智慧と王冠の大禁書   作:生野の猫梅酒

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ローマはどこ……ここ……?


第二章 永続狂気帝国セプテム
第八話 中央管制室 Ⅰ


 カルデアが消去すべき特異点は全部で七つある。そのうちの一つ、オルレアンは既に人理焼却の機能を失い、現状では残る特異点は六つとなっている。そして今回は第二の特異点、紀元六十年のローマへとマスターとそのサーヴァント達はレイシフトすることになっていたのだが――

 

「まさか居残りを食らわされるとは……」

 

「ははは、そう気を落とさないことだ。ボクだって一番最初の重要な実験で妙な理由でメンバーから外されていたくらいだし」

 

 気落ちしたようなマーキダを慰めるのは、カルデアにてマスター達のサポートをするロマニ・アーキマンであった。本来ならありえないはずの光景、しかしそれも特異点でなくカルデアの指令室でならむしろ道理だ。

 そう、マーキダは今回のローマへのレイシフトに参加していない。正確には、参加できなかった。その原因はひとえに黒の騎士王、セイバーオルタが関わっている。

 

「盤石を廃し、あえて苦境の中でマスターを戦わせて成長を促す。全く、相当に厳しいやり口ですね。しかも理に適っているから性質が悪い」

 

 ぼやきながら彼女はロマンの座る椅子の横に持ってきた折り畳みの椅子を置くと、優雅に腰を下ろした。そうして目の前のモニターを見れば、特異点に向かった組がローマ近辺にレイシフトしている映像が確認できる。他にも様々な計器が動き出し、中央管制室に詰める職員たちの観測の下、マスター達を補佐すべくカルデアの頭脳は稼働を始めていた。

 しばらくマーキダはロマンたちが一丸となってレイシフト後の微調整を済ませているのを眺め、手に持った手帳にメモをいくつか書き取っていたのだが、じきに彼らが少しずつ落ち着いてくると隣に座っているロマンへ話しかけた。

 

「貴方は良かったのですか? セイバーオルタさんの言う事は理に適ってはいますが、同時にリスクの高い物です。カルデアの所長代理たる貴方が許可を出したのは正直意外でしたが」

 

 セイバーオルタは暴君であり、同時に王ではなくマスターの剣であろうと務めるサーヴァントだ。故になんだかんだ言いつつもマスターの成長を促すために導かんとする。だがその手段はかなり厳しいものでもあり、今回で言えば最初から最高戦力で特異点に当たるのではなく敢えてマーキダを残すという刃落ちの状態で臨ませた。それは慢心を無くし心を鍛え、手段の足りない状況でどのように立ち回るかを養うには良い手段ではあるのだが、同時に特異点で追いつめられて死ぬ確率も上昇する諸刃の剣だ。

 

「まあそうだね。確かにボクも反対という気持ちはあった。だけどこれに関してはボクの一存じゃ決められない。それに厳しいことを言えば、立香君はこれから先で起こるありとあらゆる危機を乗り越える為に強くなってもらわなくてはならないんだ。だからこそ、彼女の騎士王としての経験と直感に頼ることにした。その方が最後の勝ち目が高いと踏んだからね」

 

 ”第三特異点まではほぼ我らだけでどうにかなる”――それが騎士王の直感による言葉だった。その時の彼女は第一特異点において山盛りの食料を前にしていた為、普段『直感』スキルを代償に抑えていた凶暴性を遺憾なく発揮し、代わりに未来予知にも匹敵する強力な『直感』を一時的に取り戻していた。故にその精度は折り紙付き、信用に値する情報となっている。

 だからこそ、ロマンもこの難しい判断において許諾を出した。幸いなことに、メンタル管理的な意味でも他者の本音を正確に見抜くアンデルセンや、頼りがいのある聖女であるマルタが居る。それになによりマシュが居るのだ。彼女が隣に居る限り藤丸立香が折れることは無い。これら諸々を総合した結果、本来勝ち目のない戦いに出ることはない彼をして利はこちらにあると踏んだのだ。

 

