彼は夢から覚め、明朝の鍛錬へと行く。
―鍛錬場―
「よいですか正虎。あなたの力はなかなかの物ですが体術はかなりマズいです。よってこれより解説を行った後実践にうつります。」
「はい、ヨシテル様。」
鍛錬場にて白色を基調とした鎧に陣羽織を身に着けているヨシテル様、の前に正座する俺。そして壁際に見学している義昭とミツヒデ様。
確かに卑弥呼から力を授かったが体術の方は現代にいた頃となんら変わらない。これじゃ護るどころか先に討ち取られる。
そういった面から体術について学ぶのはとても有難いものだ。
「義昭、きちんと見学しておくのですよ?ミツヒデ、実践の時はお願いします。」
「わかりました、姉上。」
「はい。このミツヒデにお任せを!」
義昭は少し微笑みながら、ミツヒデ様は頼られたからかやる気満々といった様子。なんとなくミツヒデ様はやる気が空回りしそうな気がしてならない。
「では説明しますよ。」
「あ、お願いします。」
さて、気を引き締めないと。
「・・・さて説明はこのくらいにして実践といきましょう。ミツヒデ、頼みましたよ。」
「喜んで!このミツヒデ、正虎に体術を叩き込んでやります。」
「お、お手柔らかに・・・。」
ヨシテル様はミツヒデ様にバトンタッチ。ミツヒデ様が俺の前に、ヨシテル様は義昭の横に座る。
嫌な予感しかしないのは気のせいではないかもしれない。心なしか義昭も苦笑いしているようにも見える。
「さあ正虎。覚悟しろ。今からその身に嫌というほど叩き込んでやるぞ。」
「うぅ、ホントに嫌な予感しかしない・・・。」
「違う!そこは右から踏み込むのだ!」
「よ、よし。右からだな。」
「さあ、もう一度だ!」
まさに鬼教官と化したミツヒデ様。しかしアドバイスは的確で、対処の仕方も教えてくれるのでとても頼りになる。
今までこんな訓練なんてしたことはなかったがミツヒデ様の指導の仕方のおかげか、投げ出したくなるなんてこともなかった。
そんな時、鍛錬場の戸が開いた。
「ん?なんだ?」
ミツヒデ様と俺は動きを止め、ヨシテル様と義昭も座ったまま開いた戸の方を見る。
そこには一人の兵士が立っていた。
「あの、お忙しいところすみません。ヨシテル様とミツヒデ様にご報告したいことが。」
「報告ですか?・・・ミツヒデ。」
「はっ。正虎、休憩だ。」
ミツヒデ様はヨシテル様の近くまで歩いて行った。何故か義昭はこちらへ来た。
俺は疲れからその場に座り込んでしまっていて、その隣に義昭は腰を下ろした。
「お疲れ様です、正虎。いい勉強になります。」
「義昭・・・様。いやぁ本当に疲れましたよ。」
「ミツヒデはかなり熱心に指導していましたからね。むしろついて行けているのがすごいですよ。」
「はは、そういってくれると嬉しいものです。」
ヨシテル様とミツヒデ様は報告を聞き、何やら相談しているようだ。一体何があったのか気になる。
「う~ん、報告って何だと思います?」
「少なくとも火急の話ではなさそうですね。姉上もミツヒデも落ち着いて相談していますし。」
確かにその通りだ。兵士も急いできたわけじゃないし、どちらかと言えば対処に困ったから来たような・・・。
そうこうしている間にヨシテル様とミツヒデ様の相談は話が決まったのか兵士を下がらせると、こちらに来た。
ヨシテル様はどことなく申し訳なさそうな、少し困ったような顔をしている。
「義昭、正虎。私は一度二の丸へ向かいます。ミツヒデ、あとは頼みましたよ。」
「はっ、お任せを!」
「わかりました、ヨシテル様。」
「姉上、どうかお気をつけて。」
ヨシテル様はそのまま小走り気味に行ってしまった。何があったんだろうか?
