仕事をやめて心身をやすめる。やすむ。
活動を一定期間停止する。やめる。
喜ばしい。しあわせ。善いこと
「休暇」「休日」の略。
元々、美、幸福、賜うという意味に用いられ、その後、休息の意味で使われるようになった
遂に、この日がやってきた!
今日は日曜日。 パステルナークと武器屋に行く約束をした日である!
この日になるのを、一体、どれだけ待ち待っていたことか!
楽しみ過ぎて、昨日は碌に眠れやしなかったぐらいだ。 お陰で、徹夜も同然だったけど
どうってことはない!
そんなワケで、さっさと出掛けの支度を済ませた俺は
待ち合わせの場所である、学園の校門前へと向かうのであった。
「あれ?」
「あら」
其所で俺は、ハートをあしらったライダースジャケットを着込み
山羊と、獅子の頭を持った生物。 所謂、キメラに跨がるグレモリーと鉢合わせになる。
「どうしたんです? こんなトコで、しかも、そんな格好なんかして
──ってか、スゲーですね。 キメラですか?」
「はい。 エニシくんは物知りです。 ──実はですね。
エニシくんには、魔武具(アバドン)の捜索を頼んでいましたが
魔武具(アバドン)はおろか、マジック・アイテムについても"知らない"と思いましたので
都合良く湧いた案件の手伝いがてら、実際に、"知って"もらおうと来た次第です」
「おお!」
それは、とても面白そうな内容だった。
昨日の夜、真武(シンブ)のインテリジェンス・ソードを目の当たりしたこともあり
そんな昨日の今日で、マジック・アイテムに関われるとゆうのは
いつも以上に興味がそそられてしまう。 ──だが、今日はパステルナークとの先約がある
流石に、それを不意には出来ない。 ──しかし、こんなチャンスも次はいつあるか……。
「えーーーっと、今日は、友達と約束があるんで
その後ででも良いですかね? 同行してくれても構わないですから」
どちらも惜しいなら、どちらも一緒にやってしまえば良い。
よく、二兎追う者は一兎も得ずとか言われるケド
俺はそもそも、二兎追える状況に居合わせられたのなら、二兎追う方が断然得だと思ってる
「別に、構わないですよ〜〜〜」
「所で、実際に知って貰うとのことですけど
具体的に何をするんです?」
時刻は九時半を回った所、約束の時間まではまだ少しあるので
その待ち時間を楽しく過ごすべく、グレモリーから事の詳細を訊いておくことにした。
「──つい先日、集合都市(バビロン)の方でマジック・アイテムの力を感知したんです。
そう言ったモノを調査、回収するのも私の仕事の一つですから
そのお手伝いをしてもらいます」
「お嬢……。 やはり、何も"知らぬ"人間を関わらせるのは
止めた方が良いかと思われますぞ」
「だから、"知らせて"あげるんじゃないですか」
そう言うグレモリーだったが、ぶっちゃけ、なんの説明にもなっておらず
それでも、解ったことがあるとすれば
目的地が集合都市であることと、キメラが喋れるとゆーことだけである。
──まぁ、あれこれ指図され過ぎても、気分が盛り下がるだけだったし……。
寧ろ、これはこれで好かったのかもしれない。 なので、これ以上追究しないことにした。
それはさておき、目的地が集合都市なら都合が良い。
パステルナークとの武器屋巡りと、グレモリーの手伝いを平行して楽しめそうである。
「取り敢えず、グレモリーの手伝いをすることは解ったんで
話しを変えますけどーーー。 そのキメラ、触っても良いですか?」
こんな機会でもなければ、生のキメラに触れられないので
触れるのであれば、是非とも触っておきたい。
「はい。 良いですよ
このヒト達、人を襲うような品の悪い魔獣じゃないですから」
「良し! それじゃあ、失礼」
グレモリーの許可を貰い、それから一応、キメラの方にも一言断りを入れてから
キメラの身体に触れ、ゆっくりと撫でてみる。
その触り心地は、存外普通で
山羊の首周りはごわごわしてるケド、それ以外は、猫の毛を撫でるような感触だった。
触り心地を確かめるとゆう、一先ずの目的を達した以上。
そこで撫でるのを止めても良かったが、他にすることも思い付かなかった俺は
手持ち無沙汰な気分を誤魔化すため、取り敢えず、キメラを撫で続けることにした。
それから暫くすると、遂にパステルナークが正門へとやってくる。
「あ、もう来てたんだ。
おはよう。 ──って、アレ?」
「un? どうした?」
挨拶を返そうとしたら、それよりも早く、パステルナークが困惑の声を漏らしたので
そっちの方に興味がいってしまい、挨拶よりもそのことを訊いてしまう。
「えーーーっと、そっちのヒトは?」
「あぁ! そうか。 この女性(ヒト)はグレモリー
今日、これから同行することになったから! ──っと、このヒトはパステルナーク。
さっき言った、俺の友達です」
その疑問を訊いた俺は、二人が初見であったことに気付き
パステルナークの疑問に答える意味も込めて、彼女にはグレモリーのことを
そして、グレモリーにはパステルナークのことを、それぞれ紹介させてもらうことにする。
「うん。 イヤ、えーーーっと
──どうも、ボーイズ・L(レオニドヴィッチ)・パステルナークです」
「あら、これはどうもです。 私はグレモリーと言います」
「さてと、そんじゃ
自己紹介も終わったことだし、ボチボチ行くとすっかね」
すると、そんな俺の紹介に促されるようにして
パステルナークが、改めて自分の名前をグレモリーへと名乗りだし
それを聞いたグレモリーもまた、自分の名前をパステルナークへと名乗り返すとゆう
二人のやり取りも段落した所を見計らい、漸く集合都市(バビロン)に向かうことが出来た。
「……ところで、これからどこ行くんです?」
「ああ……。 そう言えば、その説明もまだだったっけ。 うあ、すみません!
ちょっと、武器を新調したくなったもんですから。 パステルナークに案内してもらって
集合都市にあるってゆう、刀剣の類いを取り扱ってる店に行くとこだったんですよ」
集合都市へと向かう道すがら、小首を傾げるグレモリーに訊ねられ
またしても、説明を忘れていたことを思い出し。 今日の予定について、簡単に説明する。
「武器の新調、ですか?」
「うん。 ついこの間までは、このナイフで大丈夫だと踏んでたんですけどね。
怪異と実際に戦ってみて、よーーーく解ったんですよ。
リーチは短いわ、傷も浅いわ。 あてにしてた、魔力を奪う銀の効力も微妙だわで……。
兎に角、"銀のナイフ(コレ)"じゃあ駄目だってのが」
これから積極的に関わるには、この銀のナイフじゃ役者不足過ぎる。
倒せないにしても、せめて、戦う事が出来るだけの武器ぐらいは持っておきたい。
そうすれば、昨日の"赤マント"の時みたいな。 逃げるしかない状況も、減ってくれるハズ
「ナルホド。 ──でも、怪異と戦うんでしたら
武器の新調もですけど、実力もつけなきゃ死んじゃいますよ」
「ですよねー」
実に正論である。
どんなに武器を良くしたところで、肝心の俺が弱いままでは意味もないし
やっぱ、最低限の使い方ぐらいは知っておくべきか?
