港町の小規模艦隊(弱いとは言ってない) 作:酔いどれリンクズ
港の漁も終わり、町全体がのんびりとした雰囲気になるお昼過ぎ。
軍施設の一つ、艦娘専用の工厰から多くの火薬に火が付いてダイナマイトが使われたような大爆発の音が、町全体に鳴り響いた。
ここは普段は静かな西日本にある小さな港町の一つ。
海軍施設がある地域にしては穏やかな町である。
そんな場所で、普段は聞かないような轟音が鳴り響いたため、多くの人々が建物から出てきた。
「何だっ!?何が起こったっ!?」
「卜部さんとこの工厰から聞こえたみたいだけど?」
「工厰?・・・ああ、『あの人』か。」
「『あの人』なら仕方ない。」
「また何か失敗したんだな『あの人』。」
「人騒がせだなぁ・・・」
「今日はいつもより大きかったわねぇ。」
「まあ、大丈夫でしょ。」
「ヤバかったら警報なるしな。」
「だねぇ・・・さぁ寝よ寝よ。」
様々な建物から多くの人が出てきたが、爆発の場所が分かると、皆一様に建物へ帰っていった。
・・・普段は静かな港町である。
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「で?何か申し開きはあるか、整備士さんよ?」
「たはは・・・ちょっとエンジン調整ミスってしまいまして・・・」
艦娘の工厰の一角で、腕を組ながら青筋を立てて仁王立ちをする卜部。
その後ろには、またか、と言わんばかりの顔を一様にする卜部指揮下の艦娘達。
そして、卜部の前には所々煤けて黒くなったり服が破れてる、今回の爆発の原因を作った女性『明石』が正座をさせられていた。
明石は卜部指揮下6人の艦娘の一人で、大淀と同じ様に自身の艤装を持っていない。
その為、裏方の仕事に邁進している。
大淀が軍の通信や事務関係を引き受けており、明石は叢雲達4人の艤装の整備と卜部の機体や諸々の機械の整備、その他開発や改修など、工厰の主と言える作業を行っている。
今回は『ナニカ』のエンジンを調整しているときにミスがあり、エンジンが火を吹き爆発したようだ。
見る限り怪我はないようで、煤けるだけで済んでいる明石はやはり艦娘なのだろう。
「ったく・・・エンジン調整だけで何でこんな爆発すんだよ・・・町の連中から苦情が来ないからいいものを・・・」
「面目次第も御座いません・・・」
「怪我はないか?」
「え?ああ、この通り、煤けちゃいましたけど、怪我はないですよー。」
「そうか・・・じゃあ、後は片付けと明日までに始末書作ってこいよ。大鳳、後は任すわ。」
「あ、はい。任されました。」
卜部はそう言って自身が着ていた黒いコートを明石に被せ、町役場の方へ向かっていった。
一応、事の報告をしに行ったようだ。
大鳳と大淀以外の艦娘も明石の無事を確認すると、それぞれの仕事に戻っていった。
「久々にやりましたね、明石。」
「前回に比べるとかなり大きかったですね、爆発。」
「あはは・・・ご迷惑おかけしました。」
残っていた大淀と大鳳に介抱されながら工厰の中へ入っていく明石。
工厰内はものの見事に爆発の跡が残されており、物は散乱し、壁や天井は所々焼けたり黒焦げていたりする。
「・・・予想はしていましたが、片付け、修復は時間がかかりそうですね・・・」
「あ~・・・大丈夫ですよ。お二人は床の清掃をお願いできますか?私は散らばった工具類や機械の確認をしますので・・・夕方には終わりますから。」
「あ、これですね。今回の原因は・・・形ほとんど残ってないですけど、なんかエンジンっぽくないですけど?」
明石・大淀が片付けを始める中、大鳳が今回の騒動の原因っぽい機械の残骸を見つけていた。
爆発したため、ほぼ機械としての形を成していないが、周辺の煤け具合や部品の飛び散り方から爆発源であるのはわかる。
