誰もいない岬に座って海を眺めていた。
夕暮れ時の陽の光が海の表面に煌びやかに反射してとても綺麗だった。
「ちーっす、提督」
後ろから不意にかけられた聞き覚えのある声。
その主が誰であるのかはすぐにわかった。
「おう、鈴谷」
俺が後ろを振り向くと、鈴谷はかるく微笑みを浮かべてこちらをみていた。
「またここにいたんだ」
そう言いながら鈴谷は俺の隣まで歩いてきて腰を下ろした。
「ここは俺のお気に入りだからな」
鎮守府の敷地内にある岬だが距離が離れていることもありここに誰かが訪れることはほとんどない。
だから一人になりたいときは必ずこの場所へ来ていた。
「たしかにいい場所だよね、ここ。こうやって座ってるだけでなんか落ち着くし」
気持ちよさそうにのびをする鈴谷を横目にみながら、俺は煙草を取り出して火をつけた。
「ふー…」
「提督すごくおやじくさい」
「うるせ、ほっとけ」
吐いた煙草の煙は宙をただよいながら上へと昇っていく。
せっかく禁煙していたというのにまた失敗だ。
「そういえば、今日の晩ごはんは提督の好きなカレーだってさ、電ちゃんと金剛がはりきってつくってたよ」
「そっか、そりゃ楽しみだ」
俺は乾いた笑いとともに言葉を返した。
「………あのさ元気だしなよ、べつに誰も提督を責めたりしてないからさ」
「…わかってる」
「全然わかってないって、つらいならさ、もっと鈴谷を頼ってよ」
「…」
「提督はすぐなんでも一人で抱えこんじゃうからさ」
「そういうの、よくないと思うな」
そう言う鈴谷の声は、少し震えていた。
「…鈴谷は優しいな」
「鈴谷だけじゃなくて、この鎮守府にいる全員が同じこと思ってるよ」
「そっか…俺はしあわせものだな」
「提督。みんなの前では隠しててもさ、せめて鈴谷の前くらいは素直になってほしいな。ほら」
そして俺は鈴谷に優しく抱きしめられた。
「鈴谷…」
「特別に鈴谷の胸かしてあげるからさ、泣いていいよ」
鈴谷から感じるぬくもりはとても心地よかった。
瞬間、今まで抑えつけていた感情が堰を切ったように溢れ出してきた。
俺は嗚咽をあげながら涙を流した。
ーーーー。。。ーーーー
「悪い、服汚しちまった」
自分でも思った以上に涙が流れ、そのおかげで鈴谷が着ていたシャツがぐしょぐしょになっていた。
「ん、いや大丈夫だよ。いっぱい替えあるし」
そう言って鈴谷は立ち上がり俺に手を伸ばして来た。
「さ、帰ろうか。あんまり遅いとみんな心配するし」
俺はその手を掴み、立ち上がる。
「鈴谷、今度このお礼させてくれ」
するとなぜだか鈴谷は少し口を尖らせ、むっとした表情を浮かべた。
「べつにお礼とかいらないんだって」
「鈴谷がしたことは家族だったらあたりまえのことなんだから」
そう言いきると突然勢いよくに走りはじめた。
「ちょっち服着替えてから食堂いくから!提督は先行っといて!」
そのまま走り去るのかと思ったら途中立ち止まってこちらを向いた。
「あともうひとつ!もしどうしても提督がお礼しなきゃ気がすまないっていうなら今度鈴谷とデートしてよ!にひひっ」
そして鈴谷は再び走りだした。