「……なぁ、パステルナーク」
「un?」
「パステルナークはさ、その剣の使い方とか誰に習ったんだ?
まだ剣を買うって決めたワケじゃないケド、一応、買った時のために教えてくれないか?
もしかしたら、習いに行くかもしんないから」
と、そんな考えが頭に浮かんだので
実行に移すかどうかは別として、まずはパステルナークに話を伺ってみることにした。
「え!? いや、そのさ
実は、私も自己流なんだよね。 剣の使い方とか」
「あ、そうなんだ。
んーーー……。 そんじゃ、その折には俺のこと師事してくれよ」
パステルナークの剣が自己流なのは意外だったが
だとしても、やることに変わりはない。 元より、師事してもらいたい人が居るワケでなし
師匠が居ないのなら、パステルナークに師事を願えば良いだけの話しなのだから
「ええ!?
師事って言われても、そんな! 私、人に教えられる程強くないんだけど!」
「いいよいいよ。
基礎というか、基本だけ教えてくれればいいから。 それに、まだ仮の話しだしさ
ちょっと考えてみといてくれよ。 な!」
しかし、パステルナークは乗り気ではないらしく
肝心の俺も、剣を買うかどうかも決め倦ねている状態なので、取り敢えず
考えた事だけは全部言っておき、後の事は全部、彼女に委ねることにするのだった。
そんなこんなありながら、集合都市(バビロン)までやって来たのだが
今日が休日とゆーこともあってか、集合都市は何時も以上の賑わいを見せており
これは、件の店に行くのも大変そうだなぁ……。 とか、思ってたんだけど
その気持ちも杞憂に終わる。
前から歩いてくるその誰も彼もが、俺たちに道を譲ってくれるのだ。
まァ尤も、正確には俺たちにではなく、グレモリーの跨がっているキマイラにだろうケド
いずれにせよ、俺たちの歩き易いことに変わりない。
「なァ、パステルナーク。
その店ってのは、こっから近いのか?」
「あ、うん。 この道をちょっと行った所だよ」
「ふぅん? ──un? お! アレって!」
パステルナークがそう言ったので、道の先へと視線を向けてみれば
やはり目的の店は確認出来なかったケド、その代わり、前から横並びで歩いてくる
見覚えのある女の子二人組を見付けた。
「おーーーい! パヴァナーーー!」
此処で見かけたのも何かの縁。
なので早速、手を振りながら二人に声を投げかけると
向こうも俺のことに気が付いたようで、合流するようにこっちへと歩いてくる。
「ようっ! 久方振り!
今日は拳法着じゃないんだな。 一瞬、気付かんかった」
「イヤ、出掛ける時まで着ないってば」
パヴァナと初めて遇ったのは、何時だったかの巖戸湯に行こうとした時の事。
例に漏れず、見覚えのない道から道へを選びつつ
歩みを進めていた俺は、目的の巖戸湯ではなく
その本館である、春雲楼とゆう旅館に辿り着いたのだったのだ。 そして、その時。
偶然出会ったのが、この、羊の下半身と角を持った女の子・パヴァナなのである。
その時のパヴァナは、拳法着を着ていたこともあってか
パッと見、男と見間違えそうになったケド
今日の彼女は、オーバーオールのワンピースとゆう可愛らしい格好だった。
……拳法着の時は気にも留らんのに、やっぱ、スカートだと気になるな。
パヴァナ(アイツ)の下半身って、どんな風になってんだ? イヤ、羊なのは判ってるけどさ
"他に類を見なかったから(だから)"こそ、どんな下着を履いてるのか?
尻尾は生えてるのか? とか、変なことが気になってしまうのだ。
確かめようとしたら、確実にシバかれそうなので
こればっかりは、一時の情動で確かめるワケにはいかない。 地雷は考えて踏まなきゃね。
「縁(エニシ)の知り合い?」
「ああ、うん。
俺の友達のパヴァナとルュスト。 二人とも、万魔殿学園の同級生だよ」
とか考えていると、パステルナークに訊(たず)ねられたので
グレモリーへの紹介も兼ねるように、パヴァナたちのことを簡単に紹介した。
因に、ルュストと知り合った切っ掛けはというと
万魔殿学園でパヴァナと鉢合わせた時、たまたま一緒に居たからである。 一目見た時は、
特徴的な耳からエルフと推理したが、なんと、その正体はサッキュバスなんだとか……。
だからか、悪いヤツじゃないんだけど……。 時々、エロくて困る。
閑話休題。
その紹介が皮切りになり、例の如く、自己紹介の応酬が始まってしまう。
割って入れそうな感じでもないので、取り敢えず、自己紹介が一通り済むのを待ってから
改めて、話を切り出していくことにした。
「──あ、そうだ。
これから刀剣の店に行くんだけど、二人も一緒に来るか?」
「興味ないからイイヤ」
「私もパスかなー。 なんかつまんなそーだし」
「そっか、引き止めて悪かったな。 ……んじゃ、またな」
しかし、即断られてしまった。
パヴァナとルュストの返事には、正直、落胆を感じずにはいられなかったケド
折角会えたんだから、遇えた次いでに誘ってみよう的な。 そんな、思い付きでの提案だし
気にするホドの事でもなく、食い下がってまで、お願いしようとも思わない。 ──なので
他に話題も思い付かない以上、パヴァナたちを引き止めたくなく
そこで会話を打ち切り、そのまま別れることにする。
「ん、じゃあねー」
「じゃーねー」
こうして、あっさりと別れることになった俺たちは
改めて、目的地目指して歩き始めるのだった。
それから歩くこと数分。
パステルナークが利用してるという、刀剣の類いを専門に取り扱ってる店へと辿り着く
流石専門店とゆうだけのことはあり、店内には多種多様の武器が取り揃えられていた。
パステルナークの言葉だけだと、扱ってるのは剣や刀だけかと思ってたけど
なかなかどうして、この店では武器全般を取り扱っているようだった。
品揃えも豊富だし、目移りして仕方がない。
そんな無数の武器が、所狭しと並べられた店内を見渡していると
興奮を感じるのと同時に、どうにも既視感を感じてならない。 初めて来る場所なのに──
ああ、思い出したっ! そうだ! 山海堂だ! 山海堂に似てるんだっ!
