平賀才香。高校二年生の十七歳。運動神経抜群。成績優秀。整った容姿ながらも彼氏いない暦十七年。庭の倉庫は才香の部屋に入れきれなくなった賞状やトロフィー専用のものになっている。
先生の評価は『ああ才香ね。成績も仕事も優秀だけど、あの悪癖がちょっとね……』。親の評価は『私たちの娘にしては出来すぎ。もうちょっと抜けててもいいのに』である。
そんな才香は三十分前まで、日本のとある屋敷に研修生として派遣されたところだった。研修先のご主人様に挨拶して、用意された部屋で身支度を整えていた。今度こそは研修で良い結果を残して、憧れの先輩方と同じアナザー・ワンになるんだと自分を鼓舞していた。
そうして鏡台の前で気合を入れているとなにやら鏡が光りだしたのだ。一瞬なんだろうと思ったが、すぐに不測の事態でどれだけ冷静さを保てるか試されているのだろうという思考に至った。背中にある大剣を使うのは最終手段。まずは手に持っていたくしを鏡に向かって放ってみた。くしは鏡に飲み込まれるように消えてしまう。
鏡台の後ろは壁。そしてその先は隣の部屋だ。すぐに屋敷の見取り図を頭に浮かべる。先生……ここでは先輩になる、の部屋。どこかイタズラ好きの人のことです。大方、研修生止まりの自分をビックリさせて緊張をほぐそうとこんなイタズラを仕掛けたのでしょう。本当にイタズラ好きで、世話上手な人です。
でもおどろかされるのはなんだかおもしろくない。逆におどろかせてやろうと思いつつ、勢いをつけて鏡をくぐってしまった。そうして一瞬の闇を抜けて、気付くとそこはトリステイン魔法学院だったのである。
「その話は本当なの?」
ルイズが疑わしくもどこか心配そうに才香に尋ねる。手には夜食のパン。才香にもパンは用意されたものの、一口かじっただけで口にするのをやめた。
今、二人がいるのは魔法学院の女子寮にあるルイズの部屋。ここまでルイズに連れてこられた才香は、幾分か活力を取り戻しつつルイズに事情を説明していた。
「嘘をつく必要がありません」
嘘ならよかったのにとひとりごちる。才香もルイズから簡単な説明を受けていた。ここは日本どころか地球ですらない。この学院にいるのは本物の魔法使いで、挙句の果てには夜空に月が二つ浮かんでいる。ここは才香がいままでいた世界とは明らかに違う。つまりは才香がいるのはファンタジーあふれる異世界。
「そんなことってあるのね」
「無いほうがよかったですね。今頃は屋敷の先輩方も心配されているでしょう」
「あなたのいた世界ってどういうの?」
「魔法に似た大道芸はあるものの、月は一つで竜や魔物がいるのは本の中だけです」
「ふむ……つまりは魔法という言葉も空想上とはいえ魔物という概念もあるわけよね。似てるわ」
「……聡いことで」
ルイズに聞こえない声で才香はつぶやく。
「それであなたが所属しているっていう……メイドなんとかっていうの」
「MAID・UNION・SOCIETY、通称MUSです」
「メイドユニオンソサエティー?エムユーエス?」
「はい、メイド連合協会と言えばわかりやすいでしょうか。簡単に言いますと優れたメイドを育成する専門学校です」
「へー、そんなのならうちの家にも何人か欲しいわね」
「一口でメイドといっても来客を取り次ぐパーラーメイド。厨房を担当するキッチンメイド。子守り専門のナーサリーメイドとその職務は多岐にわかれます。そしてそれら全てを担当することができるオールワークス。当然多くの能力を要求されますがとてもやりがいのあるクラスです」
やりがいのあるクラス。つまりそれは……
「あなたはオールワークスってことね。それなら使い魔としては十分かしら」
「オールワークス……そうですね。アナザー・ワンに未だ成れていない私はオールワークスです。応援してくださっている先輩方にいつまでも甘えたままで……全く本当に情けない」
誰も才香を責めなかった。また次があると背中を叩いてくれた。何度も励まされ、発破をかけてくれた。うなだれている自分に美味しい中華料理を作ってくれた。唇をかみ締めて涙をこらえている自分に甘いミルクティーを淹れてくれた。その行為にどれだけ救われたかわからない。
