メイドさんと小さなご主人様   作:ハニトラ

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メイドさんは戦う

才香がMUSの存在を知ったのは学園の入学式を間近に控えた頃だった。

 

友達たちと遊びに行った秋葉原。そこでガラの悪い男たちに絡まれた一行。才香は自分が囮になることで友達たちを逃がす。運動神経に僅かの自信があった才香は逃げ切れると思ったがあまり土地勘のない場所。気付けば人気のない場所に誘導されていた。

 

背には壊れたテレビや自転車が不法廃棄されたガラクタの山。左右は窓が一つ二つある高いビルの壁。目の前にはこちらを舌なめずりしながら下卑た目で見ている四人の男。才香は男たちから目を離さず背後のガラクタの山から手さぐりでモップを掴み取った。ぬるりとしたねばつきをハンカチで拭き取りしっかりと握り直す。ゆっくりとモップを正眼に構えた。

 

当時、長かった黒髪は頭の後ろでポニーテール風にまとめられていて、それが足運びによって軽く揺れていた。

 

男たちが苛立ちの表情を見せたのは、追い込み好き勝手に出来ると思っていた少女が抵抗の意志を示したせいだろう。

 

「おとなしくしてりゃ優しくしてやる……ぜっ!」

 

遅い歩みで近付いていた男が言うなり才香に飛び掛る。男の手は才香の服を掴み引き裂くべく伸びる。優しさとはかけ離れた、ただ女を嬲ろうとするだけの行為。だがその手は空を切り、男が才香の姿さえ見失った次の瞬間、男は後頭部に衝撃を受けて地に倒れ伏す。才香は身をかわすと同時にモップで男をモップで強打していた。

 

「くそ、よくもやりやがったな」

 

残った男のうちの一人が呟く。他の男も同じ思いだったのか、にやついていた目が剣呑に変わる。しかし、才香は男が口を開く前からすでに動いていた。

 

「よいしょ」

 

可愛らしい掛け声とともに、一番近くにいた男のアゴをモップが下から上へとかち上げる。華麗にモップを一閃させると正眼に構え直し男たちから距離をとると、軽く片手でスカートについたほこりをぱたぱたと払う。

 

残った男二人は呆然とした。そしてなにより才香の表情を見て動転した。非力に見える少女が男二人を打ち倒したことより不可解、不気味でさえあった。少女が笑っているように見えた。見間違えだと思って瞬きした後には、少女の顔には引き締まったものに戻っていた。

 

笑って見えたのは気のせいだと思い直す。そうして男は大きく息を吐いた。呼吸が吐き出された時には体の力が緩む。それを知っていなくても才香の身体は自然に動いた。理解していなくても本能がその瞬間を狙えと身体を動かしていた。結果、モップの先端が抉るように男の股間をつらぬき、男は声にならない叫び声を上げながら昏倒した。

 

「くそったれ!」

 

不利を悟った男がわめきながら身をひるがえして駆けていく。その背中にモップがうなりをあげて飛んでいく。だが男の脇にモップが当たったものの足が止まらないところを見ると浅かったのだろう。やはり頭を狙うべきだったと思いながら、この場を去るべく才香は歩を進めた。

 

そうして角を曲がれば、さきほど逃げた男が地に倒れその背中を踏みつけている一人のメイド。

 

「ふむ、男たちに追われているのを見て駆けつけたのだが、どうやら助けはいらなかったようだな」

 

涼やかな声だった。険しくはない穏やかな表情。それなのにそのメイドには圧倒的ななにかがあった。知らず息を呑む。

 

「けがをしているな」

 

言われて手のひらの小さな痛みに気付く。どうやらモップを持っている時に切っていたらしい。

 

「治療しよう。付いてくるがいい」

 

 

 

それが才香とMUS所属ではないメイドとの出会い。後にMUSの存在を知ることになった出会い。

 

すぐに才香はMUSのメイドに惹きつけられた。努力の末にMUSに入りアナザー・ワンの存在を知った。アナザー・ワンになることが才香の夢になった。ただひたすらにアナザー・ワンを目指した。

 

面倒見のいい先生や心配性の先輩たちに助けられて実力もついた。やがてアナザー・ワン候補生までたどり着き、MUSの剣の間に通された。そこで一本の刀を選び掴む。紫の異様な波紋を持つ刀。一目見た瞬間この刀だと感じた。他の数ある大剣には見向きせずその刀、イペタムを掴む。

 

手の中でイペタムが震えた。それに応えるように才香は笑った。どうしようもなく楽しくなって笑ってしまっていた。溢れ出る歓喜を抑えきれずにいつしか笑い声まで発していた。