山海堂とは──、俺が知る中で、向こうにあった唯一の武器屋であり
この店から感じる雰囲気は、その山海堂を彷佛とさせるのだ。 違いがあるとすれば、多分
並んでる武器全てが、実際に使える状態だとゆう事だろう。
「へーーー。 結構、色んな武器が置いてあるんですね」
「──ケド、やっぱり、銃器の類いは無いんだな?」
そう、これだけの武器が揃っていながら
店の何処を見ても、銃器の類いが何処にも置いていないのである。 尤も、銃がない事は
パステルナークから事前に聞いて、知っていたのだけど、それだけに残念でならなかった。
これだけの武器に加えて、銃器も取り扱っていてくれたのなら
きっと、今よりも壮観な眺めだったに違いない。 そんな思いから、独り、言ちてしまう。
「ああ、うん。
銃とかなら、此所から少し行った所で扱ってるけど……。 銃にするの?」
「いんや。 別に、そーゆーワケじゃないよ。
これで銃とかも取り扱ってたら、もっと見応えがあったろうなぁ。 って、思っただけで」
すると、そんな独り言が聞こえたのだろう。
パステルナークに訊ねられたので、思ってたことをそのまま口にしていく
「どんな武器を使いたいとかも、まだ、ぜーんぜん考えてないんだよね。
だから取り敢えず、何を使うか決めるのは保留にして
この店にある武器と、その銃器の店にあるモノを見るだけ見ちゃうことにしたよ」
今の内から、あれこれ考えてても仕方がない。
何があるか分からないんじゃ、決めようにも決められないのだから
まずは、どんなモノが有るのかを確かめるのが先決だ。 悩むのは、その後でも遅くない。
それに何と言っても、そんなことを考えながらじゃ、俺が全然楽しくないのである。
「ふーん」
「ちょっと、いいです?」
「あ、はい。 なんですか?」
そんなことを話していると、パステルナークがグレモリーに呼ばれ
何やら話しだしてしまったので、俺も俺で、武器の物色を始めることにした。
しかし、それにしても本当に多い。
ナイフひとつとっても、数えきれない程の種類が並べられている。
前もって、選考から除外してたハズのナイフだが……。 正直、こうも数を並べられては
買わないから。 と、一蹴して素通ることなんて出来なかった。
へぇーーー……。
やっぱ、購買部に売ってたのと結構違うんだな。
無骨なコンバットナイフや、スマートな折畳式のバタフライナイフ。
刀身が諸刃状になっているダガーに、刀身が「く」の字型に内反っているククリナイフ。
一風変わったところで、刀身を射出できるスペツナズ・ナイフなんてのも有った。
そんな、様々なナイフを一通り眺めた後。
今度は大物、ファンタジー物の王道とも呼べる武器・ツーハンデッドソード。
所謂、両手剣と称される大きな剣へと目を向けてみる。
刀身に傾斜するよう張り出した鍔と、他と比べて小ぶりなのが特徴なクレイモアに
刀身の根元だけ、刃が付いてないツヴァイヘンダー。 と、刀身が一番長いグレートソード
やっぱ、かっけぇよなぁ……。 大剣もだけど、大きな武器とかって
眺めてるだけでも面白かったが、別に、手に取ってみない理由もなかったので
なんとなしに、手近な所にあったのを手に持ってみる。
すると、意外や意外。
試しに持ってみた両手剣は、その大きさに見合わないほど軽かった。
例えるなら、大体、2Lのペットボトル1本分位の重さかな? まァ、なにはともあれ
これぐらいの重さなら、振り回すとまではいかないでも、十分に扱えそうではある。
持ち運びとか、手入れとかは後で考えるとして──。 うん、第一候補だな。
両手剣を購入の第一候補に決めた俺は、持っている剣を元有った場所へと戻し
次に槍や鎌、戦斧に片手剣などを見漁っていく
リーチは申し分ないんだけど、先端の刃が小さから、威力に難がありそうな槍と
形状はすっごく気に入ったんだけど、取り回しの難しそうな鎌は、選考から漏れる事になり
取り回しの楽そうな片手剣と、槍みたいに長いのもあった戦斧が各々
第二、第三候補とゆう事に決まった。
それから鎚や鞭、日本刀などの武器を順々に見定めていき
刀を第四の候補に決めた辺りで、この店にある武器を一通り眺めたことに気が付いた。
コレで、あらかた見ちまったのかな?
そんじゃあ、お次は、銃器を見に行くとしますか。 えーーー……っと、パステルナークは
お! 居た居た。 ──って、アレ? パステルナークだけ? グレモリーは?
そんな考えから、辺りを見渡してパステルナークのことを探してみれば
思いのほか、簡単に見つけることが出来たのだが。 しかし、そこに居たのは彼女だけで
一緒に居たハズのグレモリーは、どこかへと消えていた。
グレモリーの行方は気になるけど、そんなことはパステルナークに訊けば済む話しだし
そのことを訊く為にも、彼女の元へと往いて声をかける。
「おーい、パステルナーク」
「un? あ、どうしたの?」
「うん。 いや、武器も粗方見ちまったからな。
そろそろ、銃器の方を見に行きたいんだけど──。 グレモリーは? どこ行ったんだ?」
「ああ、うん。 なんか、キメラは店に入れないし
他に調べたい事があるとかで、この店を見て回ったら銃器の店で待ってて。
──って、云ったらどっか行っちゃったよ」
「そっか。
──んじゃ、俺たちも銃器の店に行くとすっか。 な!」
そう言えば元々、グレモリーは集合都市(バビロン)に仕事で来てるんだもんな。
俺の買い物に付き添うよりも、そりゃ、仕事を優先して呵るべきだよね。 仕方ないけど
なんにせよ、そーゆーことなら
何時までも、此の店に留まり続ける理由はない。 なので俺は、パステルナークを促して
さっさと銃器の店へ向かうことにした。
それから店を出て歩くこと暫く、そろそろ、間が持てなくなり始めてきたので
話しの一つでも切り出そうかと思った頃。 パステルナークの足が、一軒の店の前で止まる
その店のショーウィンドウには、大小様々な銃器が掛けられており
此所が目的の店だと、理解するのにそう時間はかからなかった。
「此所が、銃器を扱ってる店だよ」
「へぇーーー。 やっぱ、雰囲気あるなぁ」
店内にも様々な銃器が掛けられており、だからだろうか?