「さあ、正虎さっきの続きだ。義昭様は少しだけ離れてください、万が一がございますので。」
「それよりミツヒデ、何があったのですか?」
義昭がミツヒデ様に訊いてみている。俺も気になって仕方がなかったので黙って聞いておく。
ミツヒデ様は少し考えている仕草をしている、もしかして知られたらマズいことだったのかな・・・。
するとミツヒデ様は考えがまとまったのか小さく頷く。
「先ほどの報告ですがどうも奇妙なカラクリが見つかったとのことでした。
今そのカラクリは二の丸へと運んだようですが、どう処分すればよいかわからなかったようです。」
「なるほど、だから姉上が確認しに行ったのですね。」
「しかしミツヒデ様、そのカラクリは無害なのですか?」
「ああ、触っても大丈夫だそうだし、動かないそうだ。」
「ちなみに形とかは報告に上がってました?」
「形か・・・。うまく言えないが兵達の話では乗り物ではないかという話が上がっているようだぞ?」
乗り物か、もしそれが現代の乗り物なら是非欲しいところだ。
けどまあこればっかりはヨシテル様が戻ってこられるまではわからないかもしれないなあ。
「さあ、この辺でいいだろう。続きだ正虎。」
「わかりました。お願いします!」
多分一時間くらい経っただろうか、鍛錬しながらも思ったことがある。ヨシテル様がなかなか戻ってこられないのだ。
どうにも気になった俺はミツヒデ様に言ってみることにした。
「み、ミツヒデ様。ヨシテル様が戻られるの遅くないですか?」
「む・・・そう言われればそうだな。」
「何かあったのでしょうか・・・?」
「義昭様、その心配はいりません。もしそうなら兵士がやってこないのがおかしいのですから。」
「なら尚更気になりますね。ミツヒデ様、俺が様子を見に行きます。」
「何故だ?」
「何かあったかどうかはわかりませんが、どちらにせよヨシテル様が行かれて随分と時間が経っているのは事実です。
それに二手に分かれるなら義昭様にはミツヒデ様が護衛についた方が良いのでは?」
「うむ・・・その通りだな・・・。よし、正虎そうしよう。ヨシテル様の様子を見に行ってくれ。」
「わかりました。」
「正虎、気を付けてくださいね?」
「ははは、ご心配なく。では行ってきます。」
俺は鍛錬場を後にし、二の丸と呼ばれている場所へ向かう。何事もなければいいんだが。
そろそろ二の丸・・・ん、兵士たちが集まっている気がする。何か知っているかもしれないので声を掛けてみる。
「お~い、何かあったのか~?」
「あ、正虎さん。珍しいカラクリを運んだらしいから見に行ったのよ。」
「ちょうどよかった、そのカラクリってどこにある?」
「あっちよ。」
「ありがと!」
兵士の一人に指さされた方向は俺が向かおうとしていた方向だった。俺は兵士に礼を言ってその場所へ向かう。
多分そのカラクリの近くにヨシテル様はいらっしゃるだろうが、進んでいくと段々兵士の数が増えていく。
そして兵士たちがわらわらと集まっている場所が。あれかな?
あ、あれだ。白色がチラッと見えた。
その場所へ向かう、兵士の間をすり抜けていくとヨシテル様が『カラクリ』の周りをぐるぐる歩きながら考え事をしている。
「ヨシテル様、様子を見に参りました。」
ヨシテル様に声を掛けると、助け船が来たといわんばかりに明るい表情になった。
「正虎!よいところに。このカラクリなのですが・・・。」
そう言うとヨシテル様は『カラクリ』に目を落とす。俺もつられるように『カラクリ』を見る、こ・・・これは!