「ま、そういう訳だから君も出番があるまでこっちで待機だ。なんならボクの椅子に座るかい? 女王様が座る方がよほど絵になると思うけど」

 

 冗談めかして笑うロマンに、マーキダは静かに首を横に振った。

 

「私よりも貴方の方が余程その席に相応しいですよ。只人の身でありながら責任を背負い走り続ける、それはある意味特異点で戦う立香君と同じくらい苦しくて大変な使命ですから。それを受け止めることが出来る貴方にこそ、その席は相応しい」

 

「……あはは、逆にボクの方が気を遣われるとは思わなかったよ。割とボクの事を扱き下ろすサーヴァントって多いし」

 

「私は割かしお節介ですからね。それになんとなく、貴方の事を悪く言うと取り返しのつかないような気がするので」

 

「それはいったいどういう理由で?」

 

「女の勘、ですかね」

 

 何とも不確かで夢見がちで、けれど()()()考えだ。そしてそれを表にはおくびにも出さず、代わりに「ありがとう」とだけ零し、一瞬だけ見慣れたはずの幻想女王の顔を見る。その顔はやはりロマンの内面を見抜くかのようで侮れない。それを振り払うように再びコンソールへと視線を戻すと、そこに映っている映像は既に進んでおり、ローマ近辺で戦う二つの軍に介入するマスター達の姿があった。

 

「さて、ここからはボクらも本格的にサポートに回らなきゃならない。悪いけどあんまり構ってあげることが出来ないが許してくれ」

 

 その言葉にマーキダが頷く。そうして、第二特異点の人理修復作業がスタートした。

 

 ◇

 

「……ふー。さてと、今日はこんなものか。向こうはローマ首都で無事就寝、しばらく問題は無さそうだね」

 

 ロマンのその言葉に張り詰めていた中央管制室の空気が若干緩み、大きく伸びをする職員が続出する。実際それも無理はなく、今日だけでも半日以上ほぼ交代無しで特異点の観測とマスター達の存在証明を行っていたのだ。深夜でも同じくそれらの行為を行う必要はあるが、それでもアクティブに動き回る昼間に比べればいくぶん負担は少ない。

 なので職員の半分以上が管制室から退出し、束の間の休息をとるべく部屋へと戻った。残ったのは最低限の人員、その中には勿論ロマンの姿もある。

 と、部屋から出て行く職員達と入れ替わるようにして入って来た人影が有った。両手でお盆を抱えていて、その上には多数のマグカップと一つの大きなポットがある。

 

「お疲れ様です、皆さん。コーヒーなる飲み物を作って来ましたが飲みますか?」

 

 やって来たのは果たしてマーキダであった。しばらく前に唐突に部屋から出て行ったのだが、どうやら差し入れを作りに行っていたらしい。その気遣いにやや活気の落ちていた管制室が俄かに沸き立ち、我先にとコーヒーを貰って行く。その様子を片目に見ながら、ロマンはひとまずキリの良い所まで作業を続けていたのだが。

 

「ほらドクター、貴方も飲んでください。ダ・ヴィンチちゃんから聞いたのですが、これには意識の覚醒作用もあるみたいじゃないですか。飲んでおいた方がお得ですよ?」

 

 不意に横からコーヒーが並々と注がれたカップが差し出された。咄嗟にのけぞるようにして躱してしまい、次いで目の前でシュガーが一袋入れられていく。それを付属のマドラーでマーキダがかき混ぜると、ロマンの口元に押し付けにかかって来た。

 

「ちょ、待った待った! それはさすがに火傷するから! そこまでしてくれなくても飲むから心配しないでくれ!」

 

「ならいいですけど。むしろここまでしなければ飲まないような気がしたので」

 

 頬を膨らませてそう言う彼女だが、さすがに今度はロマンもコーヒーを貰うつもりだった。なのですぐにコーヒーのカップを貰うと、なみなみと注がれた黒い液体に口を付ける。今度はいつか飲んだのとは違う、仄かな甘みを感じさせるものだ。