華やかだった武器屋の空気に比べて、こっちの空気はどこか重く感じる。 ケド、悪くない
店の感じはまさに、向こうにもあったガンショップそのものだけど
向こうとは違い、扱ってるのはエアガンやモデルガン等ではなく、全て本物の銃器である。
まァ尤も、向こうでもアメリカとかなら売ってるケド、この際それは置いておくとして
早速、パステルナークと一緒に店内を見回るのだった。
「おお……っ! これが、本物のアンチマテリアルライフルか」
「どんな銃なの?」
「うん? んーーー……。 言うて俺も、ミリオタってワケじゃねーからなぁ
あんま詳しい説明はできねぇんだけど、そーだな。 戦車とかに使ってた対物ライフルで
2km先の人を撃っても、その人の上半身と下半身とが両断して吹き飛ぶらしいぞ」
「……それは、凄いね」
そう、凄いのだ。
2kmとゆう射程距離に、それほどまでの威力を兼ね備えており
それでいて、なおかつデザインが格好良いときた! まさに、至れり尽くせりな一品である
もうここまで揃っているなら、これに決めちゃっても良いかもしれない。
こうして、沸き上がる購入意欲に流されるがまま
値札へと目を向けた俺を待っていたのは、いち学生の領分を超える現実(ねだん)だった。
うっわ高!? 嘘っ!? なにこれ! こんなにスんの!?
──って! あーあーあー……っ! やっべぇ、武器の方も値段見てねーじゃん!
更にはそれを引き金に、自分の犯していた重大なミスを思い出す。
武器に気を取られ過ぎていた俺は、今に至るまで、武器の値段すら確認し忘れていた。
まァ、もう確認できない。 なんてワケでもないのだから、焦る必要は全くないんだけど
それでもミスはミス、悔しいものは悔しかった。
「どうしたの?」
「……イヤ、うん。
アンチマテリアルライフル(コレ)を買おうかと思ったら、予算が軽くオーバーしてた」
「あーーー……。
武器とかって、意外にするんだよね。 私の使ってるこの剣も、結構いい値段したし」
「ま、買えないなら仕方ない。
なんか他に、手の出せそうなのを探してみますかね」
なにもバカ正直に伝える事もないので、パステルナークへは動揺の理由だけを答えておき
俺は改めて、銃器の物色をすることにした。
アンチマテリアルライフルは駄目になってしまったケド、この店の銃はコレだけじゃない
武器の値段を確認しに往きたい気持ちもあるが、少なくとも、それら全てを見るまでは
店を移るなんて真似は出来ないだろう。 常識的に考えて
あれから暫く、店にある銃を一通り眺めてはみたものの
一番最初に目を付けてしまった、アンチマテリアルライフルに取って代わるぐらい。
食指が動くような銃は見付けられず、今一度、武器屋で目を付けていた武器を見に行くため
何も買わず仕舞いで店を出た時だった。
「──あれ? まだ、何も買ってないんです?」
丁度、用事から戻ってきたグレモリーと──
髪の様に鬣を伸ばす狼の頭部に、人間の身体を合わせた狼男。 ただし、尻尾はない。
もしかして、コボルト? な、ヒトとの組み合わせと出会(でくわ)した。
「えーーーっと、グレモリー?
そちらの狼男な人は、一体、どちら様なんでしょうか?」
「はい。 こちらは──」
「N? 俺か? 俺は、マルコシアスだ。
オマエの事は、アガリアレプト司令から色々と聞いてるゼ。 外城・縁(トジョウ・エニシ)」
少なくとも、この狼男みたいなヒトとは初対面だったので
取り敢えず、なにはともあれ、彼を連れてきたグレモリーへと詳細を尋ねてみたら
グレモリーに説明されるよりも早く、本人の方からその答えが返ってくる。
マルコシアスと言えば、確か、グレモリーと同じソロモン72柱に属する悪魔だ。
どんな力を持ってたかまでは覚えてないケド、だとすれば、このヒトもグレモリーと同じく
「中央」に属する軍団の団員、ないし軍団長なのかもしれない。
「どうやら、私の探している"堕天使の欠片(マジック・アイテム)"は
こちら、マルコシアス団長の追っている事件に関わってるみたいなんですよ。
ですので、互いに協力し合う事になったんです」
「まァ、断定はできねェけどな。 可能性があるってだけで」
「なるホド」
そんなことを考えていると、ちょっとだけ不機嫌そうにしたグレモリーが
マルコシアスの自己紹介に続ける形で、同行するに至った経緯を簡単に説明してくれた。
「それで? その事件ってのはなんなんです?」
「おお、そーいや説明がまだだったな。
オレの追ってる事件ってのは、妖精の大量誘拐なんだが──。 っと、そうだ!
聞いときたいんだが、オマエらは何か知らねェか? どっかで怪しい奴を見かけただとか」
「俺は、無いな。 ──パステルナークは?」
「えっ! 私!? 私も、そういうのは見てない。 かな」
妖精の誘拐、そういうのもあるのか。
まァ、そうだよな。 悪魔やらエルフやらが居るんだし、妖精が居ても不思議じゃない。
……よくよく思い出してみれば、まだ妖精には会ったことなかったな。
であれば、これは渡りに船と言えるだろう。 好し! 俄然やる気が湧いてきたっ!
「そうかぁ……。 ったく! 中々尻尾を掴ませやがらねぇヤツだゼ!
地の精霊が静かなら、塒(ねぐら)ぐらいは絞り込めたんだがな。 ──けど、まァ
それもこれも、これで全部仕舞だ!」
そこで一旦、マルコシアスは言葉を区切り
グレモリーへと、不敵な笑みを浮べた顔を向ける。
「始めてくれ」
「ハイ。 ──SETuP!」
マルコシアスの言葉に短く応じると、彼女、グレモリーの跨がっていたキメラの尾。
蛇の頭が彼女の頭上まで伸び、変わったヘルメットを吐き出し、それを彼女の頭へと被せた
しかし、具合が浅かったのだろう。 グレモリーは片手でヘルメットを整える。
「決めます」
「YAAAAAAA」
グレモリーの言葉に応えるように、キメラはその翼を大きく広げ
たった一度の羽ばたきで、空高くまで飛び上がってしまう。 一体、何が始まるのだろうか
考えるだけでワクワクが止まらない。 この興奮度は、今日一番かもしれない! 楽しい!