「ば、バイクだ。この大きさだと大型か?」
「ばいく?それはなんですか?」
「バイクは俺の元いた世界でよく使われていた乗り物です。馬より速い物もあるとか・・・。」
黒いボディが光っている。このバイクはスクーター、いや大型だからビッグスクーターってやつだったか。キーは差さっているので回してエンジンを掛けてみる。
おおっ掛かった、ガソリンは半分くらいだ。
「きゃぁっ!」
このバイクが音を出したことに驚いたのかヨシテル様は跳び退きながら悲鳴を上げ、着地と同時に腰に差している刀に手を掛け、いつでも抜刀できるように戦闘態勢をとる。
驚いた直後に戦闘態勢をとれるのは流石だと思う。
「ヨシテル様、大丈夫です。この乗り物はアクセルを回さなければ大丈夫ですよ。」
それにしてもこのバイク、乗りこなせるのだろうか。バイクは乗ったことがないからちょっと心配だ。
しかも燃料が半分なのはマズいかも。というかこの時代に現代の乗り物はやはり無理があるのかもしれない。
「ヨシテル様!何事ですか!?」
すると兵士の人混みの中からソウリン様が出てきた、何故ここに!?
「ソウリン!?」
ヨシテル様も予想だにしなかったのだろう。何故ならいつでもこのバイクを叩っ斬れるように刀の柄を握っているからだ。
そしてソウリン様が来た今でもまだ握っている。
「ソウリン様、何故ここに?」
それでも俺はこの二条御所にソウリン様が来ている理由がわからなかったので訊いてみる。
「正虎さん。それよりも一体これはどういうことですか?」
「はぁ、実は・・・・」
俺はこれまでのいきさつを細かに話した。
「な、なるほど。」
ちなみに話す前にエンジンは切っておいた、無駄遣いダメ、絶対。ヨシテル様は落ち着いてくれたのか刀から手を離してくれた。
「このバイクは燃料がそれほどないのでどうしたものかと思っていたところです。」
「それでしたら豊後で見繕いましょう!豊後の技術力は素晴らしいものですよ?」
「確かに豊後はこの京の町より技術は発達していますし南蛮貿易の港町でも有名ですからもしかしたらこの『ばいく』とやらも直せる技師がいるかもしれません。」
いや、壊れてはいないのだが。けど技師が居るならガソリンの代わりを知っているかもしれない。
・・・ガソリンが無いこの時代じゃ期待はできないかもしれないけど・・・。
「とりあえずヨシテル様の御無事を義昭様とミツヒデ様に報告しないといけませんね。まだ鍛錬の途中でしたし。」
「あ、・・・すみません正虎。今まで忘れていました・・・。」
少し肩を落とし、ショボンといった様子でヨシテル様は落ち込んでしまう。
「い、いやいや。ヨシテル様の身に何があったのかと思ってきたので杞憂に終わってむしろホッとしましたよ。」
これで本当になにかあったなら後で俺はズタズタにされていたかもしれない。ミツヒデ様の手によって。
「・・・そう言ってもらえると気が楽になります。ありがとうございます。」
照れたような顔でお礼を言うヨシテル様。元気がわいたようでよかった。
「ではこのバイクはどうしましょうか?」
「このまま置いていても問題ないでしょう、後ほどソウリンと豊後に行くのでしょう?」
「そうですね。」
「正虎さん!道案内はこのソウリンにお任せです!」
胸を張り、腰に両手を当て、ドンと構えてソウリン様はそう宣言する。その姿にどこか微笑ましさが漂うのは決して気のせいではない。
「ありがとうございます、ソウリン様。さて、ヨシテル様。そろそろ戻りましょう。きっと俺以上にミツヒデ様は心配なさってるはずですよ。」
「ふふっそうですね。行きましょうか。」
俺達は鍛錬場へと戻ることにした、ソウリン様は気になった様子でついてくることに。ちなみに野次馬根性の兵士たちはそれぞれの持ち場に戻ったそうだ。
このバイク、実は隼というバイクの予定だったのですがギア操作の表現が作者的に難しかったのでオートマのビッグスクーターにしました。
それにビグスクなら二人乗りも余裕ですしね。