 その隣でマーキダがシュガーの袋を七本以上コーヒーに空けているのを眺めながら、ちびちびとコーヒーを飲み進めていく。カフェインが脳を刺激し、徹夜するための主要なエネルギーとなっていく。それでも完全に睡魔から逃れることは難しく、一、二時間も経った頃には職員達も少しずつ舟を漕ぎ始めた。ここらが潮時か。

 

「よし、本日はいったんここで解散としよう。残りはボクが見ておくから、君たちも自室で休息だ」

 

 ロマンが手を鳴らして手早くそう告げると、彼に感謝しながら続々と職員達も部屋から出て行く。皆去り際に一様に「ドクターも早く休んでくださいよ」というのを忘れない。

 結局、管制室に残ったのは居残りのロマンと、休息を必要としないマーキダの二人だけとなった。現在時刻が午前二時だから、次に休息後の職員達がやって来る午前四時まで二時間ほど時間がある。

 

「いい人達じゃないですか。魔術師たちの集まりとはとても思えないくらいです」

 

「そうだね、ボクとしても良い仲間に恵まれたと思っているよ」

 

 これはロマンの本心だ。ここに来て、間違いなく彼らの結束は強くなっている。ただその中で、どうしても明かすべきではない”秘密”があるだけの話。もはやそれは信用のあるなしでは無く、単純に言わないほうが良い事象なのだ。

 静まり返った管制室に二人分の息遣いが木霊する。と、ここでコンソールが不意に光った。示しているのは特異点からの連絡だ。どちらともなく顔を見合わせ、次いで通話許可のボタンをONにする。

 

『あーあー、カルデアの方、聞こえるかしらー! マーキダか誰か起きてないー?』

 

「ああ、ちゃんと聞こえているよ。こんな時間にどうしたんだい?」

 

『あら、ドクターですか。ええ、少しばかりそういう気分になったものでして』

 

 通信機から聞こえてきたのはここ数日で聞きなれた聖女マルタの声である。サーヴァントである彼女は特異点だろうと睡眠や食事を摂る必要が無いため、この時間に起きていても決して不思議ではない。しかしその用件が不明だった。

 

「何か問題があった……という訳でもないみたいですね。アンデルセンたちはどうしたのです?」

 

『アンデルセンはマスター達と一緒に爆睡、オルタは辺りの哨戒に出てるわ。ホント、同じサーヴァントなのにどうしてここまで意識の差が出るのかしら?』

 

「そりゃあ人間だからね。人には誰しも個性がある。心がある。当然の事さ」

 

『うぐっ、そこで正論言われると辛いですね……まあそれはともかく――』

 

「ローマについて、ですね?」

 

 確信をもったマーキダの問いかけにマルタが押し黙り、肯定を示した。そう、これはある意味当然の予想。この時代のローマ皇帝はマルタが信じるキリスト教の教徒をひたすら弾圧していた主犯なのだ。加えて言えばマルタが生前生きていた時代と非常に近い。かつて自分らを迫害した者を助けるという行為に、思う所が無い方がむしろおかしいだろう。

 

『先に言っとくけど、サーヴァントとしての力やタラスクを用いてローマに殴り込みをかける、なんて馬鹿な真似をする気は無いわよ。人類の為にローマを救う事にも否は無いし、あの皇帝様も思った以上に面白い人だったから。ただ、それでもちょっとだけ気になってしまったのよ』

 

「ふぅ、聖女が実に理性的で助かった。もし復讐に走るとか言い出したらどうしようかと思ったよ」

 

『お生憎様、偉くなったつもりは無いけど、そこまで低俗になったつもりも無いわ。それでまあ、同じユダヤの民に縁のあるマーキダに参考意見でも聞いてみようかと思ってね。あなたはローマをどう思っているのかしら?』

 

 問われ、しばし考え込む。彼女にしてみれば、シバ王国がローマに直接の被害を受けたわけではない。だけど思う所がないこともない。

 

「……ソロモン王のイスラエル王国を潰したのは正直不快ですが、それを言っても詮無い事でしょう。ことは私達の死んだ後、ないし生まれる前に起きていたのですから。それに私としては、芸術の文化を多数生み出した文明に興味があります。そういった方面から好きになれれば良いかなと思っている感じですね」