とはいえ、此所からでは何が起きているのやら
このまま見ているだけじゃ、何も分かりそうになかったので、分かりそうな奴に訊いてみる
「グレモリーは、何をしてるんです?」
「un? ああ、宝を──。 イヤ、マジックアイテムを探してんのさ。
もっと正確に言うなら、アイツらには隠されたモノを「知り」「見る」能力があるんだよ」
「へぇ、そんなこと出来るんだ。
なるホド、だからグレモリーに協力を持ちかけたんスね。 それが出来るから……。
ん? アイツら?」
「ああ、あのキメラだよ。
アイツらの頭ひとつひとつが、その手の「力」を持ってンのさ」
グレモリーだけじゃなくて、真逆、あのキメラにもそんな力があったとは
確かに、それならグレモリー以上に適任はいないだろう。
見付からない。 なんてことはないだろうし
あとは、グレモリーの見付けたアジトに乗り込めば、それで終り。 事件は解決するだろう
グレモリーもマルコシアスも「中央」の軍属だ。 そこらの犯罪者を為損じたりはしない。
……あれ? 俺、別に必要なくネ?
「時に、マルコシアス」
「なんだ?」
「俺、何かする事あるんですかね?
なんか、必要なさそうな気しかしないんスけど……」
必要ないならないで、別に構いはしないし、返事も何となく分かってるんだけど……。
それでも一応、確かめておくに越したことはなく。
自分の役割があるのかどうかを、マルコシアスへと尋ねてみる。
「あーーーそうだな。 オマエのやることはもうねぇぞ
グレモリーの協力条件が、オマエを同行させることだったんでね。
ま、社会科見学みてぇなもんだと思いな」
「りょーかい」
これで、後顧の憂いも消えた。
そういうことなら、どっかの密着! 警視庁二十四時での大捕り物を観るように
この事件の様子も、楽しく見学させてもらうとしますかね。
◆
「この世に埋もれた探し物っ!! YoU KNoW!」
「見つけて集めて食べちゃおう!!
そしたらボク達ハッピーさ! とってもみんなはハッピーさ!!」
「OH! K.O! OK! Hooo!!」
「ニトゥ──ラェ・ラドゥ・スナンダム!!」
「宝は〈決(かならず)〉そこに有る!!」
「YES YES YES!!」
そんなワケで、グレモリーたちの「力」により
妖精誘拐犯の居場所を割り出せた俺たちは、その根城とされる屋敷まで向かい
屋敷へと突入、そして、中に居るであろう犯人を拘束する。 ──そのハズだった。
「此処ですよ」
しかし、グレモリーのお腹が減ったとの言によって
俺たちの目的地は、急遽、食事処へと変更されることに相成った。
そろそろ食事時だったこともあり、それに対する反対意見は誰の口からも出ず
代わりに、何処で飯を食うかとゆう話しになるが
そこは都合良く、足繁く通っている蕎麦屋が近くにあったので、すんなりと決められた。
「なぁーーー……。 此処、ホントにやってんのか? 灯り点いてねぇゾ?」
「大丈夫ですよ。
此処は、燈無蕎麦(あかりなしそば)なんで。 寧ろ、灯りが点ってないのが普通なんです」
そのお陰か、この店のことを知るヒトは案外少なく
安い上に味も良いと、所謂、穴場なのだ。 大盛り二十八円とか嬉しすぎる。
初めてこの店に来た時は、まさに九死に一生だった。
光前寺と同伴じゃなかったら、俺は、まず間違いなく死んでいただろう。 ──まぁ、尤も
解ってさえしまえば、回避できることなので、今では重宝させてもらっている。
閑話休題。
燈無蕎麦の店先で困惑するマルコシアスに、店のことを簡単に説明した俺は
行灯に乗っていた猫の威嚇に迎えられつつ、先んじて店の中へと入って行くのだった。
「いらっしゃいませー」
書き入れ時だというのに、相変わらず、店の中は閑散としている。
わざわざ奥の席まで行く必要もないので、入ってすぐの四人席へと腰を下ろすと
そんな俺に続くように、グレモリー、パステルナーク、マルコシアスたちも席に着いていき
最後に、グレモリーの連れたキメラが彼女の横へと座る。
「なにしましょ?」
そうして全員が腰を据えると、そのタイミングを見計らっていたかのように
お茶の入った湯飲みを人数分、妖怪の店主が運んできてくれた。
「ブタキムチうどん、大盛りで!」
「んじゃ、オレもソレで」
「えっと、じゃあ、私は……。 あ! 天ぷらうどんを下さい」
「私は肉うどん。 ──それと、この人達に生肉と、野菜と、生卵を」
なので俺たちは、流れるように注文を済ませていき
それを聞いた店主は厨房へと戻っていく。 後は、頼んだ料理がくるのを待つばかりだが
流石にもう、猫カボチャうどんを持って来りはしないだろう。
まァ、仮に持って来たとしても、食わないように言えば済む話しか……。
初めてこの店に入った日、そのサービスと称して出てきた猫カボチャうどん。
光前寺がいなけりゃ、何の疑いもなくそれを食べ、そして服毒死していたであろう料理だ。
どんなモノかと訊ねてみれば、曰く、殺した猫を土に埋めたりすると
自分を殺した人間に食べさせるため、その口から毒性の南瓜を生やすんだとかで
猫は執念深いとゆう話しだった。
「──そういや、どんな武器使うんだ? オマエは」
「un? ああ、うん。
銀製のナイフを使うつもりだったんですけどね。 怪異相手は厳しいと痛感させられたんで
現在進行形で、他の武器への買い換えを検討中です」
そんな風に昔を懐かしんでいたら、間が保たなくなったのか
マルコシアスが話しを振ってきたので、頭を切り替え、訊かれたことに対する答えを返す。
「なるホドねぇ……。 ま、その考えを否定する気はねぇけどよ。
本気で怪異とやり合おうってんなら、泣き言の前にもっと地力をつけた方がいいゼ?