だというのに、いつまで経ってもアナザー・ワン候補研修生のまま。みんな『才香は絶対にアナザー・ワンになれる!』と言ってくれるけど、あと一歩がたまらなく遠い……
今度こそはと決死の覚悟で臨んだ今回の研修。研修先は先輩方がなにかしてくれたのか、先輩方が仕えるご主人様の屋敷だった。助けられているのは明らかだった。これで今回も研修生のままなら、もう先輩方に合わせる顔がない。絶対にアナザー・ワンになる。なのに……
「あなたには悪いと思うけどわたしの使い魔をやってもらうわ」
才香は異世界で貴族令嬢の使い魔をやらされることになっている。ルイズが言うには使い魔召喚の儀式は一方通行で、呼んだ使い魔を元に戻す呪文はない。さらにサモンサーヴァントとやらを再び使うには、一回呼び出した使い魔が死なないといけないらしい。ここまで聞いて背中の大剣に思わず手を伸ばした私は悪くありません……
そうそう、その時に大剣をつかんだ左手の甲がなにやら光ったのです。ルイズの使い魔の証だというルーン文字。ルイズはご主人様で、才香は使い魔。こんな主従関係は才香は想像すらしていなかった。
「わかりました。しばらくは使い魔として働きますので、その間の衣食住と給金の御用意をお願いします」
「え……給料って」
「お願いします」
背中の大剣に手をかけてお願いすると、すぐにルイズが『わかったわ!』と快諾してくれた。先輩から聞いた通りだ。ご主人様はメイドが大剣に手をかけて真摯にお願いすると大抵のことは聞いてくれるらしい。
「それでご主人様。使い魔とはどのような仕事をすればいいのでしょうか?」
「急にご主人様って……えーっと、使い魔は主人の目となり耳となる能力が与えられるらしいわ」
「どういうことでしょうか?」
「あなたが見たものはわたしも見ることができるの。聞いたことも同様ね」
なんですかそのストーカーっぽい機能はと才香は眉間をぐにぐにと揉み解す。
「でも何も見えないわね。次!」
これでプライバシーは守られたと才香は安堵の息を漏らす。
「使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば道具の素材とかね」
「私の管轄から離れているようです。お役にたてず申し訳ありません」
「まあいいわ。それを除いてもあなたは優秀そうだし」
ルイズは気にした風もなく続ける。
「そしてこれが一番なんだけど……使い魔は主人を護ること」
才香の目が大きく開く。ルイズの視線が才香が背負う大剣に向いた。
「これが一番の役目ね。……ねえ、その背中の剣って本物?」
「俸剣、ご主人様を護るためのものです」
そこで初めて才香はルイズに対して笑みのようなものを浮かべた。
「並大抵の敵には負けない自身があります。主人を護るのはアナザー・ワンの役目。候補研修生とはいえご主人様はこの身に変えましても護ります」
アナザー・ワンの役目。それは主を護ること。奉仕の心は俸士の心。剣を俸し、あらゆる脅威から主人を護ること。それがアナザー・ワンに与えられた債務であり使命。
「ご主人様、私こと平賀才香と俸剣があなたをあらゆる敵からお護りいたします」
異世界ハルケギニア。魔法や魔物が存在するこの世界では、『主人を護る』という意味を才香が本当に理解するには、地球よりも適しているのかもしれなかった。
クロス作品
『メイドさんと大きな剣』
メイドさんが大剣背負って主人を護るというゲームです。でも主人が襲撃されるのは数えるほどしかありませんwメイン襲撃者がヒロインの一人だったりしますしねww
でもってこれエロゲだから知ってる人あんまいないでしょうねー
原作プレイしてる人は先生とか先輩が誰かわかるでしょうけど、誰かわからなくても話にはあんまり絡まないので問題なしです。
でも気になったのならぜひプレイしてください。最初から最後まで笑いながらプレイできるゲームなので楽しんでいただけると思います。