 

やがて初の実戦で才香は自分でも気付いていなかった本性を知る。己の奥深くにあった欲求。それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬きの間に間合いを詰めて腕を振るう。手にしたイペタムが腕の先で震えた。才香の黒い瞳の中に見える感情は純粋な歓喜。

 

「……くふ」

 

大きく振り上げた腕を一気に振り下ろした。刀身がゴーレムの脳天から股間を切り裂き、紫の波紋が妖艶にすら見える軌跡を生み出す。

 

「もっと……」

 

口から漏れるのは隠し切れない愉悦を含んだ声。イペタムが振るわれるたびに爆発にも似た音が響きゴーレムを切り裂いていく。

 

「もっと!」

 

螺旋を描くように、触れる度にゴーレムの体を切り刻む。才香が回転を止めた頃には、ばらばらになったゴーレムが土へと還っていく。とろんとした瞳で一度、土へ還っていくゴーレムを見やった。

 

「アハ……」

 

ゆっくりと歩み寄る。

 

「アハハ……」

 

鉄板を仕込んでいたブーツがまだ形を残していたゴーレムの頭を踏み砕く。

 

「アハハハ……」

 

嬉しそうな笑い声とともに腕を振り回すたび、紫の波紋が踊りゴーレムを切り裂く。

 

「アハハハハハハ!」

 

狂ったように笑いながらゴーレムの中で踊り、ただ破壊を楽しむ。その表情は無垢な少女が浮かべる、ひたすらに純粋な笑顔。

 

ルイズはそんな才香を呆然と見ていた。その背後ではシエスタが険しい顔をして才香を見つめている。目を逸らさずにシエスタは言った。

 

「これは完全に予想外でした」

 

誰もが異状な事態に口を閉ざす中、シエスタの言葉はよく聞こえた。

 

「戦闘狂……と言うべきでしょうか。普段の才香さんからはとてもとても想像できませんでした」

 

イペタムを振り回し、笑顔で踊る変容しきった才香。そんな才香を見るルイズの顔がくしゃりと歪む。なおも笑い声を断続的に響かせながら才香はイペタムを振るっている。

 

ギーシュは次から次にゴーレムを生み出しているが、その度に切り捨てられている。ギーシュはゴーレムを生み出す。才香は楽しげにゴーレムを斬る。そして精神力が尽きてゴーレムが生み出せなくなれば才香の大剣が向かう先はと考えてギーシュはゾッとした。

 

今更だが強引にでもモンモランシーを止めていればよかったと後悔した。モンモランシーを止めもせず、才香を止められそうにもない。ゴーレムの体を死角にして土の魔法を放つもそれすら避けられるか大剣で払われる。

 

おそらくあと三体でゴーレムは生み出せなくなる。そうして自分はあのメイドが振るう大剣に斬られるのだろう。意外と冷静にそう判断できたことに内心驚いた。そうしているうちに最後のゴーレムが土に還っていく。

 

ギーシュはなけなしの精神力で一振りの剣を作る。凝った装飾もなく剣の役割を持たせただけの見栄えの悪いもの。だが不思議とギーシュの手に馴染んだ。剣の柄を握りしめるギーシュの手が、あまりにも力が入りすぎて白くなった。そして、穏やかにも見える目つきで笑顔の才香を見つめた。

 

「待っててくれたのかね。君は優しいな」

 

才香は動かない。先手まで譲ってくれるとはとギーシュはなんだか泣きそうになった。敵わぬだろうが一矢は報いたい。

 

「青銅のギーシュ、全力でいかせてもらう!」

 

地を蹴り才香へと向かう。一方の才香はたった一瞬で間合いに入った。持ち上げた両腕を凄まじい勢いで振り下ろす。唸る刀身がギーシュに迫る。

 

「……あ……」

 

だがイペタムがギーシュの身に届くことはなかった。聞こえたのは間の抜けたような才香の声と……

 

「ルイズ様っ!」

 

シエスタの絶叫。

 

ゆっくりと小さな体がギーシュに向かって倒れてきた。目に映ったのはやわらかそうな桃色の髪。宙を舞う赤い鮮血。

 

「あ……え……?」

 

もう一度、才香の口から間の抜けた声が漏れた。ドサリと力を失って倒れてきた体をギーシュは受け止める。

 

しばらくしてギーシュは理解した。メイドに殺されかけ、メイドの主人に救われた。ただそれだけのことだった。

 

腕の中でぐったりとしているルイズを見て、ギーシュはまた泣きそうになった。

 

 




才香の悪癖。

あと高校ではなく学園。これ大事!

あとあと才香はもちろん大きいです!
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