港町の小規模艦隊(弱いとは言ってない) 作:酔いどれリンクズ
ここは西日本の日本海側にある静かな港町の一つ。
海軍所属の卜部率いる艦娘艦隊が常駐する港町。
軍施設、通信室に彼女はいた。
彼女の名は『大淀』。
卜部指揮下の艦娘の一人だ。
叢雲・龍田・比叡・大鳳・明石・大淀と、卜部の指揮下の艦娘は6名いる。
その中で、明石・大淀は戦闘用の艤装を持っていないため、裏方の仕事をしていることが多い。
明石は卜部の機体や他4人の艦娘の艤装の整備を行っており、大淀は大本営や周辺基地への通信要員として任務に従事していた。
「えーと、つまり2日後の合同演習に、叢雲さんと比叡さんに演習指導要員として来てほしいと言うことですか?」
『はい。呉鎮守府へ要請してもよかったのですが、うちまでは微妙に距離ありますし、周辺の基地で高練度の艦娘がいるのは卜部さんところくらいしかいないですから。今回は7ヵ所の港で合同なんですよ。実践経験のある方がいると気持ちの入りも違いますから・・・』
「現状、急ぎの案件はなかったはずなので、多分、大丈夫だとは思いますが・・・卜部司令に確認を取りますので、回答は夕方でもよろしいですか?」
『問題ありません。よい返答を期待します。』
「はい、それでは・・・ふぅ。また演習依頼か・・・」
通信を終了し、一息ついた後、通信室から司令執務室へ移動する大淀。
日本海近海から深海棲艦の出現が減って数年。
艦娘の所属が多い基地や司令官の所は、遠征や演習などで艦娘の練度をあげる事ができるが、卜部の様に小さい港に駐在する司令官の所では訓練や哨戒などでしか練度向上はできない。
その為、周辺の司令官が合同で演習を行い、練度の向上を目指す動きがよく見られる。
幸い、卜部の艦娘達は前線に出る機会が多かったため、周辺の司令官の艦娘より実力は遥かに高く、指導教官として呼ばれる事が多いのだ。
「卜部司令、いらっしゃいますか?」
『ああ、その声は大淀か?入れよ。』
「はい、失礼します。」
庁舎内は、宿舎と一緒になっているためそんなに広くない。
2階建てのアパート程度の大きさしかない為、通信室から執務室まですぐ着いてしまう。
大淀が執務室に入ると、卜部はデスクで叢雲と一緒に書類整理に勤しんでいた。
「お忙しそうですね。」
「あ?役場から来週の周辺町村の合同会議の資料作成を頼まれてな・・・一応、軍の状況報告もしないと駄目だから、ついでに作ってんだよ。」
「町役場の人間には自分達の分くらい自分で作れ、って言いたいけど、決済がこっちに回ってる分はこっちで作らないといけないのよ・・・まあ、大半は卜部が安請け合いしたのが原因だけど。」
「いや、『議会の連中や県庁からの無理難題押し付けられてて残業しても間に合わないんです・・・』って泣きながら言われれば、手伝わざるを得んだろ・・・」
「ふふ、信頼されてますね、卜部司令は。」
港町役場の人々以外にも、港の漁師や町に住む多くの人々、更に周辺の町村からも様々なお願いをされる卜部は軍だけでなく、多くの人々に大きな影響を与えていることが分かる。
他の基地司令はここまでの事はやることはなく、軍関係者とは違う姿に大淀はとても好意を持っている。
「で、どうした?大本営か呉から何かあったか?」
「いえ呉鎮守府ではなく、隣の港町司令からお願いが来たので、それを伝えに来ました。」
「ふーん・・・ああ、2日後の合同演習の件か。どうせ比叡か大鳳辺りを貸してくれ、って話だろ?まあ、1日くらいなら問題ない、いいぞ、って伝えておいてくれ。」
「よくお分かりですね?」
「呉から合同演習の話は聞いてたからな。ご丁寧に、応援は出さない、って通達も来てたからな。めんどくさがりやがって、仕事しろ、ってんだよ。」
「そんな話しあったわね。2週間後の大規模作戦の為、応援は出せない、って通達だったわね。」
「大きいとこばっかり練度あげてもしかたねーだろ。小規模の司令部も育成しないと、何かあったときどうすんだ、って話だよ。」
「この辺は『あんた』が居るから二の次になるわよ。あんた一人で過剰戦力なのに、更に呉鎮守府の所属艦娘より練度の高い私達よ?ぶっちゃけ、呉の連中応援に来ても意味ないじゃない。」
やれやれと言わんばかりに肩を落とす叢雲。
それを横目に納得がいかないと言わんばかりの顔をする卜部。
二人の姿を少し笑いそうになった大淀であった。
「そうですね。叢雲さん、比叡さん、大鳳さん、龍田さん、卜部司令は呉鎮守府の全戦力集めても、それを上回る戦果を出せるじゃないですか。卜部司令が居れば充分って信頼されてるんですよ。」
「要らねぇ信頼だわ・・・ここなら仕事しなくていい、って話だったからこっち来たのに意味ねぇ・・・」
「まあ、前線の仕事しなくていい、と言う意味では間違ってないわね。まっ、精々書類仕事に勤しむことね。」
「はー・・・どっちが楽なのか・・・で、さっきの話だが、比叡か?大鳳か?龍田もしばらく動いてないし、誰が要請されたんだ?」
何故、自身の名を出さないのか、と言わんばかりに厳しい目を卜部に見せる叢雲。
叢雲がいなくなると自身だけで書類整理をしなくてはいけなくなるので、極力、外に出したくないのである。
「叢雲さんと比叡さんですね。今回は比較的規模も大きいみたいなので、2人の要望みたいですね。」
「叢雲には書類仕事頼みt「たまには書類仕事以外の事がしたいわね。」・・・わかったよ。隣の司令には了承の旨、伝えておいてくれ。後、比叡にも言っといてくれ。」
「わかりました。それでは書類整理頑張ってください。」
そう言って、2人が書類整理に勤しむ姿を残して執務室を出ていった。
大した距離のない廊下を歩きながら卜部の姿を思い出し、口許が緩む。
「戦場での凛々しい姿もいいですが、困った顔をしながら人々に囲まれた姿や書類整理している姿の方が私は好きですよ?卜部司令。」
こんな日常が続けばいい。
そんなことを胸に抱きながら、通信室へ戻っていくのだった。