工厰より広いが、『目の前の機体』の他に輸送用のヘリと機体用の武装が置いてあるが2人以外誰もいないため物音ひとつしない静かな場所である。
暫しの静寂の後、龍田の口が開いた。
「『埃被ってればいいんだ、あんなもん』とか『二度と乗るものか』とかいつも言ってるけど、結局一番大事にしてるよね、『この子』?」
「・・・俺の生き方の一つだったからな・・・こいつがいたから『今の俺』がいるし、『今のこの国』がある・・・これから先は使われない事を祈りたいが、この戦いが終わらない以上、また『こいつ』に乗って戦場をまわることになるだろうな。いざというときに使えなければ、『こいつ』も『俺』も意味はない。」
「『この子』が出なくても、私たちが居るんだから、司令官は大人しく『この港』で待っててくれればいいのよ~?」
「そうもいかねーよ・・・龍田、お前は『こいつ』の事を一番大事にしていると言ったが、俺は『お前たち』が一番大事だ。この国の事はどうでもいい。お前たちを守るためなら『破壊者』『殺戮者』と謂われようとも『こいつ』と共に世界を破壊することさえ異問わなんさ。」
「あら~、嬉しいこと言ってくれるわねぇ。けど、深海棲艦と戦うのは私たち。その為に生まれたのは私たち。存在意義を奪わないで欲しいわぁ。それと・・・」
卜部の顔を先程まで見せていた笑顔を取り払い、真剣な顔で見る。
「国の為ではない、私も叢雲ちゃんや比叡ちゃん、大鳳ちゃん達の為に戦うの。みんなが生きてこの戦争を終えるために戦うの・・・司令官にも生きて終戦を迎えてほしいから、出来れば『この子』には乗らないで欲しいわね。」
「俺は軍人だからな。上から乗れ、と言われれば乗るさ・・・お前の言葉はありがたいけどな。」
卜部は龍田へ背を向け、ガレージを後にしていった。
「・・・本当に、私たちより早く居なくなっては駄目だよ、司令官・・・」
龍田は卜部を見送った後、一人、『卜部の機体』の前で明石が来るのを待つのだった。