「えーと、さっきはエンジン調整って言ったんですけど、厳密にはモーターなんですよ。」
「モーター、ですか?」
「はい。『あの子』用の推進モーターで・・・」
どうやら、卜部の機体部品の開発を行なっていたようだ。
それを聞いて、2人は納得した。
基本的に、艦娘用の装備や部品開発で爆発する事は『ほぼ』ない。
物『自体』は完成するから(たまにペンギンみたいな『名状し難き物』になるが)。
完成した部品を取り付けて作動させると、失敗した装備は『エラー』が起こるため、開発した物が成功したか失敗したかはそれで判る。
だが、卜部が搭乗する『あの子』の部品は違う。
『妖精』と呼ばれるサポートしてくれる者が一切おらず、事実上、明石一人で作業を行なっている。
更に、機体の『性質上』部品の一つ一つが綿密な計算の元、作成されているため、中途半端に弄ると高確率で『爆発』するのだ。
「リミッターが掛かっているから抑制されていますけど、エンジン部から排出される『粒子』をモーター部分に届く前に、もう少し減らせないかと間にフィルターを取り付けてみたんですけど、フィルターに熱が籠っちゃって・・・」
「熱暴走して爆発した、と。・・・やろうとした事は解りましたけど、その実験で『粒子』は撒き散らしていませんか?」
「それは大丈夫です。発生率0.2%以下でしたし、リミッターで30%以下の出力でしたし、実験だったので徐々に出力上げてましたけど、リミッター出力まで行きませんでしたから。」
「リミッター以下の出力で、ここまで爆発するんですか・・・。確か、リミッターあってもflagship級の攻撃でさえダメージほぼ無し、棲姫クラスでも70%以下の損耗率にならないと聞いた事が・・・」
「厳密に言えば、出力が下がっていても平均的な艦娘の機動力の5倍以上、普通に避けちゃいます。当たらないから損耗率は減りますよ。更に火力もありますから、攻撃が当たる前に撃破しちゃいますからねぇ。」
「それだけの超兵器を『死蔵』させて、私達『艦娘』を配備するのに理由があるんですか?」
「検証されていませんけど、それが抑制させたい『粒子』に関係してくるんですね。この粒子、とても有害な物質で、壊滅的な環境汚染しちゃうんです。それが理由なのか、『深海棲艦』を爆発的に増やしちゃうんです。大鳳ちゃんは『日本海域解放戦』で少しだけ稼働してるの見てたんでしたっけ?短時間の稼働で撃墜数トップになったのに、使われない理由はそういう所にあるんです。」
「撃墜数トップは司令の技量もありますが・・・そのため『粒子』抑制の研究は、どの機関でも行われていますが、『現物』があるここは、ある意味一番研究しやすいのですよ。まあ、軍最高機密のため、事実上、明石一人で研究してますけどね。」
『爆発魔・明石』
機密のため詳細を語れず、素の性格上『あの人だから仕方ないか』と周りからは思われている。
大々的に行われていても、機密『は』守られている状況である。
「司令も分かっているので、お咎めほぼ無いです。まあ上層部が煩く言ってくる前に、顛末・始末書は早く作らないとですねぇ。」
「でしたら早速、片付け終わらせましょう。」
「まあ何時もの事なので、手早く片付けましょう。事務処理は叢雲さんと龍田さんがやってくれているので、私も時間ありますから。」
ある意味、何時もの事なので話しながらも手は止めず、手早く後始末をする3人であった。
ここは西日本にある普段は静かな小さな港町の一つ。
海軍施設がある地域にしては穏やかな町である。
しかしそこには、奪われた海を解放するために戦う6人の艦娘と、世界最強最悪の軍最高機密な超兵器が眠る、表向き『港町の小規模艦隊』と言われる卜部司令官が統括する『西日本最強艦隊』が着任している港町であった。
3年ぶり