ただの人間種なら、尚更にな」
「その辺りのことは、もう、私が忠告してますよ」
「ですよねぇーーー……。 ケド、それが一番難しいんだ」
マルコシアスの言ってることは分かる。 ──だけど、そうした場合
年単位の時間を訓練に費やすことになるので、遊ぶ時間が減ることになってしまうのだ。
強くなれば、やれることも多くなるだろうケド
しかし、俺にとって怪異に関わることとは、沢山ある面白いことの内の一つでしかなく
遊ぶ時間を減らすぐらいなら、他のことで遊んだ方が建設的なんじゃないかと思う所もある
あちらを立てればこちらが立たず……。
訓練自体が面白ければ、話しはまた変わってくるケド
それも状況次第かね? 片手剣とかを選べば、パステルナークから習えそうではあるし
「un? どうしたの?」
「うん。 イヤ、結局──。
パステルナークは、俺のことを師事してくれるのかな? って」
「だから、人に教える程じゃないって言ったでしょうが……」
なので今一度、パステルナークへと師事の件を訊ねてみたのだが
彼女から返ってきた言葉は、先に訊いた時と同じものだった。 こうなっては、仕方がない
次の面白い師事先が見付かるまで、訓練のことは考えないことにしよう。 意味ないし
「おまちどうさまですー」
またしてもジャストなタイミングに、出来た料理が運ばれてきたので
いま決めたことから、ささっと頭を切り替えた俺は、うどんの麺が延びてしまわない内に
周りと同じく、「いただきます」の声と共にうどんを啜り始めることにした。
「因に、マルコシアスはどうなんだ? 師事とか」
「オマエ、度胸あんのな。 イヤ、単に馬鹿なだけか?
"中央"の軍団長とかの前に、悪魔であるオレに師事を頼んでどうするよ? なァ」
「別に? 訊くだけならタダだし
それに、だ──。 "中央"にいる悪魔は元々、召喚者の願いを叶えてたんだろ?」
そう。 この世界にやって来れたのも、俺が悪魔を召喚したからに他ならない。
なればこそ、一応でも訊いてみるだけの価値はある。 それで駄目なら、その時はその時だ
「──……。 ……中々、おもしれェ考え方ではあるが
その返事はNoだ。 人間のガキにつける訓練なんざ知らねェし──。
悪魔の方でも、ソレは専門外なんでな」
俺の言葉を聞いて、暫く考え込むようにした後。
師事することを断ったマルコシアスは、楽しそうに釣り上ながら、そう最後に付け加えた。
恐らくそれは、俺の「悪魔は元々、召喚者の願いを叶える」に対しての答えだろう。
「そっか」
断られたことは残念だったケド、こだわるホドの事でもないので
取り敢えず、この話しはそれで終わりにして、うどんを食べることに集中するのだった。
「……ねぇ、普通に附いて来ちゃったケド
私、一緒に来て良かったのかな?」
「別に良いんじゃね? 向こうも何も言ってこなかったし」
そんなこんなで、昼食を食べ終えた俺たちは
グレモリーの案内の元、犯人が根城にしている屋敷までやってきた。 ──のだけど
「う、うん……」
途中、別れるような雰囲気でもなかったので
ここまで附いて来たパステルナークは、怖ず怖ず、オドオドといった感じに尋ねてくるが
俺の決めて良いことでもなく、そう答えてやることしか出来なかった。 ……とは言え
同行に問題があったなら、早々に口を挟んできたハズだし、それがないってことは
彼女の同行は、黙認されているとゆうことだろう。
「突入前に言っとくが、最低限、自分の身は自分で守ってくれよ?
俺には仕事があるし、そこまで面倒見きれねぇからな」
「それは大丈夫です。
エニシくんと、そのお友達のエルフさんは、私たちが守ってあげますから」
「──いくぞ」
マルコシアスとグレモリーを先頭に、俺とパステルナークも屋敷へと踏み込んでいく
しかし、向こうも俺たちの突入を読んでいたのか。 屋敷の中には人気が感じられず
シンと静まり返っていた。
「逃げられた、んですかね?」
「──イヤ、居るな。 ……下か」
もしそうなら、肩透かしもいいところだったが
足取り確かに、屋敷の奥へと進んでいくマルコシアスの様子を見せられ
そんな考えも杞憂で終わる。 そして、巧妙に隠されていた螺旋状の階段を下り
更に、仄暗い廊下を進んで行くこと数分。 俺たちの前に、いかにもな扉が現れた。
「此処だな」
マルコシアスは、俺たちの方を一瞥をくれると
こちらの言葉を伺わず、扉を蹴り破るぐらいの勢いで、その部屋の中へと踏み込んでしまう。
「「中央」だ!
此処に来た理由は、云わなくても分かるよな?
歯向かったりしなけりゃあ、痛い思いを余計にしなくて済むゼ」
「……酷い」
その部屋に広がっていた光景は、なんともいえないものだった。
部屋の至る所に大量の鳥カゴ、虫カゴのようなモノが飾り掛けられており
それら全てのカゴに、淡く発光する薄羽根を生やした小人。 所謂、妖精が入れられている
パステルナークの感想を、至極もっともだと思う傍ら
初めての妖精たちを目の当たりにして、少なからず、この光景に興奮してる自分が居た。
「う、嘘だろ? どうしてこの場所が!?」
そして更に、この部屋には俺たち以外にもう一人。
今回の事件の犯人が居るワケだが、この犯人はなんと、パステルナークと同じ種族。
横に伸びる長い耳に、端麗な容姿を特徴とするエルフの男だったのだが──。
正直、マルコシアスの容姿と見比べていると、どっちが犯罪者なのか判らなくなってくる。
「んなことは、どうでも良いじゃねぇか。 ──で、どうすンだ?」
「そんなこと、解りきってるじゃないか。
中央の役人相手に、ボクなんかの力が通じるとは思えないからね。
──だからっ! こうさせてもらうよっ!」
マルコシアスの問いかけに応えるように、犯人のエルフは持っていた杖を掲げた。
すると、次の瞬間。 マルコシアスの身体は、鳥籠の様な檻の中に閉じ込められてしまう。
「なっ……!?」
「ハハハハハッ! ざまぁないね!
獣人の男を檻に入れるとか、本当なら、ボクの趣味じゃないんだけど……。
ま、ペットぐらいには可愛がってあげるよ!」
「あれは?」
「「檻で捕り囲うモノ」「幽閉の杖(ワンド・オブ・タルタロス)」!」
しかし、その一部始終を見ていたグレモリーはというと
檻に捕われてしまったマルコシアスに対し、まるで心配したような素振りを見せず
至って冷静に、今し方、エルフの男が振るった力の詳細について
キメラの蛇へと訊ねていた。
「えっと、助けなくて良いんですか──っ!?」
そんなグレモリーの様子に加え、囚われの身となったマルコシアスの状況を見て
困惑したパステルナークが、グレモリーへ尋ねるのと
マルコシアスが無造作に腕を振るい、閉じ込めていた檻を砕いたのは、まさに、同時だった
「やるねェ……。 真逆、一瞬でも閉じ込められるとは思わなかったゾ?