 

『ふぅん、無関心よりも好きになる努力をするべきってことね。なるほど、なんとなくあなたらしいわ。ええ、ありがとう、ちょっと愚痴っぽくなっちゃったけど、聞いてもらえてすっきりしたわ』

 

「意外だ、聖書に謳われる聖女でも迷うことはあるんだね」

 

『もちろんですよ。それこそ私たちはあなたの言うように人間なのですから、とても完璧ではありません。そのうえでどれだけ主の御心を理解し、また他者に慈しみを持って世界を好きでいられるかこそ重要なのです。……なんて説法臭くなったけど、今夜はここまでにしとくわ。じゃ、おやすみなさい、ドクターも早く寝ておきなさいよ!』

 

 最後まで聖女らしいような、そうでないような人柄を見せつけて、マルタからの通信は切れた。しばし管制室に残った二人はその名残を楽しむように無言で佇み、それから示したかのように顔を見合わせた。その顔には当然笑みが浮かんでいる。

 

「楽しいものですね」

 

「本当にね。ちなみに、君が好きになったローマに所縁(ゆかり)のあるものは何だい? 良ければ聞かせてくれ」

 

「……これをあなたの前で言うと誤解されそうですが――」

 

 不思議な前置きが入った。

 

「浪漫という言葉が私は好きですよ。私の時代にはこのような言葉は有りませんでしたし、理想を追って感情的になるなんてまさしく心そのものを示すような言葉じゃないですか」

 

「……ああ、そうだね。ボクもまったく以て同意見だ。こればかりは()()()()()()()()()

 

 やはり目の前の女王はロマンチストだ。そのことをロマンは再確認する。そしてどうやら思考形態も意外と似ている所があるらしい。そのことがどことなくくすぐったい。

 反して何気なく零したロマンの言葉に、僅かにマーキダの眉が顰められた。しかしそれも即座に消えて、代わりにどことなく心配するような顔つきになる。

 

「まあそれはそれとして、あなたは早く寝た方が良いと思いますが」

 

「悪いけど、ここにいてカルデアを動かせるのは現状ボクだけだ。役目を放棄して眠るわけにはいかないよ」

 

「理屈は分かりますが……見かけに反して強情な人です。私は貴方が心配で言ってるんですよ?」

 

 どうやらロマンは職員やマルタから散々寝ろと言われて尚寝る気は無いらしい。自身の職務を全うする腹積もりなのだろう。それをロマンの無言の抵抗から理解したマーキダが溜息と共に立ち上がると、管制室の外へ去ろうとする。

 

「そこまで言うなら止めませんよ。代わりに、何か温かい夜食でも持ってきます」

 

「ああ、適当に保存食でも取って来てくれると――って行っちゃったか」

 

 背中で聞き流すようにマーキダは部屋から出て行き、ロマンだけがぽつんと取り残される。しかしこれも、第一特異点攻略時の夜は頻繁に見られた光景だ。他の局員たちはさすがにロマンも休息を取っていると考えているからこそ笑って退出できるが、もし真実を知れば血相を変えて居残ろうとするだろう。

 

 ――それではダメだ。

 

「ボクは所長代理だからね。少しくらい他の人より踏ん張らなきゃ示しがつかない」

 

 嘯きながら机の下より小瓶を取り出す。中に入っているのは脳を強制的に覚醒させる作用を持った薬だ。これを飲めば徹夜程度どうという事はなくなるが、代わりに体や脳に大きな負担がのしかかる。

 当然、彼は医者としてそのリスクを十分承知している。そしてそのうえで、躊躇いなく飲み干した。お世辞にも美味しいとは言えない感触が喉を通り過ぎ、眠気で曇った思考をクリアにしていく。飲み干した小瓶は机の下に隠しておいた。マーキダの事だ、こういった薬品に対してはあまりいい顔をしないだろう。