──ま、それはいいとしてだ。 取り敢えず、答えはNoってことでいいんだな?」
「なっ!? なぁ──っ!?」
目の前で起きた光景に、エルフの男は驚きを隠せないようで、その目を白黒させている。
一方で、マルコシアスは獰猛な笑みを浮かべており、当然ながら、その目は笑っていない。
そんな二人の様子を見比べ、俺は、この事件が間もなく解決するのを悟った。
個人的に言わせてもらえば、もっと白熱した大捕り物を期待してたので
こんなにも呆気無い幕引きだと、不謹慎だけど、気持ちに若干の消化不慮を感じてしまう。
「くっ! 来るなっ! こっちに来るなよぉおおおっ!」
なんてことを考えながら、既に消化試合気味のやり取りを眺めていた。 ──が、しかし
マルコシアスが無造作に前へと踏み出した途端。
エルフの男は自棄でも起こしたのか、マルコシアスに向け、次々と光の弾を打ち出しだす
だが、気が動転しているのだろう。 放たれた魔法は、まるでマルコシアスを避けるように
明後日の方向へと飛んでいく
「うおおっ!?」
その中には、当然、こっちに向かってくる弾(もの)もあり
一瞬たりとも気を抜くことが出来ない。 ──ケド、ただ退屈に眺めているよりかは
こうやって、気張っている方がウン倍も面白かった。
尤(もっと)も、それも長くは続かなかった。
幾ら光弾を放ったところで、そんなもの、マルコシアスにとって物の数ではないらしく
あっという間にエルフの男まで肉薄すると、一撃のもとに倒してしまう。
犯人の気絶によって、この事件は万事解決を迎えた。 ──かと思いきや
マルコシアスから一撃を貰うよりも早く、エルフの男は魔法を撃とうとしていたようで
その魔法は気絶する間際に撃ち放たれた。
「っ!?」
「あ! おいっ!?」
「えっ!? ちょっ! 縁(エニシ)っ!?」
狙いも付けられず、あらぬ方向へと放たれた魔法の弾丸が
檻に閉じ込められ、身動きが取れないでいる妖精目掛けて飛んでいくのを見てしまった。
しかもソレは、腕を伸ばせば──。 イヤ、身体を飛び込ませれば、助けられる位置であり
俺は半ば反射的に、魔法の射線上にこの身体を滑り込ませるのだった。
「づぁっ!?」
直後、BOMB! と、腹に響くような衝撃を伴う爆音が聞こえてくる。
そのまま重力に従い、身体を床に打ち付けた俺は
背中一杯に広がる熱さと、脳を突くようなズキズキとした痛みに堪えようと
身を捩らせながら、奥歯を強く噛み締める。 痛いことは痛いが、我慢できない程じゃない
「ちょっと! なにしてるのよっ!?」
「……うん。 イヤ、この妖精にな。
魔法の流れ弾が当たりそうだったからさーーー。 だから、庇った」
「へ?」
そんな俺のことを心配してか、駆け寄ってきてくれたパステルナークに
怒声混じりに訊かれたので、今さっき、魔法が当たりそうだった妖精のことを指差しながら
俺のとった行動について、そう答えを返したのだが、その理由が意外だったのか?
意表を衝かれたように、彼女は目を点にしてしまう。
「……そんな、意外だった?
だってさ、寝覚めが悪いじゃん? 助けられたのに、助けなかったりしたら」
「そりゃ、そうだけどさ」
「俺、イヤなんだよね。 そうゆう悔いとか残すのって
悔いが残れば、絶対、その事で後悔するし……。
そんなの、面白く生きるには邪魔なだけじゃん? そんなワケで、反省はするケド
悔いだけは残さないようにしてんだよ。 でないと、笑って楽しくいけないだろ?」
──だから、それで怪我するようなことになったとしても
それは、しょうがない。 最後にそう付け加えた俺は、パステルナークの手を借りて
ゆっくりと身体を起き上がらせると、そこに、キメラに跨がったグレモリーがやってくる。
徴集したのだろう。 その手には、さっきまでエルフの男の持っていた杖が握られていた
「大丈夫です?」
「正直、滅茶苦茶痛い。 ──けど、まぁ、動けない程じゃなさそうです。
ところで、どうするんですか? その杖」
「ハイ。 コレの処遇は、もう"決まって"ます。 ──ですが、そうする前に
一度、エニシくんに「見て」「知って」「わかって」欲しかったんです。
この"堕天使の欠片(マジック・アイテム)"が、如何なる物だったのかを」
そんな言葉に乗せられて、素っと差し出された杖を受け取り
初めて、マジック・アイテムという物に触ったのだが……。
マジック・アイテムだと云われるその杖からは、以外にも、なんの力も感じられなかった。
マジック・アイテムとゆうぐらいだから、どんなモノかと期待して持ってみれば
待っていたのは、本日二度目の肩透かしである。 これでは余りにも、あんまりではないか
あゝ背中が痛い……。
「案外、普通なんですね。 ちょっと、がっかりですよ。
──折角だし、パステルナークも持ってみる?」
「うん。 私は、いいよ。 それより、傷の手当をした方が良いんじゃない?
包帯とかあれば、手当ぐらいはしてあげれるケド──。 ないよね?」
「ああ、うん。 ないなぁ」
「だよねーーー……」
一応、パステルナークに一声かけてから、持たせて貰っていた杖をグレモリーへ返す
するとグレモリーは、なんと、受け取った杖を蛇に呑ませてしまったので
どういうことかと訊いてみれば、グレモリー曰く
「この品は、"この世"にあってはいけないという。 決まりです」
──とのことらしい。
そして、檻を出していた杖が無くなったからだろう。
妖精を閉じ込め入れていた檻も、陽炎みたいに消えていき、自由の身となった妖精たちは
一目散に部屋から退散していってしまい、あっという間に居なくなってしまった。
まだ、全然見足りなかったんだけどなぁ
こんなことになるんだったら、もっとじっくり観察しときゃあ良かったよ……。
あーーーぁ、勿体ないことした。 次は何時、こんなチャンスが巡ってきてくれるかね?
「そんじゃ、オレはコイツを"中央"まで連行するケド
お前らはどうするよ? 一緒に来るってんなら、ブエルに治療を手配してやるゾ?
アガリアレプト司令にも云われてるしな」
「あーーー……」
この傷を治療できるなら、してもらいたい限りではあるものの
グレモリーとパステルナークが一緒な以上、次の予定を勝手に決めるワケにもいかず
その確認を執るつもりで、二人へと視線を向けてみれば
「私のことは、気にしないでいいですよ。
用事を済ませたら、元より"中央"に帰るつもりでしたから」
「その怪我の治療をしとかないと、買い物どころじゃないだろうし
うん。 それでいいと思うよ」
「──じゃあ、頼みます」
二人とも、異論はないようだったので
マルコシアスの申し出を受けた俺は、"中央"で怪我の治療をしてもらうこととなった。
「その前に、ちょっと後ろ向け」
「へっ!? え!?」
「取り敢えず、止血ぐらいはしとかねぇとな」
なので早速、中央へ向かおうとしたのだけど
何を思ったのか? マルコシアスに肩を掴まれた俺は、強引に背中を向けさせられてしまう
突然の事に困惑してしまったが、しかし、すぐにマルコシアスのやろうとしている事を
本人の口から聞くことが出来たので、それならば、安心して任せてしまおう。
──そう思った、次の瞬間。 背中から、虹色の炎が上がるのが見えた。
「って、なんぞっ!?」
それと同時に、背中が硬く、そして重くなった気がした。
一体、何が起きたのか? 自分の目で確認しようとしても、生憎、そこまで目が届かない
仕方ないので、代わりに原因であるマルコシアスへと視線を向ける。
「傷口を石化させたダケだ。 ──ま、安心しな。 ブエルなら、それも治せるからよ」
「石化って、マジかよ!?
……ほんとだ!? すげぇっ! マジで、石みてぇに成ってるっ!?」
真偽を確認する為、手探りで弄るように、その傷口へ手を回してみると
確かに、肌の一部が石の様に成っていることが判った。 手触りとかも、まさに石そのもの
なんたる奇妙! 面白みは薄いケド、奇重な経験が出来たので好し! どうせ、治るしな!
「そんな状況も、笑って済ませれるんだ」
驚嘆、ないし呆れたような。 パステルナークの苦笑混じりの声が聞こえたけど
事実その通りなので、それに対して何も言うことが出来なかった。
そんなこんながあり、"中央"へ向かうことになった
"中央"へと向かうその道すがら、何か話してないと間が保ちそうになかった俺は
背中から伝わってくる違和感、その原因を作った魔法の事について訊いてみることにする。
「……そーいえば、魔法ってさ
訓練とかすれば、俺でも使えるようになったりするのかな?」
「え?」
「いや、魔法が使えるようになれば
色々と便利そうだし、なにより面白そうじゃん?」
今にして思えば、なんで、この事に考え至らなかったのだろう?
我ながら、惜しいことをしてしまった! もっと早く、"魔法(この存在)"に気付いていれば
と、後悔するホドのことでもないが、反省だけは心の中で済ませておく
「使えますよ。
というか、もう既に、エニシくんも使っているじゃないですか」
「へ?」
「バシンを呼んで、こちらにやって来たでしょう?
それはもう、「契約した存在の力を借りる」とゆう立派な魔法ですよ」
「何ィっ!? アレって魔法だったの!?」
グレモリーの口から、あっさりと語られた衝撃の事実。
真逆、この世界に来るよりも前に、魔法を使えていたとは思わなかったので
その現実に感動を禁じ得ない。
しかし、俺の使った魔法が「契約した存在の力を借りる」だというのなら
些か気になることがある。 俺は別に、バシンとはなんの契約もしてはいないのだ。
然もすれば、この魔法は成立しないんじゃ? と、グレモリーに尋ねてみれば
言葉の綾みたいなものだと返された。
……まぁ、そんなことにこだわる気もないので
これ以上の追究はせず、そうゆうモノだと思うことにした俺は、言葉を続けるようにして
"魔法"を使えるようになる、その他の方法をグレモリーへと尋ねていく
「私やマルコシアス隊長。 それから、そのエルフのヒトは魔力を持つ存在なので
これらには当て嵌まりませんケド
大気中に存在する者達と対話し、助けてもらう"精霊魔法"が、"魔法"として一般的です」
当然、使いたい魔法の元素霊が近くにいないと使えないし
精霊の機嫌が悪ければ助けてもくれない。 グレモリーは、補足するようにそう付け加えた
さすが魔法、一筋縄にはいかないようだ。 ──ケド、それでこそ魔法だと感じるので
寧ろ、それが好いとさえ思ってしまう。
「後は、さっきも言った「契約した存在の力を借りる」ことや
「魔力ある字で書かれた巻物(スクロール)を詠む」とか「信仰心で思い込む」とかかです」
「なるホド」
足掛かりとするには、もう十分過ぎる程の手掛かりを得た。
魔法を使うとするなら、信仰心とかは持ち合わせていないので
「契約した存在の力を借りる」のと「魔力ある字で書かれた巻物を詠む」の二つになるな。
明日、何か面白そうな事が起きなけりゃ、放課後から図書館に籠ってみるか……。
彼所なら、その手の本の一冊や二冊は在りそうだ。
「……縁(エニシ)はさ、気味悪いとか。 思わないの?」
「何が?」
「"魔法"の事とか」
「全然。 寧ろ、面白いって思ってるよ。
というか、そうじゃなかったら、最初からこんなこと訊いてねぇってば」
なしくずし的に、明日の予定を埋めている時だった。
どこか浮かない表情のパステルナークに、そんなことを尋ねられる。
その質問の意図は解らないが──、しかし、考え悩むことでもなかったので
間髪入れずに答えてやった。
「あ、そうか。
それじゃあさ、魔法を使うヒトの事とかはどう思う?」
「どうって、そりゃあ、スゲーーーって思うよ? 魔法とか、俺には使えねぇしな」
「……えっと、それだけ?」
「それだけだな」
質問の意図は、相変わらず分からなかったケド
どこか怖々と、一つひとつ確認するようなパステルナークの面持ちを見て
この質問の先にある答えを、真剣に聞きたがっているが解るので、俺も本気で応じてみせる
尤も、そんな大層な答えでもないんだけど
「うーーーんん。
さっきから、何が聞きたいのか分からないんだけど……。 取り敢えず、これだけは言える
自分に理解できないからって、それを気味悪がって敬遠するとか
俺には、そんな勿体ない真似できねぇよ。 だって、考えてみろよ? そんなことしてたら
その中にある、面白いものだって見えてこないじゃん?」
「あ……。 うん」
俺の答えに納得したのか、パステルナークは気を取り直したようにそう言うと
それ以上なにも訊いてはこなかった。 ──なので、話しの流れも自然に止まってしまう。
だけど、"中央"まではまだ遠い。
なのでまた、俺は、新しい話題を考えることになった挙げ句
"中央"へ辿り着くまでの長い間、そんな流れを繰り返すことになるのだった……。