 これで睡眠問題については解決、後は特異点の観測だが、現状それもほぼやることが無い。なのでコンソールの空きスペースにノートパソコンを置くと、嬉々として電源を付けた。見るのは当然、

 

「”マギ☆マリ”……これはいわゆるアイドルの類ですか?」

 

「うわっと! いつの間に!?」

 

 ちょうどパソコンを立ち上げてマギ☆マリのサイトを開いたところだった。背後から唐突に声を掛けられて大いに驚いたロマンか電光石火の速度で後ろを振り向き、さっきまで出ていたはずのマーキダの姿を確認する。その手にはまたもや盆が乗っていて、白いパンと湯気の立った野菜スープが乗っている。

 

「随分と早いじゃないか……それに、わざわざそんな物を作って来てくれるとは。別に手抜きで良かったのに」

 

「一応これも作り置きですよ。温めればいいだけで楽ですし、夜に食べるものは気を遣わなければ体に悪いですからね。それにしても、そのサイトはドクターのお気に入りですか?」

 

 ポップなホーム画面のサイトをまじまじと眺める彼女に、どう説明したものかとロマンが頭を抱えること数秒。結局いい誤魔化し方は思いつかないので、料理を受け取りながら簡単に答えておいた。

 

「ボクが贔屓にしているネットアイドルだよ。今は当然人理焼却の影響で更新を止めているけど、そこはボクだからね。自動文章作成プログラムを作って勝手に更新するようにしてるんだ」

 

「……なんという無駄に洗練された無駄な技術。なまじプログラムとは思えないほど文章が活き活きしているから恐ろしいですね」

 

「だろう? ボクもちょっと予想外なくらい成長してるけど、こういう予想外なら大歓迎さ」

 

 誇らしげに笑うロマンの姿は、先ほどまでの責任ある男とは似ても似つかない、とても所長代理に見えない冴えない男性と言った有様だ。彼はパンとスープに手を付け始め、しばしの間食事の音だけが響き渡る。マーキダはそれをニコニコしながら眺めていた。

 そんな彼女を見て、ふとロマンは思うところが出来た。

 

「……暇そうだけど、君は何か趣味が無いのかい? せっかくこの時代に召喚されたんだ、やれる事は限りなく少ないとは言え、趣味の一つや二つ見つけてもバチは当たらないと思うよ?」

 

「貴方を見ているので暇ではないのですが。趣味ですか……料理を作るのは趣味じゃ駄目ですかね?」

 

「それは人の為にすることでもある。そうじゃなくて、自分だけが満足できるような何かだ。趣味っていうのは、きっと人生に潤いを与えてくれるような事だよ」

 

 ――或いはそれは、自身の為の行動を何一つ出来なかった男からの忠告なのか。ロマン自身、その心は分からない。

 

「ならそうですね、私は一つ気に掛けていることがあるのです。どうしても似ていて、だけどあの人のはずが無い。なのに何故だか無性にその人が気になってしょうがない。こんな感情を抱いてしまう原因は奈辺にあるのか、この謎を解明してみたいですね」

 

「面白そうじゃないか。まるで探偵みたいだね。ボクにできる事なら手伝おう」

 

 特に考えのない安請け合い。ロマンらしく、そしてロマニらしくない反射的な言葉だ。けれどマーキダはまるでその言葉を待っていたとばかりに妖艶に微笑む。その笑みにロマンが反射的にこれはマズイと思うも、時すでに遅し。

 

「なら、貴方をしばらく観察させてください。悪いようには致しません、ただ仕事中のあなたの様子や、こうして二人で話す時間を用いて済ませますので」

 

「えっ、えー……」

 

 クスクス笑うマーキダと、呆気にとられた風のロマン。時間は既に午前三時三十分、明け方も程近い。けれど二人きりの夜は、まだまだ深々と更けていった。




ローマに行くと思ったら行かなかった。たぶん次回もこんな感じで話を進めていきますが、さすがに時間は一気に飛ぶと思います。

マルタさんの口調ですが、同じ女で親しみのあるマーキダには素の口調、逆にロマンには敬体となっております。たまに二つが混じったりもしてますが。

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